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57ページ目 友達

「……。セイカ。もう一度言ってくれ」

「はい。絶ちゃんの面倒を私達が見ませんか?」


 ホムラが念の為にもう一度訊ね、セイカは即答で答えた。

 二度聞いた。しかしまだ理解と納得がいかない。場は静まり、休む絶ちゃんの寝息だけが聞こえていた。


「……。もう一度言いますか。ホムラ様?」


「……いや、いい。何度聞いても理解が追い付かないだろうからな」


 広がる無言。セイカが小首を傾げて訊ね、ホムラは制止させた。

 一回目でつづられた単語の示す意味自体は理解していた。しかし納得も理解も出来ない、矛盾に近い感情。ホムラの内情が複雑に絡み合い、その言葉の真の意味を理解しようとする。しかし思考が追い付かず、変わらぬ無言空間が形成される。

 それはセイカと、現在寝ている絶ちゃん以外に作られた空間。理解するにはまだ掛かりそうだ。

 改めてホムラは言葉を発する。


「まずは一つ……何でその結論に至った? 絶ちゃんは、多分コピーした催眠魔法かなんかで操った野盗をけしかけてあの村の女性と子供達を殺している。この街からだって既に死者が出た。それ以外にも大量殺人を犯している。殺人だけなら俺もあるけど、絶ちゃんの場合は多分善良な住民も殺しているんだ。容認出来るか?」


「子供のした事ですので」


「限度があるだろ。まあ、こんな世界だ。人を殺さなくちゃならない事があるのはおかしくない。殺人自体は容認出来る。平和な時代ならまだしも、常に争いが起こっているからな。善良な住民を殺しても敵対国からしたら逆に英雄扱い。二桁年齢になっていない子供の兵士も大勢居る。絶ちゃんの場合はそれらとは根本的に違う。本人は善意からの行動だろうけど、犠牲者が浮かばれないだろ」


「はい。ですので私達で絶ちゃんの面倒を見、世間一般の感性を教えようかと。まだ彼女は純粋です。ホムラ様の言う通り、絶ちゃんが他者を殺めるのはこの世界で生きていては駄目という善意からなるもの。最後には自分も死のうとする程です」


「その善意を彼女は楽しんでいる。感覚は違えど、それを幸福だと思っていたんだからな。今更直す事は出来ない性格だ」


「直せないという事は無いと思います。性格はほんの少しの切っ掛けで変わる。今現在のホムラ様がまさにそれ。しかし、ホムラ様には確かな優しさが残っています。絶ちゃんも元々優しい子なのでしょう。故に、その優しさを残して感性を変えれば善人となる筈です」


「人を殺めた罪は消えない。それは俺も同じだ。もし仮に善人となったとしても、自分が過去に犯した罪を苦に自害する可能性もある。その場合はどうする?」


「させません。それが希望論、机上の空論なのは百も承知。絶ちゃんに何かあった時、責任は私が負いますので」


 希望論。実際にそうなる確証は無い。今の選択肢の中では確実な愚作寄り。だがセイカの目はその希望が実在するような面持ちだった。

 実際のところ、ホムラも絶ちゃんを殺そうとはしていなかった。私情が入っているが、見た目や幼さから悩んでいるのだ。

 セイカの言い分に肩を落とし、言葉を続けた。


「……そうか。分かった。けど、何かあった時はセイカだけが背負う事はない。俺も責任を持って絶ちゃんを殺す。これは命令だ」


「……ありがとうございます。ホムラ様。……今しがたの口論、命令を使わず私を説得していましたね……やはり貴方様は優しいお方です」


「……。そうか、その考えは捨てろと命令すれば早かったのか。命令の存在をすっかり忘れていた。まあ、決定してから命令をするのも色々と問題……置いておくか」


「ふふ、本当に優しいお方です。気付いていた筈ですのに」


「さあな」


 おそらくホムラは命令の事を気付いていた。しかしそれは先程の口論に持ち出さない。その優しさを改めて理解し、話が終わったセイカは改めて絶ちゃん。及び執事の方を見た。


「私達は絶ちゃんに対し、今は何もしません。勝手に決めた事ですけど、アナタは如何致しますか?」


「私は絶ちゃんの命令に従うのみ。その考えに絶ちゃんが同意した場合はその案に乗り、反対したなら今までのようにアナタ様方の敵となるだけです。全ては絶ちゃんが決める事」


「んにゃ……話終わったの~?」


 目が覚め、と言うより半分だけ寝ている状態だったので理解はせずとも話は聞こえていた筈。取り敢えず終わったんだろうなと理解した絶ちゃんは眠気眼を擦りながら立ち上がり、欠伸あくびをしてフラフラと立っていた。

 それを見、執事が絶ちゃんの方を見て言葉を続ける。


「絶ちゃん。一つの提案があの者達より御出しされました」


「ていあんー……? 何それ……」


 まだボーッとしており、少し眠ったからか怒りや混乱自体は収まった様子の絶ちゃんが話す。

 セイカがそんな絶ちゃんの前に行き、目線の高さにしゃがんで説明した。


「絶ちゃん。私達と一緒に来ませんか? お友達になりましょう」


「とも……だち……? ボクがキミ達と?」


 友達。ボーッとしている絶ちゃんはその言葉を復唱し、ハッとしてセイカの方を見た。


「友達! なってくれるの!? うんうん! なるなる! 友達欲しかったもん!」


「ふふ、決まりですね」


 友達の存在は欲しかった様子。

 ずっと絶ちゃんと執事の二人旅だけだったのに加え、幸せそうな他者を襲撃する事で友人関係の存在も見た筈。故に友人を欲していたようだ。

 そんな絶ちゃんに向け、ホムラは話し掛けた。


「そう言う事だよ。幸福ってのは。人を殺した時と今、どっちが嬉しいか分かるだろ?」


「え? あ……確かにそうかな……何かモヤモヤが晴れた感じ。これが幸せな事なの?」


「それを判断するのは自分だ。人に頼ってばかりじゃ成長出来ないからな」


「うー……やっぱり難しいよ……けど、これが幸せなのかも……」


 本当の幸福。それについてはまだ分からない様子だが、少しは理解したのかもしれない。

 そんな幸せを感じる絶ちゃんは笑顔で言葉を続けた。


「幸せになったから、ボクもう死ななきゃ!」

「……!」


 刹那、絶ちゃんは自分の頭上に鋭利な岩を生み出した。

 幸せな者は死ぬ必要がある。そう考えている絶ちゃん。故に、幸福を感じた今この瞬間に自害する。

 降り注ぐ岩を笑顔で受け、絶ちゃんの身体は──


「……ッ! そうじゃないんだよ……! バカ野郎!」

「……ぇ……?」

「ホムラ様!?」

「「ホムラ!」」


 無事だった。

 代わりにホムラが岩の槍を受け、真っ直ぐに貫かれた肩と脇腹から鮮血が流れる。

 絶ちゃんの狙いは絶ちゃんであり、ホムラではない。なので闇魔法の自動防御は発動せず、ホムラが咄嗟に庇った事で、闇魔法によって急所は逸らせたが受けてしまったのだろう。

 その様子に絶ちゃんは困惑していた。


「何で邪魔するの……? ボク、死ななきゃならないのに……キミ、さっきから邪魔ばかりだよ。なんで? 何でなんで?」


「考えてみろよ……絶ちゃん。友達とか大切な人とか居なかったかもしれないけど、もしそんな人達が居て、永遠に会えなくなるってなったらどうする?」


「永遠に……よく分からないけど……好きな人に会えなくなるのは嫌かな」


「好きな人を泣かせたいか?」

「それは……イヤ……」


 ──“俺も言えた義理じゃないけどな”。という言葉は飲み込んだ。

 この様な事を言っているホムラだが、ホムラ自身は全てが終わったら死ぬつもり。セイカに殺されるつもりである。

 しかしながら、今回はそんなセイカの意思で絶ちゃんを仲間へと引き入れる気概。故にこの様な言葉を告げた。

 絶ちゃんは、やはり根は善人だったのだろう。ただそれが歪み、“善”が傍から見た“悪”に近い状態だった。だからこそ絶ちゃんの目線に合わせて話せばその歪みも少しは真っ直ぐになるのである。


「だからまあ、これからはなるべく人殺しはしないようにな。そして絶ちゃん自身が死ぬ必要も無い。それが俺達の友達になる条件だ」


「友達になる為……分かった。それならボクもうあまり人を殺さないよ……悪口も言わない」


「良い子……だ……」

「……あ! キミ!」


「ホムラ様!」

「「ホムラ!」」


 ホムラが絶ちゃんの頭を撫で、激痛と出血によって倒れる。それを見兼ねたセイカ、フウ、トキの三人がホムラに寄り添い、迅速に治療を施す。


「ホムラ様! しっかり!」

「本当に昔から無茶ばかり……!」

「バカなのはホムラだよ……!」

(……。……流石に……生身は無茶だったか……)


「……。……ありがとう」


 薄れ行く意識の中。ホムラは、涙目ながらも何とか笑顔を作る絶ちゃんを見た。



*****



「……。治療は終わったみたいだな……」


 その意識が覚醒し、おそらく屋敷の寝室。ホムラは自分の身体を見て傷が癒えているのを確認した。

 しかしながら、治療魔法はどんな傷もたちまち治るような万能術ではない。あくまで活性化させ、損傷部分の回復を早める魔法だ。

 なので現在のホムラは半裸。肩や脇腹には包帯のような物が巻かれており、治療は終わったのだろうと──


「……。大袈裟だな」


「ホムラ様ぁ……」

「すぅ……すぅ……」

「ホムラぁ……」

「ともだち……」


 ──ベッドの横で眠るセイカ達を見て思った。

 何時間くらい意識を失っていたのか、既に日は暮れている。おそらく深夜のような時間帯だろう。

 セイカ、フウ、トキの三人。そして絶ちゃんは付きっきりで看病してくれたらしい。


「……。アンタは本当に良いのか? アンタの目的は本当に絶ちゃん……絶望の象徴の考えを尊重するだけなのか?」


 ──そして、扉の前にて立っているモノクルを着けた執事風の男性に訊ねた。

 執事は頷いて返す。


「ええ。その通りです。アナタ様にとっては先程。先程も言ったように私は絶ちゃん専属の執事。彼女の意見は全て肯定し、受け入れます。人殺しの強要などもしません。全ては彼女の意のままに」


「……そうか」


 相変わらずの淡々とした面持ちと態度。

 まるで機械でも相手にしているような気分になるが、腕が再生するとかもないのを見るに間違いなく人間。もしくは人間に近い種族なのだろうという事が分かった。

 しかし。と、執事は言葉を続ける。


「絶ちゃんが悲しむ姿は見たくありませんからね。アナタ様方……厳密に言えば王族のあの方の申し出には感謝してもし切れません。その方のリーダー的な役割であるアナタ様に改めて申します。……有り難う御座いました」


「よせよ。それは俺にじゃなく、セイカに面と向かって言うべきだ。俺も絶ちゃんになるべく傷は付けたくなかったけど、個人的な怨みもあったからな。多分、今の状況にならなければ殺していた……いや、互いに生死の危機に瀕していただろうな」


「ふふ、そうで御座いますか。王族の女性……セイカ様には感謝してもし切れませんね」


「言葉のレパートリー意外と少ないな。てか、さっきはスルーしたけどセイカが王族って気付いていたのか」


「ええ。品のある態度。悠然とした面持ち。執事ですから。人を見る目はありますよ」


「そうか」


 実際、審美眼は持っているだろう。それについては特に疑問もない。

 この執事も色々と苦労していたのか、割と気が合いそうな雰囲気は漂っていた。


「ん……ホムラ……様……」

「……! 起きたか。セイカ」

「ホムラ様! お目覚めになりましたか! って、起きたかどうかは私の台詞ですよ!」

「あ、起きたんだ。ホムラ」

「んにゃ……ホムラぁ?」

「うう~ん……うるさぁい……あ、起きたんだ……おはよー」


「ああ、おはよう」


 執事と話している最中、セイカとフウ、トキ、絶ちゃんの四人が目覚めた。

 ホムラはセイカと絶ちゃんの頭を撫でて挨拶を交わし、トキが不貞腐れる。


「むぅ。二人だけ頭撫でられてズルい……」

「オイオイ……俺より年上なんだし、それを気にする事じゃないだろ」

「ふーん。好きな人に年齢なんて関係無いもん」

「その好きは暫定だろ。一応セイカから俺を奪おうとしているだけだし」

「暫定でもいいじゃん。それに……本当に暫定かは分からなくなってきてるし……」

「ん?」

「何でもなーい」


 不貞腐れたトキを宥め、夜も遅い時間だが取り敢えず全員起きた。

 ホムラ達と絶ちゃんの戦闘。それは絶ちゃんの友達になる事で収集が付くのだった。

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