52ページ目 天使と魔族と三原色
「それで、話って?」
「あ、飲み物です」
「ありがとうございます」
一先ずテーブル席に着き、セイカが飲み物を出す。そしてそそくさとホムラの後ろに下がった。
一応、多分客人のようなもの。なので飲み物を提供したのだ。
黒髪の女性は礼を言い、そのまま言葉を続けた。
「単刀直入にもうしますと、貴方様がこの世界に置いて現れた闇魔法の使い手ですか?」
率直な質問。回りくどい言い方も何も無く、真っ直ぐに質問されるのはスムーズで良い。
それならばとホムラも返した。
「ああ、そうだ。それについて何かあるみたいだな」
「お話が早くて助かります。貴方様を迎えに参りました」
「「「…………!?」」」
その言葉に反応を示したのはセイカ、フウ、トキの三人。ホムラは冷静に返す。
「迎えに? 何処からかのスカウトって事か?」
「はい。此処では“星の裏側”……と呼ばれているようですね」
「……。成る程な……」
黒髪の女性が名乗った場所、ホムラ達が探していた“星の裏側”。
ある程度の事はそれで理解出来た。ホムラはもっとも気になった事を訊ねる。
「アンタ、“虚無の境地”の使いか?」
「いいえ。どちらかと言えば敵対関係。我らの、現在の主の喧嘩仲間とでも言っておきましょうか」
「ふうん?」
虚無の境地の事は知っているようだが、仲間や友人ではない様子。彼女の示す“喧嘩”の範囲がどの規模なのかは分からないが、とにかくあまり親しくは無いらしい。
ホムラは更に言葉を続けた。
「それで、アンタらに同行する件だけど、それは強制か?」
「いいえ。個人を尊重致します。しかし念の為に概要を申しますと、貴方様には我らの主君となって頂きたく参上致しました」
「主君……ね」
よくある、無理矢理にでも連行というパターンではなく、あくまでホムラ達の意思を尊重しての申し出。
女性は断られる可能性を考え、その前に目的だけを話した。
何処までもスムーズに話を進めるタイプのようだ。
話を聞いていたフウが挙手する。
「主君って事は……貴女は“星の裏側”にある、何処かの国に仕える人なの……ですか?」
「有り体に言えばそうなりますね。一応裏側を治めている者もおり、その方の命令でお迎えに上がりました。しかしその方は真の主君ではない。あくまで代理だ……と、本人が申しておりまして」
「へえ……」
この女性の立ち位置が気になったらしく、女性は頷いて返した。
一応現状の主は居るようだが、あくまでそれは代理との事。なので“真の主君”となる可能性がある、闇魔法使いのホムラを迎えに来たのだろう。
「アンタの行動から考えるに、必要なのは“俺”じゃなくて“闇魔法の使い手”みたいだな。これは突然目覚めた力……もし俺が闇魔法を使えなくなったらどうする?」
話を聞く限り、女性達と代理の主が探しているのは闇魔法使いだけ。今の時点で殆ど何も分からない闇魔法故に、それを使えなくなったらという仮定の場合について訊ねた。
女性は頭を横に振って言葉を続ける。
「いいえ。使えなくなる事はありません。目覚めた時、その時点で“浄化”されなければ一生の力となります。そして闇魔法を使えるのは世界に一人だけ。それも、何千年に一回の周期で現れます。貴方様が死した時、そこから数千年後に漸く新たな闇魔法使いが現れる事でしょう」
「……。ややこしいな。じゃ、闇魔法に目覚めてから数日経っている俺からは一生無くならないのか。“浄化”ってのが何かは分からないけど、単純に考えれば光魔法か」
「左様。と言っても根本的な部分は変わらず、目に見える変化は髪と目だけですね。今の貴方様の、復讐を望む思考はおそらく前から存在したモノかと」
「見ただけで考えも読み取れるのか。それはすごいな」
女性は少し話しただけでホムラの大凡の素性を理解した。
人間観察力に長けているのかそう言った能力があるのかは分からないが、だからこそ話もスムーズに進められるようだ。
ホムラはまた気になる事を聞いてみた。
「アンタの髪と目。それも黒いな。アンタのような能力を持ちながら平民なのか、アンタも簡易的な闇魔法を使えるのか……どっちだ?」
それは、女性の髪と目。
魔法も使えず、魔力も少ない平民ならおかしな事ではない。しかし、女性の今までの立ち振舞いを見た限り、どう見ても平民ではないだろう。
だからこそその髪と目が何を意味するのか気になった。
「これについては少し長くなりますね。よろしいですか?」
「ああ、構わない。相手について知る事とそれを自分が納得する事は物事の決定に置いて最重要事項だからな」
「御意」
やはり訳あり。それについての同意を求め、ホムラは頷いて了承した。
返答を受け、女性は説明を開始する。
「これは簡単に言えば“魔族”の特徴で御座います」
「……!」
そして第一声で出てきたワード、“魔族”。
それについて一々指摘しては話も進まない。なので静聴する。
「魔法使いと言うものは、アナタ方の知る常識のように、体内を流れる魔力の系統によって体色や髪の毛、目の色が変わります。しかし、私達魔族は生まれつき全ての系統を修行次第では扱えるようになり、故に何者にも属さないこの様な髪や目の色となります」
「全ての系統を……か。混血でもないのに不思議なものだな」
「はい。……そして補足ですが、“三原色”は知っておりますか?」
「……?」
突然の質問。
話を進める為、ホムラは頷いて返す。
「ああ。色の元になる色。赤、黄、青の事だろ?」
「YES。私達魔族は“色”の三原色が基礎となり、それに伴った魔力が流れています。色の三原色は全て合わせると黒く染まる。故に、この様な髪や目となっています」
「へえ」
赤、黄、青の色は、全てを混ぜると黒くなる。全ての魔力が流れている魔族だからこそ全ての三原色を混ぜ、黒い成分が体表に現れているようだ。
そこで、また疑問が浮かんだ。
「アンタが言ったのはあくまで“色”の三原色……じゃ、“光”の三原色も体表に出ている種族が居るのか?」
「そうですね。その種族は全体的に白い髪と白い目。白い肌を持っております。私達と同じように全種類の系統を扱えますが、私達魔族とは水と油。互いに弾き合う関係で御座います」
「成る程な」
三原色にも種類は様々。簡単に言えば全てを混ぜて黒くなる三原色と全てを混ぜて白くなる三原色がある。
魔族はその黒い方。当然対になる種族もおり、その者達は白いらしい。
「それで、その種族名は?」
「“天使”です。神族や天空族と色々言われていますけど、分かりやすく“天使”と私達は言っておりますね」
──その種族、“天使”。
神話やお伽噺ではあくまで神の使いっパシリだが、魔族の女性が述べた“天使”はそれが種族として確立しているようだ。
それについて女性は更に補足を加えた。
「そして私達が“闇魔法”の使い手、魔王となる器の持ち主を探していたように、天使達は“光魔法”の使い手……神となる器を持った者を探しております」
「光魔法……まあ、考えに辿り着く範囲だな。アンタらの存在から推測は難しくない」
「流石ですね」
「魔王の器になるってのは初耳だったけどな」
神と魔王。何故それらを探すのかは不明だが、魔族と天使は少なくとも仲良しでは無さそうだ。
「さて、髪と目の色。それについての疑問はお返し致しました。“星の裏側”へと参りますか?」
「そうだな……」
これで話は終わり。まだ聞こうと思えば返してくれると思うが、そろそろホムラ達も女性の質問に返すのが礼儀だろう。
ホムラは数秒考え、言葉を発した。
「魔王になるかどうかは分からない。けど、“星の裏側”には用がある。行くだけ行ってみるよ」
「かしこまりました。では、お仲間達は如何致しますか? 魔王様には側近や幹部が欲しいのですけど」
「あ、私達は誘われてなかったんですね。確かにその様な事は言っていませんでした」
「大体ホムラ中心での会話でしたもんね。セイカ様」
「もち! 私達も行っくよ~!」
ホムラは一先ず行ってみる。魔族の女性はセイカ達にも視線を向けて訊ねたが、三人も当然行くつもりだ。
ホムラ、セイカ、フウ、トキの四人は魔族の女性の案内の元、主に虚無の境地へ用のある“星の裏側”へと向かった。
*****
「……主様。魔族が魔王の候補を見つけ出したようです」
「ふうん、そう。それなら、そろそろ人類に光魔法の使い手も現れるかもしれないね。新しい神様が生まれるかもしれないよ。どういう訳か、毎回光魔法の使い手が現れるのは闇魔法の使い手の後だからね」
空。そこは何処までも広く、何処までも広がる青い空。
その空にある白い雲の上にて、一人の男性が主と呼んだ女性に報告していた。
彼女達はどうやら神様と光魔法の使い手を待っているらしい。
「後、神様が誕生したら私はもう主じゃなくなる……そうだね。大天使……とでも言っ貰おうか。安直かつ単純な方が覚えやすいからね」
「はっ。しかし、今はまだ貴女様が我ら天使の主。暫しの間はそうお呼び致します」
「別にいいよ。呼び方なんかどうでもいいんだ。神様さえ現れてくれたらね」
そう言い、大天使。現状はまだ主。その者が玉座のような物から立ち上がり、一人で厳重な封印が施されている扉の前に来た。
「今の神様は役立たず。地上には悲しみが溢れているんだもん……私が悲しみを覚えるよ。……けど、光魔法に目覚めたばかりに無理矢理“その時の神様”に仕立て上げられた君には深い同情をするよ。こうなる事が分かって、よく受け入れてくれたね。人類からの出じゃない、本当に役立たずの“今の神様”よりは君の方が頑張っていたよ。ありがとう」
「…………」
その扉の奥にて、一人の人間に話し掛ける。
その人物は死んでいるのか生きているのかも分からない状態。しかし大天使はその者に同情を与え、悲しみに暮れていた。
「……あ、“今の神様”の文句言っちゃった。……仕方無いね。受け入れるよ」
──次の瞬間、大天使の腕が内側から爆ぜるように吹き飛んだ。
それによって宝石のように美しい光の血液が飛び散る。
「……ッ。不敬を働いた私に罰を与えるくらいなら、その力を使って人々を助ければ良いのに……!」
まだ余裕はありそうな大天使。しかし遅れて激痛が走り、大天使は悲鳴を上げる。
「……ッ! ああ……!」
腕を押さえて膝を着き、冷や汗を流しながら大天使は言葉を続ける。
「……っ。耐えられる痛みなのに……アナタの力で私は上げたくもない悲鳴を……! 何故その力を人々の為に使わないの……!?」
疑問を浮かべる大天使に向け、彼女にのみ聞こえる音が届いた。
「……“その方が面白いから”……か。本当に自分勝手……」
弱る大天使は悪態を吐く。しかし“今の神様”とやらは今度は罰を与えなかった。つまりもう慣れているのだろう。
大天使は現在の主としてこの様な姿を部下に見せる訳にはいかない。腕は即座に再生し、立ち上がって何事も無かったかのようにその場から戻った。
「光魔法使いの捜索。任せたよ」
「はっ。仰せのままに……」
表情は表に出さない。故に部下は大天使が“今の神様”によってどの様な目に合っているのか知る由も無かった。
もっとも、知ったところで何の意味も無いのだが。
(……。何とかして、世界を平和にしなきゃ……)
グッと力を込め、大天使は考える。
その考えも“今の神様”に筒抜けだが、それについては何度も考えているのか、また何の罰も降らない。
闇魔法の使い手が“星の裏側”に行くのと同時刻。天界では本当に優しい大天使が苦労をしていた。




