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5ページ目 将来

「さて、魔物はどこに行ったと思う?」


「性質上、人間は襲おうとするだろうからね。けど、人が多い学校方面には魔除けが張られている」


「て事は学校以外で人の匂いが強い街の方か。まあ、街に魔物は入れないけど、方角はそっちって考えた方が良いな」


 サバイバルが開始され、ホムラ、フウ、スイ、リクの四人はいつも通りチームを組んだ。

 ホムラが訊ね、スイが推測を唱える。ホムラ達の中でも、より知能が高いスイだからこそ既にある程度の検討は付いているようだ。


「じゃ、早速向かうか」


 居場所の、大凡おおよその特定は終えた。なのでホムラ、フウ、スイ、リクの四人はその場所へと向かう。

 今回の授業は魔物を捕獲、または討伐した時点で終了。求められるのは殺生。どちらにせよあの魔物は仕留めるのが前提。

 逆に、自由を得た今、魔物は人を殺す事だけを考えている筈。普通の獣なら怯えてやむを得ず人を襲う事もあるが、魔物に対しては絶対にそれが適応される事は無いだろう。


『ギャアァ!』

「……! 待ち伏せ!? やっぱり魔物ってのは知能が高いな……!」

「そうだね……! もう既に何人かやられちゃってるみたい……!」

「息はあるから大丈夫そうだな……」


 ホムラ達が居場所を特定した場所へと向かう道中、茂みに潜んでいた魔物が鋭い爪をもちいて斬り掛かった。

 ホムラ達四人はそれを避け、杖を構えて向き直る。見れば茂みの奥には血を流して弱っている生徒がおり、生きているが重傷のようだ。

 推測するなら生徒達は不意討ちを食らい、その直後にホムラ達がやって来た。その事から考えるに、獣は後でゆっくり食すつもりだったようだ。


『ガァ!』

「様子見する暇すらないか……!」


 向き合った瞬間、既に魔物はホムラの眼前へ迫っていた。

 それも飛び退くように避け、魔物の死角からリクが仕掛ける。


「詠唱する時間もねえ!」

『……!』


 杖の先に土塊を生み出し、それを鎚のように振り下ろして攻撃。魔物は一足早くに感付いて飛び退き、その毛を逆立て、そのまま針のように撃ち出した。


「遠距離持ちか……!」

「黒針獣だからね……!」


 魔物の名、黒針獣。

 持ち合わせる殺傷能力はその名が示す針のような毛と鋭い爪に牙。動物特有の感性の鋭さもあり、全体的に見て“鋭い”魔物だ。


「この魔物が大した事無い扱いか。先生はやっぱり凄いな」


「私達も、せめて中級魔法くらいは身に付けなきゃだね……!」


 まだ中級魔法の勉強中であるホムラ達にとって、黒針獣は強敵。同年代の中では抜きん出た成績を誇る四人だが、やはりまだまだのようだ。

 だが、四人ならばこの強敵も抑え込む事が出来るのも事実。


「こういう時は、俺が足止めすりゃ良いんだな! “ランドウォール”!」


『……!』


 その瞬間、ホムラ達の中で随一の身体能力を誇るリクが駆け出し、そのまま加速して呪文以外を無詠唱で唱え、土魔法の壁を生み出しながら警戒する黒針獣の周囲を囲んだ。

 土魔法は魔法の中でもより物理的な力に長けている。なので動きを絞らせたり拘束したりな事が得意なのだ。

 加えて、知能があるとしても所詮は獣。直接的な攻撃でなければまず動かず、様子を窺うのが当たり前だろう。


『ギャオ!』


 土の壁を理解し、黒針獣はその壁を得意の毛と爪で破壊しようとする。


「黒針獣の肉体的な構造……毛や爪は……成る程ね。水で少しは柔らかくなるかな!」


『……!』


 しかし、他の三人よりも知能面で長けているスイが無詠唱の水魔法をもちいて黒針獣の武器を柔らかくした。

 人も風呂に入ればふやけて爪が柔らかくなったり、髪が垂れる。基本的な構造はたんぱく質なので、土魔法の壁で水が溢れなければ水魔法で封殺する事も可能だろう。

 更に言えば、水の浮力と圧力によって自由が利かず、脱出も難しくなっている。


「今がチャンスだ! フウ!」

「うん! ホムラ!」


 黒針獣の身体能力ならそれでも脱出を図る筈。それを阻止する為、ホムラとフウが黒針獣を見下ろせる木の上に登り、杖に魔力を込めた。


「──火の精霊よ」

「──風の精霊よ」


 互いの詠唱。火と風の力が杖に集まる。


「「その力を我に与え、獣へ放出せよ!」」


 構えた杖を上へと掲げ、そのまま黒針獣へと指し示す。


「“ファイアボール”!」

「“ウィンドボール”!」

『──!』


 火球を風球が包み、威力を増大。

 炎は風によってより一層、大きく燃え上がる。その摂理は魔法でも変わらない。

 実質的な大きさが中級魔法程となった火球は水魔法の水を蒸発させ、黒針獣の身体を乾かし、そのまま焼き尽くして土の壁が釜のような役割を果たす。

 土の壁があるからこそ、火は逃げず、周囲の森に広がる事もない。完璧な戦い方だった。


「よし!」

「イェイ!」


「やったな!」

「そうね」


 ホムラとフウ。スイとリク。互いに助け合った二人でハイタッチをし、その後に四人全員でハイタッチをする。

 授業の一環だった魔物討伐。成績優秀な四人の手によって、それは早いうちに終わるのだった。



*****



「よし、今日の授業はここまで。負傷者は三人。後で治癒魔法を掛けるとしよう」


 黒針獣討伐の報告を終え、今日の授業が全て終わった。

 治癒魔法があるので多少の傷は問題無く治る。なので過酷な授業も親達には容認されており、生徒達も合意の上で執り行われている。

 WIN.WINな関係かどうかは分からないが、貴族と学校はそれなりに上手く付き合っているようだ。


「今日は実技が中心的だったが、明日は座学を中心として執り行う。今日の事はしっかりとまとめ、明日に備えて身体を休めるように。以上!」


「「「はい」」」


 明日行われるのは実技以外の授業。授業は二日しかないのでバランス良くおこなっている。

 そして実技の日は大体その場で解散。他の生徒達はそれぞれ去り、ホムラ達も学校を出る事にした。


「それでは、ホムラさん、フウさん、スイさん、リクさん。さようなら」


「「「お疲れ様でした」」」


「ハハハ……ああ、さよなら」

「じ、じゃあね」

「アバヨ」

「また明日」


 そして、まるで上流階級を相手にするかのような挨拶をされ、ホムラ達は苦笑を浮かべながら返答した。

 何度も言うように今の時点では階級が同じ。やはり慣れないものは中々慣れないものである。


「さて、これからどうする?」

「街は……居心地悪いからいつもの場所に行こっか」

「賛成だ」

「ええ、同意するわ」


 学校終わり、ホムラ達は今後の行動を考え、結局穏便に過ごす為巨大な切り株がある人通りの無い場所へ向かう事にした。

 ある種の秘密基地。他の者達に感付かれない範囲で警戒し、四人は森の方へと向かった。


「やっぱり落ち着くな。ここは。何度来ても良いや」


「静かな森の雰囲気と寝転がれるスペース。これだけで十分だね」


「だな。眠くなっちまうぜ」

「ふぁ……私も……けど身体が冷えちゃうわ……」


 切り株に四人が足を垂らして寝転がり、空を眺める。

 ここには人が来ず、森の中なのに魔物や他の動物も来ない。街では悪目立ちし、屋敷でも少し気が滅入る四人の唯一落ち着ける場所だった。

 街はともかく、四人の屋敷。それは悪い意味で気が滅入るのではなく、ホムラのように深い愛情を注がれるので疲れるのだ。何なら系統が違う他の三人が一人の家に来ても歓迎されるだろう。四人的には自分達が居ない時くらいは使用人達も休んでいて欲しいので家に帰るのは少し遅くしているのである。


「……ホムラ様。早く帰って来ないでしょうか……」

「何ならお友達を連れてきてもよろしいのに……」

「はぁ……お世話したいですね……」


 もっとも、使用人は使用人で落ち着いていないようだが。


「なあ、フウ。スイ、リク」

「「「……?」」」


 そんな、切り株の上でのんびり過ごす中、ホムラが言葉を発した。

 フウ達三人は小首を傾げながらホムラの方を見やり、更に続ける。


「フウ達も真名を持っているんだよな? それってやっぱり、俺達くらい仲良くても明かせないのかな?」


 それは、真名について。

 ホムラの本名は、ショーラルク・ヌル・イースクラ・ホム・ライト・フラム。それを短くし、シラヌイ・ホムラとなっている。

 本名どころか、ホムラがフラム家という事すら隠しているのだ。それはあくまで隠名の中であり、ホムラがフラム家という事は知られているが。

 だからこそ、フウ達の真名が知りたくなったのだろう。


「私も持ってるけど、明かせないんじゃないかな。お父さんとお母さん、基本的に優しいけどそれだけは駄目って言われてるし」


「俺も似た感じだな」

「私もね。と言うより、貴族としての在り方だもの」


 フウ、リク、スイが順に話す。

 どうやらホムラと同じように名を持ってはいるが、貴族という立場上、絶対に明かせないようだ。


「やっぱりそうか。名を明かせるのは家族と将来的につがいになる人にのみ。明かしたらその時点で結婚しなくちゃならないからな。別に俺的にはそれで良いんだけど」


「私もホムラが良いけど、来年か再来年には同じ系統の政略結婚相手が紹介されるだろうし、難しいかな。何故か同じ系統としか結婚しちゃ駄目なんだよね」


「俺もそろそろその時期だな。面倒臭えぜ」


「それが貴族のしきたりなんだから。仕方ないでしょう。私も出来る事なら昔から知ってるホムラかリクが良いけど、水の誰かがそのうち紹介されるわね」


 貴族に置いて、“恋愛”というものは存在しない。

 系統の血をより濃く受け継がせる為にも親戚とはまた違った同系統の者と将来的に結ばれる事を定められているのだ。

 基本的に相手が紹介されるのは13歳で、遅くとも14歳までには紹介され、15の成人と同時に契りを交わし、独立する。

 なのでホムラ達が言うような、出来れば他の二人と夫婦関係になりたいというのには深い意味が存在しない。結婚し、子孫を残す事は貴族ならば誰にでも訪れ、当たり前となる事だからである。

 ホムラ達にとっては食事をする事と同じようなもの。“当たり前”をわざわざ深く考える事もないだろう。感覚で言えば“今の関係”の延長線でしかない。


「じゃ、しょうがないな。将来俺に子供が出来たらフウ達の子供と仲良くさせたいな」


「それは私も同じかな。夫が許してくれるかは分からないけどねぇ」


「そう言や、相手の事があったな。俺の妻はそれを許してくれるのかどうか……何とか説得してみるか」


 今の関係は変わらない。それが四人の考え。だが、今の四人の両親達のように、ホムラ達の相手となる者達が子供同士の付き合いを認めてくれるかは分からない。

 基本的に貴族とはそう言う風に育てられるので、四人が結婚すればもう四人が会えなくなる可能性の方が高かった。それを理解した上で、四人は将来的にもなるべく仲良くしたいと考えている。


「ま、将来の事は今は関係無いか。俺達は俺達で過ごそう」


「現状、やれるのはそれだけだもんねぇ」

「ああ、同感だぜ」

「そうね。今は今を楽しみましょうか」


 真名の件は有耶無耶になった。四人もそれ程深くは考えていない。今はただ、残り少ないかもしれない四人一緒に居れる時間を過ごすだけ。

 ホムラ、フウ、スイ、リク。四人は切り株の上でのんびりと過ごすのだった。

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