82ページ目 戦闘と尋問
「可愛がってア・ゲ・ル♪」
(……速いな)
瞬間的に一人がホムラの背後へ回り込み、レイピアのような刃物を振り抜いて斬り付けた。
それは闇魔法が自動的に防御し、そのまま槍のようなカウンター。それを食らわず、飛び退くように距離を置く。
(少なくとも俺の反応速度じゃ間に合わないな。闇魔法の自動防御に助けられた)
ホムラより圧倒的に速い。闇魔法だからこそ防げたが、ホムラ単体では今の一撃によって死。運が良くて四肢欠損だっただろう。
「坊やを可愛がるんじゃなかったの?」
「うるさーい」
「あれが闇魔法。噂でしか聞いた事が無かったけど、かなりの強さみたい」
ダークエルフ達は一定の距離を保っている。間合いを図っているのだろう。
戦闘経験は当然豊富。闇魔法の速度で捉えられるかも危ういところだ。
(流石に“虚無の境地”程の身体能力じゃないけど、手強いな)
ホムラもホムラで冷静に状況を判断する。
身体能力は“虚無の境地”以下。それ以外の今までに戦った者以上。矢の精度や魔法の洗練度合いはまだ不明。しかし相応の力は誇っている事だろう。
「ボク。黙ってないで、お姉さん達とお話ししましょう?」
「……!」
矢が射られ、闇魔法が防いだ。
その上から魔力の気配を感じる。
「人間の子供、実は結構好きなんだよね。何で大人になったらあんなに醜悪になるんだろう?」
「……成る程な」
その瞬間に頭上から大岩が落とされた。
それも闇魔法が防ぎ、ホムラは今の攻撃からその実力を更に細かく分析する。
(知り合いに矢の使い手で名のある存在は居ない。それは保留。魔法も、かなりの力だけど四宝者クラスは無い。上級魔法使い以上、四宝者未満。それに加えてあの身体能力ならメグミさん達がやられるのも不思議じゃないか)
身体能力、弓術、魔法。それらを判断した結果、この三人以外にも同等の実力者が複数人居るのならメグミ達が敗れても不思議じゃないという結論に至った。
単純な魔法だけでなく、それ以外の要因も大きく作用したからこその今の状況という事だろう。
「守ってばかりじゃ、事態は進展しないよ!」
「闇の中の酸素は持つかな?」
「……」
次いで放たれる炎魔法と風魔法の合わせ技。二つの魔法が合わさる事で威力は増大。それくらいなら簡単に防げるが、確かに周りの酸素が急激に減るのが分かった。
闇魔法の現展開範囲は三メートル程。この範囲なら直接的なダメージは無いが、確かに酸素が無くなるのは困る。
人の呼吸にも、人工呼吸などが成立するように微量の酸素は含まれている。しかしそれでは雀の涙。何れ呼吸は苦しくなるだろう。
(魔力を酸素に変換出来れば良いけど、闇魔法も炎魔法もそれは叶わないな。消すのが第一か)
闇で払い、周りの炎を消し去る。同時に闇を嗾け、三人のダークエルフは飛び退くように躱す。それを追尾して縦横無尽に闇が進み、三人を全方位から囲った。
「これは、少しマズイか」
「殺傷力の高い魔力をこんなに展開出来るってズルくない?」
「禁忌にされている理由がよく分かる。まあ、この数百年では噂ですら使える者が現れたって聞いた事無いけど」
突き刺すように闇が降り、ダークエルフ達はその脅威的な身体能力で何とか躱す。
やはり隙間が多い闇の槍ではこんなもんだろう。
「よっと!」
「はあ!」
「フッ……!」
瞬間的にホムラを囲い、レイピアで斬り付ける。それも自動的に防ぐが、カウンターは当たらない。
危険度は理解しているらしく、ヒット&アウェイを重視した連携だ。
(無闇矢鱈には仕掛けて来ない好都合だ)
「さっきから黙りこくっちゃって! 戦闘前の威勢はどこ行ったの?」
「戦いが始まってから成る程なとしか言ってないな。何を考えているんだ?」
「ま、何をした所で意味無いけど!」
三人によるヒット&アウェイの高速連撃。ホムラには反撃の隙を与えずに仕掛け、時折伸ばして貫く闇魔法もスルリと抜けるように躱す。
しかしホムラは闇魔法による鞭を止めず、周りの建物も破壊しながら振り回した。
「あらら、自棄になっちゃった?」
「フッ、可愛い所もあるな。経験不足の人間の子供らしい」
「はあ、本当に可愛い! 顔の痛々しい火傷の痕とかもう最高♡」
「…………」
ダークエルフの言葉には返さず、縦横無尽に闇魔法を振り回す。確かにそれは特に狙いも絞っていない。当たればラッキーくらいの軽い気持ちで放っている。
しかしダークエルフも生き物。高い身体能力を有していようが、何れはスタミナも切れるだろう。
「もしかして、体力切れでも待ってるの?」
「だったら残念だ。私達は今、自動的に回復している状態にある」
「少なくとも二、三日は疲れないよ~」
「……!」
曰く、どういう事か自動的に回復しているらしい。
それではホムラの魔力が切れる方が先。それについてピクリと反応を示し、その隙にダークエルフ三人衆は囲った。
「君可愛いから殺さないであげる♪」
「感謝しろよ。私達が可愛がってやろう」
「人間の子供なら、自分好みに育てれば醜い大人にならないで済むかなぁ?」
「……一つ教えておく」
「「「…………?」」」
ホムラが口を開き、ダークエルフ達は小首を傾げる。その瞬間、辺りが夜になった。
そんなに時間は経過していない筈。三人がその様な疑問を浮かべながら、ホムラは言葉を続けた。
「人間の年齢で15歳の俺はもう成人している。子供じゃない」
「「「…………!?」」」
──刹那、夜が動きダークエルフ達を捕縛した。
一瞬にして周りに夜が纏い、その妖艶な肉体を拘束する。同時に夜が晴れた。
「……成る程な……闇魔法を街全体に広げ、拘束の機会を窺っていたか……!」
「えー? じゃあさ、あの滅茶苦茶な攻撃は全部ブラフ?」
「そうみたい。一本取られたね、これ」
縦横無尽の闇の鞭で気を引き、その間に闇を広げて拘束の機会を窺う。より確実に捕らえる為、三人がホムラを狙った時に実行。
動きが速いので捕らえるのも難しかったが、速さには慣れた。加えてお喋りが好きな三人だったので会話が一瞬途切れた瞬間を狙い、タイミングも合わせられた。
つまりホムラが闇魔法を振り回していた時には決着が付いていたのである。
「第二拠点も取り返したな。手土産引き下げて向かうか」
「うぅ~悔しい~!」
「諦めろ。力を手に入れて高揚したのが敗因だ」
「残念……」
(……力を手に入れて……か)
この戦いにて、色々と情報は得られた。
今は自動的に回復している。力を手に入れて。
つまり、やはり三人は何者かに貰った力という事。考えられる線は当然“厄災の王”。他者を強化する事も可能なようだ。
それについて聞きたいところだが、ダークエルフは口が堅く根性も据わっている。この場では聞くだけ無駄なのでメグミ達が先に向かった拠点に行けば何とかして口を割る事も出来るかもしれない。
ダークエルフ三人衆に勝利したホムラは捕らえた全てのダークエルフを闇魔法にて拘束し、自分自身も闇魔法に乗ってメグミ達の後を追うのだった。
*****
──“第三拠点・現本陣営”。
「皆! 無事か!」
「……やあ、メグミ。帰って来たんだ。良かったよ」
「大丈夫か!? 私で性欲を発散させるか!?」
「遠慮しておこう。相変わらずで安心したよ」
「一緒に居ると安心する……か。フフ、土と水の系統の子供……どんな能力になるだろうな」
「傷は治っても耳は治らないか」
「フウ……! ホムラ達は?」
「大丈夫。ちゃんと来るよ」
バン! と勢いよく扉を開け、メグミ達が第三拠点へと入る。
それについてはカイが返し、スイがフウの近くに駆け寄って二人は手と手を合わせた。
「負傷者は……意外と少ない様ですね……」
「……エルフは回復魔法も得意だから……」
入るや否やセイカとエメラが負傷者の確認をし、負傷者自体は少ないのが分かった。
魔法に長けているので、生きてさえいれば傷が増える事は無いのだろう。
「エメラ……メグミ。彼女達は?」
「セイカ達は人間。唯一の黒髪のメランは魔族。皆力を貸してくれるって」
「魔族……? 大丈夫なの……?」
「うん……大丈夫……」
傷はないが、疲弊はしている。しかしエルフの一人がエメラに訊ね、それについての詳しい説明をする。
「悪い。遅くなった」
「……! ホムラ様! やはり速いですね。流石です!」
「いや、すぐに追い付けなかったんだ。かなりの接戦だった」
会話の最中、闇魔法に乗ったホムラも到着する。
既に闇は消しているがダークエルフ達の拘束はしている。拘束だけなら闇魔法とは簡単に気付かれなさそうなので問題無いだろう。
「取り敢えず捕まえたダークエルフだ」
「ハッ、流石じゃねえかよ。ホムラ」
「リク。久し振りだな。生きてたか」
「たりめーよ。簡単にゃ死なんぜ。俺はよ!」
ホムラを見、此方も傷はないが疲弊はしているリクが来る。
取り敢えず元気ではあるようだ。
「それで、捕らえたダークエルフは数十人。煮るなり焼くなり憂さ晴らしするなり自由だけど、一人は残してくれ。情報を聞き出したい」
「「「…………!」」」
「なんと……あのダークエルフを一人で捕らえたのか!」
「人間……メグミ達で強さは分かっていたけど、私達よりも遥か上の次元に居るのか……」
「エルフより劣っていたのは遥か昔という事ね……」
「俺達が色んな意味で特別なだけだ。収容所とかあるか?」
基本的にエルフや魔族は人間より高い能力を有しているが、人間の場合は“人類の敵”や“四宝者”など上位の存在が特筆している。
平均値は遥かにエルフ、魔族が高いが、そう言った部分で人間には可能性があるのだ。
何はともあれ、カイ達やスイ達は無事なようである。
「取り敢えず、一番知ってそうなのはこの三人だ。此処まで戦ったダークエルフの中じゃ一番強かった」
「くっ、殺せ……!」
「分かった。じゃあ一人は死亡。残りの二人から聞き出そう」
「いや……やっぱりまだ殺さなくていい……」
情報を聞き出すには立場が一番近そうな三人。あの中では一番強かったのでこの中では一番知っているという単純な判断だ。
一人は死のうとしていたがやはりそう簡単には死ねないようで、と言うより死にたくないのだろう。一先ず三人から聞き出す。
「そうだな……メランならこう言った事柄にも慣れているか。来てくれ」
「はい、ホムラ様」
エルフ達には刺激が強く、疲弊しているスイ達に見せる訳にもいかない。
なのでホムラとメランの二人だけでダークエルフ三人を連れて個室へ連れ込む。ホムラはダークエルフ達に訊ねた。
「で、その力の出所は?」
「さあな。ある朝目覚めたら宿っていた……ッ!?」
「冗談は嫌いじゃないけど、今は冗談なんか言ってる場合じゃないだろ? 痛みと回復。それを両立させる事は出来るし、殺さない事も可能……死なない程度に殺す拷問なんか朝飯前だ」
「……っ」
「喧しい声を上げないのは好感が持てるな」
単刀直入に質問をし、テキトーに答えた所で指を切断する。
おふざけは無用。取り敢えず拷問はする。回復はメランの魔術があるので殺さない闇魔法との相性は悪くない。
「嗚呼、魔王様らしい立ち振舞い。流石は時期魔王様」
「拷問しただけでこんなに好感度が上がるのか。まあいいや。一人を徹底的に痛め付けるか全員を嬲るか。そのうち話したくなるだろ」
「ああ……ッ!」
敢えて指の傷口に鋭利な闇を突き刺し、捻るように押し込む。
ダークエルフから鮮血がジワジワと流れ、耐えているがそれでも声を上げられそうになる。その場合は顔面を蹴り抜いて吹き飛ばした。
そのまま頭を踏みつけ、闇魔法で突き刺すように両手足を固定。緩やかに血が流れ、ホムラは訊ねた。
「さて、力の出所を教えてくれ。俺は他人を傷付けるのがあまり好きじゃないんだ」
「……ッ! 誰が……!」
「あ、そう」
「あがァ……!」
頑なに口を割らない。なので今度は腹部に闇を突き刺し、内臓を抉る。ダークエルフは吐血して血が床に飛び散った。
「アンタらはどういう存在だ? 仲間が傷付くのを見過ごせる薄情者か、仲間の為に情報を吐くか。この戦争でどうなるかは分からないけど……そうだな。もう簡単にまとめようか。アンタらが吐けば仲間はなるべく生かしてやる。吐かなければ俺達の全勢力を持ってしてダークエルフを絶滅させる。根絶やしだ。厄災の王がどんな存在かは分からないけど、“人類の敵”が二人。全魔族を相手にしたら流石に生きられる訳も無いからな。……改めて聞こう。どうする? これは交渉じゃない。警告だ。確実にそうさせる」
「「「…………っ」」」
「嗚呼、惚れ惚れする程の交渉力。貴方様の為ならば、魔族も総出でダークエルフを絶滅させましょう」
ホムラの警告にダークエルフ達は口を噤む。このまま黙り込むならとホムラは威圧して縛り上げた。
「二つに一つだ。もうすぐに決める。絶滅か、何人かは生き残るか」
「……っ」
*****
「あ、出てきました。ホムラ様。如何ですか?」
「ああ、案外素直に吐いてくれたよ。“厄災の王”には他者へ力を与える魔法……もしくは魔術が使えるらしい」
「「「…………」」」
どこまでも対等な話し合いの末、ダークエルフ達は本当に素直に、快く情報を吐き出してくれた。
やはり心から話せば分かるのだろうと、無傷で力無く項垂れ、恐怖に歪んだ顔のダークエルフ達の存在が物語る。
ホムラは言葉を続けた。
「本拠地の場所もちゃんと吐いてくれたよ。攻めようと思えば攻められるけど、その辺は他のエルフの皆さんの見解次第だ」
「仲間達も攫われた。攻めるのは賛成だ。しかし、闇雲に突っ込むのは危険。拠点の内部構造も把握しておきたいところ……」
「分かった。それも聞くとしよう。それを終えたら向かう」
拠点は分かった。後は更に詳しい情報を聞いたところで攻め込むとする。
エルフの拠点。事態はあまり良くないが、ホムラ達が居るのですぐにでも進展するだろう。
改め、ホムラ達はエルフの国にて行動を開始するのだった。




