63ページ目 簡易クエスト
「よっ。ホムラさん方。いきなりクエストかい?」
「正体を明かした俺を見ても何も思わないんですか。肝が据わっていますね」
「ハッハ! アンタらの性格は理解しているからな! 事実、こんなに失礼な態度を取っても殺そうとかしないだろ!」
「まあ、そうですね。後、別に失礼とは思ってませんよ」
「ハッハッハ! 相変わらず寛大だ!」
「は、はあ……」
──翌日、先に再建した酒場にホムラ達は来ており、また新たなクエスト依頼の一覧表を見ていた。
まだまだ数は少ないが、依頼自体はいくつかある。それが国からの依頼なら街の復興資金にもなるので建築だけではなく、そちらの方面の支援も出来ないかを考えて此処に来たのだ。
「取り敢えず、復興にも資金は必要……俺を匿ってくれてるんで外部からの手伝いは無くとも、この街だけの人件費と材料費は集めますよ」
「そうかいそうかい! んじゃ、テキトーにバーッとやって来てくれ!」
「ええ」
多くの報酬金が貰えるクエストは野盗や魔物の討伐。それは幾度と無く塾している事だが、戦争の休戦や闇魔法の使い手の存在もあり、今はあまり依頼に出ていなかった。
遠征などによって街の外で働いている者は居るが、今現在は常に警戒態勢になっているので野盗が襲撃する事も無いのだろう。返り討ちに遭うのが目に見えているからだ。
そして魔物の方だが、魔物は基本的に縄張り周辺に集う。いつ極悪人のシラヌイ・ホムラに出会すか分からない現状、危険な魔物の縄張り付近に行く人々も無く魔物達もリラックス状態にあるのだろう。
「今あるのは簡易的なものだけだな。ほら、見てみろセイカ。フウ、ト……おっと、取り敢えず皆。世界的犯罪者、シラヌイ・ホムラの報告をするだけで数十万フレイを手に入れられるぞ」
「そうですね。はした金です」
「うん。ホムラと引き換えなら国家予算クラスは欲しいかな。ホムラの手配取り消しと無罪と一緒にね」
「ま、私は国家予算規模を……って、私存在はホムラとはまた別方面で秘密だった」
「ホムラって何か悪い事したの~?」
「ゼッちゃん。ホムラ様は世界に宣戦布告をしているのです。だからこその指名手配でしょう」
「へえ~宣戦布告ってなに?」
「“これから戦争しよう”という事を言ったのです」
「じゃあ良い事なんじゃないの? 幸せな人増えるし!」
「フム……前の話、少し訂正した方が良さそうですね。ゼッちゃん。戦争自体は不幸な人が増えるんですよ。私達がやろうとしていたのは、戦争を止めてからですので、また別物です」
「うーん、よく分かんない!」
ある依頼は簡単な物。ホムラは自虐的な冗談を言い、セイカとフウが依頼者に対して辛辣に返す。トキはトキで世界的な犯罪者なので黙認した。
そしてゼッちゃんと執事だが、執事は改めて説明する。前のゼッちゃんなら前のやり方で良かったが、今のゼッちゃんには相応しくない方法なのでそれについて話したのだ。
「世界への宣戦布告……それは初耳ですね。流石はホムラ様。大きな器の持ち主です」
「そう言や、見ない顔だね。お姉ちゃん。メイドさんかい?」
「はい。私はホムラ様直属のメイドとなるべく“星の裏側”から遠路遥々──」
「はい、ストップ。ややこしくなるから言わなくて良い。主人、今街の人達は手が離せないし、俺に関する依頼以外の全部を受けるよ」
「お、気前が良いね! 流石は闇魔法の貴族様だ! 持ってけ泥棒!」
「私?」
「違う。……ありがとうございます」
街の人の事も考え、取り敢えず全部のクエストを受ける事にした。
メランが余計な事を言うのを止めた後にトキの言葉をスルーし、雑用のような依頼から戦闘もある依頼も全て受ける。
「じゃ、気ィ付けてなァ! 俺も街の手伝いに戻るぜぃ!」
店主の言葉に会釈し、ホムラ達はクエストに向かった。
またいつ街に襲撃者が来るかも分からないのでガルム達を残し、万全を期する。それに加え、分離させた闇の欠片を具現化させて残し、警報器のようなモノとしていた。
闇魔法は破壊のエネルギー。だが、その他にも闇魔法の解釈と表現によって様々な形へ変化させる事が出来る。今回は“感知”と“分離”を扱う事によって簡易的なセンサーとしたのだ。
早速ホムラ達はクエストを開始する。
「──じゃ、此処から此処までお願いね。ローブの人達!」
「はい。それなりに時間が掛かりますのでゆっくりと待っていてください」
「あら本当? それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかしら!」
王族や貴族程じゃないが、お金持ちのご婦人の庭の草むしり。
依頼人が後ろを見せた瞬間に大部分の草を闇魔法によって文字通り根こそぎ刈り取り、完了させる。
あまりに早過ぎるのは違和感がある。なのでゼッちゃんのコピーした催眠魔法によって屋敷の者達全員を洗脳し、数時間後に覚めるよう命じた。それなら気付いたら夕方であり、冒険者達は終わらせて帰ったのだろうと思わせる事が可能だ。
主な用途がホムラ達の認識阻害なので、基本的にご婦人や旦那。使用人達の仕事の邪魔にもならぬように調整させられている。
「家畜達が逃げちゃってね」
「捕まえました!」
「早っ!?」
牧場の、逃げ出した家畜の捕縛。
それはトキが時間を止め、至るところに網や罠を張り巡らせる。同時に時を動かし、逃げた家畜は何も分からぬまま先の網に掛かって捕獲を完了させた。
トキの手際の良さからトキ自身の体感は数分。ホムラ達にとっては一瞬で依頼が完了した。
「戦争は止まったのだけれど、怪我人が多くてね……」
「お任せ下さい!」
「私達に!」
「まさか……魔法使い様が協力してくださるとは……」
小さな病院に居る怪我人の治療。
こればかりは目の前で魔法を明かさなくてはならないが、人を助ける気持ちは変わらない。なので看護師もセイカとフウの言葉を聞き、指示に従ってテキパキと行動を起こした。
「いやぁ~。まさか使用人さん方が全員風邪を引くとはねぇ~。重病じゃないから良かったんだけどね」
「「…………」」
「……す、凄い手際の良さだね君達……。しかも片方は隻腕……」
まともな貴族の使用人手伝い。
どうやら使用人が病を煩い、誰も居なくなったので依頼したようだ。
それについてはその分野のエキスパートであるゼッちゃんの執事とメランが居る。二人は、二人だけにも関わらず複数人の使用人が行うであろう作業を迅速に塾していた。
皿洗い。湯殿の準備、掃除洗濯家事全般。一時間も経たずに終わり、頭を下げてホムラ達の元に戻る。
「そうだ。君達も一緒に──」
「いえ、まだ仕事が多くありますので。失礼しました」
「お、お気をつけて」
食事に誘われたが、届いていた依頼全てを受けていた。なのでまだまだクエストは残っている。
その他にも力仕事から事務業。多種多様の依頼を塾し、残り一つとなった時には既に夕方となっていた。
「最後のクエストは此処に来て初めて、久し振りの野盗討伐か」
「この様な状況でも悪事を働く野盗……ご苦労な事です」
「しかも、実害もちゃんと出してる……警戒態勢の国を相手に……ホムラ、これ、少し厄介な野盗かもよ」
「そうみたいだな」
最後に残ったクエストは、野盗の討伐。しかもそれは大国からの直々の依頼。
それが意味する事は、vsホムラに備えて国の態勢が形成されている現在にも関わらず悪事を遂行出来ているという事。それだけでかなりの力を有した野盗という事が分かる。
最低でも一人は上級魔法使いクラスの者が居る事だろう。
しかしながら、ホムラ達側は闇魔法の使い手であるホムラに中級・上級クラスのフウとセイカ。そして特殊な魔法を扱える“混血”のトキ。人類の敵を謳われていたゼッちゃんとその執事。そして人間よりも上位の位置に立つメラン。と、過剰戦力もいいところ。今回も問題無く勝てるだろう。
ホムラ達は依頼を今日中に終わらせる為、そこの目的地へと向かった。
*****
「此処が依頼の出た大国……で、目的地が彼処か」
高い木に登り、ホムラは遠方を見やって位置を確認した。
大国に入って情報を得る必要もあるかもしれないが、残念ながらホムラは大罪人。そのホムラの件があって入国審査は厳しいものとなっている。簡単に言えば入る前に身元の確認をさせられるので街に入った瞬間バレてしまうのだ。
こっそりと行く方法もあるが、基本的にホムラ達の拠点となる街以外はローブの着用も禁止になっており、最終的にはどちらに転んでも見つかってしまう。なのでさっさと目的地に向かったのである。
「ホムラ様。如何でしたか?」
「拓けた場所はあったな。多分そこが野盗の拠点……」
「……? どうしました?」
確認し、ある程度の特定は出来た。だが言い淀み、セイカは小首を傾げる。
ホムラはセイカ達の方に視線を向けて言葉を続けた。
「やけに発展してるんだ。その拠点。一つの集落になっている」
「野盗の拠点が……? 確かに不思議ですね……」
野盗の拠点と思しき場所が発展しているという事。
一聞だけなら変じゃないが、考えれば変だという事が分かる。
言ってしまえば野盗というものは、国や住民に迷惑を掛ける悪人の集い。手配されれば国によって直々に始末される存在である。
だからこそ、襲撃する時以外は基本的に身を潜めている。睡眠や食事などのような無防備な時に攻め込まれたら成す術無くやられてしまうからだ。
しかしながら、此処から見える野盗の集落は国から手配されているにも関わらずかなり発展している様子。
それはつまり、国によってその存在を黙認されているという事になる。
だが、その存在が許されているならば国から手配される事もない筈。疑問は多々あった。
フウも話に入り、ホムラの方に視線を向けて話す。
「どうする? ホムラ。ホムラやセイカ様、トキさんのように顔や身分がバレていない私やメランさんで街の方に事情を聞いてみる?」
それは、やはり詳しい話を聞いた方が良いのではないかと言うこと。
辻褄が合わない現状、手探りで行動を起こすのは危険が多い。フウの意見は尤もである。
それを踏まえた上でホムラは首を横に振った。
「……。いや、このまま行こう。俺達なら、まあ人類の敵でも相手じゃなけりゃ余裕を持って進められるからな。それに、集落の形を成しているならわざわざ街の方に行かなくても情報くらいは手に入る」
「そっか。分かったよ。ホムラ」
自分達なら特に問題無いと判断した上での言葉。
それは自分の力、というより闇魔法に自信があり、仲間も信頼しているから。
まだ謎は多い集落。ホムラ達は気にせずそこに向かった。




