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71ページ目 終戦

「──水の僕よ、妾に力を授け、その力を天から地へと打ち落とせ……“篠突く雨(スピアレイン)”!」


「配下からしもべに降格したのか。不憫だな。……闇魔法は良い。傘が要らないや」


 鋭利な水魔法の雨が降り注ぎ、ホムラは自分とセイカ達の頭上に闇魔法による屋根を作って防いだ。

 広範囲を狙えるこの魔法は人数の増えたホムラ達には効果的。加えて水人形は身体が水なのでダメージが無い。地面に突き刺さって消え去った痕を見る限り木造建築くらいは貫く威力もあった。

 最低でも岩並みの強度が無ければ瞬く間に貫通死する事だろう。


「──火の精霊よ、その力を我に与え、水の傀儡を蒸発させよ。炎嵐を起こせ、“フレイムストーム”!」


『…………!』


「──風の精霊よ、その力を我に与え、水の傀儡を吹き飛ばせ。暴風を生み出す。“トルネードストーム”!」


「詠唱かぁ。私もやってみようかなぁ。けど威力上昇の恩恵とか無いからあまり意味無いんだよねぇ」


『…………!』


 セイカが炎魔法で水人形を蒸発させ、フウが風魔法で吹き飛ばす。トキは水人形の周りの重力を操って霧散させた。

 相性は悪くない。セイカ以外は完全消滅させる事も出来ないが、無効化は可能。これならホムラの邪魔にもならないだろう。


「これ全部消しちゃって良いの?」

「構わなさそうです。ゼッちゃん」

「うん、分かった!」


 ──そして、相性や性質。その他全ての要因を無に帰す存在によって水人形は全てが消滅した。

 何をしたのか。何でも出来るのでわざわざ消し方を考える必要も無く消滅させられたようだ。


「何者だ? あの子供……主を含め、主らの中でも最上位の実力者よ」


「まあ、色々あってな。アンタも諦めてさっさと死んだらどうだ? 当たらないのはストレスが溜まる。自害なら苦しむ時間も自分次第だ」


「フン、死んで堪るか。しかし、今のままだと不利じゃな」


 闇魔法は全てマーレを貫いているが、本人が身に付けた特殊な魔力変化によって流動させられる。

 しかしながら、闇魔法にはやり方もある。


「面倒だな。苦しめて殺すじゃない方向にするか。俺の目の前では口が悪いだけで特に何もしてないしな」


「フム……主も大概異常という事か……下衆が……!」


 巨大な闇魔法が壁のように迫り、流動させる暇も避ける事も出来ない程の範囲を襲う。

 ホムラが初めからそれをしなかった理由は、敵を苦しめて殺す為。

 ホムラから見た独断と偏見による罪人には、自分の罪を分からせるよう苦しめなくてはならはい。苦しめて苦しめて苦しめて殺す。そうする事で初めて罪人は罪を理解する。理解しなければするまで苦しめる。それが良い。それが最適解。

 それが出来なさそうと判断し、一先ず肉体を崩壊させてから生き長らえさせ、その後で殺す事にしたのだ。

 マーレの悪行はホムラ視点だと野盗を囮に使い、冒険者の抹消を図った事。しかも常習犯だが、目の前で行われたのがそれだけなのでそこまで苦しめなくても良さそうと言う結論に至ったらしい。


「チィ……! “ウォーターキャノン”!」

「成る程。左右も上も駄目なら下か」


 マーレは水魔法の塊を地面に撃ち出し、大きく穴を空けて避けた。

 下は土。なので穴を空ける事は可能。逃げ道には最適だろう。


「撃てェ!」

「「「……!」」」

『『『ギャアアアァァァァ!!!』』』

「ん? 森の方とかに居た兵士や魔物か」


 戦いが少し長引き過ぎたか、兵士や魔物達がやって来た。

 本来なら数十秒もあれば終わる戦い。苦しめる為に時間を割いてしまったようだ。


「ま、別に関係無いけど」

「「「…………!」」」

『『『ガァ!』』』


 闇魔法を使い、薙ぎ払って打ち倒す。

 今回は殺していない。少し街の者達を殺し過ぎたので復興などを考える限り全滅は避けた方が良いと思ったのである。

 一般市民は逃がしたが、兵士仲間などの大事な者を失った兵士も居る筈。恨みは確実に買われ、世界に復讐する予定のホムラが復讐対象になるだろうが、それは受け入れるつもりでいる。報いを受けるべきという考えは変わらず、既に多くを失ったがこれから先、セイカ達を失う可能性も考えていた。


「さて、俺を殺してみろ。兵士達。マーレ女王。その全ての挑戦は受けて立つ……俺は死ぬ為に生きているんだからな」


 何処までも遠く、冷めた目付きで話す。

 これは満身などではなく、実際に殺されるのを待ち望んでいる。この世には何の未練も無い。残った者すら失う可能性があるなら、大切な者を置いて死した方が楽。

 案外、それを考える者は多いかもしれない。この世に良い事など何も無い。確実に、絶対に存在しないと断言出来るのだから。


「舐めるな! シラヌイ・ホムラ!」

「お望み通り殺してやれェ!」


「……。そう言や、この魔法を宿していると自害も出来ないのか。自動的に護ってくるからな」


 大砲が撃ち出され、闇魔法の壁にぶつかって爆発を起こす。

 考えてみれば、今の状態で死ぬ事は出来ない。ホムラ自身が言ったように自動的に護られるからだ。


(そうなると、セイカが俺を殺してくれる時も苦労を掛ける事になるな。外傷による死じゃなくて、毒とかを飲んで内部から命を絶った方が確実かもしれない……後は魔力切れを待つとか)……それが一番かもな」


「何を言って……──」

「そうするか……けど、その場合はセイカに何て命令しよう」

「──」

『──』


 爆発の中から無傷で姿を現し、その様な事を考えながら残った兵士達と魔物の意識を奪い去った。


「チッ、使えんゴミ共よ……! やはりわらわが直々に……!」



「何かもう──どうでも(・・・・)いいや(・・・)



「……!?」


 今の戦闘に関係無い事を色々と考えた結果、相手を殺す事以外に目的の無いこの戦いを放棄し、マーレの眼前へとホムラ自身が迫った。

 マーレは反応が遅れたが身体を水に変え、牽制の為に放たれた闇を流動させる。


「フッ、間抜けが。主自身が赴き、一瞬の動揺を誘ったようだが、わらわは判断力、反射神経。全てに置いて超一流よ……! 主の策は失敗だ!」


「…………」


 勝ち誇り、闇魔法の外に出たホムラの周りを鋭利な水が囲む。ホムラは杖を握り、更に迫って振りかざした。


(何が狙いだ? 魔法が解けた瞬間か? フフ……関係無い。魔法を解くのも妾の自由。この魔法も透かして──)


「“ファイア・…………”──……なんだろうな」

「──ッ!?」


 そのまま炎魔法を使い、杖に炎を纏ってマーレの顔面を勢いよく殴り抜いた。

 炎によって水は蒸発する。つまり流動もされない。

 打ち抜かれたマーレは吹き飛ばされるように倒れ、ホムラを睨み付けた。


「主……今のは……!」

「炎魔法だ。あそこに居るローブの女性も使ってるだろ」

「何故それを……!」

「俺の情報くらいは伝わっていると思ったんだけどな。俺は火の系統だ。上級魔法クラスは使える。闇魔法と違ってちゃんと努力の末に得られた魔法だ」

「……っ」


 殴られた頭から血を流し、顔半分は焼かれて皮膚が爛れる。

 その痛みを忘れたのかと思う程にマーレは困惑していた。


「顔に火傷を負ったのか。奇遇だな。俺もだ」

「……ッ! 貴様……!」


 言われて気付き、マーレは激痛に顔を抑える。

 本当に忘れていたらしいが、先程まで余裕を抱き、気の強かった女王陛下が涙を流しながら顔を抑える様は中々に笑える光景だ。


「許さんぞ……よくもわらわの美しい顔に醜い火傷の痕を……! 殺してやる……絶対に貴様を殺──」

「してみてくれよ。今この場でこの俺を」

「……ッ!」


 何かを言おうとしたが闇がその身体を縛り付け、振り回して放り投げた。

 マーレは胃の中の物が逆流して嘔吐し、自身の吐瀉物の上に落下する。


「これで終わりか」

「貴……様……」

「マーレ様に“様”を付けて呼んで貰えるとは光栄だな」

「……っ」


 激痛と中枢の乱れによって意気消沈したマーレはそれでもホムラを睨み付ける。その気概だけは確かだろう。

 後は敗れた国の女王らしく斬首刑辺りが妥当な線。故に闇魔法を刃状とし、その首元へ──


「マーレ……。残念だね……国との繋がりとか……私が身を隠すのに良いバイブルだったのに……自由に政治させてあげたのに……可哀想……」


「……! 闇魔法が……?」


 ──一人の女性がホムラとマーレの間を歩み、マーレに向けていた闇魔法が消える。それによって斬首刑が中断された。

 少しの驚きはあれど、特に動揺はしていないホムラはその女性に視線を向ける。


「……。アンタは?」

「…………」

「あ、嗚呼……」


 ホムラの言葉には返さない。対し、マーレは恍惚の表情でその女性の方を見ていた。

 それを踏まえ、まず確実に何かしらの関係はあるだろう。


「サイ様……」

「マーレ。酷い有り様……」


 マーレはその女性をサイ様と呼び、呼ばれた女性はマーレの頬にそっと手を添え、哀れむ目付きで一言。


「死んで……貴女は醜悪……」

「……ぇ……?」


 それは、死を促す言葉。

 女性は呆然とするマーレの元から離れ、ホムラの方に視線を向けた。


「そう……貴方が闇魔法の……初めまして。私はアマミ・サチ。これは仮名。仮名でもマーレには教えていない……貴方なら良い……」


「へえ、一体なんで?」


「何でだろう。なんとなく」


 互いに互いの顔をじっと見る。

 サチと名乗った女性は全体的に白く、髪も目も肌も白い。

 魔力の性質を宿していないのか、それとも混血なのかは不明だがとにかく白かった。

 しかしその繊維のように細い髪は滑らかであり、太陽の光に反射してキラキラと光る。白い目に白い肌。名前の割には幸薄そうな顔立ち。

 そんな透き通る程の目でホムラをジッと見、白くスラッとした手でその頬を触った。


「黒いね……私とは逆……けど別に私は光魔法を使える訳じゃない……」


「そうか。確かに闇魔法を使える俺の身体が全体的に黒くなっているなら、光魔法の使い手は白い筈だ……けど、アンタは光魔法使いじゃないんだな」


「うん……」


 光魔法の使い手が居るとしたら、おそらく白い。

 だがしかし、サチが光魔法使いでないのは何となく分かった。本人もそう言っている。

 そんなサチとホムラの元へ、水人形を全て片付けたセイカ達がやって来た。


「あ、貴女は誰ですか……?」

「わぁ……綺麗な人……」

「私の銀髪よりキラキラしてる……」


 その神々しさも感じる容姿を見、セイカ、フウ、トキの三人は呆気に取られた。

 一方で、ゼッちゃんだけは笑顔で話し掛ける。


「あ! サイちゃん! やっほー! 久し振り~!」


「ゼッちゃん……。久し振り……また少し大きくなった……? 何か前より元気……」


「うん! ホムラ達と一緒に居てから調子良いんだ!」


「へえ……良かったね……」


 サチが消え入りそうな声でクスッと笑う。ゼッちゃんも元気に笑っていた。

 そのやり取りを見、ゼッちゃんの執事が会釈して言葉を続けた。


「サチ様。ホムラ様方へ説明しても?」

「うん……良いよ……彼らなら良い……」

「では失礼しまして」


「……。何か知ってるのか?」


「はい。……彼女の名は仮名ですが先程の通り。そしてその存在は──ゼッちゃんと同じく“人類の敵”を謳われる……“最凶最悪”様で御座います」


「なっ……!?」


 アマミ・サチ。その存在、“人類の敵”の一角、“最凶最悪”。

 その、落ち着いた穏やかな見た目や言動から想像出来ない存在にホムラは初めて少しの動揺を見せた。

 ホムラ達と一国の戦争。それは終わり、この場に人類の敵が現れた。

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