88ページ目 降伏
「アナタ達を倒す!」
「悪く思うな!」
「ああ、理解している。戦争だからな」
「わあ、速いねぇ」
現れた二人のダークエルフが仕掛け、ホムラは闇魔法で仕掛ける。
おそらく先程捕らえたダークエルフ達も一気に攻めて来るだろう。拘束しながら戦うのは大変である。
「ゼッちゃん。またさっきの引力を頼む」
「引力? あ、分かった!」
「「……ッ!」」
次の瞬間にゼッちゃんが重力で引き寄せ、ホムラは闇魔法でダークエルフの脇腹を貫いた。
急所と内臓は外している。だが激痛でそう簡単には動けないだろう。
なるべく殺さないようにはするが、最低限の大怪我を負わせて動きを止めるのが今の考えだ。
「くっ……!」
「まだだ……!」
「ああ、ダークエルフの精神力は理解しているよ。だから物理的に動けなくする」
「「あぁ……ッ!」」
ボキッ。と何かの折れる音。
脇腹を抉られた事で怯んだダークエルフの片手と片足の骨を闇魔法にて逆方向に折り、動きを止めた。
これならいくら精神力が高くても動く事は出来ない。
同時に複数人のダークエルフ達も姿を現す。
「王が授けて下さった力……!」
「貴様を倒し、期待に応える!」
「覚悟しろ!」
「今度は重力の範囲外から弓矢や魔法で応戦。あの二人の様子を見て行動を変えたか」
「どうするホムラー?」
「やるだけやってみるか」
魔法と矢を弾くように吹き飛ばし、闇を周囲に伸ばす。同時に足元の闇を広げ、半径数百メートル圏内に居るダークエルフ達を捕らえた。
「これは……!」
「此処から此処まで俺の領域だ。要するに、アンタらはクモの巣に引っ掛かった蛾って訳」
「……! 蛾だと!? ならば蝶はエルフ共か!」
「せめて我らを蝶にしろ!」
「……。変な観点から突っ込むのな」
「「「あがぁ!?」」」
そして先程と同様脇腹を抉って手足の骨を折る。
ダークエルフでもやはり女の子。蛾よりは蝶に例えられた方嬉しいのだろう。
特に意識はせずエルフとダークエルフを分けるに当たって近い生き物が蝶と蛾だったのでそう話したが、今度からはちゃんと乙女心を理解した上で例えようと決めた。
それはそれで蛾に失礼だが。
「さて、まだまだ来るな。ゼッちゃん。分断した方が良さそうだけど、一人で大丈夫か?」
「うーん、大丈夫だけど……ホムラと離れるのは寂しい……」
「そうか。なら、なるべく離れないように戦うか」
「うん!」
ゼッちゃんの頭を撫でて笑い掛け、ゼッちゃんも笑顔で返す。次の刹那にダークエルフ達が飛び掛かり、その全てを闇魔法の槍で貫いた。
「今回は当たったな。多くのダークエルフを相手取って来たし、目も慣れてきたのか」
その一連の攻撃で強化されたダークエルフに反応出来ている自分に気付いた。
思い当たる節はある。多くのダークエルフの動きを見ていたのと、今まで見た全てよりも速かった“虚無の境地”の動きも体験している。だからこそ目が慣れたのかもしれない。
「そーれ!」
「「「…………ッ!」」」
──そして、全ての強化を嘲笑うかのようなゼッちゃんの攻撃。
念力で操って吹き飛ばし、周囲を重くして押し潰し、文字通り子供の遊びのように自由気儘にダークエルフ達を翻弄した。
「これ以上やってもアンタらの戦力が大きく削られるだけ。別に操られていたり洗脳されている訳じゃないんだろ? それなら無駄と悟ってアンタらの王様を此処に連れて来てくれよ」
「主君を売る部下が居ると思うか? そんな事をするのは真に忠誠を誓っていない裏切り者だけだ。我々は貴様らを倒すだけ……!」
まだ死者は出ていないが、ホムラとゼッちゃんを相手にそれ程長く持たないのは明白。なので降伏を促してみるが、ダークエルフの厄災の王への忠誠心は高いらしく言うだけ無駄なようだ。
ホムラは肩を落とす。
「あのおっさんの何処が良いんだか。まあ、人は見た目や年齢で決まらないけど、実際何処に惚れたんだ?」
「世界を変えようとする気概。夢物語を堂々と恥ずかしがる事無く話す馬鹿さ加減。そして力を与え、我らを導いてくださった器。その他にも色々だ」
「しれっと馬鹿にしてるな。けど、そんな真っ直ぐな馬鹿だから惹かれたのか。確かに人間の中じゃ高齢だけど、堂々と夢を語る人は居ないな」
「だからこそ貴様らを……!」
「それは何度も聞いた」
「うぐっ……!」
惹かれるモノはあるのだろう。それを理解し、納得もしてダークエルフのを行動不能にする。
そして此処まで戦った感覚から今回の敵、厄災の王は今までとタイプも違う存在という事も分かった。
“虚無の境地”のように純粋に戦いを楽しむ訳ではなく、ゼッちゃんのように自分なりの善意の為に戦うでもない。そして当然、野盗やマーレ女王のように自分だけの為だけという事でも無い。
本人が言ったように、善意ともまた違う、世界その物を変えようとする使命感。革命の為に戦う王。それがあの者。色々と新鮮な体験である。
「ま、俺とは趣味が合わないかもな。世界とかどうでもいいと考えているし」
使命感であって善意ではない。しかしホムラとは相容れなさそうな目的。
取り敢えずホムラ的には、“虚無の境地”。そして何となく気に食わない世界に盛大な八つ当たりが出来たら良いので関係は無いだろう。
「これで全員かな」
「わーい! みんな動けなくなったね!」
「「「……っ」」」
そして、仕掛けてきたダークエルフ達は全員の手足の骨を折ったり引き抜いたりして動けなくした。
この人数は大変だが、治療のしようもある。後はまた厄災の王が出てくるのを待つだけだが、此処まで姿を見せなかった事から逃げた可能性も視野に入れる。
「まだだ! 我が民よ! 立ち上がれ! 今こそ革命を起こすのだ!」
「……。何してんだ?」
「旗みたいなの持ってるね~」
杞憂だったようである。
厄災の王は逃げていなかった。
旗のような物を掲げ、動けぬダークエルフ達に声を掛けて激励する。
一見すれば何をしているのか分からない。しかし、立ち上がったダークエルフ達を見てこれをしたんだなと理解した。
「まだだ……!」
「我らはまだ戦える……!」
「主君の為……!」
「主の為……!」
「王の為に……!」
「味方の強化……それは“回復”も含めての強化って訳か」
厄災の王の力は、完全にサポート特化。
味方の身体能力や魔力の上昇。それに加えて一時的な超回復。
動けない筈のダークエルフ達はフラフラと立ち上がり、折れた腕は逆方向に折って治し、切断された腕は拾い上げて魔力の糸で無理矢理繋ぎ会わせる。
各々のやり方で回復し、本当にダメージも無くなったような面持ちで再びホムラとゼッちゃんに向かった。
「そうだ! それでこそ我らの……!」
「……。ゼッちゃん」
「うん!」
「「「…………!?」」」
そして次の瞬間、厄災の王の演説を聞かずしてホムラがゼッちゃんに指示を出し、引力によって全ダークエルフを引き寄せた。
それと同時に闇魔法が這い、さながら枯れ木のように枝分かれして貫く。
一本の闇魔法から分裂した複数の槍。それは確実にダークエルフ達の心臓や脳を貫いており、即死のダメージが及ぶだろう。
「な、我が民が……!? 守るべき者達が……!」
一連の流れを見、厄災の王は大きく動揺を見せた。
“守るべき者達”。その言葉の真偽は不明だが、一応ホムラは話す。
「安心しろ。死んじゃいない。ただ単に身体の機能を停止させただけだ」
「それは死んでしまったのではないか!?」
「そうだな。せっかくの機会だ。教えておく。闇魔法は明らかに死んでいる状態でも生かす事が出来る。だから肉体的な機能は止めたけど、彼女達も生きてはいる。俺の闇魔法が切れないうちに治療すれば治る」
「そ、そうか……」
その言葉を聞いて安堵する厄災の王。
どうやら民は本当に大切に思っているらしく、裏も無さそうな様子。だがそれが全て演技の可能性も考える。
その事を踏まえた上でホムラは提案した。これで全てが分かるだろう。
「俺はこの場で闇魔法を解き、この者達を全員殺める事も可能。そこで提案だ。アンタらが降伏すればこのままの状態のままにして回復させる。降伏しなければ皆殺し。慈悲はない。二つに一つ。もしアンタがこの者達を生かしたいと思うなら──」
「分かった。降伏する。民を助けてくれ……!」
「……!」
即答だった。
戦闘を放棄。威厳を失う可能性は高く本人も懸念していたが、それでも降伏して仲間達を助ける事を望む。
これすら演技で鎌を掛けている可能性はまた健在。なのでホムラは最終確認をする。
「そうか、分かった。ゼッちゃん。物真似した回復魔術で彼女達を治してくれ」
「良いの~?」
「ああ、構わない」
ゼッちゃんに頼み、ダークエルフ達を治療する。全員する必要はまだ無い。何人かだけ治療し、闇魔法から解放。
此処からどう出るかだ。
「……っ! 傷が……」
「馬鹿め……我らを治療した事、後悔させてやる!」
「死せよ……!」
予想通り、治った瞬間にダークエルフ達は飛び掛かる。厄災の王は言葉を発した。
「やめよ。たった今戦争は我らが敗れた。これ以上犠牲を増やすな」
「「「……!」」」
……そして、制止させる。
ホムラは本当に闇魔法を展開していなかった。それでも自動的には守られるが、傍から見たら隙だらけ。
そんは事は厄災の王にも分かっている筈だが、それでも尚ダークエルフ達を止めた。
これで確信にまた一歩近付く。最後、ホムラはゼッちゃんに聞いてみた。
「ゼッちゃん。厄災の王はゼッちゃんから見てどんな感じだった?」
「ヤクちゃん? んーとね……それがさぁ! ボクが人を殺そうとするとあまり殺しちゃ駄目とか、もう少し他人をいたわれ? とか偉そうに色々言ってくる面倒臭いお爺ちゃんなんだよ!」
「そうか。分かった。ありがとう、ゼッちゃん」
「えへへ……また褒められちった」
そして確信した。
戦争による犠牲は仕方無いと考えるリアリストだが、馬鹿みたいな夢を大々的に語るロマンチストでもある初老。
少なくとも、ホムラから見た殺害対象からは外れた。
「さて、本当に降伏したんだな? それなら今からエルフ達の街に行って諸々の始末を付ける。話し合いの末にアンタは死刑になるかもしれないけど、取り敢えずは場を収めよう」
「ああ、しかと受け入れよう。あの者達が助かるなら安いものよ。……ワシの能力はあくまで仲間の強化。自分が前線に出ず、仲間がやられるのは見ていて忍びない。判決が死だったとしても受け入れる」
既に死者は出ている戦争。実際、ホムラ達が国に入った瞬間も何人もの死体を見た。
だからこそ、戦争は止めるから殺さないとはならない。責任者という立場がある以上、始末はその責任者が付けるべき。
上層部でぬくぬくと暮らす他の貴族や王族とは違い、厄災の王はその責任も負うつもりのようだ。
ホムラ達と厄災の王。その戦闘は降伏させる事で決着が付いた。




