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93ページ目 帰郷

 ──“屋敷”。


「……そんな訳で、明日俺達三人は留守にするからクエストの方とか色々頼んだ。“星の裏側”の方も大分片付いたらしいから明日は臨時でメランが加入するよ」


「ええ~。明日はホムラ居ないの? キョーちゃんの手掛かり探しで?」

「ああ、悪いな。ゼッちゃん」

「うぅ~」


 ホムラはトキ達に報告し、その中でゼッちゃんがショックを受けていた。

 しかしホムラに頭を撫でられて落ち着き、トキも話す。


「本当に三人だけで行くの?」


「少なくともこの中で街を知っているのはそこ出身の俺達だけだからな。全員で行くと目立つし、そもそもローブの着用は禁止されている。隠密行動をする事になるから地理を知っている俺達だけじゃなけりゃな」


「そうなんだ。つまんないの。じゃあ明日は何しよっかなぁ」


「いや、だからクエストとか受けていてくれって」


 此方も此方で退屈そうにしていた。

 なので明日の時間の潰し方を考えるが、ホムラは簡単なツッコミを入れる。

 サチは相変わらず無表情の無言。しかし少し顔を歪めており、やはり寂しくはあるようだ。


「それでは、夕飯の準備をしましょうか。留守にすると言っても本当に少し確認するだけなので明日中に帰って来れますし」


「そうだよ皆。ちょっとした里帰りみたいなものかな? 普通にクエスト受けるのと同じだね」


 今生の別れではない。たった一日。何なら数時間会わないだけ。離れる時間だけなら一日のクエストを受けているのと同じくらいである。

 向かう場所が場所なので少し大袈裟になったが、案外そうでもないのだ。


「なぁんだ。ホムラ達の顔が真剣だったからビックリしちゃった!」


「ゼッちゃんは他人の観察眼も高いみたいだな」


 ある意味、いつも受けているクエストよりも危険。感性の鋭いゼッちゃんだからこそ深く考えてしまったのだろう。

 一先ず今日の夜はいつものように過ごす。

 その翌日、ホムラ達は自分達の故郷、“エレメンタリー・アトリビュート”に向かった。



*****



 ──“魔法の森”。


「この辺りからは魔力の流れも感じないな」

「監視外という事でしょうか」

「そうみたいだね」


 街に帰る為、通るのは国の監視下にある森。

 此処は貴族や王族の通りも多いので普通に行くならそれなりに苦労するが、ホムラには関係無かった。

 念の為に魔力の気配が無い場所へ。尾行が無いのも確認し、“星の裏側”への門を開ける。そのまま“星の裏側”を通った。


「便利だな。この鍵は。ある種の空間移動が可能だ」


「基本的に表側からは入れませんもんね。本当に“裏側”なだけなので進んだ道筋はそのまま。隠れながらの移動に最適です」


「だな。このアイデンティティだけで優位に運べる……って、そう言や、俺とセイカはともかく、フウは別に“星の裏側”から行かなくても良いんじゃないか?」


「あ、確かに。うっかりしてた。けど、ホムラやセイカ様と一緒に居れる方が楽しいから良いかな」


 “星の裏側”を通れるのは便利。別空間を進んでいるようなものなので警備が厳重な場所ですら素通り出来るだろう。

 それについて話すホムラとセイカだったが、考えてみればフウはホムラ達の仲間になっている事は知られておらず、昨日は一緒だったが基本的にホムラ、セイカとは別のクエストを受けているので何もバレなさそうだが、本人曰くうっかりとの事。

 おそらくそれは本当。本当に自分は大丈夫という事を忘れていたようだ。

 フウも案外抜けているが、この二人と居たい気持ちも本当なので逆に楽しそうだった。


「感覚的にこの辺りが街の出入口か? 表側の様子が見えないのは少し面倒だな」


「それなら念の為にもう少し進みますか?」

「そうするか」


 “星の裏側”なら闇魔法を使った移動も可能。一気に進み行き、大凡おおよその検討を付けてまた鍵を持つ。

 しかしまだ不安要素はあるので、更に遠くまで行ってその鍵を使った。


「……! 此処は……!」

「ホムラ様の……」

「屋敷跡地……」


 その結果、偶然にも辿り着いたのは中心街から更に奥。貴族の中でも更に上澄みの者しか居ない場所。ホムラと両親。使用人達が暮らした屋敷の跡地だった。

 誰も片付けようとしないのか、焼けた木片はそのまま。火事によって焼け、白骨化した遺体も複数個残っている。

 見る影も無い程にバラバラなのはホムラが殺めた野盗。なのでその骨は踏み潰して素通りし、一ヶ所に纏まった遺骨をしゃがんで手に取った。


「父さん……母さん……カエデ……」

「ホムラ様……」

「ホムラ……」


 辺りを見渡せば人は居ない。既に壊滅した火の系統の跡地なので好き好んで近寄る者もいないのだろう。

 それは逆に好都合。ホムラ達的には行動しやすくなるが、自分を遺し、旅立ってしまった者達の名を呼ぶ。

 泣き叫びたい気分だが、涙は流さない。もう二ヶ月近く前の話。それについてはセイカの存在もあって立ち直った筈だ。

 しかしホムラは改めて綺麗な遺骨を集め、闇魔法にて近くに穴を掘った。


「野盗は徹底的に粉砕して良かったよ。紛らわしくない。まだちゃんとした墓は作ってやれないけど、今はこれくらいで勘弁してくれ。みんな」


 丁寧に遺骨を入れ、近くの瓦礫を墓石に見立てて常に着ていた形見のローブをそこに掛けた。

 此処まで放置されていた屋敷の跡地。あと何年かは放って置かれる筈。それまでに立派な墓は作ってやりたいところ。

 そして形見のローブは手放したのでホムラは購入していた新たなローブを纏う。元々、此処に来る事は考えていた。なので形見のローブを手放す予定でもあったのだ。

 暫し黙祷。数秒後に杖を持ち、改めて街の方を見やる。


「火の系統の区画は殆ど建物も残っていないな。それで街全体を見渡す事は出来るけど、複雑な気分だ」


「そうですね……。ホムラ様。何処に行かれますか?」


「……。セイカの両親の墓も簡易的に作りたい。再会した報告もしなきゃな。セイカの家だった城に行こう」


「……っ。ホムラ様……」


 ホムラの言葉を聞き、セイカの目から小さな滴が零れる。

 セイカの両親もおそらく街の者達に放って置かれた。なので遺骨はあるだろう。

 両親の墓についてはセイカも思うところがあり、出来ればそうしたいという気持ちもあったのだ。


「有難う御座います。私の為に……」


「俺の両親や使用人達の墓だけ作る訳にもいかないからな。会ったのは一回だけだけど、世話になった。セイカを婚約者にしてくれた。この恩は返し切れないさ」


 ホムラは善人ではないが、野盗などのような存在でもない。元々は世界その物を滅ぼすつもりだった。

 それを引き留めたのがセイカ。そんな彼女を婚約者として寄越してくれたセイカの両親には地底よりも深い恩義がある。

 ホムラはフウの方を見た。


「フウ。俺達はセイカの城に行くけど……どうする? 別にフウはこそこそ隠れながらの行く必要も無いし久し振りにおじさん達に会うとか」


「ううん、大丈夫。私もセイカ様の両親に挨拶はしたいからね。返事は来ないけど……何となくね」


「そうか」


 フウもフウで、セイカによって助かった事は色々ある。なのでもう既に死している両親だとしても挨拶をしておきたいのだろう。

 死後の世界の有無は不明。それでも気持ちの問題なのだ。

 ホムラ達は火の系統の区画跡地を進み、セイカの城があった高台にやって来た。



*****



 ──“フレア家の城・跡地”。


「……。酷い有り様だな」

「はい……。前より荒らされています……」

「城って考えれば金品とか色々あるからな。火事場泥棒が入ったんだろう」

「その様ですね……」


 セイカの家だった城に着いたホムラ達は、荒らされた形跡しかない光景を前に立ち竦んでいた。

 こうなる事は予想出来ている。ホムラの屋敷のように火事によって全焼したならばともかく、ある程度残っている城には盗賊が入るだろう。

 憤りを覚えるがそれをぶつける相手もおらず、陰鬱な雰囲気でホムラ達は城の中に入る。


「……ふふ、ホムラ様とまた共に城を歩ける日が来るとは思いませんでした……」


「セイカ。無理して笑顔を作らなくても良い。あの時の光景はもう無いんだからな」


「いえ……それでも私は嬉しいんです……。婚約者であるホムラ様や、フウさんのようなお友達と共に城を案内出来るのが……」


「セイカ様……」


 無理に明るく振る舞い、玄関口からエントランスを行く。

 立て掛けてあった絵画は無くなり、鎧は倒れている。高所にあるので盗まれていないシャンデリアの火は着かない。

 土で汚れた渡り廊下を行き、ホムラ達は王室へ入った。


「何もかもが盗まれているね……」

「はい。しかし、もう使う事もありませんから……。経済に還元出来るならそれで……」


「兵士達の遺体もあるな。必死に戦った兵士達だ。集めておこう」

「はい、そうですね。ホムラ様。兵士の皆様……今まで有難う御座いました。ゆっくりとお休みください……」


 王の部屋は玉座の宝石や金銀など大抵の物が盗まれていた。

 しかし鎧を着た兵士の遺体があり、放置されて腐り、悪臭を放っている。しかしホムラ達は衛生面や匂いなど気にも留めず一ヶ所に集めた。


「あと……此処に来るまでの階段や廊下にあった兵士。使用人達の遺体も集めておくか」


「はい……」


 一番目立つ部屋。なので遺体は此処に集める。

 渡り廊下や個室。階段などに転がっていた遺体はホムラが闇魔法で持ち上げる。既に腐っているのでゆっくりと運ばなければ崩れ落ちてしまうだろう。

 兵士や執事はともかく、メイドには凌辱された痕跡もあり、衣服を着ていない者も多くある。それは行為をするに当たって邪魔だったのと、メイド服や執事の服は高く売れるので剥がされたのだろう。

 脳内にすら浮かべたくないが、その時の光景を想像するのは難しくない。


「セイカの両親や一部の使用人は城内じゃなくて逃げる途中に殺されたんだったな。また城を見て回るとするか」


「はい……裏門に居ると思います……」


 セイカの両親と一部の使用人や兵士は城には居ない。途中まで共に逃げており、最終的にはセイカだけを逃がしたからだ。

 城などに攻め入られた場合、逃げ道はいざという時の為の裏門。なので死体が残っているのならそこから先の道にあるだろう。


「……。不思議な感覚です。内装は大きく変わり果てました。けど、間取りはそのまま。こんなに滅茶苦茶になっていると言うのに何処に何があったのかなど、その事が鮮明に分かります……」


「自分の住んでいた家だった訳だからな。身体が覚えているんだろうさ。思い出と一緒にな」


「はい……温かく、優しい思い出でした」


 その様な事を話ながら進み、一度下に降りて裏門へ向かう。そこまでの道にも多くの死体がある。全てを回収しながら裏門に着いた。


「此処から私達は抜け出しました。しかし、一緒に居たのは本当に少しの間だけ。無我夢中で走り……」


「そのまま……か」


「はい……。お父様とお母様は言っていました……何があっても前だけ向いて進めと。その途中……野盗が追い、最初に兵士の方々が。次に使用人の方々が。そしてお父様とお母様が……」


「「…………」」


 道中で何があったのか。嫌な事だが簡単に想像出来てしまう。それならばすぐに見つかってしまうだろう。


「……これ……と言うのは失礼だな。けど、この遺骨は……」


「はい……。その通りです……此処は場所も場所……おそらく殺され、そのまま野生の魔物が食したのでしょう……衣服の切れ端。これは当時お父様とお母様が着ていた物です……」


 そして予想通り、裏門から外に出て少し行った先に腐った遺体の入っている鎧。衣服はボロボロであり、所々赤い肉片の付いている遺骨があった。

 セイカの証言からまず間違いない。あの時の気さくな王様と明るい王妃だろう。

 セイカは膝から崩れ落ち、両手を地面に着いてポロポロと涙を流す。


「お父様……お母様……御待たせしてすみませんでした……。……ホムラ様とまた会えました……そして……私に新しいお友達が出来ました……」


「セイカ……」

「セイカ様……」


 ホムラと再会出来た事の報告。そして友人であるフウの紹介。

 大きく泣き叫びはしない。その存在を噛み締めるように告げ、父親と母親の頭蓋骨を持ち上げて自身の額に付けた。


「おやすみなさい。お父様。お母様……」


 小さな声は風に巻かれて消え去る。しかしちゃんと聞こえた事だろう。

 帰郷したホムラ、セイカ、フウの三人。待ちわびていたのは変わる事の無い無情な現実だった。

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