56ページ目 闇魔法と闇魔法
瞬間、闇魔法が打ち出されてホムラはそれを躱す。
当然の如く闇魔法は闇魔法を相殺する。なので直撃する訳にはいかず、なんとか動きを止めるか逃げ回って闇魔法の効力が切れるのを待つしかない。
「すごーい! 他の魔法と違って手足みたいに動かせる! えーと、うん。感覚も掴めそう! アハハハハ! 楽しい! さっきまでのムカムカが無くなる感じ~!」
「……。闇魔法を使うと、やっぱり高揚感に包まれるみたいだな。元々情緒が不安定なだけかもしれないけど」
闇魔法が原因か本人の性格か。その両方か。絶ちゃんの興奮が高まり、縦横無尽に闇を操って振り回す。
一応ホムラも狙っているようだが今はこの力の感覚を楽しんでいるようにしか見えなかった。
「すごいすごい! スゴくすごい! キミキミ! こんな力を一人で使っていたなんて死刑だよ! けど、何か今はそんな気分じゃない! 幸せってこう言う事なんでしょ!」
「……。少し様子が変だな。いや、少しどころじゃないか。異常な様子だ……」
まるで薬物でもやったかのような昂り。おそらくそれは闇魔法の齎す副作用のようなものだろう。
元々闇魔法は精神が完全に壊れ、もう壊れる事が無い程にボロボロになってようやく扱えるモノ。
異常と言えば異常だったが、ホムラと話すまでは平静を保っていた絶ちゃんがこうなっているのは明らかに闇魔法が原因だった。
そこまではホムラの憶測だが、憶測は確信になった。
「絶ちゃん。少し落ち着いてください」
「えー!? 折角楽しいのに! 何でなんで!?」
「……!」
──絶ちゃんの執事が止めに入ったからである。
絶ちゃんの全てを肯定する様子だった執事風の男性。その男性が止めに入る時点で絶ちゃんは本人の意思で動いていない事になる。
やはり絶ちゃんが闇魔法に取り付かれた可能性は高かった。
「邪魔するなら君も死刑だよ? 君にはあまり死んで欲しくないんだけどなぁー」
「すみません。しかし、おそらく今の絶ちゃんは絶ちゃんでないかと」
「ボクがボクじゃない? 何言ってるの? 分からない! ボクはボク以外の何でもないよ! ……やっぱり君も殺さなきゃダメなのかな?」
「……!」
その瞬間、執事の腕が闇魔法によって切り落とされた。
切断された腕は宙を舞い、そのままベシャリと地面に落ちる。腕が切られた激痛は凄まじい筈。あの虚無の境地ですら泣くかもしれない程痛いと言っていた。しかし執事は脂汗を流しながらも表情を変えず、頭を下げる。
「やはり今の貴女様は錯乱状態にあります。闇魔法……これ程の効力を発するとは。彼が何故平然と扱えているのか不明ですね」
「さくらんって何? 花? 別にボクは変じゃないでしょ! だってほら、こんなにも楽しいのに!」
歓喜の面持ちを浮かべ、執事を闇魔法で縛り付ける。
まだ殺そうとはしていない。そのつもりがあったとしても、やはり行動には移れないのかもしれない。
「取り敢えず、色々と聞きたい事があるな。……アンタには」
「おや……?」
「ちょっと! 邪魔しないでよ!」
絶ちゃんの仲間ではあるので執事も敵だが、知識的な方面で絶ちゃんよりは持っている。なので闇魔法にて絶ちゃんの闇魔法を相殺し、ホムラが執事風の男性を縛り付けて救出? した。
それについて絶ちゃんは頬を膨らませ、一気に闇魔法を打ち出す。
「邪魔はしてないさ。聞くこと聞いたら殺せば良い。コイツはな。俺はまだ死ぬつもりが無いんでパス。ただお話しするだけだ」
「お話ー?」
「おやおや……私奴に何か質問ですか? 闇魔法の使い手様」
お話と聞き、少し攻撃が止む。完全に止まった訳ではないが、少し気になっている様子。
執事からも許可が降りたのでホムラは縛り付けながら言葉を続けた。
「ああ。簡単な事だ。俺はてっきり絶ちゃんに色々吹き込んだのがアンタだと思っていた。けど、そうじゃないのか?」
「そうですね。簡単に説明致しますと、絶ちゃんは貴族です。それも王族に近い由緒正しき血統。私はただの絶ちゃん専属である執事で御座います。故に、絶ちゃんの意思ならば全てを肯定し、全てを受け入れる。障害になる物は排除する。それだけの為の存在で御座います。アドバイスなどはすれど、基本的に言うがまま。野望なども全く持ち合わせておりません。強いて言うなら……絶ちゃんが最終的にどの様な選択を選ぶか。それが知りたいくらいですね」
「胡散臭いけど、闇魔法で縛っているからか嘘吐きかどうかが分かる。どうやらその言葉に嘘偽りは無いみたいだな。……て事は完全に彼女の意思か」
ホムラが気になった事は、見るからに怪しく胡散臭い執事風の男性が真の黒幕なのではないかという事。
しかし闇魔法を経てその感覚が分かり、今の時点で嘘は無い事は理解した。
そのまま放り、絶ちゃんの方へ執事を投げ付ける。
「ほら、返すよ。後は好きにしな」
「ありがと。大人の話って面倒臭いなぁ」
「さながら私はキャッチボールの球になった気分ですね」
放られた執事を同じく闇魔法で受け止め、話の内容を全く理解していない様子の絶ちゃん。
元貴族のようだが、産まれた時から両親を含め周りに迫害され、蔑まされていた存在。貴族としての在り方を親から教えられていないらしく、ホムラと執事の会話がよく分からないようだ。
「うーん。やっぱりキミは死んで欲しくないなぁ。今回はちょっとした怪我で許してあげる! もう邪魔しないでよね!」
「闇が抜けていく……ええ、かしこまりました。絶ちゃん」
腕の切断で済んだ執事は頭を下げた。
闇魔法の継続時間はホムラ以外が宿すと本当に短いらしく、会話をするうちに消え去ったようだ。
それはホムラと執事にとっては朗報。闇魔法による闇魔法の相殺と、絶ちゃんの本人とは別の意思の変化が無くなるからだ。
しかしながら、何が切っ掛けでモノマネ。能力の模倣を出来るようになるのか。それが分からないままでは埒も明かない。
「え~と……ボクは何で闇魔法のキミを殺そうとしたんだっけ……あ、そうだ。ボクが幸せになれないって言うのはどう言う事かを聞きたいんだった! 早く教えてよ! 殺すよ!」
「……。そうだな。ヒントを与えるなら、あまり殺すとか死ねとかは言わない方が良い。悪い印象を与えるからな」
「何でなんで!?」
「……。……絶ちゃん。死ねバカ」
「……! 酷い……その為にボクは人を殺しているんだよ! 何でバカって言ったの!?」
「“バカ”の部分にしか反応しないか。けど、ほらな? 悪口を言われるのはあまりいい気分じゃないだろ。そう言う事だ」
「……! …………」
絶ちゃんは俯いて口を噤む。
少し目を潤ませ、ホムラの方を向いた。
「……だって……パパとママがボクによく言っていたもん……絵本に書いてあったよ……パパとママは子供の事が好きって……パパとママが言ってくれる言葉は子供の事を想っているって……その言葉を他の人に言っても嬉しい筈だもん……」
「……大体のルーツは親……か。絶ちゃんはともかく、親は典型的な貴族だったみたいだな。そもそも、絶ちゃんの親って系統が違っていたのか?」
「ケイトー? 糸なんか持ってないよ……」
「……。此処は私は話しましょうか。絶ちゃん」
会話が噛み合わない、と言うよりあまり言葉を知らないので執事が代わりに名乗り出た。
絶ちゃんは頷いて返す。
「うん。君が教えてあげて……ボク……なんか頭が変になりそうな気分……ちょっと気持ち悪い……」
「では、少しばかり休んでいてください。お疲れ様です」
「うん……ちょっと休む……疲れた」
絶ちゃんを前線から下げ、執事はホムラの方に視線を向けた。
闇魔法を使った事による疲労が原因か、絶ちゃんは少し草臥れていた。ある程度戦闘も静まりつつある現在。安全かは分からないが、セイカ達も闇魔法の中から外に出てホムラの元に近寄った。
全員が集まったのを確認し、執事は言葉を続ける。
「実は、絶ちゃんのご両親は両者共に同じ系統で御座います。奥様が妊娠している最中に何かしらの影響なども無く、受精する前の子宮に他者の精子が入った訳でもありません」
「……! なんだって……?」
その言葉に反応を示す。
両親が別々の系統ではない。外部からの要因もない。ならば何故絶ちゃんはこの様などの系統にも属さない力を扱えるのか。
それについて執事は説明を続けた。
「言わば、絶ちゃんは“異端”な“混血”なのです。突然変異にも近いでしょう。産まれてくる直前まで分からず、子宮内にて魔力が異常を来し、その末に産まれたようです」
「魔力が異常を?」
「左様。有り得ない話では御座いません。確率は極端に低いですが、何千万人に一人の割合でその様な子供が産まれてくる事もあるのです。その理由は未だに解明されておりません。神の気紛れか、過去にその様な祖先が居た事による先祖返りの一種か。前例自体が少ないですからね」
「何千万人に一人ですか……」
ホムラの言葉に執事が頷き、復唱するようにセイカが呟く。
この世界の人口は約一億人。それを考えれば何千万人に一人の絶ちゃんのような者が居ても変じゃない。
戦争などが相次ぎ、多くの死者が出るので世界人口はこの程度の人数。それはともかく、それ程までに稀少な存在。魔力の突然変異。絶ちゃんは生まれついてその様な性を背負っているらしい。
「世界の人口から考えても本当に稀少だな。てか、その突然変異を起こした子供達は全員が“人類の敵”クラスの力を有しているって事か?」
「NO。そうではありません。絶ちゃんだけが特別なのです。もしかしたら他の人類の敵を謳われる方々にその様な者が居る可能性もありますが、基本的に一種類以上の系統を扱えるだけ。今のところ、闇魔法を含めた全ての魔法を模倣出来るようになっている絶ちゃんは他の混血とは一線を画している事がお分かりでしょう?」
「……まあ、そうだな。他の系統もある程度は変幻自在だけど、あくまで単一の形のみの変化。全ての魔法を扱える存在なんて聞いた事がない。“混血”なら模倣の再現は出来るんだろうけど、闇魔法が使えた時点でその可能性は一気に無くなる……そもそも、混血が生まれたら即座に殺処分。かなり運が良くなければこの世に留まる事すら出来ないな」
一つの系統が他の系統を擬似的に再現する事は可能。
例を挙げるなら以前、何年も前にゴウがホムラ達に見せた炎魔法を用いた風魔法の再現。あれは温度差で上昇気流を生み出す事によって成せた技。
絶ちゃんの模倣とは天と地程の差がある。
まさしく絶ちゃんは“異端”な“突然変異”。幼少期によって歪められた性格を考えても、幼くして“人類の敵”を謳われる能力は持っているという事だ。
「……以上で御座います。絶ちゃんの能力のルーツ。お分かり頂けましたか?」
「まあな。色々と疑問点は多いけど、可哀想な子ではあるみたいだ。……けどまあ、幼くして罪を犯している存在でもある。やっぱり放置は出来ないな。拘束して被害を出さないようにする。それが今の目的だ。時と場合次第じゃ、躊躇い無くアンタらを殺める」
「それが当然の報いでしょう。私も絶ちゃんに人を殺すのがあまり良い事ではないと教えておりませんから。私自身、既に何人もの尊い命を頂戴しております。ならば、如何致しますか?」
「俺の、ほんの数時間の知り合いも殺されたんだ。アンタらにな。私怨は大分込めて戦わせて貰う」
再び互いに臨戦態勢へ入った。
絶ちゃんはまだ疲れている様子だが、だからこそ今がチャンス。今なら年齢や筋力。そして何より能力的にも絶ちゃん単体なら容易く抑えられるだろう。
執事は絶ちゃんの安息の為に片腕で構え、二人は向き合った。
──そこに、セイカから一つの声が掛かる。
「あの……その絶ちゃんですけど……わ、私達で面倒見ませんか……?」
「「……え?」」
「……は?」
「……一体何を?」
フウとトキ。ホムラ。そして執事までもがその提案に素っ頓狂な声を出す。
セイカは真剣その物の目をしており、おどおどした態度とは裏腹に覚悟も感じられた。
ホムラ達と絶望の象徴、絶ちゃんの戦闘。それはセイカによる思わぬ提案によって一時停止した。




