55ページ目 vs絶望の象徴
「教えてよ!」
「君の質問には答えられない。自分で見つけるものだからな」
叫ぶような声と共に空から無数の槍が降り注ぎ、ホムラ達を闇魔法の壁が防ぐ。
街は既に崩壊してしまった。なので標的はホムラ達だけになった様子。それなら住人達への守護壁も減らす事が出来、絶ちゃんの方へ集中出来るだろう。
「キミが言ったんじゃん! ズルいよ! 答えを教えてよ!」
「悪いな。俺は無責任なんだ。君の期待にも答えられない」
「そんなの卑怯! だったら死んでよ!」
「悪いな。それにも応えられない」
「なんで!?」
混乱と困惑の色が広がり、無数の槍が闇のドームを貫く。だが砕ける素振りが見えない。相手からしたら苛立ちが募るばかりだろう。
「むぅ……あー、そうだ! だったらどんな手を使ってもキミを殺そう! キミを、キミ達を殺せば今のモヤモヤは晴れると思うもん! そうしよ! それがいいよね! それが一番だもんね!」
「……。さて、どうする? 俺が原因で大変な事になったけど」
「私も同じ事思っていましたので大丈夫です。あの子……やり場の無い感情を受けて暴走しているようですから……何とか支えたいのですけど……」
「セイカ。この状況でもあの子の心配をしてるの? 確かに可哀想だけど……私達を殺すつもりみたいだよ?」
「そうですけど……やっぱり放って置けません……!」
「セイカ様。私はセイカ様と同じ考えです。あの子には執事のような人以外に支えが居ない様子。だからこそあんな風になってしまったみたい……」
何が原因の暴走か。ホムラの言葉はあくまで切っ掛けに過ぎない。
こんなに簡単に爆発するという事を踏まえれば、既に爆発寸前の状態だった彼女は人を殺す事で精神を落ち着かせて留まっていた事が分かる。
子供は感性が豊か。ちょっとした事が後々に大きく影響する。
セイカとフウは何とか助けたいようだが、癇癪を止める方法は分からなかった。
「……個人的に因縁があったけど、なんだかそんな感じじゃないな。子供を殺すのは気が引ける。綺麗事じゃこの世界は生きていけないんだけどな」
「環境によって歪んでしまった子供のようですからね。この世界にはその様な人が多く、今まで殺めてきた野盗もなるべくしてなった筈。対処法が分かりません」
絶ちゃんはホムラ達が助けた村の女性や子供達を惨殺した。それは当然許せない事。その時点では確実に殺すつもりだった。
だがしかし、本人を見てしまうとその考えも揺らいでしまう。罪は罪。如何なる存在にしても罰は与えなくてはならない。
今直面している一番の問題。それは、絶ちゃんは“悪意”ではなく、“善意”からの行動という事。本人なりのルールを尊重しており、そのルールを破るのがいけない事と考えた上で死という名の罰を与えた。それが今目の前に居る絶ちゃん。
何をすべきか。ホムラが到達した結論は、
「取り敢えず、動きを止めて拘束した後で判断を下すか。今は考える時間が無駄だ。犠牲者が増えるばかりだからな」
「はい! ホムラ様!」
「うん、ホムラ!」
「じゃ、やろっか。流石の私も小さい子は放置出来ないし」
取り敢えず止めるだけ止め、その後の事はその後に決める事にした。
このまま放って置けば被害は拡大する一方。既に街一つが崩壊しているのだから当然だ。
考えている暇はない。
「拘束開始だ!」
「その闇、守るだけじゃないんだ」
闇のドーム自体は解かず、闇を伸ばして一方的に仕掛ける。
絶ちゃんの攻撃は広範囲を高威力で貫くもの。他にも仕掛けて来るかもしれないので防御はそのままだ。
絶ちゃんは闇を見て冷静に考えていた。一通り暴れたので多少は正気に戻ったのかもしれない。
「まあ、破壊して殺すけど!」
「だろうな」
当然、殺すのをやめるつもりはない。
無数の闇が絶ちゃんに迫り、絶ちゃんは瞬間移動のようにその場から消え去った。
「遠距離が駄目なら……近距離で殺す!」
「成る程な。念動力みたいな力か」
消え去ると同時に現れ、闇のドームを念動力にて押し付ける。ミシミシと軋むが壊れる様子は無く、絶ちゃんはまた苛立ちを見せた。
「もう! 何で壊れないの! さっさと壊れちゃってよ! 殺すんだから!」
「……。何でもありかよ……」
苛立ちと同時に雲が割れ、空から大岩が降ってきた。
おそらくそれは隕石。土魔法によって生み出したのか念動力で落としたのか、その何れにせよ秒速十数キロの大岩。とてつもない破壊力だろう。
「ますますこの中から出られないな」
「絶ちゃんだけで一軍隊どころか、世界中の軍を合わせても対抗出来るか怪しい力を有していますね……」
「私達の街に攻めて来た虚無の境地も一人で前任四宝者様と現在の四宝者を相手取っていたし……人類の敵って文字通り人類を滅ぼせる力を持っているんだ……」
「人類の敵も混血なんだっけ……私の力で足りるかな……絶ちゃんを前に」
降り来る一つの巨大隕石はホムラが闇魔法の形を変え、刃のように変化させて切り刻んだ。
その速度と破壊力を考えれば豆粒程の大きさですら弾丸を容易く凌駕する。故により粉々に、吹き抜ける風ですら消え去る程粉々に粉砕した。
「“ウィンド”!」
そしてフウが風魔法を用いて砂塵となった隕石を吹き飛ばし、隕石でこれ以上の被害が増える事はなくなる。
問題は隕石以上に、絶ちゃんの方にあるのだが。
「またダメ……ズルいズルい! ボク一人に四人なんて! 何でみんなして言う事聞いてくれないの!? 何でボクをイジメるの!? ボクの言う事聞いて死んでよ!」
「だから、それには応えられないって。俺もそのうち死ぬとは思うけど、今はまだその時じゃないんだ」
「何ソレ! 変なの!」
念動力によって周囲の瓦礫を全て持ち上げ、散弾銃のように放出した。
無数の瓦礫群は闇魔法に衝突。粉々に砕けて消え去り、その上から霆が降り注ぐ。
「死んで! 死んで死んで死んで! 死刑! みんな死んじゃえば良いのに!」
無数の雷を落とし、雷鳴が轟き、落雷が瓦礫の山を目映く照らす。
情緒不安定。それも更に幼かった頃の教育による賜物だろう。
「さて、何の魔法だ。系統は……今のところ土と風の要素が強いな」
「斬撃。隕石。落雷……確かにその二つだね。風の斬撃と雷。土の隕石。風と土の混血なのかな?」
今のところ、絶ちゃんが使っている属性は当てはめるなら風と土。
その性格にもそれっぽさは出ていた。ホムラとフウはそれについて考える。
となると大部分の系統がそうなのだろうが、まだイマイチ情報は足りない。
「瞬間移動みたいな力とか、空間に干渉する念動力とか、私と同じように時空間魔法も使えるかもよ?」
「空も飛んでいますものね。トキさんの系統は……っと、フウさんに教えても?」
「ん? うん、構わないよ。もう仲間だからね!」
「トキさんって時空間魔法の使い手だったんだ……あの時は必死に隠していたのにいいんだね」
時空間に干渉する力も使えそうな様子。それについて話すが、まだ知らないフウに教えても良いのか気になった。
トキはこの数日で慣れた事もあり、教えても構わないと返す。
そして会話の内容から、フウはトキが気に掛かる。
「……もしや……トキさんも“混血”ですか?」
「ふふん。まあね~」
それはトキの系統について。
時空間魔法は、通常の系統では扱えない。なので自ずとその結論に至るのだ。
それについてもトキは軽く返し、改めて絶ちゃんに向き直った。
「けどまあ、多分フウちゃんも差別とかするタイプの人じゃないもんね。色々教えても良いよ。土の四宝者の知り合いだもん」
「……。トキさん、同室でしたけどメグミさんに何かされましたか?」
「色々とねぇ~。純潔は守ったけど、かなりピンチだったよ!」
「御愁傷様です」
「本当にね……」
色々と話したメグミの知り合いだからこそ信用出来る。が、それとこれとは別に軽いトラウマも植え付けられた。その心境は複雑らしい。
その間にも絶ちゃんの攻撃は絶え間無く続いている。
「ホムラ様……闇魔法の持続時間は自身の魔力次第ですか?」
「ああ、そんなところだ。持って数時間。魔力を増やそうと思った矢先にこれだもんな。人生って本当に上手くいかないや。だからまあ、その数時間で向こうの魔力が切れるか俺の魔力が切れるか。向こうを拘束出来るか、俺達が全滅するか。色んな未来が枝分かれしている」
「難しいですね……」
闇魔法の継続時間は2~3時間。まだ10分も経っていないが、このままでは時間だけが過ぎていく。
それではどちらにせよジリ貧だろう。
それを踏まえた上で、暴走する絶ちゃんの隙を掻い潜りたいところだが。
「死んで! 死んで死んで死んで! 死ね!」
口調が荒くなり、より攻撃が激化する。しかし今のところ闇の防壁が破られる気配は無い。
その間にも闇魔法は高速で伸ばし、拘束を試みているが瞬間移動のような方法で全てを避ける。
絶ちゃんの魔力量は分からないが、これ程の攻撃を行ってまだ余力は残している様子。一筋縄ではいかないだろう。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェ!」
「人に向かって死ねなんて……言うなとは言えないか。俺もしょっちゅう言ってるし」
「ホムラ様!」
瞬間、ホムラのみが闇魔法の中から飛び出し、絶ちゃんの前に躍り出た。
セイカ達の防壁はそのまま。ホムラ自身にも闇魔法は張っているので猛攻の中でも動けていた。
「出てきたね! 死ね!」
「そう言う訳にはいかない。俺にもまだやる事があるからな」
出てきたのを確認し、絶ちゃんはホムラにのみ斬撃を放った。
どうやら標的はホムラのみの様子。口論になり、言い負けたのでその分の因縁があるのだろう。対するホムラに斬撃は当たるが闇魔法が自動的に弾き、絶ちゃんとの距離を詰め寄る。
「……っ」
「躾が必要だな」
「な、何をする気……」
詰め寄り、片手に闇を込めた。同時に手の形を変え、
「よっと」
「痛っ!?」
闇魔法を指に纏い、その指を弾いてデコピンを打ち付けた。
絶ちゃんは少し怯んで仰け反り、オデコを抑えながら涙目になってホムラの方を見やる。
「うぅ……ボクの攻撃が当たらないのにキミは攻撃出来るなんて本当にズルいよ!」
「そうだな。それは俺もそう思うよ」
絶ちゃんの攻撃は一向に当たらない。しかしホムラのデコピンは当たった。
それについて文句を言いながらホムラの周囲、展開する闇に無数の剣が突き刺さる。
「何で当たんないの!」
「闇魔法だからな」
「そうなの!? そんなの納得出来ない!」
「……! こんな事も出来たのか」
突き刺さった剣が光を放ち、次の瞬間に大爆発を起こした。
爆風は既に瓦礫の山となった街を飲み込み、辺り一帯に黒煙が広がる。その黒煙から無傷のホムラと絶ちゃんは姿を見せた。
「五月蝿いな……物理的な攻撃は防げても音は無理か。会話出来てるし。音の攻撃なら俺にも通じるかもな」
「音攻撃? そんなのまだ持ってないよ!」
「……?」
ふと、絶ちゃんの言葉が気に掛かった。
“覚えてない”ではなく、“持ってない”。
それはつまり、何かしらの方法で“音”の攻撃も使おうと思えば使えるのかもしれない。
そう考えると絶ちゃんの魔法は“人類の敵”らしく、人類の扱える魔法の範囲内は超越している可能性もあった。
「持ってないってどう言う事だ? 魔法って普通勉強してゲットするものだよな?」
「勉強キライ! 楽しくないもん! それに、ボクは人から魔法とか貰えるから必要無いの!」
「……人から……?」
また不思議な言い回し。人から魔法を貰える。それはどう言う事だろうか。
疑問符を浮かべるホムラを見た絶ちゃんは無邪気に、年相応の笑顔を向けて言葉を続けた。
「あ、分からないんだ! 教えて欲しい? じゃあボクにデコピンした事について謝って!」
「それで良いのか? えーと、デコピンしてごめんなさい」
「うん! なら教えてあげる!」
「……。気紛れだな……」
幸福についての方が問題だった気もするが、絶ちゃん的に謝って欲しいのはデコピンの事らしい。
なのでホムラは誠意を見せて謝罪し、ちょっと機嫌を直した絶ちゃんは楽しそうに話す。
「ボクはね! モノマネが得意なんだ! よく分からないんだけど、他の人達ってボクが殺そうとすると攻撃してくるの!」
「そりゃあな」
「だけどその攻撃を見るとボクは使えるようになるの! 楽しいから色んな人の攻撃を真似したよ!」
「……! 見ただけで他の人の攻撃……技が使えるようになる……? へえ。それは凄いな。絶ちゃん」
「ホント!? ボクってすごい!? もっと褒めて褒めて!」
他人の技、魔法などを見るだけで使えるようになると言う絶ちゃん。それについて素直に感心し、絶ちゃんは機嫌を直して無邪気な笑みを浮かべていた。
──そして、絶ちゃんの片手がホムラの闇魔法を突き抜け、笑顔で言葉を続ける。
「だからね! キミの闇魔法、貸して!」
「……!?」
瞬間、絶ちゃんの手に闇が纏い、闇魔法内に居るホムラの頬を鋭い闇が通り抜け掠り傷を付けた。そこから少量の鮮血が流れる。
見ただけでモノに出来る。おそらく何でもではなく、ある程度の条件をクリアした上で使えるようになるのだろう。だからこそ先程までは闇魔法を纏えなかった。
そしてこの数分のやり取りを経て、その条件が満たされ一時的に闇魔法を使えるようになったらしい。
「……あれ? 何か変。いつもなら使い方とか頭の中に入ってきてハッキリ分かるのに……キミの闇魔法はよく分からない。使える時間が決まってるのかな?」
「……。成る程な。再現出来るのは絶ちゃん次第……特異な闇魔法は完全に模倣する事が出来ないって訳か」
「なになに? どー言う事? もっと詳しく教えて!」
「絶ちゃんの闇魔法は今しか使えないって事だよ」
「そうなの! じゃあ今のうちに使わなきゃ! ねえ! 早く死んで、ボクを幸せにして!」
「……さて、大変な事になったな」
闇魔法を展開させ、ホムラの闇魔法と絶ちゃんの闇魔法が衝突を起こして黒煙から更に黒い闇に包まれる。
絶ちゃんの能力。それはおそらく技や魔法の“模倣”。だからこそ接点の少ない様々な力が扱えるようだ。
絶ちゃんの癇癪。それはおそらく収まった。だがまだ我が儘が残っており、ホムラが出会った今までの敵の中でも間違いなく上位に入る脅威になりそうな雰囲気が漂っていた。




