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51ページ目 調査

「“裏側”って言うくらいだから、場所的には裏路地とかか?」


「まだ入り口が此処にあると確信した訳ではありませんけど、可能性はありますね。よく影は異界に通じるとも言いますし」


 街の調査を開始し、まずホムラ達は一番可能性がありそうな裏路地などを探そうと考えていた。

 光と影は相反するようで似ている。影にも様々な逸話があり、“星の裏側”がお伽噺ではなく実在するなら先ず怪しいのは影の中である。

 なので現在は裏路地を探っているのだが、


「ケヘヘ……アンタら……旅行ひゃきゃ?」

「旅行者なら金あんだろ金……金くれよォ~~」


「……はあ……」

「やれやれですね……」


 浮浪者と思しき者達に絡まれた。

 表通りですら治安が悪そうな雰囲気。路地裏など言語道断という事だろう。

 呂律は回っておらず、片手に酒瓶を持っている。酔っ払っているのは分かるが、不潔な身体から薬のような匂いもあり、腕の部分には針を何度も刺したような痕。おそらく麻薬などもしているようだ。

 一種の錯乱状態にあるのはまず間違いない。


「……仕方無い。ほら、金だ。受け取れ」

「「ウヒョォ~金だ金だ金だ金だ金だァ~!!!」」


 ポケットから小銭を取り出し、自分達とは逆方向に投げる。浮浪者達にはあれが金貨にでも見えたのか、凄い勢いで追って行った。


「オイ! 何処ァ!?」

「落ちてる筈だぁ~!」


「あげちゃって良かったの? 持ち合わせが多い訳でもないけど」


「あのまま絡まれるよりはマシだ。短気な人ならあの場で殺したりボコったりもしただろうけど、そっちに労力が使う方が無駄だからな」


 浮浪者は目があまり見えていない。酔いと麻薬の効果で視界が歪んでいる事だろう。

 なので金を拾うのにも時間を割く。しかし、あの者達の時間は死ぬまで無限のようなモノ。何時間探しても暇がある。

 ホムラの言い分にトキも納得し、ホムラ達が離れるまでの時間は余裕で稼げた。


「この場所も無し……」

「意外と絡まれませんでしたね」

「ガルムちゃん達が居るからかな? 大きな魔物だから怖がって近付かないのかも」

『バウ?』

「アハハ。それはあるね」


 そして数時間探し、何も得られなかった。

 だがセイカが絡まれない事を意外に思う。しかしながらこの世界では、見た目で判断出来ない力が宿っているが、見た目もかなり重要視される。

 なので見るからに恐怖対象であるガルム達の存在もあり、チンピラや浮浪者に絡まれる事はあまりないようだ。

 今は布も被せているので恐怖度は増している事だろう。絡んでくるのは麻薬などで錯乱している馬鹿だけである。


 とにもかくにも、見つからなければ始まらない。しかし発展しているのもあってこの街はかなり広大。これでは気も滅入る。

 どの様にするべきか考えていると、セイカがホムラへ提案した。


「あ、ホムラ様。感覚を共有した闇魔法を展開しては如何でしょうか? 此処なら暗いので闇魔法もバレにくいですし、“星の裏側”への出入口があるなら万物のエネルギーを司る闇魔法で探知出来るかもしれませんよ?」


「……成る程。それはいい考えだな。この街は広いけど、闇魔法の展開範囲は不明のままだし、それの実験も兼ねて確かめてみるのは良いかもしれない」


 それは、闇魔法をもちいて捜索するという事。

 闇魔法はまだまだ謎が多い。破壊のみならずこの様な探知を出来る可能性もある。

 何故なら“闇”は“火”などと違って目に見える実体が無いモノ。つまり、解釈の範囲を広げれば更に更に利便性が高まるかもしれない。

 概念だからこそ可能性は無限大。試す価値はあった。


「んじゃ、探知っぽい詠唱でも考えてより効率化するか。何かあるかな……」


 詠唱と言うものは、大部分が自分へ言い聞かせる事だがやりたい事を具体化させる為に行うものでもある。

 敵を倒したい→敵を撃ち抜け。

 移動したい→天を行け。

 など、やりたい事を魔力に上乗せして具体化させる事で実行出来るようになる。

 他の系統ならその範囲も限られてくるが、何度も述べるように謎しかない闇魔法。具体性を広げ、解釈をより自由にする事で様々な効果を得られる可能性もある。

 事実、昨日はテキトーに考えた詠唱で多くの兵士達の足止めが出来た。全ての破壊エネルギーを扱える闇魔法ならそのエネルギーを別のエネルギーに変換する事も可能だろう。


「あ、じゃあ“光の元に導け!”とかどうですか?」

「うーん……“感知せよ!”とか無難だしどうかな?」

「“出でよ○○!”とかそれっぽいんじゃない?」


「一気に言うなよ……ってか、セイカの詠唱は闇魔法っぽくないしな。あまり関連性が無さ過ぎると影響が少なくなる」


「あぅ……そうですか……」


 関連するワードをセイカ達が次々と言う。

 それっぽい呪文は出せど、セイカの場合は完全に光魔法寄り。火の系統が水の精霊に力を借りても駄目なように、関連が無さ過ぎると逆効果なのである。


「ま、テキトーで良いか。──闇の使いよ……」


「「「…………」」」


「その力を我に授け、広域を見定め、影の扉を知覚せよ……」


「「「…………」」」

(……。何かやりにくいな……)


 闇魔法の使用。魔法使いは基本的に知的好奇心が高い。なのでセイカ、フウ、トキの三人はホムラに集中していた。

 だが、その注目は詠唱を告げる側としては少し恥ずかしさもある。裸体や異性間での羞恥心はあまり無いが、今回は何とも言えない気恥ずかしさがあった。


「その入り口を開け、“強制解放”」


 今回の詠唱は探知と解放を合わせたモノ。あるならついでに出入口も開く。一石二鳥だ。

 瞬間的に足元の闇が広がり、数十キロには及ぶであろう街を覆い尽くした。

 まだまだホムラには余裕がある。闇魔法は少ない魔力消費で範囲を広げられるらしい。相変わらず便利な力だ。


「ホムラ……?」

「……如何でしょうか?」

「あった~?」


「……残念。この街には無さそうだな。暫定は」


「暫定は?」


 闇魔法によって街全体を調べたが、暫定では無いらしい。

 それについてフウが訊ね、ホムラは頷いて返す。


「ああ。所々に、何か違和感があった。大きさ的には子供一人入れないくらいだけど、空間……とでも言うのかな。そんな感じのある違和感だ」


「小さな空間……それって何だろう……」


「さあな。少なくともこの世界の代物じゃない……仮に“星の裏側”が世界から独立したモノなら、その空間の一部が漏れていたのかもな」


「空間が漏れ出す……有り得ない……とは言い切れないね。何が起こるか分からない世界だから」


 ホムラの覚えた違和感。それはこの世界のモノでは無さそうな空間。

 “空間”という概念が本当に存在するのはおかしな事だが、全てを否定は出来ないのがこの世界。何が起きても、何があっても変じゃない。そう言うものと割り切る他に無いだろう。


「取り敢えず、今回は無かったという事にするか。また機会があれば探せば良い」


「そうですね。日も暮れ始めましたし、今回は帰りましょうか」


「あの屋敷はまだ他の兵士達に見つかってないと思うからね」

「そうだねー。私もそろそろ疲れた~」


 日も落ちた。しかしセイカ達から此処に“泊まる”という意見は出ない。この街がこの街なので此処で宿泊はしたくないのだろう。

 本来なら遠い帰り道だが、闇魔法とガルムによる移動もある。屋敷へと着く頃には夜になっているにせよ、今日中に帰る術があるのでこんな街に居座る理由は無かった。


「じゃ、帰るか」

『バウッ!』

「ガルムちゃん達も此処は辛かったでしょうし、嬉しそうです」


 ホムラの言葉にセイカ達が頷き、ガルムが吠える。

 薄暗く、全体的に重苦しい発展した街。ホムラ達はほんの少しの手懸かりを掴み、自分達の屋敷へと戻るのだった。



*****



 ──“某所”。


「報告です。ついに表の世界に闇魔法の使い手が現れました」


「……ほう? 遂に現れたか……虚無の境地。あやつ、嘘は言っていなかったようだな。あれ程の強者が片腕を失ったんだ。元々信憑性は高かったが、実在したか」


「はい。外からの気配もしかと確認しました」


 暗く、黒い場所にて一人の者が部下と思しき者から闇魔法使いが現れた報告を受けていた。

 その者は“虚無の境地”と知り合いらしく、高く評価している様子。しかし仲間という関係でも無さそうである。

 その者は部下へと命令を出した。


「よし、ならばその者を招待せよ。新たなる、我らの魔王様が生まれるかもしれんぞ!」


「御意」


 それだけ告げられ、部下は権力者の前から消え去る。それ程の速度で移動したのか、また別の方法か。

 何にせよ、その者達の狙いは闇魔法の使い手。本人達曰く、新たな魔王。

 また、一波乱起こりそうな予兆があった。



*****



「さて、今日も手懸かりを探すか」

「昨日も気配はありましたもんね」

「気配があったし何かあるかもね」

「まあ、その辺は曖昧だけどねぇ」


 ──翌日、既に朝食などを終えたホムラ達は比較的のんびりと、また新たな手懸かりを探す為に行動を開始しようとしていた。

 そこへ、朝早くから来客が訪れる。


「──一つお話を伺ってもよろしいですか?」


「「「…………!?」」」

「……せめて玄関から入って来てくれたら良かったんだけどな……」


 ──突然目の前に。

 セイカ、フウ、トキの三人は身を翻して警戒を高め、ホムラも杖を持ってその思わぬ来訪者へ視線を向けた。

 警戒されたのを理解し、来訪者は頭を下げて言葉を続ける。


「一つ申しますと、敵では御座いません。貴方様へお話があって窺いました」


「……。女性か。人間離れした身体能力だ」


「はい。日々鍛練は欠かせませんので」


 その者、この世界では珍しい黒髪黒目の女性。

 平民にならその様な者も居るが、平民では無いであろう身体能力を有している。かなりの実力者という事は先ず間違いないだろう。


「ま、その態度……本当に敵意は無いみたいだな。良いさ。話くらいは聞いてやる」


「感謝します……もっとも、敵意を出していたら私は今頃八つ裂きになっていたでしょうけど」


「よく分かってるな。その様子、闇魔法についてもそこそこ詳しいのか?」


「知識程度は身に付けています」


 現れた瞬間に闇魔法は展開していた。

 危ない時は基本的に自動発動なので態々(わざわざ)自分の力で解放する必要は無いが、立場が立場。何となく癖になっているのだろう。

 貴族か王族か、はたまた別の何かか。ホムラは黒髪の女性と出会った。

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