86ページ目 vsダークエルフ
──“ダークエルフの拠点・内部”。
拠点内に侵入し、囚われたエルフを探すセイカ達は物陰に潜みながら進んでいた。
まだ建物や牢屋に入った訳ではなく、此処で見つかるリスクもあるが。
大多数はホムラとゼッちゃんの方に向かっているので寧ろ牢屋などの数人の見張りの方が多いかもしれない。
ダークエルフの拠点の建物も基本的に木やキノコ。強度は分からないので巻き込まれるよりも前に見つけ出したいところである。
「ホムラ様がダークエルフから聞き出した情報によりますと奥の建物が牢屋。それがブラフの可能性もあるそうですけど、一先ずそこに向かいましょう」
「だねぇ。外の敵は全部ホムラとゼッちゃんの方に向かっているから、私達に戦闘があるとしたら建物内の敵くらいかな」
近くに敵は居ない。そして牢屋の場所も暫定ではあるが分かっている。
なのでそこに向かって真っ直ぐ進む。
ダークエルフの強さがメグミ達やホムラと戦った者達程あるかは分からないが、なるべく戦闘は避けた方が良いだろう。
「こちらにも侵入者か」
「予想通りだな」
「……っ!」
──そして、現実は思っているのと逆の事ばかり起こるもの。
ダークエルフが二人。セイカ達の前に立ちはだかる。予想通りという事は、ホムラ達以外にも居ると初めから考えていたという事。
「まさか気付かれてしまいますとは……」
「彼らがあんなに派手な動きをしているんだ。逆に囮や陽動という線を考えない方が間抜けだろう」
「まあ、それでも大多数をそちらに向かわせなければ拠点が崩壊するから来れたのは私達二人だけだけどな」
派手な動き。今が戦争中なのもあって、それには必ず何かしらの裏があると考え付くのが兵士として当然の在り方。
ダークエルフ。彼女達は有象無象や烏合の衆では無さそうである。
「すみません。通してくださいませんか?」
「丁寧に訊ねても通す訳無いだろう。そこに居るのはエルフ……エルフ共には何故か人間が荷担しているからな。差し金なのは明白だ」
「お前達を捕らえる。もしくは殺すしかないな」
「残念です」
試しに聞いてみたが、やはり断られた。
此処はやるしかないだろう。セイカ達四人は臨戦態勢に入り、二人のダークエルフはセイカ達の背後に回り込んでいた。
「……え?」
「セイ……!」
「終わりだ」
そのままレイピアをセイカの首元に斬り付け、トキが声を上げる。しかし時間停止も間に合わない速度。
つまりこのダークエルフはホムラが捕らえた三人と同じく、強化された個体。
成す術なくセイカの身体は、
「……ッ!」
「おかしいな。確かに斬った筈なんだが」
──吹き飛ばされた。
確かに首元を斬り付けた。今頃セイカの頭は胴体と離れ、即死している筈。なんともまあ、変な話である。
その、変な話を実行出来る者が一人。
「切断を無効化した」
「……!」
サチがダークエルフとレイピアの動きを見切っており、“斬撃”を無効化する事で“打撃”に変換させたのだ。
セイカがダメージは受けたが、ダメージだけを無効化すると首が切り離される事実は変わらなくなる。なのでこれが最適だろう。
「はい。貴女に返す」
「……!? アガァ……!?」
手を差し出した瞬間、ダークエルフの腕が切断される。
なるべく殺さない方法。なのでサチは無効化した斬撃をダークエルフの腕に返還し、その腕を切り落としたのである。
腕が斬られたダークエルフは声を上げて踞る。
「貴様……仲間に何をした!?」
「貴女の移動も無効化。はい、返還」
「な……!?」
そんなサチへ残ったダークエルフが飛び掛かり、その動きが無効化される。動きを返還し、慣性を操って逆方向の建物に激突させた。
カラカラと木片が落ち、ダークエルフは立ち上がる。
「貴さ……ま……!? ぁぁ……!? ……!? ……!?!?」
「貴女の呼吸を無効化。意識失ったら返還するから安心して気絶して」
「な……に……」
呼吸が出来なくなり、パニック状態に陥る。身体全体へ負担が掛かり、ダークエルフはそのまま意識を失った。
「この……貴様ァ!」
「そうだ。メグミの受けたダメージ。代わりに貴女へ返しておく」
「……ッ!? ああ……ッ!?」
そして片腕を失ったダークエルフにはメグミの治療で溜めていた痛みを返し、腕と全身の激痛に叫び声を上げて気を失う。
「これで終わり」
「す、凄いです……サチさん……」
「……戦ってるの初めて見たけど……凄いね……」
「これが……人間にして“人類の敵”を謳われる者の強さ……!」
瞬く間に戦闘は終わった。
その能力もそうだが、常人の動体視力では見破れない強化されたダークエルフの動きを見切った反射力も凄まじいものがある。
まさに人類最強の一角に相応しい実力者だった。
「成る程。向こう側にも主様のような者が手を貸していたか」
「……!」
──その瞬間、潜んでいたもう一人のダークエルフがサチを頭上から貫いた。
辛うじて直撃は避けたサチ。しかし背中が大きく斬られ、衣服がはだけて出血。倒れるように膝を着く。
「まさか……あの二人の言葉自体がブラフ……!」
「最初から三人来ていたという事ですか……!」
現れた二人はわざわざ、来れたのは“私達二人だけ”と言った。それによって二人だけなのだろうと自然に思い込んでしまい、今に至る。
ダークエルフはトドメにレイピアを振りかざした。
「……あれ?」
そして、そのレイピアはいつの間にか無くなった。
ダークエルフは困惑し、辺りをキョロキョロと見回す。後ろからトキがダークエルフの背にそのレイピアを突き刺した。
「お探し物はこれ?」
「……ッ!? 貴様……いつの間に……」
「私泥棒なの。騙し合いなら負けないよ?」
「くっ……」
時を止め、レイピアを奪取。それをそのまま突き刺しただけ。
トキは手癖が悪い。それは本人も自覚している。このダークエルフは、独断でサチだけが強敵と認識し、相手が他にどの様な魔法を使えるのかも考えなかった。秘密主義者でもあるトキの作戦勝ちだろう。
「肉体的な強度はそんなに上がってないんだ。結構簡単に刺さったもんね」
「しかし、念には念を入れましょうか。彼女はまだ意識もあります。“フレイムバインド”!」
「……ッ!」
そしてセイカが拘束。他の二人は未だ意識不明。あと数十分は起きず、片腕を失った彼女はダメージも含めて数日間寝込む事になるだろう。
今のうちに危険地帯は脱出。サチに簡易的な治療魔法を掛け、ダメージと意識のあるダークエルフを一人攫ってセイカ達はこの場を離れた。
*****
──“ダークエルフの拠点・外門”。
「……一人一人が地味に強いな」
「そうだねぇ。ちょっと油断したら怪我しちゃうかも」
「くっ……化け物共め……!」
「こんな奴等がエルフの軍勢に……!」
此処に集まったダークエルフ達は、全員が厄災の王に力を借りたのかかなりの強さとなっていた。
それなりの身体能力にそれなりの魔法。ホムラの闇魔法とゼッちゃんならダメージは無いが、二人で全て請け負うのも大変そうである。
「ねぇねぇ、殺しちゃダメなの~? 殺して良いなら簡単なのにぃ……」
「操られている可能性とかもあるからな。それに、コイツらは基本的にやむを得ない殺害と拉致くらいしか悪行っぽい事もしてないしな」
「大変だよ~」
「……っ。殺さずに手加減してこの強さだと……!?」
「何者だコイツらは……!」
人を殺す。この世界ではそれをやらざるを得ない事は多々ある。それに加えてダークエルフの悪行は侵略行為と捕虜の拉致。戦争による殺害だけ。全て仕方無く行われる事柄。
それを悪意を持って行っている訳でもない。基本的に戦争には悪意が無いので当然だ。あくまで自分達の正義を貫く物が戦争。
だからこそ殺す必要もない。元々争う事があったとしても、大きな戦いで勝利すればエルフとも上手くやって行けるだろう。
「調子に乗るな!」
「アンタら相手には調子に乗れないな。いやそもそも、戦闘で調子に乗った事はない。命のやり取りだからな。調子に乗るのは失礼に値する。それにまだアンタらを一人も倒せていないんだ。乗れる訳が無い」
ダークエルフ達が高速で動き回り、ホムラは闇魔法を仕掛けるが捕まえられない。防御は自動的なので問題無いが、捕らえるのは自分の目で確認しなきゃならないので大変である。
目で見るだけではなく、複数人のダークエルフの移動先を予想しなければならないのでより拍車が掛かっていた。
「無敵という訳ではない筈……必ず防御にも穴はある!」
「空気の循環はさせているからな。と言うか、敵からの攻撃箇所に闇魔法が行くから周りが囲まれなければ常に新鮮な空気を得られている」
闇魔法が飛び交い、ダークエルフ達は避ける。
敵の数は多い。本来ならテキトーに仕掛けても当たる程だが、それすらないのは流石の実力だろう。
「此処は戦場だ! 小さな子供が来るな!」
「さっさと人間の世界に帰れ!」
「ダーメ! ホムラと一緒に居たいもんねぇ。だからボクは帰らないよ~」
「……っ。子供なのに何て強さ……!」
「私達が手玉に取られるなんて……!」
一方のゼッちゃんだが、ゼッちゃんは然程苦労もしていなかった。
結構軽いノリで知識もまだまだ少ないが、応用力は高い。素早く動くダークエルフが相手だからこそ周りの重力を重くして敵の動きを鈍くし、殺さない程度の攻撃で着実にダメージを与えていた。
しかし殺さないようにする手加減をするのは苦手らしく、イマイチ決定打に欠ける。それどころか軽く吹き飛ばす程度。だからこそダークエルフ達にはふざけているようにも見えてしまうのだろう。
「ホムラー! もう飽きた~!」
「あ、飽きた!? そちらから攻めて来てその言い様……!」
「完全にバカにしてるね……!」
一向に進展しない戦闘に飽き、ホムラに向けて駄々を捏ねるように話すゼッちゃん。その言動はダークエルフ達の挑発材料には十分であり、激昂して更に加速。ゼッちゃんの周りを囲んでレイピアを斬り付けた。
「わっ! 危ない!」
「危ないじゃなくて、何で当たらないの……!?」
「この反射神経に動体視力……黒髪の少年以上ね……!」
「確かに素の実力はゼッちゃんの方が高いな」
高速で斬り付けられるレイピア。それを軽いノリで躱すゼッちゃん。
その辺は“人類の敵”の一角。闇魔法によって大きなバフを掛けられているホムラの素よりは高い能力を有していた。
これでまだ二桁年齢もいかない子供なのだから末恐ろしいものである。
一先ずホムラは先程のゼッちゃんの言葉について少し考える。
(既にセイカ達は拠点内に入っているよな。それに、既に大半のダークエルフは此処に来ている。遠方から新たな刺客が来る気配も無い……頃合いだな)
そして、一つの結論に至った。
「ゼッちゃん。じゃあそろそろ終わらせるから、周りの引力を操ってくれ」
「うん! いんりょくって?」
「うーん、相手を引っ張る魔法あるだろ? 時空間魔法の在り方は分からないけど、その力を自分の方向に引っ張ってくれ」
「よく分からないけど、こう?」
「「「…………!?」」」
空間魔法を使い、重力を操る。その力でダークエルフ達を引き寄せ、ホムラは闇魔法を鞭状に変化させた。
「これで全員の拘束完了だ」
「わー! クモの巣に引っ掛かった虫みたーい!」
「もっと可愛い表現は無かったのか?」
そのままダークエルフ達を拘束。確かにクモの巣に掛かった虫のようにも見えるが、クモはカエルの舌のように糸を伸ばして捕らえる訳じゃない。
何にせよ殺さずに捕らえる事は成功した。
「後は待つとするか」
「そうだねぇ。何して待ってる~?」
「何もする事無いな。景色でも眺めてるか?」
「えー? つまんなーい!」
「確かにゼッちゃんには退屈かもな」
「あ、じゃあさ! いつもセイカやトキがホムラに頼んでいる事してみて!」
「二人が頼んでいる事?」
「ほら! ホムラが欲しいとか、中に入れてとか! よく分からないけど、あんなに頼んでいるなら楽しい事でしょ!」
「……。それはゼッちゃんにはまだ早いかな。そしてその相手は俺じゃない方がゼッちゃんの為だ」
「えー!」
子供の純粋な疑問というものは、知識のある大人にとっては色々と答え難いものが多い。
今回のそれもそれであり、やんわりと濁すように断った。
「ま、セイカ達なら大丈夫だろうし、ゆっくり待とう。暇なら散歩でもしてきたらどうだ? ゼッちゃん」
「うーん……ホムラと一緒に居たいしなぁ」
「じゃあ待つしかないな」
「うぅ……分かった。待つよ」
する事もないのでただ待つだけ。このまま何もなければ万事解決だろう。
「──ほう? 誰を待っているのだ? 闇魔法の少年。そして絶望の象徴よ」
「……!」
そう、何もなければ。
それは、何かあればそうでなくなるジレンマもある。今現在がまさにそれだった。
今話しかけてきたのが誰なのか、予想は付く。その予想の答え合わせをするようにゼッちゃんはムッとして口を開いた。
「相変わらずその名前でボクを呼ぶんだ。ヤクちゃん……今日こそ殺すよ?」
「やってみると良い。そう言って殺された事は無いのだからの」
「ふん、ボクは強くなったからね。今度は負けない……!」
「……。勝敗というのはただ一回ジャンケンをしただけなのだがな」
ゼッちゃんとは知り合い。そして呼ばれた名。ヤクちゃん。
まるで麻薬でもやっている者に対する言葉みたいだが、そう言う事ではない。
二人の話に向け、ホムラは声を出した。
「……アンタがダークエルフに肩入れしているって言う“厄災の王”か。“王”と付くだけあって仰々しい話し方だな」
「お初にお目に掛かるな。闇魔法使いの少年、シラヌイ・ホムラ殿。一度話をしてみたかった」
「へえ? 何の話だ?」
「そうだな……世界の在り方……とでも言っておくか?」
「世界の在り方。また大袈裟な話だ」
その者、まず間違いなく“厄災の王”。本人も否定はしていない。
セイカ達の姿は無く、別に見つかったり捕まったりも無さそうだが、囮と陽動役を請け負ってかなりの大物を引っ掛けてしまったようだ。
ホムラとゼッちゃん。ダークエルフを捕らえた二人は“人類の敵”。唯一見た事の無い存在、“厄災の王”とついに出会った。




