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85ページ目 ダークエルフの拠点

「森の道は結構疲れるな」

「もう少し体力を付けたいですね……身体が重いです……」

「胸の脂肪を取り除けば軽くなるんじゃないかな」

「怒りますよ?」

「ごめんなさい」


 その日、朝食を摂ってすぐの移動でホムラ達は疲れていた。

 ただでさえキツい食後の運動。見る分には綺麗だが険しい森の中を進むのも一苦労。朝食も山菜などなので吐き気などは無いのが救いだろう。


「強いのに体力が無い……変なの」


「魔法と肉体はまた別物だからな。一応これでも鍛えてはいるんだけど、やっぱりエルフより身体能力は低いな。虚無の境地みたいな例外もあるけど」


 そんな険しい森の道をスイスイと進み行くエメラ。

 素の身体能力による差もあるのだろうが、一番の理由は生まれた時から自然と共にある境遇だろう。

 ホムラも貴族にしては自然と触れ合う機会が多かったが、国が自然であるエルフには敵わない。


「軽くしてあげよっか?」

「いや、いいよ。トキ。これくらいでトキの魔法に頼っていたら先が思いやられるからな」

「そう?」


 トキならこの負担を軽く出来るが、いつ戦闘が始まってもおかしくないこの状況。

 ホムラ自身が言うように、これくらいで音を上げる訳にもいかないだろう。


「そもそもホムラならババーって行けるんじゃないの?」


「闇魔法は目立つからな。それに、目的地の検討が付いていても此処はまだ通った事が無い道だ。速い代わりに小回りが利かないし、このまま行った方が魔力も温存出来る」


「そうなんだ。ボクもまだ魔法についてはよく分からないなぁ。ホムラ達から教えて貰って勉強してるけど」


「ゼッちゃんは魔力の総量が圧倒的に俺より多いからな。少なく見積もって十倍以上。上手く使えば大きな成長が期待出来る」


「うん、頑張る!」


 ゼッちゃんと話ながら進む。

 闇魔法を使えば確かに速いが、目立つのが問題。

 ダークエルフの拠点までなるべく魔力は抑えて置きたいところであり、余計な戦闘も避けたい。そしてまだ道が確実じゃないのを踏まえればこのまま自分の足で進んだ方が良いだろう。

 体力は減るが魔力は減らない。魔法使いであるホムラ的にはその方が優先である。


「まだまだ先は長い……。お話はしても良いけど……急いで……」


「オーケー、エメラ」


 エメラに言われ、ペースを上げる。

 森なので空気は美味く、酸素不足になる事も無い。なのである程度のペースで進む事は可能。

 そのままのペースを維持してダークエルフの拠点に向かう。


「ほら、セイカ」

「ありがとうございます。ホムラ様」


 時折崖や坂道もある。そんな崖にてホムラはセイカに手を貸して進み、


「わっ!」

「落ちるぞ。トキ」

「あ、ありがとう。ホムラ!」


 足を滑らせてしまったトキの手を引いて立ち上がらせ、


「ホムラ。これ食べられる?」

「これは昨日エメラが捨てた方の野草だ。食べられないな」

「なーんだ」


 ゼッちゃんの拾い食いを阻止し、


「……足が取られた……」

「いや、冷静に判断している暇があったら逃げ出せよ。パニックになるよりは良いけど」

「ありがとう……」


 食人植物に囚われ、足をツルで縛られたサチを助け出し、


『『『…………』』』

「さっきのと言い、食人植物ゾーンか」

「来るよ……」


 エメラやセイカ達と共に食人植物の群れを刈り取り、


「ご飯!」

「今朝のうちに保存していて良かった」

「はい、果実も見つけたよ。食べられるやつ」

「お、サンキュ。エメラ」


 昼食を摂り、


「ボクもう疲れた~!」

「ほら、ゼッちゃん」

「わーい!」


 歩き疲れたゼッちゃんを背負い、


「疲れました……」

「疲れた~」

「じゃあ私も疲れた」


「全員はいくらなんでも重……。……苦労するだろ」

「アハハ。オブラートに包んでくれましたね」


 同じく疲弊したセイカ達と会話して疲れを誤魔化す。


「ホムラ……皆に慕われているんだね。凄い」

「慕われているって言って良いのかは微妙な所だけどな」


 そして日も暮れて来た頃合い、エメラが今日一日のやり取りを見てホムラに話した。

 確かに傍から見たら慕われているようにも見えるじゃれ合い。実際にセイカ達はホムラを慕っているが、ホムラはそれすらをも謙遜する。

 内心で慕われる事など無いと考えているからこそ出てきた言葉。エメラはその表情から何かを察し、話題を逸らす。


「そろそろ夕飯にする……? お腹が空くと色々大変」


「気を使ってくれたのか。ありがとよ。エメラ」


「そうじゃない。ただ単に事実を話しただけ」


 夕食に話題を逸らし、ホムラの言葉には事実を話したと返す。

 その“事実”は空腹云々。そしてホムラが慕われているという事。遠回しに謙遜する必要なんかないと言ってくれたようだ。

 エルフは心優しき種族。感情を理解する能力にも長けており、適した発言が出来るみたいだ。


「じゃあ、夕食にするか」

「……ん……ごはん……」

「ゼッちゃんは夕飯が出来るまで寝かせておこう」

「ふふ、そうですね。可愛い寝顔です♪」


 ホムラにおんぶされたままのゼッちゃんは眠っており、これだけ見ると普通の子供のよう。

 実際に子供ではあるが、その境遇と生まれ持った力からして“普通”ではない。この様に安心して眠れる場所も無かった筈なので、ゼッちゃんからしたら今のような日々が幸福なのだろう。


「では、今日の分の就寝スペースを作ってきます……」


「ああ、頼んだ。セイカ」


 ゼッちゃんを起こさぬように小声で話、簡易的なベッドを作る。

 安全な葉を敷き、虫なども届かない高さに組み立てる。二日目というのもあって少しは手際が良くなった。


 ──その後、ゼッちゃんを起こした後で夕食。昨日のように体を拭き、就寝。二日目も終わり、ホムラ達はまた一歩前進した。




*****



 ──“ダークエルフの拠点”。


「……あれがダークエルフの拠点か。ちゃんと要塞みたいになってるな」


「そうですね……」


 それから更に一日後。つまり四日目。

 三日目も二日目と同じように過ごし、四日目の夕方にダークエルフの拠点へと辿り着いたのだ。


 そこはホムラが言ったように要塞のような面持ち。

 侵入を拒む天を突くような高い壁があり、拠点の周りには堀がある。そこに水が溜まっているのを考えるに土魔法と水魔法から造られたのだろう。

 暗くなってくる時間帯なのもあって見張りが何人居るのかは見えにくいが、要塞の上を動く影は見える。前情報通り此処から見える見張りの数は少ない。ホムラとゼッちゃんは立ち上がった。


「それじゃ、俺とゼッちゃんは囮と陽動役で向かうか」


「わーい! 殺して良いの~?」


「そうだな……まあ、やむを得ないなら仕方無い。厄災の王が一枚噛んでいるのは明白だから洗脳とかの線も考えて少しは生かしてやろう」


「分かった!」


 一応、なるべく殺さない事は心掛ける。厄災の王によって力を与えられたというダークエルフ。洗脳されている可能性も踏まえ、その様な考えで行動する。

 セイカは心配そうに一言。


「ホムラ様。ゼッちゃん。お気を付けて」


「ああ」

「うん!」


 それだけ返し、二人は木々に姿を隠しながら要塞の近くへ向かう。

 堀を飛び越えるのは簡単。何なら高さ十メートルはある要塞その物を越えるのも何ら苦ではない。

 姿を隠すのを止め、堂々と近くを歩む。


「……! オイ! あれを見ろ!」

「子供が二人?」

「散歩かな?」

「そんな訳ないでしょ!」


 そして、気付かれた。というより気付かせた。

 要塞の上のダークエルフ達は警戒を高めて様子を窺い、ホムラとゼッちゃんはそちらに視線を向ける。


「さて、囮役は割とやっているけど、攻め込む時の方法が難しいな」


「そんなの普通にやっちゃえばいいんだよ! ホムラ!」


「普通に?」

「うん! 普通に!」


「「「…………!?」」」


 次の瞬間、ゼッちゃんは上空から隕石を落とし、ダークエルフ達は驚愕して天を見上げる。

 しかしながらちゃんと言い付けは守り、そんなに大きな隕石ではない。地上からは小さな光の塊に見えるが、刹那に空中で破裂。爆音と共に衝撃が走り、木々と要塞全体を大きく揺らした。


「な、なんだ!?」

「アイツらがやったのか!?」

「て、敵襲! 敵襲!」


 軽い牽制。建物が複数戸粉砕する程度の破壊力。要塞の上に居たダークエルフ達も何人か吹き飛び、辺りに衝撃波の暴風が吹き荒れた。


「敵は二人か!?」

「いや、おそらく他にも何処かに……」


「どうも。侵略に来ました」


「「……!?」」


 情報の伝達はさせない。不意を突くのが第一。ホムラは闇魔法にて要塞の上に現れ、鞭のように闇魔法を放ってダークエルフ達を薙ぎ払う。

 そのやり取りからホムラを不審人物から完全な敵と認識し、レイピアや弓矢を構えた。


「取り敢えず、縦横無尽に暴れ回るんで」

「ふざ──」


 軽口を叩き、闇魔法にて要塞の一角を高所から地上に掛けて破壊。これでセイカ達の道も確保出来た。

 相手からすればただ単に暴れているだけ。陽動の役割も十分に果たせている事だろう。


「ほら、ゼッちゃん」

「うん! そーれ!」


「「「…………!?」」」


 次いでゼッちゃんが辺りを風で吹き飛ばす。

 ダークエルフ達は落ち、ホムラは要塞の中にある建物を見下ろす。同時に闇魔法を大きく展開。この拠点に一足早く夜が来た。


「貴様は何者だ?」

「何の目的で此処に来た?」

「答えろ!」


「言葉より行動で示すよ」

「「「……っ」」」


 瞬間的に展開した闇魔法を周囲に打ち出す。そしてテキトーに建物を粉砕。

 此処には大砲などのような兵器は無い。ダークエルフだとしてもエルフと性質はあまり変わらないからだ。

 主な武器は弓矢とレイピアに魔法。そこまで遠くには届かないので暴れ放題だろう。

 もっとも、届いても暴れ放題なのだが。


「見ての通り、破壊活動だな」

「ふざけるな!」

「ふざけてなどいないさ。俺は人間……最近人間と戦った記憶があるだろ? それの仇討ちと言ったところかな」

「あの五人の仲間か……! 仇討ちという事は死んだのか?」

「いや、生きてる。けど怪我させたからな。代わりに拠点を滅ぼしてやろうかと」

「横暴だな」

「戦争仕掛けたアンタらが言うな」


 闇を広げ、建物を粉砕。破壊。崩壊。堀を土砂で埋め、ダークエルフを縛り上げて放り投げる。

 勢いそのまま放られたら死ぬだろう。なのでまだ残っている水の方に投げる。それでも威力はあるが、ダークエルフの強度なら多分生きている。

 ホムラ達の方は問題無いだろう。


「それでは、私達も行きましょう。ホムラ様方が道を拓いてくれました」


「そうだね。表側の勢力も殆どがホムラ達に集中してるみたい」


 暴れ回るホムラ達を見、セイカ達も行動を開始する。

 あの暴れ方ならこちらに意思を向けられる事も無いだろう。

 ホムラとゼッちゃんの囮・陽動役とセイカ達救出組。六人は各々(おのおの)で動き出した。

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