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94ページ目 手掛かり

 ──セイカの両親と兵士や使用人の遺体を回収したホムラ達は近くに簡易的な墓を作り、埋葬した。

 立場が立場なので正式な墓は建てられないが、それでもただ遺体が転がっているよりはマシだろう。

 まだまだ遺体はある筈。ホムラ達は今一度城全体を見回り、それらを探す事にした。


「セイカ様……。大丈夫ですか……?」


「はい……。大丈夫です。お父様とお母様のお墓は建てられました。いずれは立派な物を……」


 セイカの身を案じたフウが訊ね、セイカはぎこちない笑顔で返す。

 フウは首を振って返した。


「いえ……セイカ様自身が……です」


「ふふ、有難う御座います。フウさん。私自身も大丈夫です。ホムラ様やフウさん。他にもトキさん達が居ますから。……既に死していたのは理解しています。故に、埋葬する事が叶って……良かったと……」


「……。そうですか。セイカ様……」


 話ながらも涙が溢れ、セイカはそれを拭う。これ以上話をするのはツラいものがあると判断し、空気の読めるフウは深く言及しなかった。

 ボロボロの城内を探索しつつ必死に戦ってくれた者達の遺体を回収。そしてセイカの母親の趣味だった庭園に入る。

 そこにあった光景に、セイカは感嘆のため息を吐いた。


「凄いです……お城はこれ程までにボロボロだと言うのに……植物はより成長しています……」


 ──セイカの母親が趣味でガーデニングをしていた庭園。そこにある植物類だけは成長が止まっておらず、小さな森のようになっていた。

 この世界の自然は、周囲にある魔力の影響から成長が早い。なので二ヶ月近くだけで大きく成長したのだろう。

 ホムラ、セイカ、フウの三人はその庭園を行く。


「整備はされていません……真の意味で自由に伸び切っています」


「そうだな。植物は偉大だ。虚無の境地も人間よりは偉大とか言っていたしな」


「太陽光と雨水。そして魔力の流れで成長したんだね。本当に……植物の成長力って凄い……」


 自然は偉大と何処ぞの誰かが偉そうに言う事はあるが、実際にそう思える光景。

 人によって育てられた植物ですら人が居なくなっても自立する。大きく大きく成長を遂げる。自然の生命力はかなりのものだろう。


「…………」


 その植物達を前に、セイカはまた別の光景が脳裏に浮かんでいた。


【──~♪ ~♪】


【お母様。やけに上機嫌ですね。何か良い事があったのですか?】


【ふふ、これから良い事が起こるのよ。セイカ。貴女は将来、きっと素敵な人が見つかるもの。その人と一緒に今育てている私の庭園を歩く日が来るのを楽しみにしているのよ!】


【将来? こんな私に良い人が見つかるでしょうか……】


【ええ、きっと見つかるわ。良い事を考えればおのずと良い事が起こるんですもの。自信を持ちなさい。セイカ。貴女は誰よりも優しく、誰よりも強い子よ!】


【はい、お母様】


 思い返すのは、楽しそうに、セイカの将来に思いを馳せながら花々に水をやっていた母親の姿。

 良い事を考えれば良い事が起こる。そんな事は無いのが現実。逆に、前向きに考えれば考える程負の方向へ行ってしまうのはこの世界が証明している。

 だが、セイカにとって母親の願いは半分叶った事だろう。


(お母様……私は良い人が見つかりました……、ホムラ様とお母様。そして皆で散歩は出来ませんでしたけど……今の私は幸福と取れる状態にあるかもしれません……)


 将来出会う良い人。

 少なくとも、セイカはホムラで良かったと考えている。共に歩く事は出来なかったが、気の許せる愛すべき存在は現れていた。


「……? セイカ。どうしたんだ? ほら、行くぞ」

「……! はい。ホムラ様!」

「ふふ、少し雰囲気が明るくなりましたね。セイカ様」

「ええ、この庭園のお陰です」


 ホムラがセイカの手を引き、婚約者と友人と共に庭園を行く。

 この場に居て欲しかった母親はいないが、信頼出来る存在。命を預けられる存在が居る。常に不幸で溢れるこの世界基準で考えれば家族や使用人。親しい者達がみな死した現在であっても、心を許せる何人かが居てくれるだけで気持ちが和らぐのかもしれない。


「……。思ったより他の遺体は無かったな。これで全部か?」


「はい、おそらく。お城には何百人もの使用人さん方がおりましたけど、あの方で最後です」


「兵士と使用人さんを全員覚えているのか」


「はい。お世話をしてくださる方々ですから。此方としても存在を認知するのが礼儀です……礼儀でした」


「そうか。確かに俺も俺の家の使用人は鮮明に思い浮かぶ。そう言うものなんだな。きっと」


 セイカの記憶を探る限り、今の遺体が最後。

 全員城に居たという事は攻め込まれた時、逃げられなかった。いや、誰一人として逃げなかったのだろう。

 セイカを逃がした兵士や使用人も逃がす為に死した。多くの犠牲の上で今のセイカがあるのだと改めて理解した。


「それじゃ、残りの人達も埋葬して虚無の境地の手掛かりが無いかを探すか。思ったより時間が掛かった。時間を掛けた甲斐はあったけどな」


「はい、そうですね」

「そうだね。心残りはもう少し早く見つけられたらな……くらいかな」

「ああ、そうだな」


 兵士や使用人の遺体捜索と埋葬。それに費やした時間は三、四時間。もうすぐ正午になる頃合いだった。

 しかしそれ程時間を掛けたとしても見つけられたのは良かった。それに三人は頷く。

 昼食は後回しとし、三人は今一度ホムラの屋敷跡地に向かって虚無の境地の手掛かりを探す事にした。



*****



 ──“フラム家・屋敷跡地”。


「やっぱりというか、何の手掛かりも無いな」

「その様ですね……。と言っても、あの時の虚無の境地。その格好から考えて、何かを落としていたとしても手掛かりになりそうな物はありませんけど……」


 跡地に着き、辺りを探してみるホムラ達だがやはりそう言った物は無かった。

 しかしながら、セイカの言うように何かしらの私物があったとしても、実際には使い道が無い筈。それについてホムラは返す。


「いや、私物があればガルムが匂いを辿れるかもしれない。低い可能性にも賭けておきたい所だ」


「成る程。確かにガルムちゃんなら鼻も利きます……!」


「犬科のガルムちゃんだけに、“ワンちゃん”あるかも! ってね!」


「「………………………………」」


「……? どうしたの? 二人とも」

「いや、何でもない」

「アハハ……面白い事を言いますね……」


 唐突に出たフウの発言に辺りの気温が少し下がった気がした。

 どうやらフウは冷風でも身に付けたのかもしれないが、手掛かりが見つからない現状はどうしようもない。

 ガルムの鼻が利く可能性はある。なので本当にちょっとした切れ端でもあれば良いのだが、この焼け方から考えて焼失している可能性も高かった。


「……ん? これ……」

「「…………?」」


 そしてホムラは一つの何かを見つけた。

 セイカとフウは互いに顔を見合って小首を傾げ、ホムラは念の為に闇魔法で拾う。

 そのまま二人にも見せた。


「……腕……ですか?」

「他の肉体は骨になっているのに……この腕だけ何ともないね……匂いも普通……無臭だし」


 ホムラが拾ったのは何かの腕。しかしながら他の遺体の物とは色々と勝手が違う。

 まず、業火に焼かれたにしては白骨化していない。そして土汚れなどはあれど腐敗もしておらず、匂いも放っていない。

 二人が疑問に浮かべる中、ホムラだけはそれが何なのか分かっていた。


「これは虚無の境地の腕だ」

「「…………!?」」


 その言葉に二人は驚愕した。

 そう、これはホムラが闇魔法で斬り飛ばした虚無の境地の腕。

 あの場に居たのはホムラと虚無の境地だけ。なのでセイカとフウは知る由もないが、まず間違いなくそれだろう。


「虚無の境地の……? あ、確かに片腕を損傷していましたね」


「ああ。セイカが来る前に一悶着あってな。虚無の境地の腕を斬り飛ばしたんだ。此処は誰も関与していない。それが逆に証拠を残す結果になったみたいだな」


 基本的な貴族や王族達は、自分の手を汚さない。片付けにも金は掛かるので火の系統の区画には何の関与も無い。

 だが逆にそれのお陰で証拠の品が消えずに残っていたようだ。


「しかし、頑丈な腕だな。火事によって焼かれず、腐りもしなければ侵食もされていない。細胞自体はもう死んでいる筈なのに残っているのか」


「それはそのまま虚無の境地の生命力も現していますね……。末恐ろしい存在です」


「そうだな。けど、今回はそれが功を奏した。これは明確な手掛かりだ」


 貴重な手掛かり。匂いで追うか別の方法か。何にしてもこれを利用しない手は無い。何せ身体の一部なのだから。

 一先ずそれは持ち運ぶ。入れ物は一応持って来ているのでそのまま闇魔法で移動させて中に仕舞った。


「これで手掛かりの調査は完了。街の観光は出来ないし、どうする?」


「このまま帰っても良さそうではありますね。しかし、フウさんのご両親に挨拶はしなくて良いのですか?」


 やる事は終わった。なので今の拠点に帰るのも良いが、セイカがフウに訊ねる。

 ホムラは「確かに」と同調した。


「そうだな。フウ。会って来ると良いさ」


「……え……けど私は別に……」


「ハハ、相変わらず優しいな。フウ。両親が他界した俺達の事を思って言い出さないのか」


「……っ!」


 ホムラに言われ、フウは口を噤む。

 そう、フウの前に居る二人は両親を亡くしている。それの埋葬を今しがた終わらせた。

 だからこそフウは気を使って会いに行きたい気持ちを抑えていたようだ。

 ホムラとフウは長い付き合い。なのでそれを理解して心情を推測したのだろう。

 ホムラはフウの頭を撫でて笑い掛け、顔を上げたフウは二人に言葉を続けた。


「……うん。じゃあ行って来るよ。ホムラ。セイカ様。えーと……先に帰っても良いよ?」


「いや、距離もある。今の世界じゃ一人歩きは危険だ。一先ず火の区画を少し見ながら待っているよ」


「はい。フウさん。一ヶ月振りの一家団欒を満喫して下さい」


「ありがとう。じゃ、行って来るね」


 ホムラとセイカに手を振り、ローブを外して街の方へ降り行く。

 残った二人はフウを見送り、火の系統の区画を探索する。

 虚無の境地の手掛かりを探す為にやって来た三人の故郷“エレメンタリー・アトリビュート”。そこでホムラは確かな手掛かりを掴んだ。

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