81ページ目 エルフの国
「それで、エルフの国に行くには森を通る必要があるけど、この大人数。“星の裏側”を通って行くか」
「そうですね。一応ローブは着ていますけど、冤罪で指名手配させられたホムラ様。世界的大泥棒のトキさんに四宝者のメグミさん、そして特徴的なエルフのエメラさん。一人でも見つかったら騒ぎになってしまいます」
ガルム達は街の警備の為に留守番。それにしても人数は多い。そして良い意味でも悪い意味でも有名人が多い。
それを踏まえた結果、“星の裏側”を進んだ方が良いだろうという結論に至り、人が居ないのを確認したホムラが“星の裏側”への鍵を使った。同時に空間が飲み込まれ、ホムラ達は“星の裏側”へと行く。
「ほう? “星の裏側”に行く方法を確立させたのか。いや、メランが居るからか。さしずめメランから何かを貰ったと言ったところか」
「鋭いですね。メグミ様。流石は人類の叡知。四宝者の一人」
「フッ、人間よりも上位に立つ魔族に褒められるとはな。悪い気分じゃない」
“星の裏側”についてメグミが言及し、メランは称賛する。それにメグミは小さく笑い、ホムラ達は目的地である森がある場所にやって来た。
「位置的にはこの辺りか。そこから一定の手順を経てエルフの国に入るんだな?」
「はい……」
エメラに訊ね、頷く。
ホムラは鍵を再び使用。広大な森の中に出た。
森の中を見渡し、人や魔物が居ないのを確認。エメラは珍しく詠唱する。
「森の精霊よ。その在処を我に告げ、森の入り口を開け。我は自然の民、エルフ。その道を通り行く。“ロード”」
小太刀を触媒として魔法を放ち、その入り口を開く。
これはエルフにのみ使える魔法。この魔法を使わなければエルフの国には行けないらしい。
だが、厄災の王が入り込んだのを考えればまた別の方法もあるのだろう。
ホムラ達は虚空の入り口を行き、エルフの国に入った。
*****
──“エルフの国”。
「……っ。前より更に酷く……」
「入った瞬間にこれか。割と見慣れた風景ではあるけど、当事者からしたら堪ったモノじゃないな」
エルフの国に入った瞬間、映った光景はもはや恒例とも言える荒廃した街。
切り株からなる建物。木畳の歩廊。自然に生えた街路樹。キノコの家。自然物をフルに使う事で形成された自然の街。その全ては崩壊している。
エルフの死体も転がっており、まだ新しいのか腐敗はしていない。しかしほんのりと小さなキノコや草花が生えており、おそらく死してそのうち自然に還るのだろう。
「私達の街が……」
「よくある事だ……とは割り切れないか。何より争いを避ける為にエルフは外交をしない。ダークエルフとの戦闘が何回かはあったにしても、基本的に平和な筈だからな」
膝を着き、エメラは涙を流す。
見慣れたであろう街が崩壊し、仲間達の死体が転がっている。心優しきエメラだからこそ耐えられる訳もなかった。
「侵入者。一人はエルフ。生き残りか」
「……!」
瞬間、声が聞こえると同時に矢が放たれ、ホムラ達は飛び退いて躱す。
闇魔法による自動防御もあるが、たまには自分で動きたい心境になる事もある。
「アンタがダークエルフか」
「誰だ貴様は? フン、誰でも良い。エルフと共に居るという事は我々の敵という事だからな」
それだけ告げ、ダークエルフは弓矢を引く。ホムラは一瞥し、一言。
「ああ、同感だ」
「……!? ああ……ッ!?」
同時に矢を引く腕を切断した。
エルフに流れる血は鮮やかな薄緑色。ダークエルフもその同族。自然の民らしく美しい血液。切断された腕も女性らしく滑らかである。
瞬間的に闇魔法で拘束。体を縛って叫ばれる前に口を塞ぎ、そのまま高台から叩き付けるように引き摺り下ろした。
「……ッ!」
「他に仲間は……まあ近くに居るか。取り敢えずコイツから色々と情報を聞き出そう」
血塗れのダークエルフを拘束し、崩落した建物に運んで話を聞く体勢に入る。
「それで、何処まで侵略した? あと、ボスについての情報とか、逃げたエルフ達の居場所とか教えてくれ」
「ハッ、教える訳無いだろ。殺すなら殺せ……人間は暴力に全てを訴える……そんな蛮族にする話など──」
「ああ、そう」
「……ッ!?」
そしてダークエルフの首を刎ねた。
後ろではセイカとエメラが口を塞ぎ、一歩引き下がる。ホムラはその目線に立ち、更に話を続けた。
「アンタはまだ生きてる。死ぬ程痛くても死ねないだろ? 俺には頼れる仲間も居るし、治そうと思えば治せる。だからまあ、生首を生かしたまま情報源にも出来るな。抵抗もされないから都合が良い」
「……ッ! 貴様……その力……闇魔法……!? まさか、その力を使う者が……!」
「目の前に居るだろ。てか、激痛だろうによく話せるよ。確かに声帯は残してあるけど。それと、エルフの国にも闇魔法の噂は広がっているんだな」
首を切り落とされた激痛は凄まじい筈。なのに話せる精神力は流石だろう。
しかしこの状況で話さないのを思うと拷問などで口を割るのも大変そうである。
「先に攻撃して来たのは向こうだけど、まだ殺さなくても良いか。テキトーに拘束して話を聞こう。メラン。治療してやれ」
「嗚呼、流石は後の魔王様。その性格、やはり私の見込んだ通り……」
「毎回その反応しなきゃ駄目か? さっさと治してやれ」
「かしこまりました。ホムラ様」
「……ッ……我の首と手が……」
治療し、切断した首と頭を繋げる。
まだ激痛は続くだろうが、闇魔法の切断力はピカイチ。断面が綺麗なので直ぐに馴染むだろう。
「それで、ホムラ様。この街に居るダークエルフは……」
「ざっと十数人。コイツがそうだったように生き残りを探しているな。ちなみに息があって直ぐには死なないエルフも十数人は居る」
「成る程……」
闇魔法を広げて探知したところ、この街の戦闘は既に終わっている。
後は生き残りの捜索。トドメを刺すのか捕虜にするのかはともかく、ホムラは行動を終わらせた。
「で、全員の拘束と救助はたった今終わらせた」
「……!?」
エメラがその言葉に大きく反応を示し、慌てて建物の外に出る。そこには、手足を切断されたダークエルフが拘束されており、生き残りのエルフ達はグルグル巻きの状態で持ち上げられていた。
「ホムラ様……これは……」
「闇魔法で探知。街全体に広げているから拘束は可能。ただそれだけだ」
「……これが……禁忌の闇魔法……」
エメラは元々気弱な性格だが、闇魔法の力を目の当たりにして畏怖にも近い感情を覚える。
しかし状況は好転。少なくともこの街はホムラ達が占拠出来た。
「メグミさん達を追い込んだ割にはそんなに強くなかったな。便利な闇魔法とは言え、前評判通りの実力なら簡単には拘束もされない筈だ」
「余程のしたっぱだったのか、何か秘密があるのか……確かに私が戦った時のような威圧感も無いな」
偵察兵にしても、少し弱すぎる。その違和感は戦った事のあるメグミも感じており、謎は深まるばかりだ。
しかし気を取り直してホムラはメグミとエメラに訊ねた。
「で、だ。此処には多分スイ達が居ない。メグミさん、エメラ。拠点は何処を?」
「この街は第一拠点だった場所だ。一週間前はまだ此処は占領されて無かった。それを踏まえて考えれば、既に第二拠点も突破されているだろう。おそらく第三拠点辺りに避難している筈だ」
「分かりました。そこへの案内を」
「よし、他のエルフの皆さんも良いですね?」
「は、はい……勿論……」
「それしかありませんし……」
スイ達の現在位置にある程度の予想は付いた。メグミが案内をし、ホムラ達と今しがた助けたエルフ達。そして捕らえたダークエルフを連れてそこへ向かう。
「しかし、女性の比率が高いな。エルフもダークエルフも。少なくとも今居るのは全員が女性だ」
「基本的に……産まれてくるのがそうなっているの……比率で言えば2:8くらいで女性の方が多くて……長寿だから子供もあまり作らず、あまり繁殖はしない……」
「へえ。初めてちゃんと話してくれたな。エメラ。少しは信頼してくれたか?」
「うん……仲間を助けてくれた……まだ少し怖いけど……信頼はしてる……」
「そうか」
どうやらエルフとダークエルフは共に女性の方が多く産まれてくるらしい。
そして寿命や必要性の薄さからあまり繁殖もせず、個体自体もそれ程多くないようだ。
そうなると今回の戦争は、エルフ史で類を見ない程の犠牲が出た事だろう。
それとは別に、恐怖を覚えてはいるがホムラを信頼はしてくれているとの事。仲間の救出で評価が少し上がったようだ。
「此処から先が第二拠点……だが、見るからに敵兵の数が多いな」
「その様ですね。まあ、俺達なら何とか出来ますけど……ゼッちゃん、サチ。此処に居る皆を守ってくれるか?」
「ボクが? うん! 守る守る! ホムラがそう言うんだもんね!」
「うん……守る……!」
「じゃ、俺が気を引くんでその隙に先に行ってください」
「分かった」
少し経て第二拠点に着いたが、最近まで戦場だったのもあってよりダークエルフの数は多かった。
まだ何とかなる範囲内だが全員で戦うのはリスクがある。この場をゼッちゃんとサチに任せ、ホムラだけで赴いた方が得策だろう。
それを伝え、二人も了承する。そして避難の指示。同時にホムラは物陰から出て街中を歩いた。
「……? ……あ、侵入者だ!」
「自然に歩いているね……」
「生き残りではないようだが、取り敢えず敵だ」
「我ら以外は全て敵。即刻排除する!」
あまりに自然な歩み。それについて一瞬は気が緩んだダークエルフ達だが即座に囲み、ホムラに向けて有無を言わず矢や魔法を構えた。
(……。このダークエルフ達も特に強そうな雰囲気は無い。攻撃を受けてみるか?)
「はっ!」「はあ!」
「やあ!」「ハァ!」
次の瞬間、矢と魔法が同時に放たれる。その全ては闇魔法で防ぎ、攻撃も確認したので用済みとなる。
「……。やっぱり変だな。全然強くない……いや、これでも国や街に仕える一般兵士よりは強いけど、それだけだ」
「「「……ッ!」」」
襲ってきたダークエルフ達を拘束。やはり強さは感じられない。その騒動を聞き、他のダークエルフ達もこの場に駆け付けた。
その間に隙を見てメグミ達は物陰から駆け抜ける。第一拠点で捕らえたダークエルフ達の口には布を詰めているので声を出す事も出来ず、そのまま行く。ホムラは周りを見た。
「アンタら、そんな強くないのによく拠点を制圧出来たな? 滅茶苦茶運が良かったのか?」
「人間風情が舐めた口を」
「貴様と話す道理は無い」
「ただちに同胞を解放し」
「理由と共に降伏をしろ」
「理由? ああ、此処に来た理由か。定型文みたいな事をよく言うよ。揃い過ぎて逆に気持ち悪いな」
「何を──」
「もうアンタらは終わってる」
「……!?」
瞬間的に闇魔法が伸び、囲んだ全ダークエルフを貫く。急所は外しているが、意識は遠退くだろう。
成す術無くやられたダークエルフ達は倒れ、ホムラはそちらに視線を向けた。
「……それで、アンタらは他のダークエルフと少し違うな。今の刺突を避けた。かなりの実力者みたいだ」
「「「…………」」」
三人の、他のダークエルフとは違う威圧感を放った存在。
雰囲気だけで何かが違うのは分かる。つまり、この者達のような存在が前衛部隊におり、メグミ達を苦しめたのだろう。
それが意味する事は、この三人は最低でも四宝者クラスはあるという事。
「一先ず、アンタらを倒したら第二拠点も占拠完了だ」
「やってみるが良い。私達を相手にな」
「人間の坊や……フフ、楽しめそう……」
「人間はよくエルフを奴隷にするし……貴方を奴隷にするのも良いかも!」
妖艶な三人。うち二人はホムラの体に興味を持っていた。
性行為などをあまりしないらしいが、それはそれとして個人的な興味もあるのだろう。この三人は美形のエルフらしく整った顔立ち。中には喜んで受ける存在も居るかもしれない。
何にせよ、メグミ達程の実力者が追い込まれた存在。秘密に少し近付けそうである。




