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65ページ目 脱出

「……んっ……ここは……」

「おや、目覚めたかい。美しき者よ」

「貴女は……! ……っ!」


 どれくらい経ったのかセイカは目覚め、手に付けられた枷とそこから伸びる鎖を見る。

 柱のような場所に縛り付けられたらしく、ローブも杖も無い。両腕を掲げた体勢となったまま藻掻く。しかしガシャガシャと鎖が鳴るばかりで取れる気配は無かった。


「一体どういうつもりですか……?」


「どういうつもりも何もないさ。趣味なんだ。人には趣味……生きる気力が無ければ脱け殻のように朽ち果てるだけだからね。アタシの趣味の為に君達二人を少し捕らえた」


「……っ。もう一人はまだ目覚めてませんね……」


「酒に薬を入れたからね。君より少し起きるのが遅いさ。そしてアタシの趣味は見ての通り、実に女性らしい良い趣味だろう?」


 見れば回りには土人形が複数個あった。

 それからするに、ライアの趣味は人形作りか何か。

 その人形は等身大であり、まるで生きているかのようにリアルな表情をしている。しかし笑っている表情や楽しそうな表情のモノは無く、全てが苦悶の表情。本当にイイ趣味をしている。


「動物とかの石像は造らないんですか……? 少なくとも、等身大の人間の人形を造るよりは女の子らしいと思いますけど」


「ハッハッハ! 面白い事を聞くね。肝が据わっている。今まで連れ去って“モデル”になってくれた人は多いけど、大体怯えたり泣き叫んだりしていたからね。君みたいな事を聞く人は初めてだよ。恐怖顔も唆るけど、初めて笑顔の人形を造れるかもしれない」


 囚われ、拘束された状態のセイカが言い放った言葉にライアは高らかと笑い声を上げる。

 この人形の数を見ての通り、今までも“モデル”となった者は居たらしい。しかし全員が全員恐怖に怯えていたとか。

 だからこそ肝が据わっており、困惑はすれど恐怖はしないセイカの存在が嬉しいようだ。


「うん。良い作品が造れそうだ。邪魔な衣服は取っ払おう」


「……っ」


 そう言い、ライアは鎖に繋がれたセイカの衣服をビリッと破り捨てる。それによってセイカの裸体が露となった。

 疲れ切った旅人を演じる為にいつものドレスではなくボロボロの衣服を着用していたが、それでも衣服が無いのは少し辛い。下に落ちているローブくらいは身に付けたいものである。

 ライアは生まれたままの姿になったセイカの肉体を舐めるように見やり、不敵に笑って言葉を続けた。


「寒いかい? 少しの辛抱だ。作品が完成すれば寒さも忘れる。しかし、アタシが女で良かったな。女のアタシですら惚れ惚れする肢体。大きく膨らんだ乳房……白い肌。そして整った顔立ち。イイね、想像力と創造力が掻き立てられる。アタシが男なら今この場で犯してやりたいくらいだが、生憎あいにくアタシはノーマルだ。少し理想のタイプが高いがな」


「んっ……」


 ライアはその体を指でなぞり、セイカはビクッと反応を示す。

 そんなセイカを横目にトキの方にも行き、こちらも衣服を破るように剥ぎ取った。


「フム……肉付きはそんなじゃないが、綺麗な体をしているな。顔は最高クラスだ。……ん? 何処かで見たような……まあいいか。君達は二人とも生娘か? それと、あんなボロボロな衣服を着ていた旅人にしては少し体が綺麗過ぎな気がするな」


 トキの顔はおそらく手配書などで見たのだろうが、それよりも問題はセイカとトキの体について。

 そう、毎日風呂には入っており、体もちゃんと洗っている。土や泥で多少の汚れは演出したが、野盗の頭であるライアには旅人のような汚れじゃないと薄々感付いたようだ。


「まあいいか。人形にするのだから汚れは関係無い……しかし見れば見る程惚れ惚れする体だ……人形にするのが勿体無いくらい。いっその事アタシのコレクションにでもならないか?」


「なりません……しかし、人形にする(・・・・・)とは少々違和感のある言い回しですね。人形のモデルとする……多少を削いだ言い回しとも取れますが、まるで」


「──君達を(・・・)生きたまま(・・・・・)人形にする(・・・・・)……と、そう思っているんだろう?」


「……っ。まさか……!」


 そう言い、ライアは隠し持っていた杖を振るい、背後に泥を生み出した。

 セイカは気付き、体を揺らすが鎖は取れない。


「そうだ。此処にある土人形は全て元・人間。皆が皆、美しき者だ。その美しさは美しいアタシの手の元で永遠となる。アタシにとってもこの者達にとっても幸福である……だろう?」


「……ん……あれ……私……裸……? 何で……?」


 そしてトキも目が覚めた。しかし酒による酔いもあるのかぼんやりしており、自分が何も着ていない事に気付いた以外は朧気おぼろげな様子だった。

 そこにセイカが叫ぶように話す。


「トキさん! 私達は捕まっております! なので……」


「させるか」

「……!」

「ん……捕まって……なら……逃げなきゃ……」


 説明を阻むようにライアが泥を仕掛け、朧気ながらもある程度理解したトキが魔力を展開させた。それと同時にセイカとトキの居た柱が泥の波に飲み込まれる。


「チッ、逃げられたか。一体どうやったんだ?」


 そしてそこに土人形は無く、ただ泥で固まった柱のみが置かれていた。

 その様子からライアは逃げられたと判断。周囲に泥を広げ、部屋の隅から隅まで探る。


「……居ない? この広い部屋からこの短時間で? それにあの女……トキだと? もしそうならこの速さにも納得がいくが、こんな集落に“瞬盗女王”が来たのか? ならば狙いはアタシのコレクション……?」


 トキの存在。知り合いという訳では無さそうだが、当然の如く世界的大泥棒の名は知っている。

 もしそうだったらと考え、ライアは妖艶な唇に人差し指を当て、妖しくも美しい笑顔を浮かべた。


「フフ……悪くない。手配書を見ても分かったが、かなりの美しさを誇っている。是非ともアタシのコレクションに加えたいところだ」


 自分自身を含め、美しいモノに目が無いライア。

 トキの立場は問題だが顔は美しい。故にライアの意欲はより強まった。



*****



「はぁ……はぁ……オェ……それで、何でああなったの……!?」


「はぁ……事情は……隠れられる場所を見つけてからですね……」


 その一方で、脱出したセイカとトキは裸体にローブのみを着用し、“クイック”で加速しつつ話をしていた。

 おこなった脱出は泥が迫った瞬間にトキが時間を止め、自分とセイカの鎖を風化させて外した。止まった空間をセイカは動けないのでその後に解き、“クイック”を掛けて逃げ出したのだ。

 時空間魔法の重複と連続使用。ほろ酔い。それによって今走った距離よりも遥かに疲弊したトキの事も考え、セイカは一度屋敷の何処かへ隠れる事にした。


「“ヒートサーチ”……この辺りなら良さそうですね……大丈夫ですか? トキさん」


「まあね……まだ少しボーッとするし視界も揺らいでいるけど……これは数分で消える症状だから平気」


 ライアの屋敷は野盗の集落に似付かわしくない程に広大。故に探知魔法でも使われなければ見つからない場所も多い。

 出口は見当たらず、場所が場所なので窓も無かったが“クイック”によってかなりの距離は稼げた。軽い熱感知魔法によって人の気配が無い部屋を見つけ、二人は一先ずそこに隠れる事にした。


「ふう……やっと休める……まあ、さっきまで寝ていたんだけどね」


「はぁはぁ……それでは、説明しますね……」


「うん。よろしく……」


 部屋に入り、炎の灯りも消し去る。更に奥へと行き、セイカとトキは座り込んで困惑するトキへ概要を話した。


「──って事で……完全にこの集落の野盗に善人は居ないって事が確定してしまいました……」


「成る程……だから私も裸だったんだ。けど、純潔は奪われていないみたいで良かったぁ。ホムラに捧げる予定だからねぇ」


「それは私が先です……ではなく、これからどうしますか? おそらくあまり時間は経っていません。長時間帰って来なかったらホムラ様は闇魔法によって集落を消滅させる筈ですから……」


「うーん……このまま“クイック”で逃げて出口を探すか、セイカの炎魔法で壁を破壊するしか無いんじゃないかな? けど、壁からも魔力の気配を感じるから頑丈だろうし、結局は出口を見つけなくちゃならなそう」


 事情は説明した。脱出方法も今の時点で簡単に思い付き、ある程度体力が回復すれば問題無くこなせるだろう。

 しかし、セイカはバツが悪そうに頭を下げた。


「……すみません。トキさん。貴女まで巻き込んでしまって……私が良い人も居るかもしれないと思い、提案したばかりに……」


 そもそもの原因はセイカが一つの事を提案したから。故に罪悪感を覚えているようだ。

 その様子を見やり、トキはケロッと笑って言葉を続けた。


「気にしてないよー。人の善性を信じたくなる気持ちも分かるからねぇ。野盗とかバカ貴族とか、嫌な人達も多い世界だけど確かな良い人は居るし、セイカが謝る事は無いよ。それに、別に私達は誰もそれを否定していないからね! セイカはセイカらしく、善悪問わずその優しさを持ち続ければ良いんだよ♪」


「トキさん……」


「もう、そんな顔しないの。セイカもかなり美人の部類に入るんだから! ……本当、その顔にその体。見てるだけで腹が立つ……! ローブ越しなのに、ううん。下に何も着ていない上でのローブ越しだからこそ体躯がしっかり見えてむしろ強調されているような……恵まれた体が羨ま……恨めしい……!」


「あんっ……ト、トキさん……!?」


 落ち込むセイカを励ましつつ、同時に悪態を吐いてローブ越しにその胸を鷲掴みにする。

 セイカはビクッと体を一瞬痙攣させ、サッと距離を置いた。トキはじっとその体を見やる。


「本当に……なんなのこの格差……王族と元・貴族って言うのは胸にまで格差社会が及ぶの……!?」


「そ、それは知りませんよ……私も意識していませんし……気付いたらこんな感じで」


「気・付・い・た・ら~!? くっ……何で人一倍努力している私より何の努力も無い人が恵まれるの……! なんて不条理な世界……! 努力は報われるべきだと思うのに……!」


「努力ですか?」


「自分でマッサージしたりミルク飲んだり……って、セイカには関係無いよ!」


 苦労を知らない者が苦労している者より遥かに恵まれる事はある。寧ろその方が多いこの世界。

 そのジャンルは様々だが、少なくともトキはセイカに対して女性としてのプライドで負けたくないようだ。


「ま、取り敢えず。今は脱出優先。後悔とか謝罪とかはまた後々。まずは逃げなきゃ!」


「は、はい! トキさん!」


 気を取り直し、セイカとトキは行動を開始する。

 まずはこの部屋に何か無いかを確認した。


「本棚にテーブル……いずれも木造ですけど、壁が石ですので火事を起こしても逃げられませんね。私達が一酸化炭素中毒になるのがオチです」


「この部屋には窓もあるけど、鉄格子が掛けられているねぇ。セイカの出せる炎って最大何度?」


「蝋燭とかの火と同じく800~1000℃くらいですね……まあ、蝋燭とかは一部分が1000℃を越える事もあるのですけど、それでも鉄の沸点には届きません。つまりこの部屋は確実に脱出して逃げなければならないという事です」


 ある物の中にはよく燃えそうな物もチラホラ。しかし強固な壁に鉄格子。上級魔法ならば破壊する事も可能だが、今のセイカにそれは使えず、使えたとしても魔力の消費量が半端無いのでなるべく控えた方が良いだろう。

 このまま待っていればホムラも来てくれるだろうが、何となく今は自分で解決したいという気持ちに溢れていた。


「それでは、もうしばらく休んだら脱出しましょうか。ホムラ様に頼らずともそれくらいが出来なくてはこれからずっと足手纏いですので……!」


「一理あるね。ホムラが私の事は無下にする事多いけど、必要とされなくなったら嫌だもん。私達でもやれるんだって見せなくちゃ!」


 戦闘は主に、全てホムラが一人で終わらせている。それについて思うところがある二人。

 ホムラ自身はそれについて邪魔などと思っていないが、心境的に気になるのだろう。だからこそ二人だけで此処を出る。それが目的。

 セイカとトキ。人形にされるよりも前に二人は脱出を図るのだった。

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