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4ページ目 貴族の学舎

「それでね、その破壊力ったら完全に上級魔法クラスなの!」


「おぉー! それは凄いじゃないかホムラ! 流石俺達の子だ!」


「奥様。旦那様。お食事中はお静かに」


 食事の時間、ホムラの母親は父親へ先程のホムラが見せた力について嬉々として話していた。

 それを聞く父親も大きく反応をしており、食い気味な様子。

 使用人はそのやり取りに呆れ、食事のマナーである上品さと静寂を求めるように指摘していた。

 主人が主人だからか、むしろ使用人の方が良い意味での貴族らしさを持ち合わせているのかもしれない。


「まーそう堅い事を言うな。一時的、偶然だとしてもホムラがそれを実行したんだからな! その偶然は本来持っている魔力の質からなるもの。つまり、ホムラにはそれ程の才能があるって事だ!」


「お兄ちゃんすごーい!」


「あら、貴女にもその才能があるのよ? なんたって私とパパの子供ですもの。全員優秀よ!」


「本当? やったー!」


 そう、この世界に置いての魔法に関しては、完全なる偶然など存在しない。

 元々持っている魔力が重要なので、偶然は偶然でも潜在的な力があってこそ成せるものである。

 それが意味する事はつまり、ホムラには確実に上級の魔法使いになれる才能が備わっているという事。親からしたらとても喜ばしい事だろう。


「やれやれ。相変わらずですね。皆様は」

「フフ、しかし心地好い空間です」


 家族のやり取りに基本無表情の使用人が笑みを浮かべる。

 風通しの良い家。何なら主人と使用人の上下関係もほとんどない。もっと言えば使用人の方が地位などではない家庭での立場が上。それもこれもフラム家の面々の人柄の良さが成せる技だろう。

 だからこそ、使用人達は命を持ってしてこの一家を守りたいと考えている。

 もし仮にフラム家が没落した時、使用人達は全員がそのままお供する事だろう。


 その様な夕食の時間が終わり、食器などの片付けも終わってフラム家には平穏な時間が流れる。

 元々平和的ではあったが、フラム家の面々が賑やかだったので真の意味での安息の時間だろう。

 母親と妹は入浴し、父親は残った仕事をし、ホムラも自習や復習、実践練習を終わらせていた。


「ふぅ。今日も一日平和に終わりましたね」

「そうですね。奥様とお嬢様……本当にお二人だけで入浴してよろしかったのでしょうか……」

「お背中くらいは御流ししたいところですけどね。しかし、命とあらば致し方ありません」

「そうですか」


 使用人。二人のメイドは豪華な廊下を歩き、会話を行いながら進む。

 その手には何も持っておらず、掃除などが目的ではないらしい。


「それで、何故アナタが?」

「それは此方のセリフです。先程アナタに言った筈ですけど……」

「フフ……させませんよ?」

「アナタこそ」


 若干早足になり、ピンとした正しい姿勢で進む。そして一つの部屋の前に着き、その扉を二人は同時に開けた。


「ホムラ様」

「この後」

「私めと」

「御一緒に」

「「湯殿に向かいませんか?」」


 同時に言葉を発し、互いに睨み合う。当のホムラはと言うと、


「ホムラ様。服をお着替えしましょう。その後共に湯殿へ行き、入浴。就寝時は私が夢の中へとお供致します」

「いや、ちょっと……俺もうそんな子供じゃないし……何なら三年後には成人だし……」

「いえ、私からすればまだまだ幼き子。もっと単純に申しましょう。純粋に私がホムラ様のお世話をしたいのです」

「えぇ……」


 別のメイドに絡まれていた。

 因みにこれは異性への愛情行為などではなく、幼き頃からの付き合いによる、母性愛的な行動。

 使用人達はフラム家の面々を心から慕っており、ホムラや妹は我が子のように愛している。だからこその行為である。


「……。何をしていますのでしょうか?」

「……別に、ホムラ様のお世話です」

「では代わりましょう。アナタは別の仕事に向かってくださいませ」


 バチバチと火花を散らし、メイド達が睨み合う。それに挟まれたホムラは堪ったものじゃないだろう。

 その全ては愛情から来るモノなので悪い気はしないのだが、どうすれば収集が付くのか考えた。


「……と言うか、何度も言うように俺はもうお世話とか必要無い年齢だから大丈夫だよ。その自由時間を自分の為に使ってくれ」


「しかしホムラ様。私達の存在はフラム家の為にあるようなもの。貴方様にお仕えする事が出来なければ存在意義が……!」


「大袈裟だよ。もっと簡単に言おうかな。俺はアナタ達が居るだけで、その気持ちだけで十分だ」


「「「ホムラ様……!」」」


 ホムラの言葉にメイド達は赤面、涙する。

 何も泣く程の事ではないが、前述したように深い愛情を持ってして接しているメイド達。それを言う程の成長が、親目線のようなもので感動しているのだろう。


「そんな訳で、俺の事は良いんだ。明日は学校だし、お風呂に入ったら寝るよ」


「「「ならばご一緒に!」」」


「いや、だからそれはいいんだよ」


 メイド達に返し、苦笑を浮かべる。

 真面目で父親に堅物を謳われるメイド達だが、母性という本能には勝てないようだ。

 何はともあれ、フラム家の日常は平和に続いて行く。



*****



「おはよう。ホムラ」

「おはよう。フウ」


 ──翌日、家での身支度を終えたホムラはフウと合流し、共に学校へ行く。

 朝でのフラム家もいつも通り、つまり昨夜通り朝っぱらから賑やかに過ぎていたのでホムラは疲弊しているが、友人の前ではその疲れを見せずにいた。


「ふふ、朝からお疲れだね」

「アハハ……バレてたか」


 が、それはバレていた。

 本当に幼少期からの付き合い。なのである程度の変化には敏感なのだろう。

 と言っても、悪い方向での疲弊ではない。ある意味では貴族らしくないが、家庭での問題も無いので軽い態度で接する事も出来ている。


「オッスー、ホムラ、フウ」

「おはよう。ホムラ、フウ」


「よっ。リクにスイ」

「おはよう! これでみんな揃ったね!」


 図らずも四人が揃い、徒歩で学校に向かう。

 この街が貴族街なので馬車などの移動をする者達も多いが、なるべく四人で居たいホムラ達はこの四人で行動する事が多いのだ。


「学校ってのも久々だな」

「ほんの五日前だけどね」

「みんな元気かしら?」

「元気なんじゃねえの? 死亡の知らせとかはねえしな」


 クラスメイトと四人の関係は、比較的良好ではある。

 あくまで表面上の付き合いでしかないにしても、まだまだ未熟なホムラ達。貴族とはなんたるか。それをまだ大人達程深く知らないので、表面上の付き合いと理解していない者も多いのである。全ては親達の一存次第ではあるが。


「「おはようございます」」

「「ごきげんよう」」


「うむ、ホムラ、フウ、スイ、リク。今日も四人で来たな」


 門に入り、先生へ挨拶をする。

 一見普通に返した教師だが、ホムラ達の存在は教師達からもあまりいいものとはされていない。

 教師というのは立場的に親の貴族達より下だが、子供の貴族よりは上。なのでなるべく幼いうちに威厳を印象に残させ、将来的に上手く利用したいと考えている教師は多いが、ホムラ達が優秀なのでそう上手くいかない。基本的に同系統としか組まない貴族。四つの系統に結託でもされたら立場がより下がってしまう。それを懸念しているのだ。


 要するにホムラ達の周りは同年代も含め、敵だらけという事。

 当然、全教師がそんな訳ではないが、ホムラ達にも優しい教師はその優しさ故に他人を蹴落とす事が出来ず、出世する事も出来ていない者が大半。なので地位や立場的に、そう言った部分を改正するのは出来ないのである。


「おはよう。みんな」


「おはようございます。ホムラさん。フウさん。スイさん、リクさん」

「「「おはようございます」」」


「ハハハ……相変わらず堅苦しいな……」

「アハハ……そうだね」

「貴族として礼儀は必要ですけど、まだ互いの地位は同じでしょうに……」

「ハッハ。いつもの事じゃねえか」


 教室に入ったホムラ達に対し、同年代への対応とは思えない程に丁寧な挨拶がされた。

 ホムラ達的には純粋に煙たがられるという、慣れている事よりもこの様な態度で接される方が苦痛のようだ。

 子供世代の場合、親に言われてこの様な態度を取っているのでその意図を理解している者は少ないのだろうが、逆に不憫である。

 そんなやり取りを経て眼鏡を掛けた女性であるこのクラス担当の、教師の中ではホムラ達とちゃんと接してくれる比較的まともな、出世出来ない側の教師が入り、週二回の授業、その一回目が開始された。


「ではこの問題……ホムラさん、フウさん、スイさん、リクさん以外で分かる人」


「「「…………」」」


「……。……スイさん」

「はい。これは魔法の基礎的な魔力をもちいて──」


 ──座学。


「ではこの怪我を治せる人……」

「「「…………」」」

「はあ……フウさん」

「はい! ──風の精霊よ、我に癒しを与え、その力をその者へ分けよ。“ヒール”!」


 ──医学。


「じゃあ、魔法無しでこの岩を割れる人……」

「「「…………」」」

「……っ。リクさん」

「うっす。オラァ!」


 ──体育学(兵学)


「それではこの的に当てる自信がある人……」

「「「…………」」」

「少しはチャレンジ精神を持て貴様らァ! ホムラさん!」

「あ、はい。──火の精霊よ。その力を我に与え、火球を生み出せ。“ファイアボール”!」


 ──魔法学(実技)


 様々な学問を経て、あっという間に昼になった。

 一日に行う授業は七つ。内容はその日によって変わるが、基本的に何度かの休憩を挟み、夕方まで行われる。

 家庭教師の場合は午後三時頃までだが、学校の場合は少し長いのだ。

 しかしこの教師の教え方は上手く、答えなかったり実践に移せなかった者達もそれなりの成績を残せるようになっている。思想もまともなので、媚以外で評価されないこの世界では出世出来ないのも頷ける事である。


「では、食事にしましょうか」

「「「…………」」」


 学校というものは、社会の縮図。

 そのうちの“食事”。それはこれから生徒達が世に出た時、貴族としてのマナーなどを遂行出来るように生徒全員で摂り、静寂かつ優雅に執り行うもの。

 この学校では食事も授業の一環である。


「「「…………」」」


 静かに、優雅に、食器の音を立てず、流れるような動きで食事を摂る。

 さながら絵画のような光景。全員の動きに乱れは無く、まさしく貴族の子供と言った面持ちだった。

 その様な食事も終え、午後の授業に差し掛かる。


「今日の午後の授業はその時間丸々魔物討伐だ。一人でも二人でも何ならクラス全員でも良い。今から召喚魔法で魔物を生み出すから狩れ。以上」


「「「はい」」」


 封印の魔法道具を取り出した教師が言い、生徒達が返した。因みにこの態度がこの教師の素である。

 この世界の貴族は、ふんぞり返っているだけではなく兵士の役割も担っている。そもそも魔法という力を扱えるので前線に出るのは当然だろう。

 命を落とす可能性はあるが、あくまで兵士となるのは下級の貴族。将来的にここの生徒がどうなるかは生徒次第だが、一応の鍛練はおこなっているのである。


「──封印されし魔物よその姿を再び顕現せよ。“サモン”!」


『クォロロロ……』


 顕現した魔物は、犬とも猫とも違う黒い獣。

 鋭い爪と牙を持ち、舌を垂らして唾液が溢れる。

 その赤い眼で貴族達を見やり、毛を逆立てて威嚇していた。


「コイツは本物の魔物だ。討伐対象だった魔物だが、何かに使えるかと捕獲した者をそのまま利用する。つまり、如何にしてこの魔物を殺せるか。それを競う」


 淡々と説明を施す。

 この世界に置いて魔物は人間の天敵。なので殺める事には誰も反対しない。魔物としても、人間を見たら殺すという本能があるのである意味では利害の一致だろう。

 魔物は今にも襲って来そうな雰囲気だが、その辺の策もある。


「詠唱は……この程度の魔物には要らないな!」

『……!』


 魔除けの簡易魔法。それを教師が無詠唱で使い、獣はビックリしたように逃げ出した。

 今召喚された魔物は、凶暴性は高いが弱い部類。なので簡易的な魔法で追い払える。

 逃げ出した魔物に向け、教師は指を差した。


「では、獲物は一匹。捕獲でも討伐でも構わない。争奪戦だ。行け!」


「「「はい!」」」


 生徒達は自分の杖を携え、魔物を追って森の中へと入って行く。

 何人が協力するのか、何人が怪我するのか、何人が生き残るのか。

 週二回ある授業の一日目。その締め括りとなる過酷なサバイバルが開始された。

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