74ページ目 少女の過去
──“屋敷内”。
「此処が君達の家……広い……」
「まずまずの広さだけど、気に入ったか?」
「うん……悪くない……」
それから鍵を使い、自分達の屋敷にホムラ達は戻ってきた。
サチはその屋敷の広さに興味津々であり、色んなところを見て回る。
『バウッ!』
『『ニャー』』
『『ニャー』』
「おお……犬と猫!」
「ふふ、お出迎えですか? ガルムちゃん、カエンちゃん、スイレイちゃん、センプウちゃんにガンセキちゃん」
「ガルム? 火炎? 水冷? 旋風? 岩石? それって詠唱……?」
「違いますよ。サチさん。この子達の名前です」
「へえ……」
ホムラ達が帰って来たのを見計らい、ガルムの一吠えと同時にカエン、スイレイ、センプウ、ガンセキの四匹が並んでビシッと構えた。
サチはガルムとその四匹を撫でながら話し、同じく撫でるセイカが教える。それについて納得した様子。
「取り敢えずもう夕方だ。先に風呂入ってから夕飯にするか」
「身体も汚れてしまいましたもんね。戦争はお腹が空いて身体が汚れるので大変ですね」
一先ずやる事は入浴。と言っても風呂は沸いていないが、ゼッちゃんが居るので基本的な作業は楽になっている。
「じゃあゼッちゃん。メラン。浴槽に水を溜めてくれ」
「いいよ! せーの、“ウォーター”!」
「かしこまりました。“ウォーター”!」
模倣によってゼッちゃんが真似た水魔法と魔族であるメランが扱う水魔術を浴槽に溜め、ホムラとセイカが杖を構える。
「「火の精霊よ。その力を我に与え、心身共に癒す湯水とせよ。お風呂を沸かせ。“ダブルファイア”!」」
炎魔法によってその溜めた水を沸かす。
水が温まるまで時間は掛かるが、何も常に放出し続ける訳ではない。薪は焚べてあり、薪に火を灯したら十数分間待機するだけである。
その時間も無駄にせず、一先ず夕食の下準備に取り掛かる。
「今日の夕飯は……」
「疲れているのなら鶏肉類やレモンなどの酸っぱい物が良いですよ」
「成る程。流石メランだ。トキ、買ってきてくれ」
「オッケー!」
夕飯の献立は戦争で疲れたので疲れを取りやすくする物。
鶏肉やレモン。その他、疲労回復の効果が高い物にした。
「今日は野菜出る~……?」
「ええ、勿論。執事の役割はご主人様の栄養管理ですから。メモは既に用意しましたよ」
「うぅ……なるべく苦くない野菜でね……」
「分かった、探してみるよ。ゼッちゃん!」
それだけ言い、お使いを頼まれたトキが姿を消す。
毎回毎回、何故かトキは時間を止めて行く。普通に“クイック”だけで良さそうだが、気分が高まると時間を止めたくなるのだろう。
その間に出来る準備はしておく。
「いくつかは昨日の残りが保存されているな。今はまだ春だから冷やす水や氷もすぐには温かくならないけど、そろそろ夏も近い。初夏にもなる。ちゃんとした保存法方も考えておくか」
「そうですね。ゼッちゃんやメランさんのお陰で冷たい水は用意出来ますけど、流石に融通も利かなくなりますもんね」
今は春。しかしもう大分暖かくなっており、たまに暑い日もある。
それくらいの気温変化は問題無いが、そろそろちゃんとした保存法を用意する必要もありそうだ。
「買って来たよ!」
「相変わらず早いな。お疲れ」
「へへん!」
「じゃ、ゼッちゃんと……サチ。君も皿とかを運んでくれ」
「良いよー! 行こっ! サチちゃん!」
「うん……ゼッちゃん……」
ゼッちゃんに手を引かれ、サチは皿を運ぶ。手伝いを苦に思ってはいないらしく、ちゃんとその辺の考えも持っているようだ。
実際、性知識が乏しいだけで単純な知能はかなりのもの。静かな性格というだけでちゃんとした教育も受けているようだ。
「そろそろ風呂も沸くな。一旦中断するか」
「そろそろ虫も出てきますから清潔な布を被せて置きませんとね」
「では、私がある程度の事は終わらせておきます。ごゆるりとお過ごし下さいませ」
「そうか。いつもありがと。執事さん」
「いえ、これが私の役割ですので。湯殿での役割はメラン様が果たしてくれますから」
「ええ。これがメイドとしての役割。シモの世話もそのうち……」
「そうかい」
余計な事を言うよりも前に風呂へと向かう。ふとホムラはサチに視線を向けた。
「そう言や、基本的に俺達は全員で風呂に入るけど、サチはどうする? 混浴って言うのはサチの言うエッチな事に該当する所業だ」
「私は……君なら良いから……もうキスもした仲だし」
「……。そうか」
貞操観念は低いが、キス以上の事は無いと言う考えなので混浴くらいでは特に問題無さそうだ。
腑に落ちない部分もあるが取り敢えず了承し、ホムラ達は湯殿へと向かった。
──“浴場”。
「はあ……温かいです……一日の疲れが取れますね。ホムラ様」
「そうだな。今日は色々疲れた」
湯船にてセイカが腕を伸ばして伸びをする。大きな胸は浮かんでいるがそれについての指摘はせず、ホムラもホムラでゆったりと寛ぐ。
「うっ……まさか着痩せするタイプ……!? 流石にセイカやメラン程じゃないけど結構……てか、凄く形が綺麗……」
「……? トキ……? どうかした……?」
「なんでも……無い……」
その一方でトキは、トキの中で恒例となった事柄にてサチのとある部分に着目しており、勝手に敗北していた。
口を湯船に沈めてブクブクと気泡を出しながらジト目で色白の肌を見やる。
「メランさん。私ももう少し料理とか出来るようになりたいのでこの後教えてくれませんか?」
「ええ、構いませんよ。フウさん。貴女の風魔法なら野菜も綺麗に斬れると思います。それに、貴女自身も筋が良い。きっと上達しますよ」
「本当ですか!? やったー!」
そしてフウはメランに料理を習う予約をしていた。
料理をしてみて楽しくなり、もっと上達したくなったようだ。
「サチちゃん! 競争しよっ!」
「ゼッちゃん。うん。負けないよ」
そしてトキに在らぬ恨みを買われたサチはゼッちゃんと共に湯船を泳ぐ。が、ゼッちゃんが圧勝した。
「負けちゃった……」
「へへん! サチちゃんはおっぱいが大きいから水に負けちゃうんだよ!」
「うぅ……小さくなりたい……」
「……!? 何を言ってるのそんな事!? 恵まれているのにそんな我が儘、絶対絶対の絶対に許せないからね!?」
「……ッ!?」
「ト、トキちゃん……!?」
会話に割り込み、ザパァ! と勢いよく立ち上がって激昂するトキ。
ゼッちゃんとサチ。“人類の敵”すらをも動揺させる程に威圧した。
「……まさか、あんなやり取りで闇魔法が発動するとは……」
「アハハ……トキさんの怒りはそれ程という事なのでしょうか……」
そんなトキの殺意に関係無いホムラの闇魔法が一瞬反応を示し、すぐに消し去った。
改めてトキの感情を色々と理解するセイカだった。
*****
「では、お召し上がりください」
「「いただきまーす!」」
「いただきます……」
執事の言葉にゼッちゃんとトキが元気よく返し、サチが小声で呟くようにした。
セイカ達も挨拶を交わし、またまた貴族らしからぬ賑やかな食事が始まった。
「トキ様。お胸の事を気にしているのなら、鶏肉は発育に効果があるそうですよ」
「本当に!? メランさんが言うなら間違いないかも!」
「アハハ……食べ過ぎたからお腹の方に脂肪が付くかも……」
一人はとある目的の為にガッツリと食べる。セイカは小声で話したがそれは聞こえなかったらしく、太る可能性を考えずに食べていた。
「ねぇねぇ、サチちゃん! みんなで食べるご飯って美味しいよね!」
「うん……何となく昨日までのご飯より美味しい……」
ゼッちゃんが隣に座るサチへ話し掛け、サチも同意する。
ゼッちゃん自身が知らなかった感覚。仲間が増え、更に楽しくなったのだろう。
「ホムラ。どう? 私がメランさんに聞いて作ってみたの!」
「お、旨いな。絶妙な焼き加減と酸味だ」
「やった!」
そしてホムラはフウが作った料理を食べ、絶賛する。
本人も自信作だったらしく、褒められて嬉しそうだ。
「フフ、皆様楽しそうですね」
「ええ、ご主人様の笑顔を見られるのは執事として嬉しい限りで御座います」
「それはメイドの私も同意します。いえ、使用人として、でしょうか」
「そうですね。使用人として、執事もメイドも関係無く、主人に喜ばれるのは私達にとっても幸福です」
一方のメランと執事は大人な会話。
二人は使用人という立場を世話役というベクトル以外でも満喫しており、まさに転職のようだ。
「あと、あの国に支援しなくちゃな。戦争挑んで破壊した挙げ句に復興支援をするのは却って恨みを買うかもしれないけど、壊した手前放っては置けない」
「そうですね。復興資金などをまた集め、存在は明かさずに影から手助けしましょうか」
「ああ、そうしよう」
街、もとい国の復興。挑んで破壊し、多くの命を奪ったのはホムラ。勝手な行動というのは理解しているが、それでも手伝いをしない訳にはいかないだろう。
皆殺しにした訳ではなく、恨みを買って復讐されたとしてもそれは受け入れる覚悟でいる。
それとは別にホムラはサチの事も気になった。
「それで、サチって何であの国に? しかも女王からはかなり信頼……いや、心酔する信仰の領域だった。サチの性格で国に力を貸すとかは思えないけどな」
それは、サチがあの国に居た理由。
ここまで話してみて国や悪事に加担するとは思えないが、マーレ女王に狂信されていた。それが気になったのだ。
サチは食事の手を止め、ホムラの目を静謐な目付きでジッと見て話す。
「私は別に。ただ単に散歩してたら話し掛けてきて、悪い人達を殺してって言われたから殺しただけ」
「マーレに言われたのか?」
「うん。それで悪い人達を殺したらお金をいっぱい貰って、たまに戦争にも参加したりしてた」
「……成る程な。守護神的な役割だったのか。いや、傭兵か? だからあんなに慕っていたのか」
どうやらサチはマーレの言う事を聞きながら戦闘などを行っていたらしく、戦争に勝利する毎に立場が狂信者へとなっていったのだろう。
実際、サチはかなり美しい。美しい者を正義と謳うマーレの琴線にはバッチリと触れ、戦場を終わらせる様は神のようにも思えたかもしれない。納得の心情の変化である。
そしてそれなら今まで目撃されていなかった理由にも合点がいく。
国が後ろ盾のような物となる事で表に存在があまり出なくなった。なのでサチは比較的平穏に暮らせていたのだろう。
しかしそれはそれとして気になる事もある。
「じゃあ何故俺達との戦いにサチを繰り出さなかったのか。自分の力に自信があったのか、それとも別の何かか……」
それはサチが今回の戦いに呼ばれなかった理由。
サチ程の存在が居れば、強さはまだ未知数だがおそらく今回程一方的にもならなかった事だろう。
サチはそれについて話す。
「私、絵本とかで闇魔法の事を知ってから……闇魔法の使い手が現れたら結婚したいってずっと言ってて……なのに今回は参加しないでって」
「納得だ。要するに、俺の存在があったからサチを手放さないように戦争へ参加させなかったのか」
「そうなの?」
「多分な」
ホムラとの戦争にサチが出てこなかった理由はマーレの考えの元。サチ自身が闇魔法使いを好いているからだろう。
サチと別れたくなかった。それが理由。
サチもサチで、倫理観はちゃんとしているのに闇魔法使いに憧れるなど変な話だが。
「で、何で世間的に悪名轟く闇魔法使いなんかに憧れたんだ?」
「悪名なの? お父さんやお母さんが読んでくれた本には闇魔法の使い手と光魔法の使い手が世界を守ったって書かれてたけど」
「……ん? それは変だな……」
その理由は、サチの中での闇魔法使いは悪人じゃなかったから。
光魔法使いはともかく、絵本に書かれている闇魔法の扱いは大体が悪。本当に変な話である。
「……サチ。サチと両親の出身国や、その絵本について知っている事はあるか?」
「うーん……昔だからよく分からない。けどフワフワした雲の上でよく絵本を読んで貰ってた」
「雲の上……?」
「それならおそらく、サチ様の出身国は“天界”ですね。天界にも地上から選ばれた人間が呼ばれる事もありますし」
「天界だって?」
サチの言葉に補足を加えるのは後ろで静聴していたメラン。その言葉をホムラは信じられなかったが、妙に納得してしまう。
人間という枠組みを外れず、地上の感性とは少しズレている部分もあるサチ。納得せざるをえなかった。
ホムラのみならずセイカ達も食事を止めて息を飲み、サチの姿をまじまじと見る。
「……サチの両親は?」
「殺された。神様に」
「……っ!?」「……え?」
「……。神に殺された?」
そして更にホムラが訊ねると、また大きな事が分かった。
神様に殺された。何かそれ程までの事をしたのだろうか。サチはホムラの復唱に返す。
「うん。よく覚えてないけど、きまぐれだって」
「気紛れで殺す神か。…………」
「酷い……」
「……っ」
「…………」
死因は気紛れ。ホムラはまた復唱し、フウが呟く。セイカとトキは何も言えずにそのまま食事の手を止めていた。
「私が知ってるのはそれくらい。闇魔法使いも好き。ホムラも好き。醜い人は死んだ方が良いってマーレによく言われていたけど、ホムラはそうは思わない」
「……。そうか。色々思い出させちゃって悪かったな」
「何で謝るの?」
「……まあ、それも気紛れだな」
「ホムラの気紛れは神様より好き……」
これにて話が終わる。
“星の裏側”や“天界”では闇魔法使いがあまり悪いようには思われていない事が分かった。
それなら忌み嫌われる“混血”や“闇魔法”は地上。星の表側である広範囲の現在位置のみの価値観らしい。謎は深まるばかりだ。
「ご飯、食べて良い?」
「ん? ああ、良いよ。食事の途中だったな。折角の食事だ。冷めるのは勿体無い」
サチが食事を見、ホムラが返す。
謎は深まったが、それを聞いたところでどうしようもない。まだまだ気になる事もあるが、それは何れ聞けば良いだろう。
ホムラ達とサチ。パーティに新たなメンバーが加わり、また一段と賑やかさが増すのだった。




