54ページ目 襲撃
「わあ……一瞬で帰って来れましたね」
「便利だな。この鍵。表側の世界をマーキング出来るのか。いつしたのかは分からないけど、あの魔族の女性が突然現れた理由にも納得がいく」
『バウ!』
『ニャラァ~』
「ふふ、ガルムちゃん達。ただいま」
“星の裏側”から自分達の屋敷に戻ったホムラ達は一先ずの落ち着きを見せていた。
朝食後すぐに発ったのでまだまだ朝と言える時間帯。これから“虚無の境地”について話し合おうと言うその時、屋敷が揺れる程の爆発音が響き渡った。
「……! 何ですか!?」
「街の方からだよね……!」
「尋常な事じゃないよね……間違いなく」
「……っ」
爆発音の時点で大抵がロクな事ではない。街の住民が爆弾などを使って採掘している可能性や祭りのような行事をやっている可能性もあるが、そんな雰囲気はなかった。
聞こえた瞬間に異常自体と即座に理解し、ホムラ達はガルムに乗って街の方へ向かう。
「……。成る程な。爆撃の音だったか」
「酷い……けど、私がこの世界で何度も見た光景です……」
「この世界で、この光景以外を見る方が難しいですもんね。セイカ様」
「私も、世界を巡っている時に何度も見たよ」
──予想は殆ど付いていた。だからこそ急いだ。だが、間に合わなかった。
「一体何が……」
街が爆発に巻き込まれ、崩壊した光景を前に、それをより深く実感した。
瓦礫の中には潰された人。血液が川のように流れており、本当に川に流れ落ち、街の人達の血によって赤い川が形成されていた。
「ぼ、冒険者様!」
「……! まだ生き残りが居たか……! 何があった!?」
しかし、全滅した訳ではない。まだ手遅れにはなっていない。人も居る。今の問題が解決すればまた再興も可能だろう。
ホムラは生き残りの者へ訊ね、その者は口を開いた。
「て、敵が……! “人類の敵”が……!」
「……!」
人類の敵が。人類の敵がどうしたのか。慌ててそれ以上言えなかったようだが、大凡は理解した。この有り様を見れば嫌でも理解出来るだろう。
“人類の敵”が攻めて来たらしい。その瞬間、刃のような物が通り抜けた。
「……あれれ? 今全員殺したと思ったんだけどなぁ……黒い壁が邪魔したみたい。ムカつく~不幸~」
「あれが例の闇魔法のようですよ。虚無の境地が話していた」
「あー、キョーちゃん? 確かに言ってたねぇ。わざわざその為だけに“星の裏側”にも行ったんだっけー? 面倒臭いのによくやるよねー。凄いねー」
何かあったと分かった瞬間にホムラは闇魔法を展開していた。なのでその攻撃は防げる。
突如として現れた二人。モノクルを付けた執事風の男性と幼い少女。その会話の内容はかなり興味深い。
「虚無の境地って確かに言ったな。人類の敵は人類の敵同士で交流があるのか」
「アナタは避難を……ホム……彼が護っているうちに安全な場所へ」
「は、はい!」
セイカが言い、街の者は避難させる。
本当に避難出来るかは分からない。そもそも安全な場所があるのか分からないが、此処に居てもどの道死ぬ、加えて邪魔になるので居ない方が互いにとって良いだろう。
ホムラは改めてその者達に聞いてみる。
「アンタらが街をこんな風にしたのか?」
「そうだよ! だって皆幸せそうだったんだもん!」
「……幸せそうだったから? 妬みや嫉みで街を襲撃したって訳か?」
「ネタみ? ソネみ? 何ソレー! もしかして君知らないの? この世界で幸せになっちゃダメなんだよー!」
「……?」
この幼い少女の言っている意味が分からない。
幸せそうな者達を襲う。それも分からないが、心境的にはそう思う人が居るのも分かる。しかしながら、この少女はその様な感情ではなく、幸せになってはいけないという考えの元で行動している。一体何が狙いなのか、全く分からなかった。
疑問符を浮かべるホムラに対し、ハッとして少女は言葉を続けた。
「ちょっとちょっとー! さっきボクの事アンタって言ったでしょ! まだ初めて会ったから許すけど、今度からは絶ちゃんって言ってよね!」
「ぜ……絶ちゃん……?」
“アンタ”と言う呼び方が気に食わなかったらしく、自分を絶ちゃんと名乗る。
思わぬ言葉にホムラは肩透かしを食らい、隣に居る執事風の男性が説明をした。
「ええ。彼女は絶ちゃんです。……絶ちゃん。今しがた説明の為に、貴女様の通り名を教えても?」
「えー……。うん、君なら良いよ。ちゃんと接してくれるからね。けど、今回みたいな説明する時だけだからね! ボクとの約束!」
「かしこまりました。……では、闇魔法の使い手、及びその仲間達。一度しか説明致しません。一言一句、聞き逃す事無く静聴してください」
「……。まあ、今は聞いた方が良さそうだな。どうぞ続けて」
「ありがとうございます。では」
コホン。と絶ちゃん、ホムラから許可を得た執事風の男性は詳細を説明する。
「絶ちゃんこと、彼女は人類の敵を謳われる者の一人、“絶望の象徴”でございます」
「「……!」」
「「……!」」
──その名、人類の敵、“絶望の象徴”。
何を隠そうホムラが探していた存在の一つである。
フウとトキはその因縁を詳しく知らないが、人類の敵である存在は知っている。故に全員が大きく反応を示した。
「絶望の象徴……」
「あんな幼い子が……村の女性と子供達を……!?」
その存在と彼女が行った事。二つの事柄に対して驚愕する。
特にその見た目。年齢も見た目通りだろう。セイカはその事がより信じられない様子だった。
そんな二人の反応を見、絶ちゃんはムッとした表情となる。
「ちょっとちょっとー! 絶望の象徴って復唱しないで! 君達、死刑!」
「……!」
──瞬間、何処からかまた刃のような物が通り抜けた。
それも闇魔法が防ぎ、絶ちゃんはより不機嫌になる。
「何で死なないの! ボクの言う事聞けないの!? そんなの絶対ダメなんだから!」
「なんだよ一体。急に癇癪起こすな。めっ」
「むぅ~……」
防いだ事を怒り、無数の刃が全てホムラ達に向けて降り注いだ。
当然それも闇魔法が自動的に防ぐ。同時にホムラが叱り、何も言えなくなった絶ちゃんは頬を膨らませる。
そんなやり取りの横で、執事は続ける。
「その絶ちゃんですが、最近まで戦地を襲撃していたんです。しかし、急に戦争をやめる地域が増えましてね。やむを得ず幸せそうな者達の襲撃にシフトチェンジ致しました」
「戦地を襲撃していた? 戦地なんて幸せとは程遠い場所に思えるけどな。どんな理由で?」
「幸せな人々を増やす為です。幸せな人々が増えれば絶ちゃんの望みが叶う。その幸せな人々を殺めれば良いだけですから」
戦地と幸福。それは相反するモノ。にも関わらず何故戦地の襲撃を行っていたのか。それは戦争を止め、幸せな人々を増やす為。増やして殺める為らしい。
ますます考えが分からず、ホムラ達は疑問符を浮かべる。
「さっき、絶望の……いや、絶ちゃんは幸せになっちゃダメって言っていたな。どう言う事だ?」
「あ、それはボクが話す! ね、ね、いいでしょ!」
「はい。かしこまりました。絶ちゃん」
幸せになってはいけない。その事について絶ちゃんが話をすると名乗り出た。
名前の呼び方を間違えたら即座に攻撃を仕掛けて来るがそれが無ければ何もしない。なのでまた静聴する。
「えーとね、パパとママが昔から言ってたんだ! ──“貴女なんか産まなきゃ良かった!”。──“何故堕ろさなかった!”ってね! 言っている事は分からないけど、凄い顔でずっと喧嘩してるみたいに言ってたよ! 何もしてないのにボクもすごく怒られた! 痛かったよ! ほら、ボクにはまだアザが残ってるの! だから多分ボクは幸せになっちゃダメだし、みんな幸せになっちゃダメなの! だから最初にパパとママを殺してあげて、その後にボクの街のみんなを殺したよ! 幸せな人達を殺してボクも死ななきゃダメなんだ!」
「「「……っ」」」
「……。それはまあ、色々あったみたいだな」
絶ちゃん曰く、幸せになってはいけないと言う考えは両親が口々に言っていた言葉が理由らしい。
それを聞いたセイカ、フウ、トキの三人は息を飲む。
そんな両親の言葉。今よりも更に幼かった絶ちゃんは曲解し、自分や幸せな人がこの世に生きていけないと言う結論に至った後、行動に出たとの事。
本人はそれが正しいと思い込んでおり、両親の事は純粋に好いていたので両親の為に死ぬ事にしたようだ。
「けど、何で絶ちゃんは自分一人で死のうとしなかったんだ? 自分一人で死ぬ道もあっただろ」
「それはねー。ボク、全然幸せじゃないんだよね! ほら、幸せになったら死ぬべきなんだけど、他の人達を殺して、その時だけは幸せで、すぐに幸せじゃなくなっちゃうんだ。だから全世界のみんなをそのうち殺して、ちゃんと幸せになってから死ぬつもりなの!」
「……。成る程な」
絶ちゃん自身は、何をしても幸せに感じない。幸せが何かはよく分からない様子だが、幸せになったと言うのは感覚で分かるのだろう。
今の時点ではそれが無いからこそ、幸せそうな者達を皆殺しにする事で幸せになれると考えているようだ。
「多分だけど、全員殺しても幸せな感覚にはなれないと思うぞ。絶ちゃん」
「えー!? 何でなんで!? どうして!?」
「だって、多分だけど産まれてこの方、絶ちゃんは幸せを感じた事が無いみたいだからな。人を殺して幸せに思う、その一瞬の幸福感は目的をやり遂げた事による一時的な達成感でしかない。幸せとは別の感覚なんだ。その後気分悪くなったりするだろ?」
「うーん……確かに汚いモノとか血とか見るとオエーってなるよ! あと、人を殺した時の匂いもくさーい! たまに血が口の中に入ると美味しくないの! 裸の女の子の血とか好んで飲んでるおじさんとか居たけど、見てて気持ち悪くなったから一緒に殺したよ!」
「そう言う事だ。俺もまあ、色々殺したりした。一時的には高揚感に包まれたり達成感もあったけど、どうしても虚しさが残る。悪人の抹殺をやめるつもりはないけどな。……だから、絶ちゃんが本当に幸せに思った事は何もないんだ」
「そんなー!」
実体験があるからこそ、ホムラにも絶ちゃんの言い分は分かる。が、理解しがたい。
幸せになったら死のうと考えている絶ちゃん。その時は一生訪れる事が無いだろう。絶ちゃんはそれを聞き、傍から見ても分かる程にガーン! とショックを受ける。
「ねえねえ……ボクって幸せになれないのかな? 何でも知ってるし、君なら分かる?」
「……。そうですね。残念ながら、そればかりは私にも分かりません。私は絶ちゃんのやり方に従うだけ。その為のアドバイスは授けますが、絶ちゃんの目的が分からないのなら何も言えませんよ。……しかし、目的があればそれに尽力しますけど」
「うぅ~」
執事は、あくまで絶ちゃんにアドバイスなどをあげるだけらしい。その後の事は絶ちゃん次第との事。
絶ちゃんに目的があればそれに付き従い、無いならそれはそれとして付き従う。執事としては完璧にも近いだろう。
「……もう! 分かんない! ボクってどうしたら幸せになれるの!? 誰か教えてよ!? ボクは何をすれば良いの!? どうやったら幸せに死ねるの!?」
「……!」
「「「…………っ」」」
『グルルルル……』
『『『『フシャアッ!』』』』
──瞬間、絶ちゃんの様子が豹変した。
ホムラ達四人とガルムは臨戦態勢に入り、執事は一礼して絶ちゃんの邪魔にならないように距離を取る。
「キミ! 闇魔法のキミ! キミなら何か分かる!? 何をすれば良いのか、ボクに教えて! ボクって正しいの!? 間違ってるの!? どっちなの!?」
標的が幸せそうな人々からホムラ達となり、様々な力が放たれる。刃に弾丸、矢に大砲。火、水、風、土。挙げ句の果てに重力等々。
兵器も魔法も関係無く、何処から生み出したのか複数の力が一瞬にしてこの街を崩壊させた。
「……っ。何とか間に合ったけど……本格的に戦い始めたら街の住人は庇えないな……」
会話の最中、闇魔法を街全体へ展開させていた。なので避難したであろう、生きている住人達は無事。しかしそれも時間の問題かもしれない。
親によって曲がった成長をしてしまった幼い少女、絶ちゃん。彼女の混乱は更に広がり、広範囲を飲み込んだ。




