53ページ目 星の裏側
「……。此処が“星の裏側”か」
「何と言うか、予想通りの場所ですね」
魔族の女性の案内の元、ホムラ達は“星の裏側”へと来ていた。
そこは大凡の予想通り、暗く不気味な場所。見たまんまを感じ取った偏見の印象だが、治安もあまり良くなさそうである。
もっとも、この世界には治安の良い場所の方が少ないのだが。
「暗い……というより黒いな。黒い素材を建物に使っているのか?」
「はい。しかし訂正を加えるのなら、“星の裏側”では黒い素材しか取れないのです。食材などは別ですが、石や木など、建物の基盤となる物は大抵が黒い素材。故に建物も黒一色になるのです」
「へえ……」
どうやら此処で取れる素材は主に黒い物が多く、他の色は少ないらしい。
ある物はその素材から造られた黒い建物。形自体はホムラ達にも馴染みのある物だが、その全てが黒い。
環境が環境なので文字通り自然とそうなるのかもしれない。
そんな黒い街中をホムラ達は進む。
「……。建物はあるけど人は少ない。と言うか全然居ないな。まあ、聞いた限り魔族の街……果たして“人”って言い方が正しいのかどうか」
「確かに人間では御座いませんが、間違いなく“人”ではありますよ。そうですね……会った事があるかは分かりませんけど、獣人やエルフが人という分類なのでそんな感じです」
「ふぅん……って、曖昧だな。同じ魔族なんだろ?」
「フフ、貴方様も人間でありながら他の人間について全部知っている訳ではないでしょう?」
「そう言われたらそうだな。人の定義自体が曖昧だった」
「そう言う事ですね。それと、人が居ないのは全員が主の元にて貴方様をお待ちしているからです」
遅れて質問に返し、更に先を行く。
全員が主とやらの元で待っている。そうなると元々の人口は少ないのだろう。
五人は興味深そうに街を見渡しながら進み、巨大な建物の前に来た。
「凄い大きさだな。何十メートルあるんだろうか」
「私の住まいだったお城より大きな建物ですね。一体どれ程の……」
それは、見るからに巨大な建造物。
他の建物と同様に黒い素材を使われた物だが、その大きさは他とは比べ物にならなかった。
魔族の女性は門の前に立ち、ホムラ達へ忠告する。
「それでは、これから門を開きます。覚悟と準備をしてください」
「……?」
その言葉の意図は不明。疑問をぶつけるよりも前にその門が開き、
「“ファイアショット”!」
「“ウォーターキャノン”!」
「“ウィンドカッター”!」
「“ランドハンマー”!」
「「「……!」」」
「……成る程な」
炎、水、風、土魔法からなる四つの攻撃がホムラ達に向けて放たれた。
何れも初級魔法。だが威力は中級以上。四つの力は止まる事無く──
「どういうつもりだ?」
──ホムラによって破壊された。
同時に破壊した闇魔法が四人の魔族と案内してくれた女性を縛り上げ、首元に刃状の闇を付け、いつでもその頭を刎ね飛ばせる状態となった。
「……っ。流石ですね……これが闇魔法……実物を見たのは初めてです……」
「御託は良い。敵対するなら魔族を絶滅させる。答えろ」
「……ッ!」
刃を更に食い込ませ、女性の首元から黒っぽい血液が流れる。
濁った黒ではなく、綺麗とも言える黒。これならその場でバラバラにしたとしても周りの素材に馴染み、良い感じになるだろう。
「……っ。これ程までの力を……!」
「そしてこの躊躇いの無さ……」
「まさしく“魔王”の器……!」
女性と仕掛けてきた魔族のみならず、潜んでいた全ての魔族をいつでも殺せる態勢となっていた。
それを見、恐怖するでもなく怒る事もなく魔族達は歓喜する。
「これが……」
「闇魔法……」
魔族だけではなく、フウとトキもゴクリと生唾を飲む。
見るのは初めてではない。しかし、フウとトキが見た闇魔法は対人用ではなく捜索や掃除の時に使ったもののみ。
何れも人類の上級魔法使いを遥かに凌駕する魔族。それすらをも一瞬にして包囲する力。そして殺意に仲間ながら恐怖に近い感情を覚えた。
「すまないな。試させて貰った。実際に目撃した訳ではないからこそ、闇魔法とやらを改めて知りたかったのだ」
「……。その偉そうな態度。アンタが魔族の、現段階での主か」
「そうだ。して、闇を下げてくれると嬉しいのだが」
「悪いが経験上、他人を信用出来ないんでな。一度攻撃しようとした奴は、ある程度話して信頼出来るって俺自身が思わなきゃ警戒を解く事はない」
「成る程。理に適っているな。当然の反応だ」
現れた現在の主に向け、全方位から鋭利な闇魔法を突き立てた。
攻撃してきたなら敵の可能性が高い。故に、信用出来ない。
トキのようにある程度話して大丈夫と分かれば普通に接するが、部下を引き連れて建物内に入った瞬間の行動。流石に警戒は緩められないだろう。
「それで、話は聞いてやる。アンタらの目的も分かっているんだ。嘘の可能性はあるが、俺を魔王としてスカウトしたんだろ? それで、そんな俺を見てどんな印象を持った?」
「素晴らしい……としか思えないな。容赦の無さ、会話の最中、相手より上に立つ事で自分の優位に話を進めさせる狡猾さ。これは誉めているという意味での狡猾だ。そして何より、間違いなく闇魔法を扱っている。虚無の境地の言った通りだった」
「なにっ? 虚無の境地だと……?」
ホムラは魔王に相応しい。と、そう直々に現状の主から承った。
しかし、そんな微塵も興味が湧かないどうでもいい事よりも、ホムラが気になったのはこの者の出した名、“虚無の境地”。
その反応を見、魔族の主は言葉を続けて説明する。
「そうだ。闇魔法を扱う少年と因縁が出来たと、嬉しそうに話していた。友人や仲間ではないが、時折やって来ては色々な情報を提供してくれる」
「成る程な。少なくとも知り合いではある訳か。なら、今現在虚無の境地が何処に居るのか教えろ」
「余計な事を言ったら殺されるな。答えるなら“分からない”だ。この状況で嘘は吐かない」
「そうか。ならアンタはもう用済みなんだけど……始末して欲しいか?」
「好きにすると良い。そうする事でより魔王らしさが洗練されるというもの。魔王誕生の為ならば心して受け入れよう」
魔族の特徴なのか、回りくどい事は無くスムーズに会話が進む。
会話ではストレスフリーな状態だが、ホムラはこの者達を信用出来なかった。
「それじゃ、遠慮無──」
「──お待ち下さい。ホムラ様!」
「……セイカか」
なので自分を狙った報いを与える為にトドメを刺そうとした時、セイカが止めに入った。
ホムラの行動に対してセイカが割り込むのは珍しい。ホムラはその名を呼び、トドメを少し先延ばしにしてセイカへと向き直る。
「なんだ? 俺のやる事は肯定してくれるんだ? 止めるのか?」
「はい。この者達はまだ色々と知っている筈。それに、あの女性は私達が入る前に警告してくれました。不意を突いて殺めるつもりならその様な事はしない筈。その判断の元、一時的にホムラ様の刑罰を中断致しました。私が言い終わった後、ホムラ様の気が変わらなければトドメを刺して下さい。それでも私はホムラ様を愛し続けますので」
そう、魔族の女性は城に入るよりも前に忠告はした。そして主は試させて貰ったとも言っていた。
つまり、おそらく敵意は無い筈。セイカがホムラの全てを肯定するのは変わらないが、最低限、それを告げた後でホムラの判断を待つ。
「……そうだな。情報は色々と知っているみたいだ。それに、まだ俺の前で俺の気に障る事はしていない……攻撃自体は簡単に防げたからな。セイカに感謝しろよ。魔族。アンタらの絶滅は取り消しになった」
「……別に良かったのだがな。新たな魔王の糧となるのなら命など差し出したかった。そこの娘、聖女のような存在だ。因みに魔族からしたら聖女は敵。誉めてはいないぞ」
「あ、はい。それは別に構いませんけど……」
「セイカに感謝しろって言ったろ」
セイカの言い分にも一理ある。そしてこの者達はホムラに攻撃をした“だけ”。被害は出ておらず、元々対処する事は可能だった。
それらを踏まえ、セイカの意思を尊重して殺生、及びその種族の殲滅を取り止めた。
しかし念の為に攻撃力の無い闇魔法で魔族達を縛り上げる。これにはセイカに感謝しなかった事への私怨もある。そしてホムラは質問した。
「それで、虚無の境地の居場所を知らなくても……“星の裏側”の簡単な地図でもないか? それっぽい場所を俺が探す。魔王の件は考えると面倒だから保留だ。その保留が解かれるのはいつになるか分からないけどな」
「そうであるか。構わんよ。完全に取り止めた訳でないのなら我らにも希望はある。地図なら壁に掛かっているだろう。複製の魔法は……おそらく使えないな。その地図は大きいが、場所は正確だ。保証する。そこから見て行く先を決めると良い」
「そうか。分かった」
「……!」
言われ、納得したホムラは魔族達の拘束を解いた。
それについて主は反応を示し、「何故?」と目線で訴える。それに気付き、ホムラは言葉を続けた。
「正直アンタはもうどうでもいい。俺の目的が優先だ。魔王の件、一応それを断りはしない」
「唯我独尊のその気概。やはり魔王に相応しい」
「それしか言わないな。何で魔王なんか求めてるんだ? 世界征服とかを願うなら自分達だけで可能だろうに」
主へ一瞥の視線も向けずに地図を見やり、魔王を望む理由を訊ねる。
魔族は大抵の人類より力を有している。不特定多数の魔族を明確に上回っていると思える人類はホムラや四宝者。人類にして人類の敵である四人くらい。魔王などおらずとも、ある程度の制圧は可能だろう。
「世界の征服など目的ではない。領地が広くなり、統治が大変になるだけだからな。しかしながら、我らにも王と言う存在が必要。自分達の統制すらままならぬのだ。これからされるであろう質問に返すなら、私にはその資格が無い。少数は纏められるとしても、大多数は無理だからな」
「成る程な。話が早いな。相変わらず」
地図を見納め、ある程度の場所は纏まった。
ホムラは主へ視線を向け、肩を落とす。軽く息を吐き、言葉を続けた。
「ま、どの道俺に行き場所はないからな。俺が俺と因縁のある奴等を殺したら考えてやらない事もない。衣食住は保証されるから条件は悪くない」
「おお……。いや、そうか。うむ。今はまだその言葉だけで十分だ。未来への希望に繋がる」
「魔族が希望を語るのかよ。文献とかだと基本的に悪役だぞ。アンタら」
「表側の文献は主に人間の都合が良いように書かれているからな。人間と魔族はよく戦争をしていた。そして人間側に天使が付く。だからこそ我ら魔族は悪く書かれ、天使は善く書かれているのだろう」
「確かに天使や神は人間の味方として書かれるな。ま、実際には人間の為なんかに働かない張りぼてだけどな」
冷めた目で話す。
実際、この世界では多数決で善人認定されるであろう者達が多く死んでいる。元々がその善人に近い存在だったホムラはそれに対する不平不満があるのだろう。
一先ず此処に用はない。ある程度の場所を見定めたホムラ達はその場を立ち去る。
「お待ち下さい。必要無いかもしれませんが、“星の裏側”と“星の表側”を繋ぐ鍵です。これを使えばいつでも行き来出来ます」
「……。そうか。貰っとく。首の傷、悪かった」
「……え? 何故謝罪など……仕掛けたのは私達ですのに……」
「そうだな……気紛れだ」
それだけ言い、案内人である魔族の女性から鍵を受け取った。そのままその場から立ち去り、ホムラ達は一先ず自分達の屋敷へと帰る。
裏側には表側からいつでも行ける。なのである程度の話をしてから虚無の境地の捜索に当たるつもりなのだろう。
闇魔法の使い手を探す魔族と、魔王の資格を持つホムラ。魔王になるかならないかは、まだこの時点では誰にも、神様にも分からない。




