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79ページ目 治療

 ──“屋敷”。


「それで、また戦争に参加する事になりそうだ。けど、今回は今まで以上に危険が多い。だからゼッちゃん達は──」


「やるやる! ボクも参加する! だって最近暇だもん!」

「ゼッちゃんが行くなら私も当然お供します」


「私はホムラ様の力をじっくりと観察したいところ。喜んで参加致します。魔族総出で迎えるのもアリかと」


「私も……戦いは苦手じゃないから……」


 ホムラ達は一旦屋敷に戻り、ゼッちゃん達に概要を説明。本人達の意思に委ねるつもりだったが、これまた想像通り。全員が嬉々として参加した。


「おお、これがホムラの新たな仲間達か! 全員が美形! 順調にハーレムを築き上げているようだな!」


「そうじゃないですよ。メグミさん。俺にはセイカが居ますし」


「ハッハッハ! 愉悦を味わえる者が多いに越した事は無いだろう! しかも、全員が全員、性格も見た目もバラバラ! 楽しめると思うぞ! 流石に幼い子供は避けた方が良いかもしれないがな!」


「はぁ……」

「ホムラ……彼女達は……?」


 そして、ボロボロだった筈のメグミは数時間ですっかり元気になり、ゼッちゃん達を見てまた俗な事を話していた。

 ホムラにそのつもりはないのだが、快楽を第一とするメグミの習性みたいなものなのだろう。

 そんなメグミと無言のエルフを見、サチが訊ねる。ホムラは返した。


「四宝者、アキツチ・メグミさん。それでもう一人がエルフ。名前はまだ聞いていないし、人が苦手だから話を聞くのは難しいな」


 一応の紹介。メグミはともかく、エルフは人見知り。

 そんなエルフにサチが話し掛ける。


「エルフ……自然の民……」

「ぁ……貴女は……」

「私はアマミ・サチ。“人類の敵”の一人」

「そうなんだ……ぇ……“人類の敵”の? けど……悪意は感じない……」

「何となくそう呼ばれてるだけだから……」

「そうなんだ……」

「うん……」


「「「…………」」」


 そして、終始無言だったエルフは、流暢じゃないにせよサチとは普通に会話をしていた。

 しかしながらか細い消え入りそうな声。ペースが取られ、ホムラ達は牴牾もどかしさを感じながら悶える。

 そこに、メグミがハッとして叫んだ。


「ちょっと待て!? 今しれっと“人類の敵”と言ったか!? ……ほ、本当に大丈夫なのか!? “人類の敵”のなんだ!?」


「“最凶最悪”ってよく言われる……けどあまり好きな呼び方じゃない……」


「…………う、うむ。警戒する必要は無さそうだな……何となく」


 最初は警戒を高めたが、数言話しただけで戦意が削がれた。

 実際その凶暴そうな名の割には物静かなサチ。初見で“人類の敵”と見抜ける者は居ないだろう。あのメグミがツッコミに回らざるを得ない事態は見物だが、そんな悠長な事は話していられない。


「早速だけど、君からも何かしらの情報を提供してくれないか? 俺達なら力になれると思う」


「……っ。私からは……特に……」

「無さそうか」


 ホムラに言われ、モジモジと俯くエルフ。本当に人見知り、というよりはヒトが信用出来ないのだろう。

 そもそも“人類の敵”もヒト。ヒトにして人類の敵を謳われる存在に襲撃されたのならこの反応も当然だ。

 そんなエルフの肩をポンと叩き、メグミは話した。


「彼らは大丈夫だ。私が保証する」

「メグミ……」

「だから、取り敢えず親交を深めるとしようか」

「うん……」


 メグミとはそうでもない。助けてくれた第一人者なので信用しているのだろう。

 その言葉に頷き、よしっとメグミは立ち上がった。


「まずは自己紹介だな。既に何度か名が上がっているが、私はアキツチ・メグミだ。流石に真名は教えられないぞ? 真名を知られたらそれなりの問題が起こるからな」


「私は……エメラ。真名とか仮名は無い」


「そうですか。エメラ様。私はメラン。魔族であり、私にもその様な概念はありませんよ」


「ボクはゼッちゃんって呼んで!」

「私は執事です。後にも先にも執事。ザ・執事という存在なので悪しからず」


「私はさっき言ったようにアマミ・サチ。よろしく」


 メグミ、エメラ。そしてメラン、ゼッちゃん、サチと順に自己紹介をする。

 何よりも名を知る事は重要。魔族やエルフには真名の概念が無いのだが、人間と違って悪用される事も無いのだろう。

 そこに、メグミが反応を示す。


「……待て、メラン。今、君は魔族と言ったか!? 魔族ってあの魔族か!?」

「はい。私は歴とした魔族です」

「まさか魔族が……しかし伝承とは違うな」

「伝承は人間が勝手に作ったものなので」

「そ、そうか。いや、“最凶最悪”がサチと考えれば……確かにそうなのかもな」


 魔族という存在。それも“人類の敵”と同じように人間界では負の象徴。しかしメランにその様な所は見受けられず、一先ず納得した。

 これでホムラ達も知らなかったエルフの名を知れた。メグミは気を取り直す。


「それでは本題に戻そう。取り敢えず情報は私が言った事がほとんどだ。知らないゼッちゃん達は後でホムラ達に聞くと良い。問題はエルフの国の場所……基本的に人間には隠しているんだが……教えても良いか? エメラ」


「うん……力になってくれるなら構わない。場所を隠して国が滅びたら元も子も無いから……」


「そうか。なら、この地図を見てくれ」


「今胸から取り出した……? だって薄着だし、隠す所無いよね……」


 メグミは自分の胸元に手を入れ、一枚の紙を取り出す。

 トキはそれについて複雑そうに呟き、広げた地図をホムラ達は覗き込む。


「フフ、そのまま私の胸元を覗いても良いぞ。薄着だからな。見ようとすれば乳首も見える」


「冗談は良いんで話を進めてください。急いでいるんでしょ、メグミさん」


「やれやれ……相変わらずだな、ホムラ。まあいい。さて、それでエルフの国の場所は……」


 地図をなぞり、事細かくホムラ達にエルフの国の場所を説明する。

 ただ歩くだけでは行けない場所。ある程度の手順は必要であり、まるで迷路のような森を行く必要があるようだ。


「複雑ですね。これなら容姿端麗のエルフが奴隷市場に滅多に並ばない理由が分かる」


「……っ!?」


「おっと、大丈夫だ。俺は奴隷市場になんか行かない。まあ、正義なんかでもないから助ける事もしないけど」


「…………」


 エルフの国へはかなり複雑。故に囚われるエルフが少なく、奴隷市場にも並ばない。たまに並んでしまうのは本当に不幸な存在なのだろう。

 それはともかく、場所は分かった。メグミとエメラが此処に来るまで一週間掛かったように、結構距離もあるようだ。


「今は昼時。メグミさんは元気そうに振る舞っているけど、まだ行けないな」


「……! な、何を言っているんだホムラ。ハッハッハ! 見ての通り私は……」


「はい」

「……ッ! 痛ゥッ……!」

「何ですか?」

「……! ……じ、陣痛がだな……」

「妊娠も出産もしてないでしょう」


 強がるメグミの脇腹に軽く触れ、少し押す。メグミは顔を赤くしてしゃがみ込み、涙目ながら堪えていた。

 肉体的ダメージは相応。回復魔法を定期的に掛ければ数日で完治出来るだろうが、少なくとも今はまだそうはいかないようだ。


「この様子では数日は安静にした方が……」


「いや、それは駄目だ。私達が参加していた時から防戦一方だったのだからな……そこから更に一週間が経過した……明日には発つ。例えそれが理由で君達が協力せずともな……!」


「……協力はしますよ。一回約束したんですから。しかし明日には……ですか」


 メグミの覚悟は本物。それを無下に出来るホムラでもなく、どうするか悩んでいた。

 そこへメランが挙手して提案する。


「それでは、私の回復魔術を使いましょうか? 人々の使う魔法は基本的に魔族の模倣。しかも古来魔族の。現代でより洗練された魔術ならば治療効果は大きい筈です」


「そ、そうなのか?」


 それは、人間よりも強い力を有する魔族の魔術を使ってみるのはどうかという事。

 魔族は全てのエレメント。及び派生の魔術を扱える。だからこそメランも回復術を使えるのだ。

 メグミが訊ね、メランはエメラの方を見、頷いて返す。


「ええ。そうですね。魔族とはまた別方向に進化した魔法を扱えるエルフ族。そのエメラ様が居るのならより完璧になります」


「私……?」


 魔族の魔術とエルフの魔法。それを組み合わせれば完璧な力に近付く。

 エメラも困惑しているが、コクリと確かに頷いた。


「うん……国の為……みんなの為にやります……!」

「かしこまりました。では、まずはエメラ様をお治し致しましょう。“ヒール”」

「……! 凄い……触媒の道具も無くて掌で触れただけで見る見るうちに……」

「魔族は、というより魔術には道具を使いません。己の身一つで行えます。道具を使わずに不思議な力を扱えるのは魔族と考えて良いですよ」


「え? じゃあもしかして私も魔族の可能性が……」

「フフ、かもしれませんね。トキ様」


 掌で触れ、傷が癒える。

 それは魔族だからこその所業。エメラの傷は治り、次いでメグミの衣服を脱がした。


「なんでメグミは脱がすの?」

「フフ、それは私の体が魅力的だか……」

「おそらくメグミ様は貴女よりも遥かに重傷ですので。ホムラ様が脇腹に触れただけであの反応……呼吸するのも辛い状況にあるでしょう」

「…………っ」


 余裕の面持ちで衣服を脱いでいたメグミも黙り込む。

 実際、本当に傷が深いのだろう。考えてみれば応急処置だとしても回復魔法を与え、数時間経過したた後であれ程までに痛がるのは変な話である。

 そんなメグミの裸体を見、周りの者達は絶句する。


「酷い傷……」

「なんでこれで生きていられるの……」

「メグミさん……」

「俺が触れるべきじゃなかったか。下手したらあの時点で死んでいた」


 その傷は凄まじく、生きているのが不思議な程。

 半身を覆う大火傷に凍傷。脇腹は不自然に潰れており、そこから更に何かで貫かれた穴がある。腹部や大きな胸には無数の切り傷が深く刻まれ、全身が矢で射抜かれたような痕もあった。

 見た限り、この傷はダークエルフの魔法から仲間達を庇った際に出来た物。メグミが頑丈な土の系統でなければ死していた程の重傷である。

 その傷を見られ、メグミは赤面して両手で顔を覆い隠す。


「み、見ないでくれ……な、なんだこの羞恥心は……!? 裸体を見せるのは一向に構わないつもりだったが……な、何か恥ずかしい……や、やめて……見ないで……」


「何かメグミさん、女の子らしくなりました?」

「セイカ。悪意が無くてもメグミさんに失礼だ。その言い方」

「はっ、つい。すみませんでした!」


 赤面と涙目で訴え掛け、両手で顔を覆う。

 確かにメグミにしては新鮮な状態。セイカがそう思う気持ちも分かるが、一応ホムラは注意してセイカは謝罪する。

 そのやり取りの中、メランがその体へ触れる。


「……ッ」

「暫しの我慢を。迅速に治療しなければ死にます」

「……あ、ああ……その……痛くしないでくれ……初めてなんだ……これ程の傷……」

「保証は出来ません。おそらく何度か意識を失うでしょう」

「うっ……わ、分かった。ならば私も四宝者として耐えて見せよう……!」

「しかと聞き入れました。メグミ様。──“ラージェスト・ヒール”!」

「……ッ! ああ……ッ!?」


 回復魔術の上位種を使い、その傷を癒す。

 しかし急速な回復には相応の痛みが伴う。痛みも何もなく深い傷を癒すなど魔法・魔術学的に有り得ないのだから当然だ。

 そんな、メグミの治療をしながらメランはエメラへ目配せをした。

 エメラは理解し、小太刀を構えて魔力を込める。


「はぁ……!」

「……ッ! ……っ」


 痛みを和らげる魔法を使い、治療の際の苦痛を抑えた。

 詠唱はしていない。魔法の名も言っていない。それでも確かな効果を確立させるのがエルフの特徴。詠唱すれば更に効果を上乗せさせる事も出来るが、今はその暇が無いのでなるべく早く実行したのである。

 もっとも、詠唱による最大値と最小値があまり変わらないので人間程詠唱の必要がある訳ではないのだが。


「微力ながら私も手伝います! “ホットヒール”!」

「わ、私も……! “ヒーリング”!」


 セイカとフウも加勢し、代謝を上げてメグミの肉体を活性化させる。痛みはフウの回復魔法で更に抑えた。


「面白そう! ボクもやるー! えーと、“ラージェスト・ヒール”」


「……!」


 そしてゼッちゃんはメランの回復魔術を模倣し、更なる治癒力をメグミに与える。サチもサチで動き出した。


「じゃあ私は……」

「……! あれ? 痛みが引いていく……」

「うん。“痛み”を無効化した……後で敵に返しておく……」

「す、凄いな……これが“最凶最悪”の力……伝承とは真逆だ。しかもゼッちゃんとやらは上級の回復魔術を使えるのか……」

「えへへ~物真似したんだ~!」

「も、物真似……?」

「うん! ボクって相手の力を物真似出来るの!」

「なんだそれは……チートか……」

「ちーとって?」

「ズルい事ですよ。ゼッちゃん」

「えー、ボク別に卑怯な事してないよ。セイカぁ」

「アハハ……私に言われましても……」

「フッ、すまないな。凄いって事だゼッちゃんとやら」

「ボクって凄い? わーい!」


 ゼッちゃんの模倣コピーによるメランの回復魔術の物真似。サチの無効化キャンセルによる痛みの無効化。

 それが加わり、メグミからは苦痛が完全に抜け、その傷が完治した。

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