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46ページ目 ルーティン

 ──“三日後”。


「フウ、そっちだ」

「任せて! ホムラ!」

『ブモォ!』


 メグミ達と別れてから三日が経ち、とあるクエストにてホムラが指示を出し、フウが風魔法で魔物を浮き上がらせる。

 同時にホムラは杖へ魔力を込めており、狙いも定めていた。


「“ファイアランス”!」

『モ゛ッ……!』


 詠唱を略して貫き、牛なのか豚なのか猪なのか分からない魔物が絶命する。

 その魔物をトキが軽くして持ち上げ、ホムラとフウを見て呟く。


「なーんか……あの二人、妙に息が合ってるって感じで複雑な気分……」


 ホムラとフウのコンビネーションを見、複雑そうに魔物を積み重ねる。

 倒した魔物は複数匹。それを倒し、集めるのが今回受けたクエストの内容である。

 そんなトキの言葉にセイカも頷いて返した。


「一理ありますね……旅をしていた期間は私の方が長いのに……やはり古くからの付き合いの方が相性が良いという事でしょうか」


「相性……けど……体の相性は私の方が……」


「そんな経験まだでしょう……私だってまだ応えられていませんもん……」


 不貞腐れる二人。理由は言わずもがな。

 ホムラとフウは、昔から協力しての魔法などをよく使っていた。だからこそある今のコンビネーション。

 二人はフウの事も嫌いじゃないが、自分が好意を抱く男性が他の女性と上手くやっているという光景はあまり好ましくないのだろう。


「……? どうかしたか? セイカ、トキ」

「怪我でもした? 回復しようか?」

「いえ、何でもありません」

「何でもないよ」

「「……?」」


 二人はその心の内を理解しておらず、純粋な疑問を浮かべて訊ねる。

 しかしそれを面と向かって言える乙女心ではなく、疑問は疑問のまま終わった。


「それじゃ、クエストも達成したし街に戻るか」

「そうだね。ホムラ」

「はい。ホムラ様」

「オッケー……」


 取り敢えず怪我などのダメージは無い様子。それならば良いと判断し、ホムラ達は街へ戻った。


「おお……戻ってきたぞ……」

「また凄い数の魔物を……」

「武器も持たず、一体どうやったのだ?」


「流石に目立ち始めてるな」

「まあ、貴族や王族、魔法使いって事は隠してるからね……。今は私も」

「メグミ様達もお帰りになりましたし、フウさんの魔法も隠せている証明ではありますけど、この目立ち方は王族のパレードより心苦しさがあります……」

「心苦しさの方なんだ。まあ、魔法を隠しているから街の人達を騙しているようなものだもんね。嘘とか騙すとか、別に私はなんとも思わないけど」


 荷台に大量の魔物を乗せて進むホムラ達へ、街の人々は感心と驚愕の織り混ざった面持ちで話す。

 平民の街で貴族、王族、魔法使いという事は色々と問題があるので隠している。が、それが人々を騙す事になるので根っからの善人であるセイカは心苦しいらしい。


「流石だな兄ちゃん達。ほれ、今日の報酬だ」


「ありがとうございます」


「これだけありゃ、肉と皮の確保も出来る。加工する期間を考えて、今年の冬は問題無く乗り越えられそうだぜ。ま、冬まであと半年くらいあるけどな!」


 魔物の肉は保存食として、皮などは衣服の制作に使われる。

 この街はあまり大きな街ではないが、それでも数千人くらいは居る。なのでいくらあっても足りないのだろう。


「しっかし、兄ちゃん達が来てからこの街も潤い出したな。どんなクエストも簡単に終わらせる! お陰で当分は食料問題や衣服の問題に困らねえ。何なら野盗被害もこの一週間と数日で一気に解決したからな! すげえや!」


「いえ、それ程でもありませんよ。街にお世話になっている身。これくらいはしなくてはその借りは返せません」


「そうかいそうかい! だが、そう謙遜しなさんな! 助かっているってのは本当なんだからよ!」


 この街は居心地が良い。それは間違いない。

 しかし崇め称えられたりの、ヒーローのような扱いを受けるというのはまた違う。その考えがホムラにはあった。

 というのも、今貰った金銭は人にせよ魔物にせよ、他者の命を奪って得られた物。ホムラは殺生も肯定派だが、思うところはあるのだろう。


「それでは帰ります。また誰も受けないようなクエストがありましたら受けますので」


「おう! また頼むぜ!」


 そして酒場から立ち去る。

 気の良い者達なので会話するのも悪くないが、ホムラ自身なその様な者達と話す資格が無いと考えているのである。

 こんな世界。人の一人や二人を殺すのはよくある事。しかしホムラの場合は徹底的に痛め付け、死ぬ状態で生かして更に痛め付けた後で殺す。そんな残虐な精神を持ち合わせている自分が話すのは違う。と言うのが心情だ。


「ただいま」

「ただいま」

「ただいまー」

「ただいま帰りました」


『バウワン!』

『ボニャラ!』『ブニャラ!』

『ヒュニャラ!』『ゴニャアン!』


 屋敷に戻る頃には夕方。

 と言うのも、ホムラ達が受けているクエストは一つではなく複数個。自然と帰宅時間はこれくらいになるのである。

 ガルムを含めたペット達が出迎えをし、ホムラ達は各々(おのおの)で撫でる。

 仲良し度的なものがあるのなら、セイカはカエンと仲が良く、フウはセンプウと。そしてスイレイとガンセキ、ガルムはホムラとトキで半々くらい。

 同じ属性なのもあり、純血のセイカとフウが一番親しくなっていた。


「それじゃ、準備するか」

「はい!」

「うん!」

「オッケー!」


 一日の基本ルーティンは、朝・起床。昼・クエスト。夜・風呂、食事、就寝。

 という感じ。先ずは風呂を沸かせ、先に風呂に入る。その次に食事をし、歯などを磨いた後で眠ると言った内容だ。

 なのでホムラ達は湯殿の準備に取り掛かり、終えた。


「ふぅ……一日の疲れが取れますねぇ……」

「風呂も疲労は溜まるんだけどな」

「ホムラってば、そう言う知識は無粋だよ」

「暖か~い」


 風呂は基本的に混浴。と言うのも、セイカとトキはあわよくばホムラと交わりたい。フウは幼馴染なのもあり、ホムラと共に入浴する事に何の抵抗もない。だからこそこの様な状況になる。

 セイカとトキはともかく、フウは幼馴染と言っても性別的な問題が生じるかもしれない。しかし、貴族自体が後世に血縁を残す為の性教育が盛んであり、15の時には子供を作る事も強いられている。なので羞恥心があまり育たないのである。

 そしてフウが野盗から負った消えない傷はタオルで隠しており、あまり見えないようにしていた。この三日。まだ気付かれていない。


「ホムラ様……今日は……」


「いつも通りだ。俺自身、虚無の境地や絶望の象徴の事が気になってセイカに気を使えないからな。行為の最中、セイカに強い痛みを与えてしまうかもしれない。無感情な行為で子供を授かっても愛せないかもしれない。それは駄目だ」


「そうですか……」


「セイカ様……」

「私が誘惑しても駄目かなぁ。これじゃ」


 主に誘うのはセイカとトキ。フウはホムラに身を許しているが、特に求めてはいない。

 火の系統であるセイカと混血のトキはともかく、風の系統だからこそ一線は引いているのだろう。

 そんなこんなで入浴も終わり、食事も終え、就寝する。……前に、ホムラ達は話し合いをしていた。


「さて……今分かっている虚無の境地の情報と絶望の象徴の情報だけど……虚無の境地は“星の裏側”って言っていたな」


「“星の裏側”……単純に考えるなら私達の街の裏側だけど、態々(わざわざ)言い残したって事はそんな単純じゃないよね」


 虚無の境地達の情報。

 崩壊した村に寄っただけの絶望の象徴はまだ全てが不明だが、虚無の境地についてはその顔も見ており、居場所と思しき所の指定もある。

 絶望の象徴よりかは出会える可能性も高いだろう。それを眠る前に改めて考えるようだ。


「まあ、先ず分かっているのはあの虚無の境地が居る程の場所……治安は最悪クラスだろうな」


「偏見かもしれませんけど、あの性格の存在が居るんですもんね。ホムラ様にそこへ来いと言ったのならば拠点にして居るのは間違い無さそうです」


 星の裏側の治安。完全に偏見だが、虚無の境地が好んでいるとなると良いとは思えなかった。

 そこへ、フウが思い出したように話す。


「星の裏側……確か昔、私達は学校で教わったよね。教わったと言うより説明の中で出ていたような……あ、そうだ。混血とは関係無いのに複数の系統を扱える“魔族”が居る場所!」


「……そう言えばそんな事もあったような。少し授業で出てきたような……よく覚えているな、フウ」


「記憶力は良いんだ。私!」


 昔に授業にて、“混血”や“闇魔法”、“光魔法”について行った時にホムラとフウは名前だけなら教わった。

 フウの言うように詳細を教えられた訳ではないが、ちょっとした情報は出された。

 何の事か分からないトキとセイカは疑問符を浮かべているが、二人の会話からある程度は理解したようだ。


「つまり、星の裏側とは私達人間ではなく、魔族が支配する場所……という事でしょうか」


「支配……しているのかは分からないけど、当たらずとも遠からずって感じだろうな。魔力はその名が示すように根源は魔族にあるとも言われているし、少なくとも俺達の世界よりは魔法も発展しているかもしれない」


 “魔族”とは、主に人間より寿命が長く、魔法……と言うより魔術にけており、力も強い。完全に人間の上位互換のような種族である。

 基本的に争いを好み、人間からはあまり良く思われていない存在。知能も魔力も高く、もしもこちら側の世界に来た時は人間の天敵にもなりうる存在だろう。

 星の裏側に虚無の境地がおり、そこに行く事になるとしたら考えるまでもなく面倒な事になる。


「まあ、虚無の境地がそこに居るなら俺は行くつもりだ。それが目的だからな。星の裏側に入っただけで攻撃される可能性もあるけど、その時は侵略者のように迎え撃つ」


「ホムラ様が向かうというのならば私もお供します」


「私も行くよ。ホムラ」

「もちろん私もね!」


 危険な場所なのは目の当たりにせずとも理解している。それでも行くというセイカ、フウ、トキ。

 ホムラには闇魔法があるので何とかなるかもしれないが、そこに行くまでは分からない。先は未知数である。


「ふぁ……そろそろ寝るか。眠くなってきた」

「はぁわ……。し、失礼しました……私も眠気が……」

「アハハ……流石婚約者の二人。あくびがうつっていま……ふよ……はっ……私もうつっちゃった……」

「えぇ~! 私だけうつってないよ! あ、あー……駄目だ……出ない……何か仲間外れの気分……」


 夜も更けてきた頃合い、三人があくびをし、一人があくびをしようとして止まる。

 “虚無の境地”と“星の裏側”についての情報はある程度まとめた。後は今日の分の疲れを癒す為に眠るだけである。

 ホムラ、セイカ、フウ、トキの四人は同じ部屋に向かい、眠りに就いた。



*****



「すみませーん! 居ますか!? ローブの冒険者様方!」


『バウ?』

「ん? なんだ……朝っぱらから……」


 ──翌日、目が覚めた、と言うより起こされたホムラは自分に抱き付きながら眠るセイカ、フウ、トキの三人を掻い潜り、振り解いて一緒に起きたガルムを軽く撫でつつローブを被り、一緒に起きたガルム達と共に門へと向かった。


「はい、居ますよ。早朝ですのでご覧の通り」

『バウワン!』

『ボニャア!』『ニャブゥ!』

『ニャビュウ!』『ニャゴン!』

「……。ペットも一緒ですけど」

「ああ、良かった!」


 門前に居たのは新聞などを届けてくれる配達人。割とお世話になっている人であり、ホムラ達も顔見知りだ。……もっとも、基本的にローブで隠しているので配達人はホムラ達の顔をよく見た訳ではないが。

 その配達人はホムラが出てきた事に何故か安堵し、一呼吸後にまた慌てて言葉を発した。


「せ、戦争が起こるんです! 明日か明後日か、もうすぐに!!」


「……!」


 ──それは、全く良くない報告。戦争の知らせ。

 何も突然ではない。この世界ではいつ戦争が起きてもおかしくないからだ。

 いつものように過ごす筈だった早朝、どうやら今日からいつものようにはいかないらしい。

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