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70ページ目 水の女王

「早速で悪いが。主、死せよ」

「断る」


 向き合った瞬間に無詠唱からなる水の槍が打ち出され、その全ては闇の壁に阻まれた。

 闇を払い、ホムラは言葉を続ける。


「悪いけど、俺を殺す事についてには先約が居るんだ。アンタ程度の人に殺される訳にはいかない」


わらわ……程度(・・)だと……!? 舐め腐りおってからに! クズの侵略者がッ! あまり妾を舐めるでない!」


「別に舐めちゃいないさ。ただ単に、アンタの実力はその程度なんだろうなって純粋な気持ちで思っただけだ」


「ならば死ねい!」


 程度呼ばわりされた事への殺意が込められ、女王は無数の水魔法からなる槍をホムラへ打ち込んだ。

 その槍も闇魔法が防ぎ、一気に伸びて女王の身体へ仕掛ける。


「チッ、変幻自在の闇魔法……腹立たしいのぅ。下衆な魔力をわらわの元に寄越すでない! 戯けがッ!」


 闇魔法は見切ってかわし、水の槍を放つ。

 今現在の速度はそれ程速くないが、それでも避けられる。どうやらこの女王は口だけではなく、本当にそれなりの力は秘めているようた。

 そして怒りの理由は、


「水魔法こそ至宝。そんな力を見せびらかすな!」


「そう言う理屈かよ。本当に自分の力に圧倒的な自信を持っているみたいだ」


「当然よ。事実だからの。言ってしまえばわらわ以外の全ては存在価値の無いゴミ。そんなゴミ共でも妾が楽をする為には必要だからの。妾がほとんど食べずに捨てる食物や殆ど使わずに捨てる道具を作る者達もおる。妾は何もしたくなくての。三大欲求を満たせればそれで良い。主らのような妾以外の全人類は使い捨ての駒よ」


 全人類がゴミ。実際この世界では別におかしくない理論だが、上位に位置する性格の悪さを持つこの女王が言っているのは滑稽でしかない。

 楽をする為、その為だけにゴミを生かしてくれる。何ともまあ、とても優しい女王様である。


「捨て駒ってのは盤面を自分の優位に進める為に必要な駒なんだけどな」


「故に、貴様は死する事で初めて妾の役に立つのだ! さっさと死ねい!」


「成る程。一本取られた」


 変幻自在の闇魔法に対し、変幻自在の水魔法。二つの魔法は正面からぶつかり合い、闇が水を飲み込んで女王の周りを囲んだ。


「チィ、正面からでは分が悪いな」

「逃げるのも上手いな」

「妾は逃げぬ!」


 無数の闇を突き付け、女王は大地に水を叩き付けてその衝撃で空へ逃げた。

 同時に杖を構え、詠唱する。


「──水の配下よ、その力を自然へ還元し、大波を起こせ。敵を洗い流せ“ウォーターハザード”!」


「詠唱の魔法を、正面から打ち砕く」


 杖から大量の水を放出し、地面に叩き付けると同時に広がり、大波が巻き起こった。

 その波は闇魔法によって打ち砕かれ、辺りに水飛沫が散る。


「今だ撃てゴミ共!」

「「「…………!」」」

「ゴミ呼ばわりされてるのに素直に命令を聞くのか」


 水飛沫に紛れ、近場に潜んでいた兵士達が一斉に射撃する。

 銃の飛距離は数百メートル。場数を踏んでいる兵士だけあってそのギリギリの範囲から正確に狙っていた。が、まあ銃弾自体は自動的に防げるので問題無い。しかし女王はまだ余裕を浮かべている。


「成る程の。自動的な防御が可能か。自分の害となるものは防ぐ……加えて、防御の最中にも攻撃する事は可能。攻防一体の魔力。それが闇魔法の本質……更に水魔法と同じように形を変え、刃のように扱う事も出来る……あの様子なら他の攻撃も可能にするみたいじゃな」


「冷静な判断だ事。そんな自分勝手な最低の性格で一国の女王が勤まる理由が分かったよ。アンタ自体は本当に有能みたいだ」


「フフ、当然よ。そしてわらわの何処が最低なのか疑問よの。何にせよ、力無き者が吠えたところでただの遠吠え……力あってこそ発言に説得力が生まれるのじゃ」


「遠吠え理論については一理あるな。ま、どうでもいいけど」


 瞬間的に闇を伸ばし、周囲の兵士達も薙ぎ払う。刹那に女王を狙い、女王は身体を液体に変えて流動させた。


「へえ、そんな事も出来るのか」


「身体に魔力が流れているからの。その魔力の流れを変えれば可能だろう」


「けど限度がある。肉体自体を壊さず身体を変化させる精密な魔力操作が必要だからな。有能なアンタだとしてもそれなりの労力を伴うだろう。そうじゃなかったら今までの俺の攻撃を避ける必要は無かった」


「さあ、どうだろうのぅ? どちらにせよ、主は死するのみだ!」


 水からなる槍の雨が降り注ぎ、それを闇魔法の壁にて消し去る。同時に二つの魔法はせめぎ合い、大きな水飛沫が散った。


「成る程な。わざと散らせたか。何が狙いなのか分かるのはこれからかな」


「そうじゃの」


 水魔法では闇魔法を相殺出来ない。本来なら完全に消滅するだろう。

 しかし今は消えずに周囲へ広がった。魔力を離れていても操作する事が出来るのなら、そこから厄介な事になるのは明白だ。


「それを知って尚、行動には移らんのか?」


「ああ。事を起こしてからで良い。油断や慢心とかじゃなく、性根が腐っているアンタの相手をするに当たってアンタの全ての策を正面から打ち砕く。それが一番のやり方だなって思った次第だ」


 女王陛下は、色々と手遅れ。その根源とも言える絶対的な自信。それを上手く粉砕する事が出来れば心も折れ、勝利がより容易くなる。

 街を崩壊されても特に何とも思わない程のメンタルは有しているようなので女王の自信を直接的に壊す方向で考えているのだ。


「フフ、良い度胸じゃ。愚者が。しかし今の水は、策や罠とはまた違う、単純な存在よ」


「へえ、それはつまり──」


『『『ウオオオォォォォ!!!』』』


「──こう言う事か」


 水は意思を持ち、人型を形成して動き出した。

 身体は全てが水。おそらく物理的な力は無効化されるだろう。攻撃方法はまだ分からないが、単純に考えるなら水のカッターや窒息による溺死を目的としたモノ。その様な事を考えているうちに水人形は片腕を大きく突き出した。


『『『オオオォォォォ!!』』』

「洪水みたいなものか」


 人形によって放たれた水。その質量は凄まじく、どうやら水人形自体が女王とは別の魔力を有しているようだ。

 そしてそれは全てホムラによって打ち砕かれた。蒸発させたなどではなく、物理的に水を砕いたのだ。


「まさか実態の無い水すらをも砕くとはの……やはり面倒な相手よ」


「褒め言葉として受け取っておくよ。この魔法の全貌は俺にすら分からない。いや、分かる必要が無いんだ。だってテキトーに操るだけで敵を倒してしまうからな。正直、俺の存在自体は無くても良さそうだ。闇魔法だけが独立すればそれだけで世界を終わらせられる。俺の身体は却って枷になっているな」


「随分と自分を卑下しておるの。実際そうなのだから当然か、ゴミ虫が。たまたま強い魔法を使えるだけのクズよ」


「また稚拙な暴言だな」


「稚拙な暴言の方が他人に覚えやすいだろう? その者の存在価値は稚拙な暴言で表せる程しか無いって事だからの」


「そうだな」


 ホムラは、基本的にネガティブである。というより、色々あってネガティブになってしまった。実際ホムラ視点でのこの世界に救いは無いので当然だ。

 相手からしたら皮肉のようにも思える程のネガティブさは反感を買いそうだが、他者を完全に見下している女王からすればネガティブ発言が事実になるので逆にやる気を出していた。

 性格的な方面でもやりにくい相手のようだ。


「先程の水人形だがの……少量の魔力があれば他のゴミ共より有能な兵士が生み出せる、わらわが作った魔法よ。つまり、こう言う事よ」


『『『ウオオオォォォォ!!!』』』


 砕かれた水人形は再生する。説明通り、ほんの少しの魔力によって復活したのだ。


「便利な魔法を作ったな。どういう原理だ?」


「それを言う必要は無かろう。せっかく妾が作り出した魔法……いずれは公表してやっても良いが、敵との交戦で明かし、敵に塩を送るような真似はせぬよ」


「そうか、残念だ。それならその魔法の原理は一生分からないな。アンタは此処で死ぬ事になるだろうからな」


「抜かせ……!」

『『『オオオォォォォ!!』』』


 告げ、水人形がホムラ向けて仕掛けた。

 全部を破壊するのは容易い所業だが、魔力を無駄に使う結果となる可能性もある。それ自体は女王を倒せば済む事だが、ホムラ達の存在が世界各国に広がっている事と大国と争う事を踏まえた場合、戦いの後にまた別の敵が現れる可能性もあるだろう。

 そんな諸々を考え、ホムラは水人形を放置する事に決めた。


「じゃ、雑魚処理は任せた」

「はい!」「オッケー!」「うん!」

「このローブぶかぶか~」「この戦いが終わったらゼッちゃんに合ったサイズを探しましょうか」


「……なっ、何処から!?」


 ローブを纏った複数人が空間から姿を現し、水人形達を吹き飛ばした。

 空間の先は星の裏側。なので命令通り戦闘には参加しないがメランも来ている。

 突然の事態に女王はホムラを前に初めて動揺を見せ、一歩下がる。その距離は闇魔法が詰め寄った。


「……っ」


「咄嗟に変化させたか。アンタ、身体を水にしたり水人形を作ったり魔法を作るのにけているんだな」


「妾は天才だからの……!」


 闇魔法の槍で貫くが、流動されてかわされる。

 よくある、授業でも習う魔法とは勝手の違う能力の数々。魔力の操作によって新たな魔法を生み出せる女王は実際に天才なのかもしれない。

 そのプライドから女王は叫ぶ。


「真の天才の前には、秀才も凡才も不才もゴミ同然! ひれ伏せ! ゴミが!」


「凄い質量の水だ」


 天空から大水を落とし、闇魔法によって包まれているホムラの身体を飲み込んだ。同時に魔力を操り、水の形状を変化させる。


「“ウォーターボール”……! これは水弾を撃ち出すだけの、凡才でも出来る魔法ではない。そのまま窒息せよ……!」


「水の牢か。これ自体は他の水魔法使いも使えていたけど、また違うのか?」


「妾オリジナルの水牢よ……! 海の底は凄まじい圧が掛かると知っているか? 妾はそれを間接的に再現したのだ!」


「聞いたことあるような無いような。まだ海の底に行く技術が確立されてないし、実際に確かめた訳じゃないから分からないな」


「フッ、馬鹿め! 周りから圧力が掛かるのだ! 重くなって当然よ!」


 この世界では、深海に行くと潰されるという事はあまり知られていない。知る術が無いので当然だろう。

 それを擬似的に再現した女王の魔法。本来なら水に閉じ込める魔法の完全なる上位互換だが、


「ま、闇魔法の前には関係無いけど」

「だろうの……今更止められるとは思っとらんわい」


 闇魔法が内部から水牢を砕き、水飛沫に変えて散らした。

 それは女王も想定の範囲内。次なる行動に移る。前に、ホムラは訊ねた。


「そう言やアンタの名は? ずっと女王とかアンタとかの呼び方はアンタからしても嫌だろ?」


「フム、一理あるな。わらわはエビル・マーレ。マーレ様と呼べ」


「そうかい。マーレ様」


 そう言えば此処まで名前を聞いてなかったと考え、その名を聞き出す。

 女王にしては短い名なので仮の名前なのは確定だが、これで名を呼びやすくはなっただろう。

 もっとも、名を覚えたところでこの者は殺生の対象なので意味もないが。

 ホムラとマーレ。闇魔法の使い手と水魔法使いの女王。二人の戦闘は続く。

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