87ページ目 厄災の王
「それで、この世界だがな……」
「本当に話すのかよ」
「む? そうであろう。この世の中は腐っている。今こそ革命を起こすべきだ!」
「それは“王”じゃなくて“民衆”の役目な気がするけどな」
現れた厄災の王は本気で話、いつの間にかホムラの隣に座っていた。
しかし本当にただ話したいだけらしく、まだ敵意は感じられない。
今のうちにその容姿を記憶する。見た目は50~60代。肌は少し焼けており、年齢の割には筋肉質な男性だ。
顔付きは意外と優しそうなものであり、ややたれ目。髪と目の色は金髪ともまた違った“濃い黄色”で、その色合いから考えるに火と風の混血のようである。
「一先ず、世界を正す為には世界を征服でもするべきと考えている。主はどう思う? 少年」
「どうと言われてもな。別に俺は革命家でもないし、好きにすれば良いんじゃないか?」
「いやいや、世界を引っ張って行くのは若者の役目よ。年老いつつあるワシは先見の明を持ち、未来へ思いを馳せねばなるまい」
「知りませんよ」
つい敬語で話してしまった。
ダークエルフを率いてエルフを襲撃する厄災の王だが、話してみた感じは普通。そもそも全てを自分でしようとはせず、若者に未来を託す様はお手本のような老人である。
全ての“人類の敵”と会い、最終的に第一印象からあまり良くなかったのは虚無の境地。そしてまだ何も分かっていなかったゼッちゃんだが、一周回って話してみると全員あまり悪い印象は無い。またそんな気がしてきた。
「王……! お助けを……!」
「主様……!」
「助けて下さい……!」
「一先ず彼女達を解放してはくれぬか?」
「嫌だよ。敵だからな」
「そうだそうだ!」
そして捕まったダークエルフ達を無下にせず、ホムラに解放を頼んだ。
しかし敵である事には変わらないのでそれを断り、ゼッちゃんも便乗して拳を掲げる。
厄災の王は少し考えた。
「むぅ。なら、どうすれば解放してくれる? 闇魔法使いの少年」
「条件を出して良いならトコトン俺達に有利なものになるぞ? 投降するのは当然として、捕らえたエルフ達の解放。街の修繕に謝罪。賠償金。後はまあ、アンタの国家? の解体はその時次第だな。取り敢えず、割と現実的な部分での条件が多くなる。今挙げたのはあくまで前条件。他にも増える」
「確かにあまり良い条件ではないな。一応ワシにも立たせる顔はある。全ての条件を受け入れてしまえば威厳が無くなる。それでは民も着いて来ない」
「民って、国その物を経営している訳じゃないんだろ? ダークエルフ達とは協力しているみたいだけど、戦争を仕掛けたのは事実だ」
「それを言われては返す言葉もないな。多くのエルフを殺めたのも事実。戦争とはそう言うものだが、張本人のワシがあれこれ言える事でもない」
多くの死者は出た。それについて考える厄災の王。
こういう風に善人ぶって嘘を吐く輩はこの世界に多い。人は信用してはいけないのがこの世界を生きる最低限のルール。故にホムラは更に切り込む。
「それじゃ、最低限、降伏はして貰おうか。その他の条件は降伏した後の態度次第で決める事も出来る」
「一番問題のある事だな。世界を変える為には勝利を収めなくてはならない。悪いが、互いに無傷のまま終わらせる事は出来ぬ」
「じゃあ戦争か?」
「それしか無さそうだの」
「ボクも賛成ー!」
降伏。投降。降参。それらをする訳にもいかないのが王という立場。
この者はダークエルフの近くに来て勝手に王になったのだろうが、そうであっても催眠や洗脳以外で信頼されているのは見て取れる。故に、互いに確かな納得を得るには戦争しか無かった。
「では、始めようぞ」
「望むところ」
「今度こそ勝つ! ジャンケンでも勝ち逃げは許さないから!」
ゆっくりと立ち上がり、ホムラとゼッちゃんに向き直る厄災の王。二人も臨戦態勢に入り、要塞の壁の上にて三人は構えた。
ホムラとゼッちゃん。厄災の王。闇魔法使いと人類の敵vs人類の敵の戦闘が始まった。
*****
──“ダークエルフの拠点・牢屋”。
「貴様らァ! 此処は通──」
「ります!」
見張り役のダークエルフを倒し、セイカ達は牢屋へと辿り着いた。
主に戦ったのはトキとサチ。時空間魔法を扱う“混血”や“人類の敵”と言った二人が居るので戦闘自体は即座に解決する。
牢屋の鍵は無いがトキが鉄格子を風化させて外し、囚われのエルフ達は助け出された。
「だ、大丈夫だった? みんな……」
「エメラ。ええ、大丈夫。意外と何もされなかったよ。その方達は?」
「助っ人……メグミ達の知り合い」
「成る程。凄い強さだね」
牢屋が開き、エメラは抱き付くように入って他のエルフもそれに返す。
やはり女性の割合が多く、今話しているのも女性。
案内役に使ったダークエルフは睨むように声を上げた。
「さっさと解放しろ……! 案内はしただろ……!」
「駄目です。貴女様を解放するとまた被害が及びます。私達が逃走を成功させるまではこのままで居てください。……すみません」
「……っ。何故謝罪を……! しかも傷の治療も……貴様ら、それでも侵略者か!? 温情なら要らぬ……!」
「貴女が断ったとしても私はそれを断ります。私達が原因とは言え、怪我人をそのまま案内役にするのは気が引けますから」
「何を甘い事……! 貴様は馬鹿なのか?」
「ふふ、かもしれませんね」
案内役であるダークエルフの治療も完了している。それについて指摘し、セイカは小さく笑って返した。
純粋な疑問。何故敵を捕らえ、治療をするのか。ダークエルフにはそれが分からなかった。いや、分からないのはダークエルフだけではない。おそらくセイカ以外の全員が分からず、仲間からしてもおかしな事だろう。
「セイカって本当に甘いよねぇ。あ、味じゃないよ。甘そうだけど。……敵まで助けようとするなんてさ」
「敵という立場にあっても生きております。そうするしかない状況が多くても……せめて私は相手を助けたいのです」
「その情けが相手を傷付ける結果になってもか? 貴様の余計な優しさは私を愚弄している事に他ならぬのだ……!」
「……それでも、単なる綺麗事だとしても私は変わりたくありません」
「噛み合わんな……貴様とは……!」
トキの質問に返し、ダークエルフが睨み付けて話す。
だがセイカの意思は変わらない。お節介だと思う者は多く、理解出来ない者も多く居る筈。何なら被害者からすら恨まれる可能性もある。
しかしそれすらをも受け入れ、優しく包み込む。聖母にしてもこれ程の女性は居ないだろう。
かつて、家族や友人。多くの大切な人を奪った存在すら包み込もうとしたのだから。
「それでは皆さん。行きましょう」
「オッケー! 皆の拘束もとっくに解いたよ!」
「手錠やロープが腐り落ちた……?」
「彼女は一体どんな魔法を……」
「人間……私達エルフにとってはあまり良くない方々なのに……」
「この様な人達が居るのですか……」
拘束は全てトキが解いた。器具の時間を進めて腐らせたのだ。
エルフ達はその力に驚愕しつつ、悪い印象しかない人間にも良い人が居るのだなと実感した。
何はともあれ、この場は早く──
「「「…………!?」」」
──逃げ出したかった。
轟音と共に拠点が大きく揺れ、牢屋が吹き飛ぶ。
外の空気が入り込んで来る事によって生じた風に髪を揺らしながら、セイカ達は空を見やる。
「あれは……!」
「ホムラにゼッちゃん……そして……?」
「主様!」
「という事は厄災の王……久し振りに見た……」
上空にて、鬩ぎ合う三つの影があった。
闇が飛び交い、巨大隕石が複数個降り注ぐ。そしてそれを一身に受ける初老の姿。
ダークエルフの反応からして、まず間違いなく“厄災の王”。
「あれが……!」
「セイカ! 私達は早く逃げよう!」
「は、はい! トキさん! 皆様行きましょう!」
牢屋が吹き飛んだ。つまりもう巻き込まれている。これ以上の被害を受けるよりも前にセイカ達は避難を開始した。
「む? あれは捕らえたエルフ達……そして……成る程の」
「おっと、気付かれたか」
「気付いた所で何も出来んがな……!」
厄災の王が逃げ出すセイカ達の存在に気付き、ホムラは闇魔法を放ってその身体を吹き飛ばす。同時に王は受け身を取り、街を崩壊させながらもダメージを最小限に抑えた。
「さて、アンタの能力はなんだろうな? 今のところ身体能力で戦っているけど、虚無の境地には遠く及ばない」
「全人類の最高峰と比べんでくれ。ワシが悲しくなる。ワシは個人戦では真価を発揮出来んのだ。だからこそ魔力で何とか身体能力を強化して逃げ回っていると言うのに」
「それを言っちゃ駄目だろ。俺にチャンスを与える事になる」
「おっと、うっかりしておった。ワシもそろそろヤキが回ったかのう」
今がチャンスなのは明白。本人曰く乱戦にて発揮出来る能力だかららしい。
しかしあくまで本人曰く。嘘の可能性は大いにある。油断は出来ない。
「しかし、戦えぬ事は無い」
「だろうな。この世界には魔法以外の武器も豊富だ」
銃を構え、それを撃ち出す。
銃弾を弾いて闇魔法を嗾け、厄災の王は見切って躱した。
「この拠点、全部吹っ飛んじゃえ!」
「……相変わらず滅茶苦茶するのう」
「ゼッちゃん。まだ人は居るんだ。それは今は禁止」
「えー! ホムラが言うなら……」
隕石を降らせ、ホムラに言われたゼッちゃんはしょんぼりして軌道を逸らす。同時に遠方に落ち、そこから半径数十キロが吹き飛んだ。
その余波はこの場所にまで届いたが死者は無し。ダークエルフの拠点は半壊したが安いものだろう。
「ありがたい。今のワシではゼッちゃんの攻撃は防げぬからな」
「魔法を使わないで自ら攻めて来ているからな。魔力で強化はしているけど」
「そうじゃの」
腰の鞘から剣を抜き、それをホムラに振るう。魔力で強化されているとは言え単なる武器。闇魔法を通る訳が無かった。
この世界には無いが、核融合や水素を利用した爆弾ですら闇魔法を貫く事は出来ないだろう。
「じゃあこれくらいはー?」
「ああ、それなら良いな」
「やれやれじゃの……」
重力を操り、瓦礫を操作。重力というより念力のようなものだろう。
その瓦礫が砲弾のように撃ち出され、厄災の王は避ける。だが、ただ放っただけではない。前述したように念力のような技。つまり、避けたところで常に狙う事も可能である。
「それ、追撃だー!」
「手厳しいの……!」
瓦礫のみならず縦横無尽に放たれる闇魔法の槍。流石にそれを全て避ける事は出来ず、瓦礫によって吹き飛ばされた。
「成る程な。ダメージは受けるけど、闇の槍と違って全身に受ければ吹き飛べる瓦礫を選んだか」
「どういう事~?」
「要するに俺達から離れたって訳だ」
「へえ!」
敢えて瓦礫にぶつかり、吹き飛ぶ事で距離を置いた厄災の王。これならホムラ達の視界から消える事も可能。
「で、撃ってくるか。俺には関係無いけど」
「かくれんぼなら負けないよ!」
そのまま銃弾が放たれ、ホムラの背後を闇魔法が自動的に防いだ。
銃弾が来た方向に闇を伸ばすが、
「……? 居ないな」
その方向に厄災の王は居なかった。
すると正面から銃弾が飛んで来る。
「……不自然な軌跡だ。ゼッちゃん。俺の側に来るんだ」
「うん! ホムラ!」
移動しながら撃っているのか、弾の飛んで来る方向はランダム。
ホムラならそれでもダメージは受けないが、ゼッちゃんはそうもいかない。なので闇の中に入れ、ホムラは周囲に闇魔法を大きく広げて厄災の王を探った。
「……成る程な」
「なになにー?」
「跳弾だ」
「ちょうだん~?」
瞬間、全方位から弾丸が飛んで来た。
その全てを防ぐが防いだ先で弾丸同士がぶつかり、また弾かれてやって来る。
闇魔法がどの様な角度で銃弾を防ぐか。それを計算した上での攻撃。ホムラの意思に関わらないからこそ機械的な防御になっているのだろう。
その結論から言えば、
「もう近くに厄災の王は居ないな」
「そうなの?」
──厄災の王は既に居ない事が分かる。
それなら何処に行ったのかと問われれば、
「主様の為……!」
「貴様らを屠る!」
「……自分の優位に立ったか」
「まだ残っていたんだね!」
「ま、前衛や後衛だけじゃなくて拠点全体に居る筈だからな」
ダークエルフ達を強化して嗾けたという事。
厄災の王の真価は乱戦。それは1vs多数が得意という事ではなく、味方を強化して戦うのが得意という事だったのだ。
ホムラはため息を吐く。
「ゼッちゃん。戦いはこれからだ。多分、面倒な相手が沢山やって来る」
「そうなの? じゃあ殺しても良い?」
「なるべく殺さないようにはするとして、それが難しかったら仕方無いな」
「分かった!」
やむを得なければ仕方無い。そう結論付ける。それは最初から変わらない。
これから現れる刺客は“四宝者”クラス。手加減して勝てる程甘くはなかった。
ホムラとゼッちゃんの織り成す厄災の王との戦闘。セイカ達は仲間を救出したが、こちらは此処から激化しそうである。




