78ページ目 突然の事態
「いやぁ~、凄いな。絶望の象徴が攻めてきてから一ヶ月。それで此処まで立ち直るとは」
「それもこれも、ホムラさん達が居てくれたお陰だな!」
翌日、街の方では変わらず復興作業が続いており、一ヶ月とは思えない程に整備されていた。
残りの建物も数件。負傷者も治癒魔法によって完治する者も多くなり、更に作業が進む。
その様に街の住民が話している時、街の入り口が少し騒がしくなっていた。
「ん? どした?」
「いやぁ、何だかよォ。ボロボロの怪我人が街の入り口に来たらしくてな」
「は? そんなの直ぐに治療してやるべきだろ。何を困ってるんだ?」
「それがよォ。その怪我人──」
*****
──“屋敷”。
街の復興が進む中、ホムラ達は朝食を摂っていた。
献立はパンに野菜の飲み物。朝なので軽い物である。
「あーん……モグモグ……味しない」
「ゼッちゃん。貴女が食べているのは。木ベラですよ」
「あ、うっかりしてた。朝は眠いからねぇ~」
「質感や形。色。眠気眼には確かにパンと間違えてもおかしくありませんね」
「それでも普通間違えないような……」
「うん……そうだよね……」
「サチさん。今隠したのは……」
「何でもない」
朝食の時間はのんびりとしたもの。
ゼッちゃんやサチは天然なので素でやらかしたり執事が補足したりセイカがツッコミを入れたりと賑やかだが、かなり平穏である。
「ホムラ様!? 居りますかァ!?」
「……!」
──その平穏は終わりを告げた。
またいつもの配達人。配達人がまた何かしらの情報を持っていたのだろう。
もう配達人ではなく情報屋などのような別の役職に付けば良いかもしれないと思うが、そう言う訳にもいかないだろう。
一先ずホムラは配達人を屋敷に招き入れた。
「それで、何だ?」
「は、はい! 実はたった今街の方に怪我人が……!」
「怪我人? わざわざ俺に報告して街の方で対処しないって事は……結構な人物って訳か」
「は、はい!」
ホムラに報告する程の怪我人。それが意味する事は世界的な重要人物か外交問題に発展するような存在。
そして何より世界的な大犯罪者であるホムラを呼んでも良いという事は、ホムラの知り合いである可能性がかなり高い。
「すぐ案内してくれ」
「私も行くよ!」
「は、はい! 此方です!」
ホムラの知り合いである以上、十中八九フウも知っている。なのでホムラに続いてフウが名乗り出、配達人はホムラとフウを街の方に案内する。
「私達も行きましょう。もしかしたらメグミ様方の誰かかもしれません!」
「メグミさんなら怪我とか無さそうだけど、ホムラの知り合いなら私も会っている筈だもんね。セイカの考えに乗るよ!」
ホムラとフウに続き、可能性の中の人物に時点で親しいセイカとトキも向かう。
そのやり取りを見るゼッちゃん、執事、メラン、サチの四人は困惑していた。
「ボク達はどうする?」
「フム……私達の知る者達では無いと思いますが、セイカ様とトキ様の仰ったメグミという方……奇しくも“四宝者”の一人と同じ名ですね」
「“四宝者”なら私も知っておりますよ。“星の裏側”にも人間の中でも上位の魔法使いが居ると届いていますから」
「“四宝者”……私も聞いた事はある。強い人達!」
ホムラ達に付いて行くべきか悩むゼッちゃん。
そう、悩んでいるのはゼッちゃんだけ。
立場的に行く必要が無いと理解している執事とメラン。そもそもホムラやゼッちゃん、仲間達以外には微塵も興味の無いサチ。行く必要は無く、当のゼッちゃんもホムラと一緒に居たいだけで怪我人の心配自体はしていないのだ。
「それではゼッちゃん。私奴から一つ提案を」
「うん、良いよ!」
「私達は待機していた方が良いと思います」
「なんでー?」
一つの提案。執事は軽く咳払いし、説明した。
「まず、重大な事ならばホムラ様方が確認を終えた後に教えてくれる筈。その場で終わる事ならそれはそれで良し。何があったのか教えてくださるでしょう。つまり、行ったとしても行かなかったとしても結果は変わらないのです。むしろゼッちゃんや私、メランさんにサチ様と紹介する手間になる。話も進まなくなってしまいます。そのうち紹介する必要があったとしても、それは今でなくて良いでしょう」
「なるほどねー。うん、君が言うなら分かった!」
諸々の観点からまとめ、詳しく説明した。それに粗は無く、ゼッちゃんも納得したようだ。
隣ではメランがうんうんと頷いており、サチは無関心のまま朝のミルクを飲んでいた。
ホムラ達は怪我人の元に向かい、ゼッちゃん達は待機する事にした。
*****
「あ、ホムラ様!」
「ホムラさん!」
「こちらです!」
ホムラ達が現場に駆け付け、住民達の案内の元、怪我人が寝ている療養施設に入った。
殆ど直ったとは言えまだ復興中なので完全じゃないがそこそこの設備は整っていた。
そんな場所に居た人物。
「……! メグミさん」
「ふ、ふふ……久し振りだな……ホムラ……それとフウ……セイカにト……いや、名は呼ばない方が良いか」
「まさか本当にメグミさんが……怪我する姿なんて想像出来なかったよ……」
「フフ……君も大分馴染んだようだな。何よりだ。胸は成長していないが」
「余計なお世話!」
「そんな事より今は治療です! メグミさん!」
「私もお手伝いします!」
そこに居たのは、予想通りホムラの知り合い。だが、メグミであるとは思えなかった。トキは信じられないという表情をしており、フウとセイカが迅速に治療する。
メグミが居たのは予想外だが、まだ予想外の事はある。そこに居るのはメグミだけではなかったのだ。
だからこそセイカとフウ。この二人が治療に移ったのである。
「メグミさん……その方は……」
「うっ……」
そこに居た、メグミ以外の人物。性別は女性。金髪のロングヘアーであり、全体的に緑色の装いをしている。横に置いてある彼女の武器は弓矢と小太刀。
だが、それよりも気になる特徴。人類には無い尖った耳。その特徴はまるで──
「……エルフ……ですか……?」
「ああ、そうだ」
──エルフ。
自然を愛し、自然に愛される民。様々な魔法や弓術に長けており、知能も高い。
その存在が世界の何処かに居るのは知っていたが、まさかこんな所でお目に掛かれるとは思っていなかった。
周りはその言葉にざわめきが走り、セイカとメグミの会話を聞いたホムラは訊ねる。
「エルフ。大怪我を負ったメグミさんとエルフですか。一体何が?」
「ああ、話すと少し長くなる」
「あ、起き上がらない方が良いですよ。メグミさん」
「大丈夫だ。回復魔法が効いた。もう痛くない」
「そんなの嘘です……」
「俺達は邪魔になるかもな」
「ああ、四宝者様がこんな事になるんだ。今回の件では何も出来ない俺達は街の復興に専念するか」
ホムラの質問に答えようと起き上がり、フウが止めに入る。メグミはそれを片手で制し、街の住民達は気を使ってその場から離れた。
自分達以外に誰も居なくなり、メグミは説明を行う。
「私達が“虚無の境地”を追っていたのは知ってるな?」
「はい……そう言えばスイ達は……」
「それも踏まえての説明だ。多分私達に関する疑問点はすぐに解消される。質問は全部終わってからで良いか?」
「は、はい」
予め質問される事を考え、それについての補足を加えながら話した。
フウは頷いて返し、ホムラ、セイカ、トキの三人も静聴する。
「まず始めに、君達と別れた直後の事だ。私達は国から呼び出されて戦地に赴いた。参加したのは私とカイ、ソラの四宝者だけだがな。それが終わった頃合いでまた別の戦争が始まり、それがホムラによって止まった。一つだけじゃなく複数の戦地を掛け持ちしていた私達はホムラのお陰で自由が増えてな。改めて“虚無の境地”の捜索に専念する事にしたんだ」
まずは、ホムラが戦争を止めた時にまで遡る。その時メグミはホムラとは別の戦場に居たらしく、戦争中止の報告と共に動き出したようだ。
ホムラ達と別れた後に一つ。そこから更に複数の戦地を巡ったらしい。四宝者も大変な職である。
メグミは更に続ける。
「それで“人類の敵”に関する情報を掴み、私達は五人でそこに向かったんだ。──“エルフの国”にな」
「“エルフの国”……」
「ああ。それでこのエルフと出会った」
言葉の反復は質問ではない。なので頷き、隣で傷が少し癒え、寝息を立てられるようになったエルフに視線を向ける。
そこから更に続けた。
「基本的にエルフは他種族とは相容れない存在。凶暴な魔物から、同じく凶悪な人類の前にも現れない」
「それが現れた。つまりそれに関する事柄が今回の話の肝という事ですか。考えられる線で言えば争い」
「フッ、そうだな。質問は後にして欲しいが、話をよりスムーズに進める為の言葉はありがたい。その争いに巻き込まれ、既に彼女は傷だらけだったんだ。だから私達にも簡単に見つけられた」
出会ったエルフは傷だらけ。ホムラと同じように争いがあったと考えたメグミは彼女に色々と事情を聞いたらしい。
人と関わらないエルフも、危機的状況で頼れる存在が居れば頼りたくなる。実際それが頼りになるメグミ達だったのもあり、その時点では事態の収束に向かったのかもしれない。
「なら、より話をスムーズにしましょうか。この際、エルフ達との馴れ初めなどのような経緯は全て端折り、根源だけを教えてください」
「そうだな。私もそうしようと思っていた。色々と楽しい思い出話もあるが、だからこそ先を急いでいる」
此処まで分かればある程度の推測は出来る。故にホムラが中心部分の話を提案し、早くエルフ達を助けに行きたいメグミもそれに乗った。
「“虚無の境地”とは違う、別の“人類の敵”がエルフの中の悪因子……ダークエルフに加担して戦っていたんだ。お陰でこの有り様だな」
「……!」
“人類の敵”。その一つがエルフと抗争を行い、メグミ達が敗れたとの事。
確かにメグミは、“虚無の境地”ではなく“人類の敵”の情報を掴んだと言っていた。そこに何も違いはない。
「防戦一方。私達は独断の行動だから援軍も無し。そもそもエルフは人間には関わらない。私と彼女は何とか戦場を離れ、助けを求める為にホムラ達の居る此処に来たんだ。カイ、ソラ、スイ、リクの四人は主力。私が“エルフの国”から離れて一週間程だが、おそらくまだ防衛戦を行っているだろう。彼らが簡単にやられる訳が無いからな」
「成る程……それでボロボロだったという訳ですか」
「ああ、情けないだろう? 私はその時点で一番動けた。一番動けたからこそ助けを呼びに行かなければならなかったのだからな」
フッと自虐的に笑う。
基本的に前向きなメグミが此処まで追い詰められているとなると余程堪えたようだ。
改めてホムラ達を見、メグミは頭を下げた。
「恥を忍んで頼む。ホムラ。手を貸してくれ。私が君を守らなければならないというのに、本当に情けないが──」
「情けなくなんかありませんよ。俺で良ければ手を貸します。あの時、虚無の境地が攻めて来た時にメグミさん達が俺達を守ってくれたから今の俺達が居るんですから。ようやくその恩を返せるのが嬉しいです」
「……っ。すまない」
ホムラからしても、メグミ達には恩がある。
虚無の境地の時のみならずこの街に潜伏している事を隠蔽してくれたり、見えないところでの恩は多い。断る理由が無かった。
ホムラはセイカ達の方を見、
「て事で今回の因縁は俺。辛うじてフウだけ。セイカ達は」
「勿論参加します!」
「毎回毎回、私達を危険から遠ざけようったってそうはいかないからね!」
「私も辛うじてじゃなくて、滅茶苦茶根源に関わっているよホムラ!」
危険が多いのは明白。なので遠ざけようとするが、一瞬で見抜かれてしまった。
これでは無理にでも付いてくるだろう。
「……。メグミさん。取り敢えず俺達は協力します。他にも仲間が増えたので、きっと力になりますよ」
「おお……! すまない! 本当にありがとう。ホムラ! 恩に着る!」
「大袈裟ですって。恩があるのは俺達の方なんですから」
そんなこんなで、ホムラ達は断らずメグミと共にエルフの国へ行く事にした。
一緒に居るエルフの女性からも聞ける情報はある筈。二人の回復力も高い。遅くても明日には発つ事が出来るだろう。
ホムラ達はまた別の戦争へ参加する事になった。




