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58ページ目 罪の重さ

「起きたはいいけど、まだ夜も遅い時間だ。寝ててもいいんだぞ? 四人とも」


「いえ、大丈夫です。2~3時間程眠りましたから。仮眠のようなものですよ」


「そうそう。バッチリだよ。私達!」

「私もいつでも盗めるよ!」

「えへへ……起きてみんながいるのって良いね」


 セイカ、フウ、トキ、絶ちゃんの四人はホムラの事もあってこのまま起きるらしい。

 何時間も眠っていたホムラはともかく、セイカ達はその半分以下しか眠っていない。その身を案じるが、大丈夫との事。

 そして短い睡眠時間だとしても、寝起き直後に完全に目が覚めてしまえば数十分は眠気が無くなる。無理に眠る事も出来ないだろう。


「……それじゃ、少し話すか。執事さん。まだ絶ちゃんについて聞きたい事があるんだ。いいか?」


「ボクについて?」

「ええ。構いませんよ。絶ちゃんのお仲間となるのならば、私はアナタ様方に協力致します」


 このまま起きても何もする事が無い。

 セイカやトキ的にはホムラとヤりたい事もあるだろうが、流石にまだ幼い絶ちゃんの前で行為に及ぶ訳にはいかないだろう。

 なのでまだある、絶ちゃんについての疑問を訊ねた。

 それは昼間の会話と同じく絶ちゃんには難しい事なので執事に聞いたのだ。

 了承を得、ホムラはベッドにて半身を起こしながら質問をした。


「“人類の敵”だけど、絶ちゃんもその一人。それにしては幼過ぎる。神話や伝承の存在なのも考えて、もしかして“人類の敵”って世襲制なのか? ……いや、血縁とか明確な立場とかは無いし、それは少し違うな。前任者が居なくなると自動的に生まれるのか……の方がまだ分かりやすいな」


 それは、“人類の敵”の在り方について。

 絶ちゃんは明らかに幼い。見た目がそのままで年を重ねたようにも思えない。本当につい数年のうちに産まれた存在なのだろう。

 だからこその疑問。神話や伝承は少なく見積もっても数千年以上の歴史がある。それは人類がすがる神のような存在を文明を持った直後に生み出したからだ。

 何故まだ幼い少女が“人類の敵”である“絶望の象徴”を謳われ、本人も理解した上で相応の知名度を誇っているのか。それが気になっていた。


「成る程。そこに着目しましたか。単刀直入に申しますと、私にも分かりません。私は“絶望の象徴”だから付いているのではなく、絶ちゃんだから付いているのです。期待にお答え出来ず申し訳ありません」


「そうか。いや、いいよ別に。それじゃ、絶ちゃんはいつから絶ちゃんなんだ? “絶望の象徴”はあくまで異名。元々貴族だったなら真名もある筈……まあ、真名は知らなくてもいいとして、仮の名もあるんじゃないか?」


 絶ちゃんがいつから“人類の敵”なのか。そもそも“人類の敵”は過去にも居たのか。それについて訊ねるが、やはりと言うか分からないらしい。

 深く知らないのは別に変じゃない。それについては納得し、続くように絶ちゃんの“絶望の象徴”以外の名を訊ねた。


「そうですね……少し困るところですが……如何致しますか? 絶ちゃん」


「うーん、別に良いよ。彼らならね! だってボクの初めての友達だもん! 一緒に暮らすんだから家族みたいなものでしょ!」


「かしこまりました。では、闇魔法の使い手……いえ、ホムラ様。セイカ様。フウ様。トキ様。心してご静聴下さい」


「なんだよ改まって……別にいいけど」

「は、はい。私も大丈夫です。今から何を言われるのかは不安ですけど……」

「私も多分大丈夫……かな」

「私もオッケー。何を話すの?」


 “絶望の象徴”以外の名。それについて話すのは困るとの事。

 しかし絶ちゃんの許可が降り、ホムラ達もただ事ではないと理解し、絶ちゃんと執事に向き直った。

 執事は言葉を続ける。


「──ティーザ・ラート・エヴリ・ゼッル・イミテント・リーベ・コピル。それが絶望の象徴こと、絶ちゃんの名前です」


「……!」


 そして教えられたのは、まさかの真名。

 仮名ではなく、知られてしまえば様々な悪影響をもたらす事にもなりうるものである。

 執事は言い難そうに言葉を続ける。


「絶ちゃん……改め、ゼッちゃんには仮の名がありません。存在するのは真名のみ……これが意味する事は、貴族や王族であらせられるアナタ様方は分かりますね」


「……。ああ、分かったよ。ゼッちゃんの境遇を思えばそうなんだろうなって事にもなる。産まれる前からゼッちゃんが普通じゃないのは両親も分かっていたみたいだからな」


「ええ、その通りで御座います」


「ボクの事を思って仮名を付けなかったんだよねぇ~」


 当のゼッちゃんはこの様に言っているが、おそらく真相は真逆。親から大事にされていなかったからこそ仮名も付けられなかったのだろう。

 真名を知られ、悪用されようが殺されようが知った事ではない。なので真名のみを付け、利用されるのを待っていたのかもしれない。

 その前にゼッちゃんの真名を知る者は本人の善意によって皆殺しに合っている。だからこそ、この世にその名を知っているのはゼッちゃん自身と執事だけなのだろう。


「……っ。ゼッちゃん……!」

「わぶっ……なになに? どうしたの……えーと、セイカ!」


 それを聞き、セイカはゼッちゃんを抱き寄せた。

 ゼッちゃんは驚いたようにセイカへ返し、セイカは優しく頭を撫でて涙を流す。


「大丈夫です。ゼッちゃんは私達が守ります……。安心して共に過ごしましょう……」


「なんなのー? けど、何だろうこの感じ……パパとママには無かった……なんか安心する感じ……」


 セイカに抱き寄せられ、今まで見せなかった年相応の顔を見せて目を閉じる。

 眠った訳ではない。包まれた事で安心感を覚え、身も心も落ち着いているのだろう。

 その光景を見、執事は言葉を続けた。


「どうやら杞憂だったようです。アナタ様方は名前の利用などをするようには思えない……要らぬ心配でしたね」


「そうでもないさ。あ、名前を利用するって事じゃなくて、口先だけでの友人だ。まだ出会って数時間……俺の場合は実質出会って数十分。ほとんど戦っていた。警戒するなと言う方が無理な話だ。そもそも俺自身、セイカに同意しただけで戦闘を続行するつもりだったからな。喧嘩両成敗と行こう」


「そう言って貰えると有り難いですね。しかし、本当によろしいのですか? ゼッちゃんはアナタ様方の知り合いを殺めた。それを許すと言うのは違和感すら覚えます」


「完全には許していないさ。だから、明日は取り敢えず教育をする。暴力とかじゃなく、倫理観の教育をな」


「フム……危害を加えるつもりは無し。私もしかと見届けましょう」


 野盗に襲われた村の女性と子供達。そしてこの街の気の良い人々。仇であり、完全に許す事が出来る訳でもない。

 だからこそそれについての考えがホムラにはあった。

 執事はゼッちゃんに危害が及ばないのを理解し、それを見届ける事とする。

 夜も遅い時間帯。ホムラ達は自然と眠くなるまで真面目な話と他愛ない話をし続けた。



*****



「これからどこに行くの? ホムラ」

「ちょっとした勉強だ。まあ、勉強は嫌いみたいだけど、ゼッちゃんが思っている事じゃない」

「勉強……? けどボクが思っている事じゃない? 何それ」


 ──翌日、ホムラ達は屋敷から外に出て崩壊した街の方へ向かっていた。

 ゼッちゃんと執事には、最悪顔を見られても問題無いセイカとフウのローブを掛け、ホムラとトキもローブで隠して向かう。

 留守番はガルム達。結局昨日の戦いには参加しなかったが、参加するよりはしないで済む方が良いのでそれについては問題無かった。

 そして、ホムラ達は目的地である街に着く。そこにあった光景は──


「うぅ……何で死んでしまったの……」「わーん! パパー! ママー!」「貴方ぁ……」「妻よ……俺を置いて逝かないでくれ……」「親父……何で……」

「息子よ……」「うぅ……この子の未来が……」「嗚呼……もう一度……もう一度だけでいい……娘と……話をしたかった……」

「クソッ……何で人類の敵がこの街に……!」

「うわーん! 痛いよー!」「男の子だろ……泣くな……」「お腹空いたよー!」「我慢しろ……世界各国の戦争が一時的に止まっているんだ……配給がある……」「こんなに苦しいなら……いっその事殺して楽にしてくれ……!」


「──これは……」

「……。ゼッちゃん。君がやった事だよ」

「ボクが……」


 ゼッちゃんに見せた光景は、争いによって出た大量の死者と怪我人。

 食料も無くなって空腹が街を包み、ゼッちゃんよりも幼い子供の泣き声も聞こえる。

 泣いているのは子供だけではない。大切な者を失った大人達。我が子を失った両親。様々な苦痛が広がっており、ゼッちゃんはその光景に気圧けおされた。

 ホムラは言葉を続ける。


「……。多分、ゼッちゃんは滅ぼした場所をもう一度見る事はしなかっただろうな。自分が偽りの幸福を感じているうちに去るからだ。ゼッちゃん。君がやった事はどうやっても拭えない事柄。君に怨みを持つ人も大勢居る。今までは全滅させたから逆に怨みは買わなかったかもな。けど、これは君がやったんだ。君が人々を悲しませている」


「そんな……だって幸せなのはいけない事だから……みんなから幸せを取ってあげる為に……」


「違うんだ。幸せはあった方が良い。昨日君が言ったように、大切な人が居なくなると悲しみに溢れる。それを楽しむ変人も世には居るけど、君の感性からして今の光景はどう思う?」


「……。可哀想……他の人の幸せは見たくない……ムカムカする……けど、他の人が泣いているのも見たくないかも……」


「……。やっぱり、君の感性は異常じゃなかったか。教育の問題。あくまでそれだけ。君は今からでも、本当に優しい子になれるよ」


「そうかな……だって……ボク……今まで沢山の人を殺したよ……殺して殺して……殺すのが楽しかった……幸せだった……なのに……」


「この光景を見て涙を流せる。まだ手遅れじゃない。君はまだ」


「うぅ……ホムラぁ……!」


 ゼッちゃんは抱き付き、自分の罪を実感し、泣きじゃくる。

 子供だから仕方無い。周りが原因だから仕方無い。そんな事は絶対に許されない。

 だが、不幸中の幸いか、この世界ではまだ許される可能性もある。それはこの世界が争いに満ちているから。戦争では善人だろうが悪人だろうが多く殺した者が英雄になる。その名誉を保ちながら天寿を全うした者も少なからず居る。

 国の為の殺人と趣味による殺人は違うが、ゼッちゃんの場合は趣味と言うより善意の殺人。その感性がほんの少しずれるだけで今からでもやり直せるのがこの不平等かつ理不尽な現実だ。


「──火の精霊よ。その熱を癒しに変え、人々を治療せよ。“ホットヒール”」


「「「…………!?」」」


「──風の精霊よ。その風を用いて人々の痛みを吹き払え。“ヒーリング”」


「「「…………!?」」」


 ホムラとゼッちゃんが話している時、セイカとフウが回復魔法を使い、今生きている人々を治療した。

 完治はしていないが痛みは一気に引くだろう。


「あ、貴女は……貴族様!」

「貴女はいつぞやの王族……!」

「な、何故我々の治療を貴女様方が……!」


「人を助けるのに理由が要りますか? わたくしはそうは思いません。他の貴族や王族は分かりませんが、少なくとも私達は放っておけませんので」


「あくまで今回の治療は応急処置です。此処には建物も少ない……どうぞ私達の屋敷へ。僅かながら食事も提供致します」


「「「おぉ……」」」


 人々から希望と歓声のような声が上がった。

 絶体絶命の現在に現れた上流階級。普通の貴族や王族になら汚い。見苦しい。さっさと死ねとトドメを刺されるのが関の山だが、セイカ達は違う。

 その案内の元、住人はホムラ達の屋敷へと向かう。


「ゼッちゃんはしばらくローブを外さない事。顔を見られている可能性は高いからな。此処で現れたら恐怖されるか罵詈雑言をぶつけられる。最悪、殺される」


「……けど……ボクがした事だもん……ボクも何かしなきゃ……ボクが彼らに殺されなきゃ……ボク……人類の敵だし……」


「そうなったら友達が悲しむだろ。……そうだな……なら、回復魔法をコピーして住人達の治療を手伝うんだ。多分今まではそんなものを見た事が無かっただろうけど、セイカ達の治療を見ていた君なら使えるかもしれない」


「ボクが……。……うん、分かったよ。ホムラ。ボクもやってみる……ボクのせいでこうなったんだもんね……ごめんなさいしなくちゃ……!」


「おっと。ローブは外すな。謝罪もしなくていい。バレたらその方が問題だ。回復にだけ専念するんだな」


「わ、分かった……」


 ゼッちゃんに言い聞かせ、今は生きている人々の回復に専念させる。

 それが今出来る精一杯の償い。

 ゼッちゃん自身は自分の命を以てしての贖罪しょくざいを求めているが、それは阻止する。

 勧善懲悪を掲げたホムラだが、ゼッちゃんの場合は何度も述べるように善意からの行動。なので対象外となっているのだ。

 ホムラ達とゼッちゃん。ホムラはゼッちゃんに改めて罪を実感させ、一先ず街の住人達を屋敷へと運んだ。

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