77ページ目 少女の能力
──“竜の城”。
「意外にも城は普通だな。大きく壊れたりもしていない。所々に風化の痕跡は見えるけど、今の技術力ならすぐに修復して人が住む事も可能だ」
「そうだね」
山道を抜け、悪竜の巣となっているであろう城についたホムラは周りを見やり、この状態ならそのまま人がすぐ住めるようになると考えていた。
建造法は薄茶色の大きな石が大部分。それを粘土で固めただけ。レンガのように小さくも頑丈な物が無かった時代の建造物である事が窺えられた。
しかし風化はしておらず、自然に近い石だからこそそのままの形で残っているとも取れる。
「此処が門か」
「うん」
少し進み、門らしき場所も発見。
石を積み重ねたアーチ状の建物が迎え、左右の高い建造物から見張りなどをしていたのも分かる。
律儀に門から入る必要は無いが、何となく気分的に門から入りたくなるのが心情。門を抜けて石畳の道を行き、池があったであろう広場に着く。池には雨水などが溜まっているが苔むしており、濁っていた。
今のところ悪竜どころか他の動物の気配も無し。……いや、悪竜が居るのが事実だからこそ他の動物。鳥ですら近付かないのだろう。
「さて、基本的な形は残っているから、なるべく破壊せずに置きたいな。悪竜を討伐した後、この城が売れたらその分け前もくれるらしい」
「へえ、太っ腹だね」
「だな。悪竜をどうこうする実力がある者に嘘は吐かないだろうし、信憑性は高い」
池のある広場から石畳の道を抜けて城の中に入る。周りに木々などはないが、世話する人も居ないので枯れたのだろう。
必要最低限の土壌だけで雨水からは十分な栄養も無い。世話係が居なければ確かに枯れると理解出来る。
「渡り廊下。流石に汚れているな。所々に見える布切れはレッドカーペットの切れ端。転がっている風化した人骨は悪竜の食事の形跡か」
「何かカビ臭い」
「空気も悪いな。窓なんか無いから外の空気はそのまま入ってくるけど、それでもあまり良い物じゃない」
城の中に広がる渡り廊下を行き、階段を登って一つ高い場所へ。そこから周りの状況を把握。何かヒントになる物があるかもしれないと考えたが、特にそう言った物は無さそうだ。
布切れと苔むした人骨くらいしか無く、悪竜の生態がちょっと分かっただけである。
「ホムラ。ドラゴンを探せないの?」
「そうだな。俺達の存在が見つかる可能性は高いけど、元々それが目的。やってみるか」
サチに言われ、ホムラは闇魔法を広範囲に展開。城全体を覆い尽くす程の闇が広がり、数キロにも及ぶ城の敷地全てを探知。そこから悪竜の居場所を特定する。
「……居た。城の地図と悪竜の居場所を照らし合わせると宝物庫があった辺りだな」
「ドラゴンも宝が好きなの?」
「キラキラ光る物を集める習性がある動物も居るからな。悪竜がそうであっても不思議じゃない」
「そうなんだ」
居場所は特定する。そこは旧宝物庫。
感覚的にまだ宝も残っており、悪竜はそれを守っているのかもしれない。
そう思った矢先、ホムラはピクリと反応を示した。
「気付かれたな。避けろ。サチ」
「え?」
「一先ずしゃがんどけ」
「わっ」
気付かれた。それと同時に轟炎がどこからともなく噴き出し、ホムラはサチに飛び付いて屈ませる。闇魔法を戻し、その力によって炎を打ち消した。
「気付かれたって……ドラゴンに?」
「ああ。魔物の中には闇魔法の気配が分かる存在も居る。人間ですら視認は出来るからな。結構慎重に這わせていたけど、思ったよりやるみたいだ。悪竜は」
闇魔法の気配を感知する魔物。その生態からして別に不思議ではない。寧ろ力のある魔物は魔力の気配にすら気付けるだろう。
だからこそ、ホムラ達を仕留めていないのも分かった筈だ。
「それと、気付かれたなら多分俺達の方にやって来る。大切にしている宝物庫で暴れたくは無いだろうからな」
「階段を使って?」
「いや、多分直接来るな。竜種は飛べるし、その鱗が鋼鉄以上の強度を誇っている。石の建造物なんか簡単に砕けるさ」
「じゃあどうするの?」
「そうだな……広場で迎え撃つとするか」
「あ……」
サチの手を引き、横の壁を闇魔法で粉砕。同時に飛び降り、先程の濁った池がある広場に来た。
降り立った瞬間に地面が揺れ、巨大な何かが姿を現すと同時に瓦礫が巻き上がる。
その巨大な影を見、ホムラは呟く。
「城の修繕費が嵩みそうだな。それに、城の値打ちが下がる」
「大変そう」
「実際大変だ。此処の修繕にまで割り当てる金銭は持ち合わせていないからな。分け前が減っちまう」
『グギャアアアァァァァッッ!』
現れた者、予想通り悪竜。
元々頑丈な竜の中でもより高い強度を誇る黒竜であり、その鋭い双眸がホムラとサチを確かに視界に入れていた。
存在は認識されている。敵意がないなら此処から話し合いと行きたいが、
『ボギャア!』
「ま、そうなるよな」
──駄目そうである。
有無を言わず言わさず火炎を吐き付け、ホムラとサチを正面から狙う。それは闇魔法が飲み込んで防ぎ、ホムラはようやく臨戦態勢に入った。
「そう言や、サチの強さってよく分からないな。何が出来るんだ?」
「見せた方が早い。ホムラ。次の攻撃は防がないで」
「OK、分かった」
サチが仲間になってから一ヶ月。戦闘が必要なクエストは無く、その実力は分からないまま。
傭兵のような役割を担っていた事から確かな実力があるのも分かるが、目の当たりにしないと何とも言えない。
なので本人の言うように、悪竜の攻撃を防がないように決めた。
『ギャア!』
「そこそこ知能はあるみたいだな」
「…………」
火炎は先程ホムラが防いだ。それを学習したのか、次いで悪竜はその巨体と頑丈な肉体をフル活用した体当たりで仕掛ける。
速度は当然ながら馬より圧倒的に速い。威力も相応だろう。ソニックブームを纏っている事から最低で音速以上だ。
サチは片手を出し、悪竜に構えた。
「…………」
『ァ……!?』
「……!」
そして、悪竜の身体を停止させた。
悪竜自身も何が起こったか分からない様子であり、サチは片手を弾く。
「えい」
『……ッ!?』
──瞬間、弾き飛ばされたように先程の速度そのままで城壁へと激突した。
その衝撃で城が崩れて瓦礫が落ちる。まだ何が起こったか分からずに困惑する悪竜は再び口に火炎を込め、それを一気に放出した。
「それ」
『……!?』
そして手を薙ぎ払い、火炎を消滅させた。
悪竜は更に困惑し、サチはじっとそこを見つめる。
「こうかな?」
『ギャアア!?』
その瞬間、先程の炎によって悪竜が炎上した。
悶え苦しむように落下し、サチは一歩近付く。
「そしてこう」
『……ッ!?』
同時に片手から闇を放出。悪竜の身体を貫いて頑丈な鱗を砕き、鮮血が飛び散る。
悪竜は怯み、サチはホムラの方を見た。
「私の力は“無効化”。相手の攻撃を全部無効化するの」
サチの能力。それは“無効化”。
本人曰く相手の攻撃を無効化するらしいが、それだけにしてはおかしな点が異常な程あった。
ホムラはそれについて指摘する。
「“無効化”? いや、明らかに同じような動きもしていた。しかも俺の闇魔法まで。ゼッちゃんのコピーみたいな力じゃないのか?」
「ううん。あれとは違う。どんな攻撃も無効化出来るけど、それを返せるのは一回だけ。無効化したドラゴンの二回攻撃。一ヶ月前に消滅させたホムラの闇魔法。それを返したの」
「どちらにせよ単なる無効化って訳じゃないな。反射も兼ねた無効化か」
「うん。それと、厳密に言うとまた少し複雑……体当たりとかみたいな“行動”に対しても無効化出来る……簡単に言えば歩いている人を止めてそのエネルギーを利用したりも可能……」
「全ての事柄に対しての無効化か。凄く頼りになるな。確かに人類を滅ぼす力を有している」
大本は“無効化”の部分だが、歩いたり走ったり。その他の行動も無効化出来る。そんな無効化したエネルギーをそのまま返す事が出来るらしい。
一聞ではかなり便利なモノだが、補足のようにサチはホムラへ話した。
「けど、一回に止められるのは一回だけ。それと目に見えている部分しか無効化出来ない。だから心臓とか脳を止める事は出来ないし、相手の呼吸とかは止められるけど……止めている間に第三者やその人が攻撃してきたら防ぐ事は出来ないから私が返り討ちに遭う。連続した無効化じゃなくて、しばらく時間が経ってればさっきの闇魔法みたいな複数個のストックも出来るけど」
「成る程な。乱戦には向いていないか。それを俺に言って良かったのか?」
「うん。ホムラは好き。結婚もしたい。だから何でも言いたい」
「こんな俺を好いてくれてありがとさん。てか、呼吸も別に見えてる訳じゃないよな? それは止められるのか」
「うん。隠れてたらダメなだけ。目に見えない風魔法とか、透明な力も無効化自体は出来る」
「成る程な」
メリットだけじゃないのが魔法や魔術の世界。大きな力には大きな対価が伴うとよく言われるが、サチの能力もそうなのだろう。
『ギャアッ!』
「それじゃ、帰るか」
「うん」
『ァ……』
悪竜が起き上がり、ホムラとサチに飛び掛かる。同時にホムラの闇魔法が鋼鉄のような強度を誇る全身を容易く貫き、絶命させた。
これにてクエストは完了。巣はあれど今目の前に居る悪竜以外の目撃証言も無し。これで完遂だろう。
「後は報告。宝物庫の宝物は半分はくれるらしいな。元々倒せると思われてなかったからだろうけど、ありがたく貰っておくか。街の復興資金の足しになる」
「了解」
最後に宝物庫へ向かう。
あるのは金銀財宝。王冠や宝石の剣。その他にも多種多様の宝があった。
その中からいくつかを貰い受ける。半分だとしてもかなりの質量。一旦“星の裏側”に宝は預け、ホムラとサチは城を去った。
*****
──“屋敷”。
クエストを終え、既に夜。ホムラ達は屋敷のリビングにて今回の成果を話していた。
「それで、セイカ達はどうだった?」
「はい。無事終わらせましたよ。ミルクや野菜も沢山貰いました!」
「私もお給料貰ったよ! 後はお世話になってるからっていくつかのお酒もくれた!」
「私も終わらせたよ。報酬金以外は使わなくなった衣服とか調理器具かな。凄く綺麗なままなのに勿体無いよね」
「ボクもちゃんと終わらせたよ! 報酬金以外の物は魔物の肉かな!」
「以下同文です」
「私は報酬金と野草を貰いました」
全員が全員、今回のクエストにて報酬金以外の品々を貰っていた。
ホムラとサチは金銭だけだが、かなりの数の宝物がある。得られたフレイの多さで言えばホムラとサチが一番で時点がフウという感じだろう。
「全員それぞれ成果を得られたみたいだな」
「はい?」
「いや、セイカじゃなくて……てか、わざと返事しただろ? 文脈的にセイカの名を呼ぶのは変だしな」
「ふふ、少し揶揄いたくなりました」
「なんでだよ」
今回のクエストは全員が報酬以上の成果を挙げた。その半数以上は復興資金に当てられるが、それでも十分過ぎる収穫である。
そしてまた、今日もいつも通りに夕飯などを作る。
クエストに行っては報酬を得、楽しく過ごす。平穏な日々は続くのだった。
──だが、そう長くは続かないのが平穏というものである。




