68ページ目 宣告
──“王宮”。
ホムラが兵士達を終わらせた頃合い、近隣の国では女王がつまらなそうにため息を吐いていた。
「フム、帰りが遅いのぅ。今回の冒険者はあの野盗共とライアを倒したのか?」
「いえ、それはまだ……しかし、兵士達が見張りに行ってからの時間を考えればおそらくそうであるかと」
「もしそうなら残念だ。ライアの作る土人形は精巧……もう妾のコレクションが増えぬという事になってしまう」
そう言い、近隣の国の女王は沢山の土人形コレクションに視線を向けた。
ライア達と国の関係性。それは女王の手引きからなるものだったらしい。賄賂となるものは金銭。そして女王の趣味に合わせた土人形のようだ。
「もうコレクションが増えぬのは残念。まあいい。国民はまだまだあるからの。今回の冒険者が逃げ仰せた場合、その者達も使って遊ぶとしようか」
「ほ、報告です! 女王陛下!」
「なんじゃ?」
そして、一人の兵士が慌てた様子で部屋に現れ、女王へと何かしらの報告を告げる。
「たった今、軍隊長率いる騎士団が全滅致しました!」
「ほう? まさかあやつらをも討ち滅ぼす冒険者か。名はなんと?」
「それが……例の世界へ宣戦布告を実行した闇魔法の使い手……シラヌイ・ホムラのようです……!」
「シラヌイ・ホムラだと? 成る程のぅ。最近は音沙汰が無かったが、動き出しておったか」
その報告は、世界的に大きな問題。シラヌイ・ホムラの出現。
女王は報告の兵士へ更に訊ねた。
「して、其奴らの動向は?」
「いえ……遠目からの確認のみをしており、全滅と同時に報告へ窺いました故に……」
「そうか。使えん奴だ」
「すみません……」
動向については不明。その報告を聞いた女王は肩を落とし、落胆したように言葉を続けた。
「もう下がって良いぞ」
「はっ、失礼します」
そして兵士が下がろうとした時、
「主、何をやっておる?」
「はい? いえ、下がろうかと……」
「そうではない。──何故まだ生きようとする?」
「──!」
──次の瞬間、兵士の頭が水の刃によって切り落とされた。
鮮血が散り、頭がゴロンと転がる。
自分の身体が汚れぬように配慮しているようだが、女王は不快そうに話す。
「使えんゴミは生きる価値も無かろうて。妾の思い通りにならぬゴミはゴミらしく捨てられよ。主、このゴミを廃棄しておけ。それと、この穢らわしいヘドロのような血で汚れた部屋は部下の兵士にでも与えておけ。妾は別の部屋を使う」
「はっ、かしこまりました」
「主は従順で比較的マシよ。今夜の相手にしてやろう。最近は持て余しているからの」
「お望みとあらば」
「そうか。ならば後で妾の新たな部屋へ来い」
そう言い、女王は立ち去る。
報告に来た兵士の死。女王にとっては何の思い入れも無く、単なる捨て駒。おそらく大抵のモノは捨て駒だろう。
典型的な王族の女性は汚れた部屋を後にする前に小さく呟いた。
「シラヌイ・ホムラ……フフ、依頼を出させた街に出向かい、奴等を炙り出すとしようかの」
*****
「結局最後のクエストは報酬金も無しか。依頼国が黒幕だったから当たり前だけど」
「それでも今日の分だけで十分街の皆様には貢献出来ますよ。復興資金はいくらあっても困りませんからね」
「材料費に人件費。街の復興もタダじゃない。予想より遅くなったし、人通りも無いから闇魔法で帰るか」
「はい。ホムラ様」
クエストを終わらせた帰り道、最後の分の報酬金は得られなかったがそれなりには貯まった。
なので一先ず拠点の街に帰る為、ホムラは闇魔法を展開。全員がそれに乗り、移動を──
「別にそれ使わなくてもボクが連れて行けるよ?」
「“星の裏側”への鍵を使えば帰り道を短縮出来ますよ」
「……そう言うのは早く言ってくれ」
──開始する直前に言われた言葉。
ゼッちゃんがコピーした瞬間移動やメランが提案した“星の裏側”経由の近道。それらがあるのでわざわざ闇魔法を使う必要も無かった。
ホムラは闇魔法を引っ込め、ゼッちゃんの方に視線を向ける。
「“星の裏側”を通っても少しは時間が掛かるし、ゼッちゃんに頼むよ」
「うん! じゃあみんな掴まって! 一瞬だから!」
そしてホムラ達は自分達の屋敷へ戻ってきた。
「本当に一瞬だな。便利な力だ」
「へへん。もっと褒めて褒めて~!」
ホムラに褒められ、ご満悦なゼッちゃん。そこから街の方に向かい、まだギリギリ経営時間である酒場に行って報酬の手続きを終わらせた。
「これで俺達の生活費と街の復興金が分けられたな」
「おう、ありがとうよ。兄ちゃん達。と言うか、良いのかい? アンタらの生活費がこんなに少なくて? 世界を敵に回すんだからもっとあった方が良さそうだけどよ」
「構いませんよ。俺達は一先ず何とかなっているんで」
「そうか? そんじゃ、ありがたく受け取っておくよ」
換金し、報酬金を受け取る。
換金と言っても既に貰っていた報酬金を分けただけ。街の復興の為には遠出をする必要もあるのでこの街の分の資金は勿論多めである。
換金を終わらせたホムラ達は屋敷へと帰り、夕食、入浴、いつものルーティンを行い、就寝した。
そして余談だが、最近のセイカ達はホムラを求めない。それはマンネリなどではなく、ゼッちゃんが近くに居るから。幼い子供の前ではしたない事は出来ないので場を弁えているのである。
そんなこんなで、それなりに長かった一日が終了した。
*****
──“翌日”。
次の日、いつものように目覚めたホムラ達は朝食を摂って朝の準備を行い、また復興の資金を集める為に街の方へ向かう。
しかし、街では朝っぱらから何やら妙に騒がしかった。
「シラヌイ・ホムラを出せ! この街に居るのは分かっている!」
「い、一体何を……」
「口答えするな! いいから出さんかッ!」
「……ッ!」
兵士と思しき者が住人を殴り付け、尻餅を着く。殺しはしないのが温情かもしれない。
原因はどうやらホムラ。原因というのも少し違うが、兵士達の狙いがその様である。
その光景を前にセイカがホムラへ視線を向けた。
「ホムラ様……」
「ああ。名乗り出るか。けど、このまま名乗り出たら街の人達が俺を匿ったという事で被害を受けるかもしれない。出方にも演出が必要だ」
「その方法とは……?」
ホムラはフッと笑う。そしてホムラ達はこの世界から消え去った。
「出せと言っている! 何度も言うように居るのは分かっているのだ!」
「そ、そんな! 知りませんよ!」
「ほう? それならば、もし居たら家族や街の者達を殺す事になるぞ?」
「……っ」
兵士達の銃口が街の住人達へ向けられる。人々は歯を食い縛り、撃たれる覚悟を決めた。
「何だか騒がしいな。一体何事だ?」
「「「……!?」」」
──次の瞬間、虚空からホムラ達が姿を現した。
兵士や住人達は知る由も無いが、“星の裏側”からの出現である。
出方の演出。虚空から姿を現す事で印象を与える事は大成功。兵士達は戦慄して黒髪に顔半分を大火傷している少年を見やった。
「やはり居たか……一体何処から現れたのかは分からんが……」
「居た? 何を言っているんだアンタは? 脳ミソ詰まってんのか? 俺の通り道が騒がしかったから出てきただけなんだけどな。俺、“星の裏側”を拠点にしているし」
「“星の裏側”だと……!? 実在したのか!?」
「ああ、わざわざ表側に居る訳無いだろ能無し。いや、脳無しか? ハハ、脳死してないから脳はあるか」
「貴様……愚弄するか……!」
「聞いての通りしてるだろ。ハッ、頭がダメなだけじゃなくて耳も詰まっているのか。兵士なんか辞めて隠居した方が良いんじゃないのか? 命をすぐに失う職業だしな」
「貴様……!」
「語彙力も無くなったか。どんどん人として退化しているな」
「……っ」
淡々と綴られる暴言に兵士は言葉を失った。
一先ず矛先を街の住人達からは逸らせたようである。
「で、何か用か? ありもしない俺への疑惑を無関係の街にぶつけた無能集団の皆様方?」
「……っ。クソッ! 貴様を屠る為に決まっているだろうがッ! 世界の敵風情が生意気抜かすな!」
「あっそ」
激昂し、兵士は槍を振るう。それをホムラは闇魔法で防ぎ、槍をへし折った。
「まずは街の人達に迷惑掛けた事への謝罪しろよ。兵士は礼儀も弁えていないのか? それか、礼儀も恥も外聞も何もなくても兵士になれる温い職業なのか?」
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 街の者達などどうなっても良い! 撃て、撃てェ!」
「「「…………」」」
街の住人達にお構い無しで銃弾を撃ち出す兵士達。このままでは住人達により被害が及ぶ。復興中の街でドンパチやるのも問題。故にホムラは行動を開始した。
「──此処ならいくら暴れても問題無いな」
「……んなっ!?」
──そして、ホムラ達と兵士達は“星の裏側”に来ていた。
此処へ繋がる鍵はそれなりの距離も届く。だからこそ街の入り口付近に居た全兵士を連れて来る事も出来たのだ。
兵士達は困惑と動揺の色を見せるが即座に武器を構え、臨戦態勢に入る。
「迅速な対応だな」
「撃てェ!」
その対応の早さに感心するホムラへ向け、銃口からは一斉に弾丸が撃ち出された。
それをホムラは動かず闇魔法の壁で全て防ぐ。次の瞬間には槍や剣を用いて斬り掛かる。
「重火器の類いが効かぬのは既に知っている……! 何としてでも貴様らを殺してやるぞ!」
「彼女達は無関係じゃないのか?」
「シラヌイ・ホムラと共に行動しているだけで同罪だッ! 敵と内通し、謀反を起こそうと言う者は即刻死刑にする!」
「敵と内通って。彼女達、元々アンタらの仲間じゃないだろ」
そう言い、ホムラは闇魔法の壁を広げて兵士達を弾き飛ばした。
弾かれた兵士達は蹌踉めき、次の瞬間に重力がのし掛かる。
「……っ!? な……に……」
兵士達全員が地に伏せ、重圧によって言葉もままならない。
ホムラはそれを実行したトキとゼッちゃんに一瞥して小さく笑い、兵士達の前にしゃがんだ。
「俺は会いに行ける敵になるつもりだ。けど、他の街を巻き込むのは筋違い。“星の裏側”に居るんだから戦争したけりゃ受けて立つ。ただし他の街は巻き込むな」
「……っ」
街を巻き込むなと二度、強調して告げる。
何も話せないのはアレなので隊長のような者だけを重力から解放し、闇魔法で拘束して一先ず情報を収集する事にした。
「それで、何で彼処の街を襲ったんだ? 街ならいくつもあった筈だけどな」
「クク……あの街に何かあるのか? ならば攻め入って滅ぼしてやる……!」
「いや、俺はあの街だけじゃなく、他の街全てを巻き込むなと命令しているんだ。アンタの質問に答えると思うなよ? 俺が質問をしてお前はそれに答えるだけでいい。それ以上は何も言うな。分かったか?」
「あぐぁ……!」
ベキベキと拘束した闇で片腕の指を全て逆方向に曲げ、脅すように命令する。
こう言った者は徹底的に心と身体を痛め付け、従順にした上で話す必要がある。何とも面倒なものだろうか。
「さて、答えろ。それとも通り道に合った全ての街を破壊しながらやって来たのか?」
「……っ。い、依頼だ。クエストの依頼だ。我らの街の女王陛下は報酬金を払いたくない性分でな……テキトーにクエストを依頼し、協力関係にある野盗達と手を組んで暇潰しをしていたのだ……」
「暇潰し。ハッ、成る程な。あの土人形か。そして正義感を抱いた冒険者が返り討ちに遭い、死に行く様を楽しんでいる訳だ」
「クク……そうだ」
「答えるのは良い。だが、笑うな。笑うのは許可していない」
「アガァ!?」
「にしても、趣味の悪い女王様だな。他人が死んで何が楽しいんだ」
両手が使えないのは不便。なので今度は足の指をへし折り、また上下関係をハッキリとさせた。
あのクエストの件は金持ちの道楽。単なるお遊びにして暇潰し。
それを踏まえると、その国の女王はホムラの処刑対象である。ゼッちゃんのように善意からの行動ではなく、“悪”を理解した上での行動なので遠慮無く殺せる。
「取り敢えず、それについて俺を追って来たなら俺に対しての“挑戦”って訳だ。受けて立とう。何人かの兵士は逃がす。後はまあ、俺の城で預かって貰って頃合いを見たら解放するかどうするかだな」
「……!」
女王からホムラへの挑戦。そうであると受け取り、これからどうするかを話す。
それに反応を示したのは兵士隊長ではなくメランだった。
「という事はホムラ様……! ついに決めて下さったのですね!?」
「断定はしていない。けど、ほぼ確定だな。基本的に俺は優柔不断の曖昧なフワフワした男だ。取り敢えず利用出来るものは利用する」
「ありがとうございます! ホムラ様! これで魔族も安泰です!」
「だから確定はしてないって」
使えるものは使う。ただそれだけなのだが、一気に飛躍してホムラが魔族の王になるのを断定するような言い方。一応違うとは教えた。
そんなやり取りの横で兵士隊長は驚愕する。
「魔族……!? 魔族とも繋がりがあったのか……!」
「アンタも大概タフだな。手と足の指がバキボキなのにまだ話すか。じゃ、アンタと何人かの兵士を解放するか。女王陛下にアンタの国を落とすと言っておけ」
魔族との繋がり。それは人類にとってはかなりの脅威。元々全世界へ宣戦布告をした者が魔族の王となるとなれば……考えるまでもなく厄介な事になるだろう。
何はともあれ、改めてホムラは決めた。一つの国を落とす事を。
このまま女王を野放しにしていては犠牲者が増える一方。故にやるしかないだろう。
「じゃ、帰れ」
「……!」
──そして気付いた時、いつの間にか包帯を巻かれた兵士隊長と数人の兵士達は街から離れた場所に立っていた。
まるで夢でも見ていたような感覚だが、兵士隊長の痛みが現実という事を示していた。
「……っ。我を愚弄しおって……絶対に許さんぞ……シラヌイ・ホムラァ……!」
そして恨みを抱き、兵士達は女王の待つ国へ帰る。
ホムラ達と一つの国。面倒だが、その戦争は間違いなく起きるだろう。




