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50ページ目 今後の方針

「……さて、これからどうしようか」


 宣戦布告を終えたホムラはセイカ達の元に戻り、これからについて考えていた。

 まだ屋敷には戻っていない。近くの、人の居ない森にて四人は事を考える。


「人類の敵宣言をしてしまいましたもんね……一応ローブで顔を隠しているのであの街の方々には気付かれていないと思いますけど……ローブだけじゃいつまでも隠せないでしょうし……」


「それに、何人かは君達を見ているもんねぇ。ま、一週間はローブで隠して生活していたし、貴族と王族って事も隠しているからまた別の誰かって印象になっているのかな?」


 現在の拠点にしている街。そこでホムラ達は一週間、ローブから顔を出さずに生活していた。

 屋敷を手に入れるよりも前から徹底して姿を隠していたので“ローブの冒険者”がホムラ達とは気付かれていないかもしれないが、いつまで隠し通せるかが疑問点だ。

 そもそも大幅な捜索が行われるのは間違いない。ローブをしていても、“その顔を見せろ”と言われて取られる可能性もある。

 また別の拠点が必要になりそうである。


「取り敢えず、ガルム達も居るし一先ず屋敷に帰るか。捜索の手が回るまで最低でも二、三日は掛かる筈。それまでに別の拠点を探す準備をしよう」


「それが良さそうですね。兵士達にも今さっき伝えたばかりですのでまだ知られていないでしょうし、少ないながらも時間はあります」


 基本的に、国が動くのは少し遅い。近隣の街全ての下調べや捜索を行うので現在の拠点に嗅ぎ付けられるのは最低で二、三日。長くて二週間か、一ヶ月は掛かる筈。

 それだけ時間があれば別の場所に移動する事も可能。既に目的地は“星の裏側”と決まっているので今の猶予でそこまで行ければ上々だろう。

 虚無の境地のような者や魔族達が居る“星の裏側”。世界から見た魔王のような存在になろうとしているホムラもそこなら捜索の手も回らないかもしれない。

 それについて詳しく話し合う為、ホムラ達は今現在の手放す事になるであろう屋敷へ帰った。



*****



「ふぅ~。やっぱり我が家は落ち着くねぇ。此処とお別れなんて寂しい」


「まだ決まった訳じゃないけど……まあ、そうなる可能性は高いな。それは仕方無い事だ」


 屋敷に付き、トキがソファへ倒れるように座り込んだ。

 戦場の近くで闇魔法は使えない。魔力の気配から見つかってしまう可能性があるからだ。なので現時点での時間は宣戦布告から一日が経過していた。

 この屋敷を購入してまだ五日。前述したように昨日は戦場へおもむいたので実際には四日くらいしか経っていないが、かなりしっくり来る様子。実際に快適なので名残惜しさは当然あった。


「考えても仕方ありませんよ。今は上手く立ち回る方法を見つけましょう」


「そうだね。セイカ様の言う通りだよ。ホムラ、トキさん」


「そんな事は知ってるよぉ~」

「ああ」


 猶予はあれど、余裕は無い。なのでこの屋敷から立ち去る事を考える。

 すると、門の方から声が聞こえてきた。


「新聞でーす! 置いておきますねー!」


 どうやらいつもの配達人が新聞を持ってきてくれた様子。置いてすぐに帰ったのを考えるに、追っ手などではないようだ。

 念の為に周りへ小さな闇を張り巡らせたが人の気配は無く、本当に新聞を置きに来ただけらしい。

 ホムラは置かれた新聞を手に取り、今日のニュースを確認する。


「……こういう時は早いんだよな。貴族達の行動は」


「え? あ……ホムラ様の事が記事に……」

「本当に早いね……昨日の今日だよ」

「やっぱりこの屋敷も手放さなきゃかぁ……」


 新聞を開き、セイカ、フウ、トキの三人も順に覗き込む。

 そこにあった内容は、昨日の宣戦布告。それが一面に張り出されており、人相画も付属していた。

 黒髪黒目、顔半分を覆う火傷の痕。特徴を捉え、この世界にはない写真のように上手いイラストだった。

 つまり、ホムラが顔を晒せば瞬く間に他の者達が集まる事だろう。人気ではなく、殺意を込められて。


「えーと……なになに」


 ホムラは改めてその記事を読む。


【“号外”

・火の系統壊滅の主犯、兼、王族誘拐の罪を持つシラヌイ・ホムラが戦争の場に乱入。全世界への宣戦を布告した。

・それに伴い、王族・貴族・平民の一時的な同盟が確立。対ホムラに備え、兵士を集める。

・シラヌイ・ホムラは闇魔法を身に付けており、既に闇に囚われている模様。故に見つけた場合、その場での抹殺を許可する。

・囚われの王族の安否は不明。虚無の境地についても依然として調査を──】


「……だってさ。多くは違わないけど、やっぱり火の系統全滅の件の犯人にされているのは嫌だな。それ以外は別に良いんだけどさ」


「私は生死不明扱いですか……。動きやすくはありますけど、複雑な心境ですね」


「私についても書かれていないかな。まあ、しがない一貴族が同行しているとは考えないだろうし、私もまだ安全みたい」


「私の記事はないの? 一応世界的な大犯罪者なのは変わらないんだけどなぁ……」


 記事を見、得た感想はそれぞれ。

 依然として“被害者”として扱われるセイカに、ホムラと共に居る事など知られていないフウ。そして自分の記事が無い事が少し不満気な大泥棒トキ。

 抱く感想は様々だが、取り敢えず全員の現状は把握した。あくまでまだホムラが中心的に描かれているようだ。


「さて、星の裏側に行く準備をしようか。ガルム達は……まあ、連れていっても連れて行かなくても良いかもな。危険には巻き込みたくないし」


「けど、この屋敷を手放す時はまた前みたいに討伐=入手。みたいな感じになってしまうんじゃないでしょうか……」


「一応ガルム達の存在は街の人達に見せたし、大丈夫じゃないか? 好き勝手弄られても敵対はしなかったし、安全は確保された筈だ」


 去るに当たってガルム達のことを懸念するが、この街の人達とはそこそこ良好な関係を築けている。なので前みたいな結果にはならない事を祈る。

 そして次が本題。


「“星の裏側”への行き方か……何か思い付くか?」


「うーん……やっぱりその為には世界中を見て回る必要がありそうですね。実は私、世界に何があるか分からないんです」


「俺もだ」

「あ、私も」


「君達ちょっと世間知らず過ぎじゃないかな……。王族と貴族の街出だから分かるけどさ……」


「舐めるなよ。海と山と空が何処までも広がっている事くらいは分かる。文献は読み込んでいるからな」


「資料と実物は大分違うんだよ……」


 ホムラ、セイカ、フウの三人は、出自が出自なので外の世界については本や授業程度でしか知らない。

 貴族や王族は将来的に外交なども関わるのだが、ホムラとセイカは家業を継ぐ前に火の系統が全滅し、フウは二人の捜索に出た。なので世界をそんなに見て回った訳ではないのである。

 世間知らずなお嬢様とお姫様、貴族だがトキにとっては王子様。その三人の言葉を聞いてトキはガクリと肩を落とす。


「取り敢えず、世界を俺達より知っているトキなら“星の裏側”への行き方で思い当たる節とかあるか?」


「100%の絶対! って程じゃないけど、色んな屋敷やお城に盗みに入ってた時、怪しい箇所は何個かあったかなぁ。あ、屋敷やお城じゃなくて近隣の街って意味でね」


「成る程……じゃ、そこに行くか。距離は?」


「それなり……じゃ分からないよね。色んな所を転々としているけど、馬車とかには乗らないし常に魔法を使う訳にもいかないから意外と離れてはいないよ。全部100㎞圏内にあるかな」


「100㎞……まあ、人間の地力で行ける範囲内か。トキが泥棒してから何年経つのかは分からないけど」


「4~5年かな。それくらいの年代で100㎞圏内しか移動していないんだ。ま、実際に図った訳じゃないし、図る術も持ち合わせていないからあくまで体感だけどねぇ。この世界には森とかも多いし」


 トキの移動範囲は、思ったよりも少なく100㎞圏内。

 しかし厳密には分からないので数千キロから数十キロと可能性は色々。だがトキによる世界の被害総額が数千億フレイと考えれば実際は100㎞以上の範囲を移動しているかもしれない。

 とにかく、案外近場にある可能性は高かった。


「それで……その場所は?」

「此処から北に真っ直ぐ進んだ、結構広いけどちょっと薄暗い街かな」


 北側。そこにらしき場所があったようだ。

 確証は無いが、それ以外に当てもない。なので行くだけ行ってみる事にした。



*****



「……。確かに薄暗いな。雨が降ってるからかもだけど。こじんまりしているのに発展している……不思議な感覚だ」


「けど、何だかこの街、空気が物理的に悪いですよ……ケホッ……呼吸するだけで何か苦いです……」


「排気ガスとか、明らかに不純物が混ざった煙が立ち上ってるね……。肺が弱いスイだったら耐えられなかったかも……」


「それがあるから発展したんだろうけどねぇ。危険な屋敷に残しておくのもアレだから連れてきたけど、逆にガルム達はツラそう……」


『クゥン……』

『『『『ニャア~……』』』』


 あの街を発ってから僅か数時間後、ホムラ達はその北側へと来ていた。

 人通りのある場所ではガルムに乗って移動し、人が居なくなったら闇魔法で加速。結果、一日も掛からずにこの街へ来れたのだ。

 そしてその街は、一言で言えば暗い街。今は雨が降っているのもあるが、発展させる為の有害な煙が原因で霧掛かっているようだ。


「雨避けだ。これで少しは楽になる」

『バウル……』『『『『フニャラ……』』』』


 つまりこの雨や霧も有毒な成分を含んだモノ。少量なら人体や動物に影響も無いだろうが、ずっと浴び続けていると何かしらの悪影響が及ぶだろう。なのでホムラ達は雨避けの布を纏った。

 傘でも良いが、水を弾く布なら防寒具にもなる。まだ春先なのもあって寒く、これくらいが丁度良いだろう。加えてそれなりに大きな身体を持つガルムも布なら全身を覆える。カエン達も幾分マシになったのかガルムの背でくつろいでいた。


「けど、屋敷や城でもないのにこんなに高い建物があるなんてな。煙突から黒い煙が出ているのを見るに何かの施設か?」


「そうみたいだね。前に来た時は此処まで荒んでなかったけど……この数年で一気に発展して一気に汚くなったみたい」


 先ず目に映るのは、天を突く程高い無骨な建物。

 主な原材料は粘土や石に鉄。それだけならよく使われているが、何処までもシンプルであり、効率のみを追求したような建物だった。

 それが一棟や二棟のみならず複数個あり、有害な物質を延々と放出していた。

 この様な環境下では木材の家なども無く、ある建物全てが効率性と強度を優先した物。これなら戦争に巻き込まれても建物や街の形は残るかもしれない。


「何か色んな意味で“裏”っぽい街だな。けど、果たして情報を掴めるかどうか……」


「街の人達に聞いてみ……たくありませんね。何か全員の目が死んでて怖いです」


「見ての通り治安もあまり良くないみたい。生きているんだろうけど、倒れている人もチラホラ居るよ」


「街の景観以外は前に来た時と変わらないね」


「これで変わっていないんだ……」


 街の治安について懸念するフウだが、トキ曰くそんなに治安は変わっていないらしい。変わったのはあくまで景観だけのようだ。

 そして、その様な光景が広がっているからこそ聞き込みなどもしたくない感覚が広がっていた。


「てか、今更だけど全員がローブを纏っているんだな。傘を差した上で着ていたり、ただの雨避けや防寒具って訳じゃない。日頃から着ているのか?」


「うーん……そう言えば前に来た時は曇りだったけどローブ着てたなぁ。全員。……しかも夏だったから暑いのなんのって」


「自分の素性はトコトン隠す国民性……話し掛けても無視か怒鳴られるのがオチか」


 薄暗い街中を歩き、何とかして情報を探るホムラ達だが、どうやらそれは難しい様子。理由は上記の通り。

 偏見で人を判断するのはあまり良く無いことだが、この街では偏見がそのまま事実に直結する事だろう。要するにかなり大変という事だ。

 北側にある薄暗く空気が重い街。あまり長居はしたくないが、一先ず目的を遂行する為に手懸かりを探す事にした。

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