73ページ目 少女の処置
──“星の裏側”。
「さて、どうする?」
「さっきも聞きましたよ……」
「結局星の裏側でやるんだね」
「ま、拠点で色々するとして、街の人達を巻き込む訳にはいかないしな。此処なら広さも戦力も十分。最適だ」
「一理ありますね。ホムラ様が言うならば私達は喜んで力をお貸ししますよ」
戦場から“星の裏側”に来たホムラ達は、改めて縛ってある“最凶最悪”──サチに視線を向けた。
サチは相変わらず不貞腐れており、口を尖らせる。
「何するの? エッチなこと? 闇魔法の使い手からなら良いケド。それが目的だから」
「毎度毎度、毎回毎回。自分を売るな自分を。もっと女性は自分を大切にしろ。いや、女性だからこそ大切にするべきだ」
「……?」
「いやまあ、サチは初だし、この世界で生きている以上、その結論に至るのはそうだよな。やっぱり悪いのは世界か」
もはやいつも通りとなりつつある、捕まったら凌辱される事を前提で話す女性とのやり取り。
ホムラ達のパーティはホムラと執事以外女性で構成されているのだが、それもあるので不審に思われるのだろう。
実際、年端も行かぬ子供を含めた何人もの女性を連れるホムラは傍から見たらとんでもない女誑しである。顔の火傷もそう言うプレイの末の傷と思われてもおかしくない。執事はザ・執事という感じなので思われにくさはあるだろうが、ホムラは偏見を買いそうだ。
「取り敢えず、捕まえたは良いけど特にする事も思い付かないな。人類の敵を謳われているけど、何か悪い事をしたのか?」
「悪い事……私の思う悪い事じゃなくて、世間一般から見た悪い事なら色々としてると思う……」
「例えば?」
「殺人、窃盗、侵略行為。その他にも色々」
「それくらいなら俺もしている……いや、窃盗は約一名を除いてしてないか」
「それって私ぃ? ……事実だけど」
行った事柄は、大凡の予想通り。
後は行った時点での状況が気になるところ。それについて話す。
「どんな状況で殺った? 無抵抗の一般市民か、そうだとしても善意からか、それともやらざるを得ない状況だったか」
状況次第では殺人も容認するホムラ。何を隠そうホムラ自身がそうである。
サチは淡々と返した。
「私から仕掛ける事は無い。今回は特例。貴方の子供が欲しかった」
「成る程な。俺との子供と言うより闇魔法の子供って事だろうけど、残念ながら闇魔法は完全ランダムらしいぞ? しかも数千年に一回のペース。俺が居るうちはもう産まれないし、俺が死んでからも千年は産まれない」
「そうなんだ。けど、キスしちゃった。小さい頃に聞いた……キスしたら結婚するしかないって」
「子供か。てか、アンタが勝手にしてきたんだろ。罪を擦り付けるな。貴族は慰み者は居たりするけど、基本的に一夫多妻制じゃない。世継ぎは多いに越した事は無いけど、重婚は色々と問題だ」
基本的にサチから仕掛ける事はしないらしい。そして今回ホムラを攫おうとしたのは興味本位から。
更に言えばサチはゼッちゃんに次ぐレベルでウブらしく、キス=結婚と言う、子供のような感性を持っていた。
しかしながら、ホムラは重婚について言及する。サチは返した。
「別に良いと思う。貴方も理解している。子供は多い方が良い」
「てか、子供の作り方を知ってるのにキスしたら結婚なのか」
「キスしたから子供が出来るって……キスは初めてだから私の初めては貴方のもの」
「成る程。そういう認識か。強ち間違ってはいないけど……よく分からない性格だな。そんな性格なのに人は殺した事があるのか」
話してみて分かった事は、ゼッちゃんに負けず劣らず純粋。感性は幼い子供のようなもの。
確かに思い返してみれば、子供を作る云々の会話をしていた時は基本的に曖昧な部分が多かった。本当に知らないのだろう。
ホムラは興味本位で訊ねてみる。
「……。ちなみに、アンタがさっき考えていたエッチな事ってなんだ? そんな感性で下衆な事は思い付かないと思うけど」
「エッチな事は知ってる。おっぱい見せるとかパンツ見せるとか。男の子はそれで喜ぶってマーレが。何でかは分からないけど」
「うん、まんま子供的な感じだな。聞いてて逆に恥ずかしくなる。いや、純粋過ぎて質問した俺自身に嫌気が差す……」
聞いてみたが、純粋過ぎるサチにホムラは頭を掻き、肩を落とす。
闇魔法を身に付けてから此処まで追い込まれたのは初。色んな意味で敵わない、敵ってはいけない存在と分かった。
「……。さて、こんな人が悪意を持って人を殺すとは思えないな……どうする?」
「え~と……先程からどうするとしか聞いていないような……けど、確かにこのまま放っておくのも気になりますね。進んで悪事を働かないとしても、サチさんの容姿とかを考えたら襲われる可能性はあります」
「それで返り討ちにしたから人殺しの経験はあるんだよね。直接襲って来るタイプならまだマシかもしれないけど、サチさんって純粋過ぎて騙されやすそうだから保護者みたいな立場が必要かも」
ホムラの意見に返したのはセイカとフウ。
強さ的に暴漢はどうとでも出来るとして、騙され、酷い目に遭う可能性を考えたら放って置けなかった。
年齢はおそらく12~14歳。まだ成人はしていないだろう。子供の正しい作り方を知らない様子を見るに性教育もされていない。育児放棄に遭ったのか不本意な形で親や教師を亡くしたのか。どちらにしても良い事ではない。
「魔族に預けると俺に従順な僕になる為に育てられそうだな。それは避けたい」
「おや、そうですか。私はホムラ様の為を思ってそう考えていたのですけど」
「本当に考えていたのかよ」
保護者は必要そう。悪人に騙され、色々と利用されたらホムラ達の敵になる可能性があるのでそれは阻止したい。
だからと言って魔族に預けるのも問題。そうなるとホムラ達が面倒を見る事になるが、
「俺達が面倒を見る義理は無いしな。そもそも本人の意思が不明……今のところ分かっている情報は俺と結婚したいって事くらいだ」
「ホムラ様と結婚はさせませんけど、聞くだけ聞いてみますか? 私は別に引き取っても構いませんよ」
「セイカが良いって言うなら俺も構わない。敵対するよりはずっと良いからな。それに、確かな戦力にはなる」
義理も何もないが、何となく放っても置けない。なので聞くだけ聞く事にし、仲間に加えるかどうかを考える。
それが決まり、セイカはサチの拘束を解いて訊ねた。
「あの、もしよろしければ私達とお仲間になりませんか? 後ろ盾だったという国も滅びましたし、行く当てもありませんよね?」
「解いてくれた……。うん……当てはない。本当に良いの?」
「はい。構いませんよ♪ 仲間は多い方が楽しいですからね!」
何となく乗り気。それならばと、セイカは屈託の無い笑顔で手を差し伸べた。
サチはその手を取り、セイカに迫る。
「ありがとう。あの人がダメなら……私……君と結婚する」
「んっ……んん!?」
そして、セイカの唇を奪った。
セイカは困惑し、両手をジタバタさせる。
サチは別に、そう言った部分がある訳ではない。感性が感性であり、結婚願望も高いので性別問わず積極的に仕掛けてしまうのだろう。
そのままセイカはホムラに手を伸ばして助けを求め、ホムラは一先ずセイカを取られる訳にもいかないので引き離した。
「サチ。セイカは女性だ。そして君も女性。一般的に、あくまで不特定多数の中ではってだけだけど女性同士は結婚出来ないし、とある成分の提供でもされなくちゃ子供も出来ない」
「……そうなの……?」
「ああ」
やはり分かってはいなかった。
サチはキョトンとした小動物のような表情で見やり、ホムラは頷く。そのまま言葉を続けた。
「それと、セイカも婚約者が居る。てかそれが俺だ。婚約者から婚約者を取るのは悪い事だからあまりオススメしない」
「分かった……」
取り敢えず納得はした。聞き分けも悪くはない。ゼッちゃんと同じく、ちゃんとすればまともな人になれるだろう。
そのやり取りを終え、ゼッちゃんがサチに飛び掛かった。
「じゃ、これでサイちゃんとも友達なんだね! よろしく! サイちゃん!」
「うん……ゼッちゃん。あと、私の事はサチで良いよ。それが名前だから」
「そう? じゃ、よろしくね! サチちゃん!」
早速ゼッちゃんとも仲良くやれそうな雰囲気。というより、虚無の境地をキョーちゃんと呼んだり基本的に“人類の敵”同士は仲が良いらしい。
そしてホムラ達は、またそんな“人類の敵”の一人、アマミ・サチを仲間に加えた。
此処まで来ればホムラの存在だけではなく、本当に全世界の敵と呼べる立場になってしまう事だろう。
「なあ、セイカ」
「はい? ホムラ様」
そんな二人を見、ホムラはセイカへ訊ねるように話した。
「“人類の敵”って、世間一般からそう呼ばれているし、忌み嫌われている。けど、基本的に純粋だよな? あの虚無の境地ですら純粋に戦いを楽しんでいた。悪意を持って殺人を犯した訳じゃない」
「ゼッちゃんも善意からの行動……サチさんは先に仕掛けられたから……確かに全員、野盗などより遥かに温厚で優しいですね……不思議です」
世界の、人間の天敵として君臨する“人類の敵”達。その者達のうち三人と会っているが、今のところゴウの仇である虚無の境地にすら然程嫌悪感は無かった。
全員が全員、今のところ純粋なのである。
その事を踏まえ、ホムラには一つの懸念が浮かび上がった。
「……もしかして世界が、強大な力を有する“混血”である存在を──意図的に“悪”にしようとしているのか?」
「……。可能性はありますね」
それは、普通に接すればあまり悪い者でない“人類の敵”を、世界が悪役に仕立て挙げようとしているのかもしれないというもの。
陰謀論のように信憑性が無い眉唾物の存在ではなく、実際に見て接した情報から得られたモノ。何なら今目の前に居る“魔族”もその一種だ。伝承などのような存在ではない。
考えてみれば快楽主義者であろう虚無の境地ですら世界はクソであると割り切っていた。実際、その様な貴族や王族という上位の存在をホムラ達も見ている。
今の考えは信憑性が高かった。
「……ま、どうせ目的は変わらない。虚無の境地の討伐。そして邪魔するなら世界も敵に回す。それだけだ」
「ええ、ホムラ様。私も最期まで同行致します」
例え世界が真っ黒であったとしてもホムラ達の目的は変わらない。それに伴うセイカの気持ちも同上。変わる事は無い。
新たに人類の敵の一人を仲間に加えたホムラ達。世界への不信感しかないが、それは気にせず目的に向けて進むのだった。




