69ページ目 戦闘開始
「悪いな。皆。戦争起こる事になった」
「ホムラ様……」
兵士達が去った“星の裏側”にてホムラは頭を下げ、セイカ達に謝罪した。
馴染みの街が襲撃され、頭に血が昇っていたホムラ。自分でも子供っぽかったと理解しており、セイカ達も巻き込む結果に改めて謝ったのだ。
「私は構いませんよ。いつ何時もホムラ様と共に居ると決めたのですから」
「私も構わないよー。元々、全世界が私の敵だからねぇ~」
「私も……それもホムラのやり方だからね。幼馴染だし、ちゃんと分かってるよ!」
「戦争するの~? ボクもホムラがやって良いって言うならやるよ~!」
「私もゼッちゃんと同意見です」
セイカ、トキ、フウ、ゼッちゃんとその執事は全面的に同意。元々ホムラの為に動いている仲間達なので当然と言えば当然だ。
ホムラは未だ重力に圧されている、残った側の兵士達へ視線を向けた。
「アンタらも悪いな。手荒な方法に出た。近いうちに戦争になるから、家族や友人、その他の親しい人達に避難勧告を告げた方が良い」
「……! 何故我々の心配を……?」
「捕虜だから生きていなくてはならないという事か?」
「違う。ただの警告だ。別に俺の目的は全人類の抹消とか殺戮じゃないからな。死ぬ必要の無い者は死ななくて良い。アンタらの何人かは多分俺達との戦いで死ぬかもしれないけど、逃げるなら止めないからな」
「一体何が目的なのだ……」
「特に無いな。特に無い状態で宣戦布告して特に無い状態で今に至る……適切な言葉は……気紛れ?」
「気紛れで多くの者を殺めようと言うのか……」
「だから殺意は無いって。戦争前にはアンタらも解放するから大事な人……てか戦わざるを得ない人以外は全員逃がしとけ」
「…………」
なるべく被害は抑えたい。しかし女王を物理的に止めなくてはならない。故にホムラは淡々と兵士達に話した。
納得したのかどうかは分からないが、兵士達は黙認する。
そして喜びに満ちているメランはと言うと、
「ホムラ様が戦うと言うのなら、我ら魔族も全軍で援護致します!」
「アンタらが加わるとオーバーキルを遥かに超越している。俺とゼッちゃんだけで世界の大半を制圧出来る戦力なんだし、人類の上位互換であるアンタらが手を出すまでもない」
珍しく声を荒らげ、興奮したように加勢すると話していた。それにホムラは指摘する。
ホムラが言ったように、魔族が加わるのはオーバーキルどころの話ではない。何の変哲も無い蟻一匹に全宇宙のエネルギーを一点集中させた魔法直接をぶつけるようなものである。
何にせよ、戦争は間違いなく起こるだろう。
「じゃ、メランはこの人達を城の方に運んでいてくれ。殺したり拷問したり実験したりするなよ。大事な捕虜だからな」
「はっ、かしこまりました。ホムラ様。では、私とは此処でお別れという事ですね。戦争当日は御呼びください」
「必要無い。何なら国一つ程度、俺一人だけで十分だしな。セイカ達は別に休んでいても──」
「いえ、私はホムラ様に着いて行きます! 万が一もあり得ますから!」
「私も行くよー! 偉そうな人が吠え面掻く姿は見物だからね!」
「やっぱり性格は少し歪んでいるんだ……あ、私も行くよ」
「ボクももちろん行くー!」
「私はゼッちゃんに御供します」
「……って、訳だ」
「成る程……かしこまりました」
こんな感じになった。
ホムラ、セイカ、フウ、トキ、ゼッちゃんと執事が向かい、メラン達魔族は待機。
事情を察したメランは頭を下げ、魔術にて兵士達を浮かべてその場から飛ぶように消え去った。
ホムラ達も鍵を使い、表側に戻る。その後、街の人達にはやんわりと説明し、ホムラ達はその日を終えるのだった。
*****
──“王宮”。
「──との事です……」
「ほう?」
そして、兵士隊長は兵士隊長で女王陛下に報告していた。
片手の指と片足の指が折れているが、何ともまあ根性は据わっている。
そんな報告を聞いた女王は不機嫌そうに話す。
「それで、おめおめと帰って来た訳か。無様よのう。無能のゴミが……」
「すみません……」
「何故謝る? 妾は別に謝れとは言っていないのだがの」
「では……何をすれば……」
「一々言わぬといかんのか? そんな事くらい自分で分かっているであろう? 何故迷う? 何故質問する? それともそんな事も分からぬのか? 無能の癖に。少しは無い頭を使え」
「……っ。我が命を以て……謝罪致します……」
「別に何も言ってなかろう。しかし、そうじゃな。主が望むなら好きにせよ。この部屋は最近変えたんだ。また変えるのは面倒故に、ひっそりと自害せよ。……いや、フフ、敢えて生かし、当て馬にするのも良いな。主……次の戦争にて死ね。これは命令だ。無能のゴミクズですら戦争なら名誉(笑)の戦死が出来るからの。戦争は良いものじゃ」
「…………はい……」
女王に言われ、兵士隊長は意気消沈して引き下がる。
立場上逆らう事は出来ず、攻撃の射程距離を考えても逆らったその瞬間に今さっき取り消された死刑が実行されるだけ。下がるしかなかった。
「消えろ。まだこの世からだけでなくとも良い……そうじゃな……フフ、妾の温情に感謝し、床を舐めながら退け」
「……っ。はい……!」
恥辱にまみれ、見るも無様な姿で女王の前から下がった。部屋から出た所でドアを閉め、女王は笑う。
「ホッホッホ! 愉快じゃのぅ! 命令に逆らえず恥を掻くしか出来ぬ愚民を見るのは! さて、戦争か。受けて立とうぞ。シラヌイ・ホムラよ……!」
高らかに笑い、まだ聞こえる範囲という事を理解した上で罵倒する。
しかし女王は好戦的らしく、戦争の申し出は受けるようだ。
女王は扇子を開いて不敵に笑い、時が満ち、戦争の前日まで迫った。
*****
──“星の裏側”。
魔族の巨大な城の牢屋にて、ガシャンという重鈍な音と共に捕まっていた兵士達が解放された。
そんな兵士達に向かってホムラは話す。
「それじゃ、俺達は明日攻めるから逃がす人は逃がしとけ。多分街は滅びるけど、復興の手伝いはする。理想的な死者数は元凶である女王一人だけだけど、それについてはアンタや兵士隊長さんの考え次第だな」
「ま、まさか本当に解放するとは……」
「しかも囚われている最中の対応が好待遇……」
「何なら国に仕えている時より自由だったぞ……」
「国は全て女王陛下の一存だからな……」
解放され、如何なる感情よりも困惑が勝っている様子の兵士達。
それもそうだろう。好待遇に加えて本当に約束は守られ、抑えられた時以外なんの危害も加えられていない。一周回って逆に怪しく思われるくらいだ。
ホムラは言いたい事を言った瞬間に兵士達を表側に返し、その者達はハッとした。
「見覚えのある道だ」
「……一先ず、報告に行くか」
「ああ。しかし、女王陛下にバレたら怒りを買う。バレぬよう、こっそり逃がすぞ」
「分かった。我らは戦場に赴く側としよう」
「そうだな。住人を逃がす為にも、国を護る兵士である我らは命を賭す必要がある」
「国を作るのは一人の権力者だけではない。国民あってこそだ」
兵士達は互いに顔を見合って頷き、行動を開始する。
当然のように、傍若無人かつ悪逆非道な女王の信頼は皆無に等しい。しかし国民達の住むべき場所の為に兵士は戦っている。
故に、自分達は死する事が大前提。なるべく住人を逃がす事にしたのだ。
そして、女王に従順な部下以外の兵士や使用人と協力し、国民には一時的な避難勧告を出す。戦争は当日となった。
*****
「フフフ……来るが良い……シラヌイ・ホムラ。我が全軍を以てして迎え撃ってやろう……」
戦場となる国の城にて女王が遠くを見、相変わらず不敵に笑っていた。
女王は、何も血筋だけでその座に付いている訳ではない。無能な王は国民の反乱を受けて斬首されるのがオチだからだ。
タチが悪い事にちゃんとした能力も備えており、その傲慢からなるこの性格。
既に迎撃の態勢は出来ており、この国に入るまでの道中や街の至る所に適材適所を配置している万全の態勢だった。
ホムラ達が少数なのは分かっているが数キロに及んで複数の罠も張り、過剰過ぎる程の戦力を費やす。
魔族の協力や他国との協定などありとあらゆる可能性を前提として組み込む事で臨機応変な対応を可能とし、街自体にも兵や隷属させた魔物も配置する事で四方八方、上下左右。全ての位置から攻めてきても対応出来るようになっている。
無論の事時空間の移動も配慮し、無から姿を現しても迎え撃つ事が可能だ。
今回の全方位に兵士を配置するやり方は数の差に余裕があるからこそのもの。敵が自軍よりも多かった場合ですらこの女王陛下は基盤を組み立てている事だろう。
地形や自然、街全体を利用した戦術。それがこの女王のやり方。
性格は悪いが力も強く、逆に性格以外は理想的な王である存在。性格が底辺のその先を貫いていたとしても技量で全てを覆せる力を有していた。
──その完璧な戦術は、圧倒的な力の前に全て無駄と化す。
「な、なんじゃ!?」
街全体が地震のように揺れ、倒れぬよう女王は壁に掴まる。
そして女王は、その光景を前にした。
「ま、まさか……国が浮いているだと……!?」
城の最上階よりも遥かに高い位置。下を見れば国が持ち上げられているのが分かった。
国の基盤は煉瓦。その煉瓦と地面の隙間に闇が這いずり、国その物を持ち上げていたのだ。
同時に国は本が閉じるように両端から押し潰され、建物が砕けて絞られた果実のように国に残った者達の鮮血が大きな湖を形成した。その後に瓦礫も次々と落下する。
「逃げなかったという事は、そう言う事なんだよな。悪いけど、殺めさせて貰う。全員を生かす事は破壊しか出来ない俺には不可能だ。けど、何人かは生き残ってくれると良いな」
「まさか……罠を諸ともせずに!? クソッ!」
そこに現れた者、ホムラの声は女王に聞こえないだろうが、罠を全て破壊して歩み進むその光景が異常であるという事は分かった。
地雷は踏んだ瞬間に闇魔法が自動的に防御し、線を切る事で撃ち出された矢も同様。落とし穴は闇に乗って進み、投石は砕く。放たれた魔物達は戦意を喪失して道を譲り、ホムラはたった今粉々に粉砕した街を見た。
「隙間に挟まって生き残った人はチラホラ……そして元凶は……俺の目の前か」
「フフ、誤算だった。しかし、妾は水の系統。妾に降り掛かる重圧を和らげる事くらい可能よ……そして、高所から落ちても問題無い」
「そう言うの、なるべく言わない方が良いんじゃないのか? 系統を言うだけで一撃目に何をされるかの推測が出来るようになる。戦いでは多分一撃目が最重要……自らそれを言うのは何のメリットも無い」
「違うの。その理論はタネを知られると勝てる確率が下がるザコにしか適用されん。常に強者であり、常に勝利を収めて来た妾には該当せぬのだ。……要するに、余裕からなる敵へのハンデ……とでも言っておこうかの? シラヌイ・ホムラ」
「スゲー傲慢。ま、傲慢とか自分勝手ってのは俺も言えないな」
水魔法を緩衝材のように使い、女王はホムラの前に現れる。街の兵士達はほぼ壊滅させたが街の外に居る兵士達はまだまだ存在する。
ホムラと一国の女王。戦争が始まった直後に互いの頭が相対した。




