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48ページ目 開戦

 ──“戦地”。


「「「…………」」」

「「「…………」」」


 辺りの空気は何処までも重く、今にも張り裂けそうな状態だった。

 多くの兵士と魔法使い。馬などの乗り物。何か一つの切っ掛けによってこの空気全てが一変するのは明白。現在は呼吸すら難しく思われる程の緊張状態にある。

 両国の距離は数百メートル。戦争というものは多くの人は死ぬが、実は無差別殺人などとは違う。ちゃんとした手続きの元で行われ、戦争の合図と言うものが存在するのだ。


 互いに“国”という形を保っているからこそ形式がある。戦争しようと思い立ち、何の知らせも無く不意を突くのは国の面子に関わるのでクズな上層部ですら手順を踏んでいる。──もっとも、あくまで国同士の宣戦布告が成されるだけであり、巻き込まれる近隣の街などは避難する時間すら与えられない事も少なくない。なんなら、国同士ですら今回のような大国同士じゃなければ不意を突く事も多々あるが。


「「「…………」」」

「「「…………」」」


 徐々に緊張が高まり、既に魔法使い達は魔力を杖に込めていた。

 兵士達も銃や矢、大砲の準備を施しており、いつでもやれると言った状態にある。

 戦争の切っ掛けは本当に小さな物。例えば、風によって木がざわめく。雨が降る。太陽が雲から顔を出す、石ころが転がる。その様な、本当に小さな切っ掛けを経て戦争は開始される。

 そう、それは──


 “パンッ!”


 ──今撃ち出された、銃の装填中のミスによって発せられた発砲音のようなものであっても。


「掛かれェーッ!」

「風の精霊よ──」

「水の精霊よ──」

「土の精霊よ──」


「魔法使いは詠唱中だ! 撃てェァァァ!」

「「「…………!」」」


 込めていた風、水、土の魔法が放たれ、銃や大砲の音が響き渡る。

 空からは無数の矢が雨のように降り注ぎ、瞬く間に静かだった草原は戦地へと変貌を遂げた。

 爆撃によって地形は変わり、空からは雨や槍のみならず弾丸が降る。既に地上は矢と大砲痕で覆われ、既に死傷者も出ていた。


「蜂の巣にしろ!」

「殺せェ!」


「吹き飛ばせ!」

「押し潰せ!」


「「「ウオオオォォォォッッ!」」」


 兵士と魔法使いが駆り出され、銃によって魔法使いの身体に弾丸が突き抜けて鮮血が散る。降り注ぐ矢に射抜かれ、脳天から顎まで貫通して肉片が地面に落ちた。同時に剣や槍で切り裂かれ貫かれ多くの死者が出る。


 一方の魔法でも大岩が押し潰して人間の骨や内臓、肉が混ざったミンチが作られ、鉄臭い匂いが辺りに漂う。風によって浮き上がらされた兵士は高所から落ちてあらぬ方向に手足や頭が曲がって絶命し、水によって貫かれ身体を包まれ窒息した。


 武器も魔法も、戦争の渦中では全て人を殺す為のもの。如何に効率よく、如何に多くの敵を巻き込めるか。それが在り方だ。

 それだけならば魔法使いに分があるが、平民も爆弾などで広範囲を狙える。どちらかが一方的な虐殺になるのは終盤も終盤なので戦争開始時点では両軍から大量の死者が出る事だろう。


「死ねェ!」

「魔法使いに挑むとは馬鹿な愚民だ!」

「……ッ!」


 兵士が槍を携えて踏み込み、魔法兵は遠距離から土魔法の弾丸を頭に当て、安全に魔法で処理した。しかし平民も意地を見せる。


「この距離なら……十分だ……!」

「……ッ!?」


 瞬間、身体に巻き付けた複数個の爆弾が爆発し、数メートル範囲の者達諸とも吹き飛ばした。

 近場の者は肉片も残らず消し飛び、巻き込まれた者達は腕や足が吹き飛んだ。


「魔法より、銃の方が早い!」

「……ッ!」


「銃より、魔法の方が広範囲を巻き込める!」

「……ッ!」


 銃弾が二、三人の魔法兵を撃ち抜き、上から数メートルの大岩が落下して撃ち抜かれた魔法兵諸とも押し潰す。

 戦争、特にこの様な乱戦下に置いて、味方からの被弾はよくある事。なので生きていても負傷した足手纏いは切り捨て、より多くの敵を殲滅した方が良いだろう。


「良いぞ……! 魔法使い共を押し切れる!」

「くっ……! やはり火力不足か……! 文字通りな……!」


 魔法使いは大抵の者が自分の力を過信している。様々なエレメントを自分自身から出せる、神にも等しい力。驕るのが普通だ。

 対する平民の兵士は魔法を扱える程の魔力が無く、道具に頼って様々な事を行う。準備というデメリットはあるが、今の様な起こる事が分かっている戦争には有利である。

 しかしながら、それぞれの存在には両者にメリット、デメリットがある。


 魔法使いの場合は道具などの準備をする必要が無く、その分の資金を人員に割ける。平民の場合はより多くの武器によって敵を殺せる。

 そしてデメリットだが、平民は人員不足。魔法使い達は火の系統が全滅した火力不足となっており、お互いの消耗が想定よりも多かった。


「土の奴等! さっさと奴等を殺せ! 今の要は貴様らなんだぞ!?」

「喧しいぜッ! テメェら水の系統もチマチマ殺してねェでもっと殺せよ!」

「やれやれ……仲間同士で争っていたらキリが無いな」

「テメェら風は敵をほとんど生かしてんじゃねェかよ……! 風で斬ったり落としたりっーやり方じゃ程度が知れるんだよ!」

「肉壁役の土が五月蝿いな」

「んだと!?」


 そして、魔法使い側は火力不足の牴牾もどかしさによって次第に仲間割れが起こり、益々(ますます)混乱が広がっていた。


「くっ……火薬兵器が使い物にならん……!」

「血と水で戦場がグッショリしてるからな……!」

「矢も風で押し返されてしまう……!」

「槍や剣だけじゃ限られる……!」

「鎧のお陰で物理的な攻撃は何とかなるが、土の質量と水の窒息が厄介だな……!」

「重い鎧じゃ風に押されて機動力も落ちる……!」

「火の系統が全滅していて良かった……広範囲に炎を放たれるだけで我らが一気に押されるからな……」


 一方で道具が必要な平民兵士達は、魔法によって生じる環境の変化に足を引っ張られていた。

 魔法使い側はイマイチ決定打を与えられないが、遠距離武器が殆ど使い物にならないからこそ接近戦を強いられ、より多くの犠牲が増えてしまっているようだ。


「四宝者はまだか……!」

「あらゆる所に駆り出されているからな……まだ時間が掛かるのかもしれない……!」

「四宝者が一人でも居てくれれば戦況が一気に此方側へ覆るのだがな……!」


 そんな、互いに消耗する戦争。魔法使い側には四宝者が居る為、誰か一人でも駆け付ければ戦争は勝利も確実になる。

 だが、四宝者も忙しい身。援軍には時間が掛かるらしい。


「チッ……シラヌイ・ホムラ……余計な事をしやがって……火の系統を少しは残しておけ……!」


「四宝者の一人もホムラによって殺されたんだろ? 余計な事しかしないな……ゴミが……!」


「友人は生き残っているらしいな。そいつらを痛め付けてやるか……!」


「いいな、それ。そのうち二人は女らしい。血筋は優秀。子を孕ませ、その子にも罪を償わせるか……!」


 そしてその鬱憤は、今の状況に一役買っているであろう大罪人に向けられていた。

 ホムラが冤罪なのは知らない者達。ホムラの友人であるフウ、スイ、リクにも敵意が向けられる。

 理不尽な事ではあるが、この世は全てが理不尽。偏見や冤罪で死する者が多いので今更だろう。


「ハッハ! そりゃ……!」

「……ッ!」


 そして、その二人は凶弾に倒れた。どうでもいい事であるが。

 戦争はより激化する。尊くもない先程の犠牲など表面でしかない。剣、槍、矢、まだ使える大砲や銃、水、風、土。様々な人を殺す力がせめぎ合い、次々と犠牲者も増えてきた。

 戦いは拮抗しているがやはりこの場だけでは足りない様子。そのうち近隣の街へ差し掛かり、そのまま街が滅びてしまうだろう。

 それは仕方の無い事。戦争による犠牲は関係の無い住民の方が多いのだから。


「殺せェ!」

「殺せェ!」

「「「殺せェ!」」」


 語彙力が消失したのか、殺意しかない言葉しか話せなくなる。威嚇も兼ねての叫び。叫んだところで人体は弱く、即座に砕かれるのがオチ。しかし誰一人として歩みを止める事はない。


 ──別の敵でも現れなければ。


「虚ろな器に無を収め、深淵への道標とせよ。空間の否定、時の拒絶、この世の全てに反旗を掲げる」


「「「……!?」」」

「「「……!?」」」


 戦場に、どこからともなく詠唱のような声が響いた。

 それは一瞬この戦いの喧騒が止んだかと錯覚する静けさをもたらす。

 しかしその詠唱には“火の精霊”、“水の精霊”、“風の精霊”、“土の精霊”などの属性付与がされておらず、ただただ虚空などのような“無”を指し示していた。

 だがその無すらをも飲み込む黒い気配が戦場を覆い、詠唱は完全となる。


「されど無は残存せし、其の無すらをも破滅へ誘う、全ての光を飲み込め──“暗闇の夢(ダークナイトメア)”」


「「「…………!?」」」


 ──刹那、戦場が何処までも深い黒に飲み込まれ、兵士達が全員動けなくなった。

 何が起こったのか、闇の広がる範囲に何かしらの作用が起こり、宵よりも暗い夜が訪れた。

 反射的に兵士達は武器や杖を持ったがやはり動けず、右も左も見えない闇の中に一人の少年を見た。


「……闇魔法で詠唱を付与したのは初めてだけど……やっぱり効果はあるんだな。特に意味は持たせなかったけど、闇の覆う範囲だけが重く、動きにくい状態になっているみたいだ。発動者の俺は問題無く動ける……テキトーな詠唱でもこれ程の効果を発揮する。便利な力だな。闇魔法ってのは」


「お、お前……は……」


「あくまで身体が動かないだけか……口は動く。瞬きもする。全ての破壊エネルギーからなる闇魔法……だけど今回は破壊エネルギーとはまた別の効果だな。痛みは感じるか?」


「痛っ!」

「感じるみたいだな」


 兵士の質問には応えず、淡々と自分の力について推察する。ついでに痛覚を調べる為にデコピンもした。

 黒髪の少年。この世界的には成人しているが、それでもやはり“少年”と形容するのが適切なのかもしれない。

 その顔には酷い火傷の痕があり、悠然と、上品に歩く。同時に杖を横に振るい、闇を払って兵士達を解放。黒く澄んだ目で周囲を見た。


「……。今の力は闇魔法だ。戦争を行う兵士達。……あー、やっぱりもっと簡単に言うか。俺は人の上に立つ器じゃないから演説とか苦手だしな」


「何を言って──」


「俺の名前はシラヌイ・ホムラ。ご存知“虚無の境地”と手を組んで火の系統を全滅させた極悪人だ」


「「「…………!?」」」


 その、何処までも皮肉をタップリと交えた言葉に他の兵士達は全員驚愕する。どうやら皮肉については皮肉と思われていないらしい。

 実際、ホムラが犯人に仕立て挙げられており、兵士達はそれを信じているのだから当然と言えば当然かもしれない。

 しかしもうどうでもいい事。かなり気にしてはいるが、割り切らなければ先にも進めない。ホムラは戦場の兵士達全員に向けて話した。


「……たった今、この瞬間、俺がアンタら全員の敵になってやる。どうでもいい、下らない戦争なんかさっさと止めた方が身の為だ。闇魔法について知っている人は何人か居るだろ。極悪人で逃走した俺はアンタら人類の敵になる存在になった訳だ」


「「「…………!」」」


 ──全人類の敵。

 それは同じく“人類の敵”を謳われる四つの悪と同じ扱いであり、ホムラは敢えてそれを告げた。

 因みに、あまり大きな声で話した訳じゃないが戦場全体にその声は聞こえている。それも闇魔法の力である。

 ともかく、突然現れた者がそんな事を言うなど普通は無視して戦争を続行するもの。だがしかし、先程見せた闇魔法。先程は誰一人として殺さなかったが、いつでもお前らは殺せるんだぞという意思表示も出来た。

 故に、ホムラの言葉には信憑性があり、たった今その片鱗を体験した兵士達は即座にホムラへ武器や杖を構える。


「そう、それで良い。俺は会いに行ける人類の敵として君臨する事にしたよ」


 臨戦態勢には入る兵士達を見、ホムラは少し遠くを見て宣言する。

 ホムラ達の故郷と大国の戦争。それはホムラの登場によって中断された。

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