59ページ目 後始末
「ありがとうね……お嬢ちゃんも貴族なのかい?」
「……ううん。ボクは追放された身……その……ごめんなさい……」
「何で謝るのかしら? 私を癒してくれたじゃない……」
「だって……。うん、そうだね……」
──それから数時間後、入れる人数は屋敷へと入れ、王族、貴族という事を明かしたセイカとフウ。そして回復魔法を物真似したゼッちゃんが人々の治療をする。
ホムラ、トキの二人は近隣の森にて食材となる木の実や魚、動物などを狩り、まだ生きている傷も軽い専門職の手伝いの元、食事の提供をした。
おそらく住人達は昨日から飲まず食わず。なのでほんの少しでも与えているのだ。
逆に丁度良い可能性もある。食事は一日でも抜くと胃が拒否し始める。なので軽い物の方が負担は少ないだろう。
「さ、寒い……」
『バウ!』
『ボニャア!』
「あ、温かい……」
「の、ノドがカラカラだ……」
『ワウル!』
『ニャアブ!』
「み、水だ……いつの間に……君達が用意したのかい? 一体どうやって……けど、ありがとう」
そして当然、ガルム達も協力している。
ガルムは異能を使えないが人間の感情を理解している。なので何をして欲しいのか分かり、寒さで震える者にはカエンの火を。喉の渇いた者にはスイレイの水を。それぞれ指示を出して労る。
カエン達はまだ簡易的な力しか扱えない。しかしそれが逆に功を奏し、心身共に弱っている人々を癒す事が出来た。
『ニャビュウ!』
『ニャゴン!』
「か、かあいい……」
「何これ……癒される……」
……そして、メンタルケア的な役割も果たしている。貢献度はかなり高いだろう。
「食事の用意が出来ました! 配給まではまだ掛かりそうなので、簡易的な食事を摂りましょう」
「「「おおお……!」」」
そして、ホムラ達が戻って来る。
山積みになった食料。やはり森にはそれらが豊富である。
その手の専門職も居てくれたので毒の有無なども分かり、綺麗な水も用意出来た。
人々は感謝し、涙を流す。
「ありがとうございます……ローブの冒険者様方……!」
「この御恩は一生忘れません……!」
「大袈裟ですよ。元々、俺達はあの街の皆様にお世話になっています。名も無き俺達を受け入れ、クエストや衣服。食料などを与えてくれました。巡り巡っての恩返しを俺達がようやく出来ただけです。これでもまだ返し足りませんからね」
この街の面々には世話になっている。なのでそれの一部を返しただけ。
実際、この一週間と数日で提供してくれた物を考えればこれでも足りないと思える。良い意味での因果応報がやって来ただけである。
街の生き残った者達が食事を摂る中、ゼッちゃんはホムラの側にやって来てローブの袖を引っ張った。
「ホムラ……全部ボクがやった事なのに……ボクが悪いのに……みんな、“ありがとう”って……どうしたらいいのかな……ボク、どうしたら」
「……。このまま、今のままで良いんじゃないか? 自分の罪を実感し、その償いの為に行動を起こす。この世界じゃ戦争による死者は毎年一千万人を軽く越える。世界人口の一割が毎年死んでいるんだ。俺達は救世主や正義の味方じゃないけど、世話になった人達くらいは助けたいしな。ゼッちゃんもそうすれば良い……まだまだ幼いから、一生掛けて償えば最終的には救った人数の方が多くなる筈だ」
「そうかな……不安だよ……だってボク……この世に居ちゃダメな存在だもん……今からでも姿を見せて……みんなの前で死んで償わなきゃ……人類の敵が生きていると優しい人達を不安にさせちゃうし……」
「…………」
ゼッちゃんは、メンタルが強いようでそうではない。既にボロボロである。ボロボロだからこそ躊躇いなく人殺しを行った。ボロボロだからこそ前向きに見える。
そんなゼッちゃんの言葉を聞き、ホムラは街の住人達の前に立つ。
「ホムラ……?」
「……? おや? ローブの冒険者さんじゃないか」
「一体なんだ?」
「……?」
ゼッちゃんが小首を傾げ、街の住人達が会話を止めてホムラに注目する。
近辺に居た生き残りの殆どは此処に居る。それなら頃合いだろうと、ホムラはそのローブを外した。
「……!? あ、あの人は……!」
「え!? まさか……!」
「あの顔……手配書で……!」
その顔を見、驚愕する。
黒い髪に顔半分を覆う火傷の痕。その特徴は最近大きく話題になっており、もはや全人類が知った存在。世界的大犯罪者にして世界に戦争を吹っ掛けた極悪人。シラヌイ・ホムラ。
ホムラは質問されるより前に人々に向けて言葉を発した。
「昨日街を襲撃した“人類の敵”、“絶望の象徴”は俺が闇魔法で殺した!」
「「「……!?」」」
「ぇ……?」
話したのは、絶望の象徴の処理について。
人々は言葉を失う程に驚愕し、当のゼッちゃんは小さく声を上げる。
その反応を余所にホムラは言葉を続けた。
「だからもう、この街……いや、世界に絶望の象徴が現れる事はない。少なくともアナタ達は安心して暮らせる訳だ」
「どう言うことだ……?」
「世界的指名手配犯が人類の敵を……?」
「ローブの冒険者は貴族に王族……そしてあのシラヌイ・ホムラだったのか……」
「確かに人類の敵を倒せる説得力はある……」
「ずっと潜伏していたという事か……」
反応は全てが困惑。しかし次第に情報が纏まっていく感覚はあった。
ホムラは更に話す。
「そこでアナタ達に聞きたい。この俺をどうするかをな。街から追い出したいならそれを言ってくれ。抵抗はせずに出ていく。街に残っても良いなら今までみたいに過ごす。すぐじゃなくて良いけど、なるべく早く決めてくれ。俺のせいでアナタ達が苦労を背負う必要は無いからな」
「「「…………っ」」」
「ホムラ様……」
「ホムラ……」
ホムラの質問に街の住人達は口を噤み、セイカ達がそんなホムラを心配そうに見やる。
住人達の間ではちょっとした会議が開かれていた。
「ど、どうする?」
「どうするったって……あの世界的大犯罪者のシラヌイ・ホムラだぞ……」
「けどローブの冒険者様でもある……!」
「ああ。事実、絶望の象徴を討伐し、我らの治療。食事などを与えてくれた」
「懐柔する為の作戦かもしれない」
「世界に宣戦布告をしているからな……」
「けど、近辺の戦争は終わったぞ……」
「終わってなどいない……一時的な休戦協定だ」
「一体どうすれば……」
その話はまとまらない。当然だろう。世界的指名手配犯。絶望の象徴。それらが戦って絶望の象徴が死亡した。理解するには様々な事が起きすぎている。
急かす方が無茶なので、ホムラも早めに決めて欲しくはあるが取り敢えずは返答を待機していた。
「……。も、目的とかはあるのですか……? ホムラ様。まずは貴方が何を考えているのか、それを知りたい」
「成る程。そう来たか」
ホムラの考え。それを知る事によって判断を決めるとの事。
確かに一理ある。一方的な質問は相手に不快感も与える。質問者が何を考えているのか分からなければ尚更だ。より警戒心を煽ってしまう。
だからこそ自分の腹の内を明かすのは必要である。
「まあ、目的は“人類の敵”の一人……“虚無の境地”の討伐だな」
「虚無の境地……しかし、虚無の境地はホムラ様の命令で火の系統を襲撃したと聞きます。何故仲間を倒そうと……? 用済みだから始末するとかですか……?」
「回りくどいのは好かないから言っておくよ。俺は冤罪だ。最近世界に宣戦布告はしたけど、火の系統を全滅させて王族を攫った訳じゃない。信じてくれるかは分からないけどな」
「それについては私も同調します! 私は自分の意思でホムラ様に着いてきたのです!」
「だってよ……」
「しかし……」
「セイカ様がそう言っているんだ……」
「催眠魔法による洗脳かもしれない……」
「いや、正気な筈だ……」
目的を言い、冤罪という事も話す。
それに対してセイカも話、周りの住人達にはザワめきが起こった。
しかしそれは止み、いつも寄ってる酒屋の店主が笑い掛けた。
「ハッハッハ! 俺ァ兄ちゃんを信用するぜ! 怪我も治してくれたし、飯も食わせてくれたからな! てか、別に利用価値もねえ俺らをこの場で殺さず助けた時点で俺達にどうこうしようとか無いんだろ!」
「店主」
「マスター」
「それに、俺をマスターと呼んでくれる可愛い嬢ちゃん……っと、セイカ様も仰ってるからな!」
「そんな……構いませんよ。私は」
最初に同意してくれた。
ホムラ達を一番間近で見、その様子から大丈夫と判断したのだろう。
そんな店主に続き、街の人々も名乗り出た。
「そうだな。噂通りの奴なら俺達を助ける義理は無い筈……俺も信じる。いや、街に残っていてくれ!」
「そうよ! 絶望の象徴を倒してくれたなら尚更……それに、他の人類の敵を倒そうとしているんだもの」
「アナタ方が悪さをするようにも思えないしな!」
「よく言うぜ。警戒していた癖によ!」
「お前こそ!」
「「ハッハッハ!」」
流れるように、ホムラ達の滞在を賛同する。
この街でのホムラ達の活躍は住人達が知っている。友人や恋人などを助けられた者も居る。今までの行いがまた巡り巡って受け入れてくれるのだろう。
「えーと……そうか。分かった。じゃあ残るとするよ」
礼を言いたいが、先程の態度などもあって言いにくい。なので誤魔化すように話した。
ホムラは冤罪と実罪の両方によって追われる立場だが、どうやらこの街の住人は受け入れてくれるらしい。ありがたい限りである。
話を終え、再び周囲は食事に移る。ホムラはゼッちゃんの近くに行き、頭にポンッと手を置いた。
「これで絶望の象徴は死んだ。もうみんなは不安にならない。ゼッちゃんはゼッちゃんだ」
「……っ。うん……! ありがとう……」
ホムラが名乗り出る事によって絶望の象徴は世間的に死んだ事となる。これでもう、ゼッちゃんの不安は解決した事だろう。
これにて、絶望の象徴の騒動は一先ず幕を下ろす。しかしながら、まだシラヌイ・ホムラ対策に世界が動いているので難しいところ。それに加え、神や魔王。神話の存在についての懸念もある。
「それじゃ、俺達も行くか」
「うん……!」
しかし、今はそれを言わない。何れ来るのは分かっているので、今のうちだけでも楽しんだ方が良いからだ。
ゼッちゃんはホムラの手をギュッと握り、ホムラはあまり表情を表に出さずともその小さな手を優しく握り返した。
小さな騒動と大きな騒動。そのうちの一つに一段落付く。目的まではまだ遠い。しかし後は流れに身を任せて行くだけ。
ホムラ、セイカ、フウ、トキの生活。そこに人類の敵である“絶望の象徴”ことゼッちゃんとその執事が加わった。
どうやらまた、今の生活が賑やかになりそうである。




