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91ページ目 傷痕

 ──“酒場”。


「店主。今日のクエストは?」


「おお、どっさり来ているぜい。復興も進んで、依頼の量も見て分かる程に増えたな! “人類の敵”が攻めてきた街って言う名目と、ホムラさん方が全てのクエストを100%で達成するもんだから評判も上がったみたいだ」


「それは何よりです」


 朝食と洗顔洗浄を終え、ホムラ達はまたクエストを受ける為に酒場へ来ていた。と言ってもホムラとセイカだけが来ており、依頼を受けるだけ。後は留守番である。

 この酒場もすっかり活気を取り戻し、顔見知りの客達で賑わう。

 なんでも、“人類の敵”である“絶望の象徴”が攻めて来たにも関わらず復興するその様とクエストをホムラ達が完璧にこなす信頼もあって評判も上がったらしい。

 それなら高給な依頼も増えている筈。それはホムラ達にとって都合が良い。

 この街だけではなくホムラ自身が滅ぼした国の件もあるので金銭フレイは多く必要なのである。


「じゃあ、いつものように俺関連の依頼以外を受けます。それと、街が復興して来た事でそろそろ冒険者も寄って来る筈。と言うか、“絶望の象徴”が現れた街って事で観光名所にもなるかもしれません。他の冒険者の事を考えていくつかの依頼は残しておきます」


「ハッハッハ! 相変わらず景気が良いね! そして他の冒険者の事も考えるか! よし、ホムラさん! これからもジャンジャンビシバシバンバンクエストを集めるから、明日もそれ以降も期待しといてくれ!」


「はい。頼りにしています」


 サムズアップで返す店主に会釈し、今あるシラヌイ・ホムラ捜索以外の全クエストを受けた。

 比較的平和になったこの世界だが、警戒態勢は当然解けない。そしてこの一、二週間はホムラが活動していないのもあり、また野盗が活性化し始めているのがクエストの内容から分かった。

 世界の警戒態勢が解けていないのは確かだが、その警戒自体も緩んで来ているのだろう。


「そろそろ活動しなくちゃな。俺達は“星の裏側”を拠点にしているって伝えたけど、それがおおやけになっているかも気になるし」


「そうでなければまた前みたいに街の方々に迷惑を掛けてしまいますからね。それだけは避けたいところです」


 世界への宣戦布告をしたはいいが、活動はしていない。それもあって色々と問題も露見し始めているのが現状。

 今回のクエストは行うとして、ホムラはホムラでそろそろ何かをするべきなのかもしれない。


「今は思い付かないし後で考えるか。助けを求めている人は多い。依頼が優先だ」


「ふふ、そうですね。やっぱりホムラ様はホムラ様です。正義を謳う訳ではないにせよ、私にとってはホムラ様が正義ですから!」


「急になんだよ? ほら、行くぞ。セイカ」


「あ……はい!」


 セイカの言葉に返し、その手を引いてホムラは駆ける。

 セイカは手を握られた事に喜びを感じ、依頼を持って屋敷へと帰った。



*****



 ──“屋敷”。


「取り敢えず、必要な分は持ってきたから好きなクエストを選んでくれ」


「うーん、どれにしましょうか……」

「私はこれかなぁ。簡単そうだし!」

「私はこれにしようかな」

「じゃあボクはこれー!」

「私は……どれが良いんだろ……」


 受けた依頼一覧を見せ、セイカ、トキ、フウ、ゼッちゃん、サチの順で選ぶ。

 最近は魔物の討伐系もまた増え始めており、野盗問題や魔物問題と問題は山積み。その全ては簡単に解決出来るだろうが、それでも大変ではある。

 ホムラ達は基本的に二人一組。即ちツーマンセルでクエストを攻略している。執事も含めて七人なのでたまに三人一組や、セイカ達によく狙われて取り合いになるホムラが一人で行う事もあるが、ツーマンセルはキリが良いのだ。

 なので各々(おのおの)が受けるクエストを選んで他の誰かと行動を開始する。メランが忙しくなった今、それが現在のローテーションである。


「じゃ、俺はいつも通り単独で──」


「いえ、ホムラ様。今回は一組だけスリーマンセルの方針で行きましょう。いつもホムラ様だけが一人なのは私が悲しいです」


「そうそう! たまには仲間や友達と行動しようよホムラ!」


「私も同意見。だっていつも一人でやろうとするもんねぇ」


「ボクもホムラと行きたーい!」

「私も……」


 それについてホムラが言った時、セイカ達が引き留めた。

 自分の立場を理解しているからこその単独行動だが、セイカ達には思うところがある。単純に、もっとホムラと共に居たいという考えの元での動きなのだ。

 必死に言われると断るに断れない。ホムラは観念した。


「分かったよ。じゃ、テキトーに決めてくれ」

「では、皆様。婚約者として私がホムラ様と……」

「意義あり! 真名を知られた私もホムラの婚約者です!」

「真名なら私も……」

「何それ?」

「ゼッちゃんも知られていますよ」

「そうなの! じゃあボクもホムラと行くー!」

「私は……知られてないけど行きたい」


 なんやかんやあり、ワチャワチャした後で今日のパーティ編成が終わった。

 受けるクエストは基本的にいつも通り。雑用関係が多く、たまに魔物や野盗の討伐もある。

 前のマーレとの騒動は例外中の例外であり、基本的に組織を壊滅させたらそれで終わりだ。

 ホムラ達は今回の班を決め、各々(おのおの)でクエストを開始した。



*****



「“物置の掃除”。“野草集め”。“魔物討伐”etc.まあ、今のところこんな感じだな」


「そうですね。基本的にいつも通りです!」


「ふふ、セイカ様。今日は一段と張り切ってますね」


「ええ、ホムラ様と一緒にクエストを受けられますから!」


 決まった一つのパーティ、ホムラ、セイカ、フウの三人。

 セイカはホムラと共に居る事が出来るので元気であり、それをフウは微笑ましそうに見ていた。

 そして和やかなムードで目的地の屋敷に辿り着き、軽い雑用を行う。


「それじゃ、この物置の清掃を頼むよ。屋敷の方に物が溜まって来ちゃってさ。置く場所を整理したいんだ」


「分かりました」


 家一軒にも匹敵する大きさの物置の清掃。

 実際、ホムラ、セイカ、フウにとってはこの大きさの物置も平均的な物。なんなら三人の平均より少し小さいくらい。

 依頼人にある程度の詳細を聞き、三人は掃除を開始した。


「それで、一つお聞きしたいのですけど。フウさん。よろしいでしょうか?」


「はい? 別に構いませんよ。なんですか?」


「……?」


 物の分別に埃やクモの巣の撤去。それらを行うだけなので話す余裕もある。何ならフウの風魔法を使えば一瞬で片付く。

 それもあって仕事をしつつ、セイカはフウに訊ねた。


「フウさんもホムラ様に身を捧げる御つもりの筈……しかし、私やトキさんのように夜中にホムラ様の部屋に来ませんよね? 私にとっては良いのですけど、ホムラ様の事をどう思っているのか気になりました」


「え……」


 セイカの疑問は、フウがホムラをどう思っているのか。

 嫌いではないのは見て分かる。聞きたいのはその真意。幼馴染として、親友としての責任感から協力してくれているのか。それとは別の考えがあるのか。それが気になったのだ。

 フウは一瞬戸惑ったが、すぐに返答した。


「ホムラの事は好きですよ。大好きです。本当に身を捧げても良いと思える程に。しかし、ホムラの婚約者はセイカ様です。私はホムラが私を求めるなら応えますけど、求めないのなら何もしません」


「そうですか。しかし、好意があると考えれば、ホムラ様をフウさんの体が無意識に求めてしまう事もある筈……本当にそれでよろしいのですか?」


「構いません。あくまで私は親友ですから」


「それ以上の関係になりたいとは思わないのですか?」


「思います。私、婚約破棄されていますし。……しかし、私は風の系統。私もどちらかと言えば“混血”は賛成派ですけど、世間がそれを認めてくれません。今の在り方しか方法が無いのです」


「そうですか……」


 立ち位置を考え、フウはあくまで幼馴染の親友であってそれ以上ではない。

 セイカにはフウの好意が真実であると分かっているが、その本人がそれを受け入れた上で立場と系統上否定している。否定するしか出来ないようだ。

 それとは別に、セイカはフウの言葉が気になった。


「その……婚約を破棄されているとは……」

「それは……」

「……」


 それは、婚約の破棄について。

 セイカはフウの、それについては知らない。故に気になったのだ。

 フウはホムラの方を一瞥し、ホムラは目を閉じてそれに応える。

 セイカなら教えても問題無い。その意を込めた行動。

 依頼人が戻って来ないのを確認し、フウは衣服を脱いだ。


「フウさん……?」

「私には……とある事件で負った傷痕があります……。それはホムラが顔に火傷を負ったのと同じ事件……」

「……っ」


 思わずセイカは口を抑えた。

 衣服を脱いだフウの裸体には、痛々しい無数の傷痕があったのだから。

 おびただしい程の切り傷の痕。フウはホムラ以外にそれを見せておらず、セイカが相手でも少し震えていた。


「私、傷物なんです。ホムラのお陰で純潔は保っていますけど……その所為でホムラは顔に大火傷を……。純潔を守った所でもう相手をしてくれる人は居ません。ただそれだけです。婚約破棄の理由は。……セイカ様は違いますけど、傷だらけの貴族は婚約者からどう見られるか……知ってますよね」


「…………」


 フウは自虐的に笑う。

 傷を負った貴族は迫害される。それはフウも、ホムラも体験した事。だからこそフウには永遠に婚約者が現れる事無く、ずっとこのまま。

 形はどうあれ他の皆と過ごせる今は確かに楽しんでいるが、内心では色々と抱えているのだろう。

 傷も無く、婚約者も健在のセイカは何も言えなくなった。

 しかし、とフウは衣服を着直して笑い掛ける。


「だけど、私は今は幸せですよ♪ 近くに好きな人も居ますし、セイカ様達も好きです!」


「……っ」


 また、口を噤む。

 屈託の無い、心の底から幸福を感じている笑顔。だが、今さっきの傷を見てしまうと笑い返す事は出来ない。

 セイカは何も悪くないのだが、聞いてしまった事に罪悪感を覚え、毎晩ホムラを求める自分が少し情けなくなった。


「フウさん……今夜……わ、私達三人でしませんか!」

「え……? ええ!? ちょ、ちょっと何を言っているんですか!? その……するって……そう言う事ですよね……?」

「そう言う事ですし、あんな事やこんな事。そんな事にその様な事もです!」

「そこまでするんですか!?」


(……。フウにはセイカの言っている言葉が理解出来るのか……?)


 全てを大きく濁し、大雑把に話すセイカだがフウはその言葉の意味を全て理解していた。

 ホムラは呆気に取られ、少し距離を置いて別の場所の掃除をする。


「はい! 私、フウさんと三人ならば良いです! 下心剥き出しのトキさんはあれですけど、フウさんとなら!」


「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい。先程も言ったように今の私は幸せなんですって! その……大事な夜はやはり婚約者と過ごすべきかと……」


「ホムラ様も分かってくれます! 私が保証します!」


「いえ、現在進行形でホムラは困惑していますよ……」


(俺の考えも読めるのか……? 空気を読むってそう言う事か? 風の系統……)


 しれっと知った、フウの能力? どうやらフウは他人の事を理解するのにけているらしい。

 風の系統なので空気を読むのは得意そうだが、実際にそうなのかもしれない。


「と、とにかく。それについてはまた後日という事で……今は掃除をしましょう。セイカ様。クエストが優先です」


「あ、それもそうですね。ではフウさん。検討して下さい」


「はい……ホムラの意思もちゃんと配慮した上で……」


 一先ず場を収める事は出来た。

 元々セイカは生真面目。なのでフウに責任を感じてもクエストを進めるならそれを優先するのだ。

 ホムラとセイカの営み。それはまだ色々な意味で進展しそうになさそうである。

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