42ページ目 追っ手?
「……そんじゃ、名前は右から“カエン”。“スイレイ”。“センプウ”。“ガンセキ”。異論は無いか?」
「はい、ありません♪」
「賛成ー!」
『バウワン!』
『ボニャア!』『ブニャア!』
『ビュニャ!』『ゴニャア!』
──そしてまた数十分後、四匹の名前も決まった。
名前は単純に、その属性に関連あるもの。火炎、水冷、旋風、岩石をそのまま使っている。
ホムラ達がガンセキの属性で、“岩”部分中心にするか“土”部分を中心にするかを悩んだのは余談である。
何はともあれ、既に決まっていたガルム。そして新たに加わったカエン、スイレイ、センプウ、ガンセキの四匹は嬉しそうだった。
「……。今日はもう日が暮れるな。貯金は少しあるし、今日はクエストを受けなくても良いか。夜の方が報酬の高いクエストもあるけど、まだそこまで金銭的事情に困っていないし」
「それが良さそうですね。元よりこの一週間は働き詰めでしたし、一週間に一回くらいは休む日も必要かもしれません」
「私が泥棒稼業していた時も何日かは休んでいたからねぇ。働きっぱなしは逆に問題だよ!」
魔物、ガルムの件と屋敷の掃除。そしてガルム達の名付け。それらを踏まえて既に日も暮れ始めていた。
夜の方が魔物類も活発化し、報酬の良いクエストは多くなるが、そこまで金銭に執着している訳でもないので今日は休む事にする。
「改めて見ると、この感じも久し振りですね。今にも使用人さん方が名前を読んでくれそうです」
「……。そうだな。まあ、使用人さんは居ないし俺達で料理とかするか。幾分味は落ちるけど腹の足しになれば良いや」
「二人とも最近まで上流階級だったんだよねぇ? 皮肉とかじゃないけど、よく今の環境に適応出来るね」
純粋な気持ちでホムラ達に訊ねるトキ。
実際、ホムラはともかくセイカは世間の事もあまり知らない姫君だった。
なのでこの環境の変化への適応力が疑問なのだろう。
「俺は割と森とか山とかで生活……とまではいかないけど、色々と遊んでいたからな。汚れとか不衛生な事には慣れている」
「私は……何ででしょうね。ホムラ様が居るので平気なのはそうなんですけど、別に然程苦ではないんです」
「へえ~。やっぱり君達は私の知る貴族や王族じゃないね」
今の生活環境は、言ってしまえば奴隷以上平民以下。
この屋敷で生活する事になるのならば前の生活にも近くなるだろうが、それでも良い環境ではないだろう。
トキはホムラ達の、そんな環境への適応力に素直に感心していた。
「まあ、話は後で良いだろう。今は夕食の準備。ちゃっちゃとやろう」
「はい。あ、けど今は食材とかありませんよ」
「そうか。なら先ずは買い物だな」
「私がお使い行こうか? 文字通り時間は掛からないよ!」
夕食の準備をするに当たって、先ずは食材の調達。それについてはトキが名乗り出た。
トキの時空間魔法ならば確かに買い物は早い。時間停止を使わずとも自身の高速化など様々な事が出来るので早く済むのだ。
「そうか。じゃあ頼んだ。それと、ガルム達の分も頼む。俺達はペットや使い魔が何を食べるのか分からないからな」
「オッケー! じゃチャチャチャのチャッチャと行っちゃうよ!」
「ちゃが多い。まあいいや。俺とセイカはその他の準備をするか」
「はい! ホムラ様!」
『バウッ!』
『『『『ニャー!』』』』
ホムラとセイカで下準備や風呂関連。ガルム達も吠え鳴き、動物の言葉は分からないが準備はバッチリと言った雰囲気だった。
それから屋敷の出入り口まで進み、トキはハッとした。
「ちょっと待って! それってもしかして、君達が二人きりって事!? ちょっとそれはあまり良くない気が……!」
「そうでもないだろ。別に敵が攻めてきたり何が起こる訳でもないからな」
「ホムラ様的には本当にそうでもないって思っているんですよね……多分」
それは、ホムラとセイカが少なくとも人間同士では二人きりという事について。
ホムラは特に深く考えず、トキの言葉を理解していたセイカはガクリと肩を落とす。
「一先ず、早く行けば早く帰れるんじゃないですか?」
「それもそうだね。じゃ、“クイック”!」
セイカに言われ、またハッとしたトキが即座に加速魔法を使用。高速で街の方へ向かった。
そしてこれまた余談だが、トキの使う“クイック”は自分に掛けたとしても肉体的な成長を促せる訳ではない。なので使い過ぎて老化するなどもなく、単純に自分の移動速度のみを速く出来る便利仕様なのである。
そんな加速魔法にて既にトキの姿は見えなくなっていた。
「俺達も準備するか。近くの川から水を汲んで来なきゃな。水魔法が欲しいや」
「スイレイちゃんの水はどうでしょうか?」
『ニャブゥ?』
何事にも水は必要。なので水魔法の便利さを欲するホムラに対し、セイカがスイレイを抱き上げてホムラの前に差し出した。
それを見、ホムラはため息を吐いて話す。
「あの風呂のサイズなら数千リットルは必要。器に蓄える水や食器を洗う水。諸々の水を出すとなるとまだ子供のスイレイが持つ魔力が尽きる。あまりオススメは出来ないな」
「そうですか……。確かにスイレイちゃんの方が大事ですね」
セイカの抱くスイレイの頭を撫で、負荷が大きいと却下。
成人した平均的水魔法使いならまだしも、将来的には期待出来るかもしれないがまだ子供の魔物であるスイレイにはツラい事だろう。
それはセイカも理解し、何よりこの子達が大事なので納得した。
スイレイを優しく置き、ガルム達の元に戻して腕を捲る。
「それなら、水運び、頑張りましょう!」
「あー、大丈夫だ。闇魔法で運べるからセイカは屋敷内で火とか食器とか、簡単な準備をしていてくれ」
「あう……そ、そうですか。分かりました」
自信満々だが、水は重い。なのでホムラが闇魔法で運ぶらしい。
それを聞いたセイカはまた肩を落とすが、即座に立ち直って気合いを入れ直した。
何はともあれ、買い物のトキと水運びのホムラ。下準備のセイカと役割分担が済み。行動を開始した。
*****
「コレとコレと……後コレ! あー、肉類って彼らの境遇からしてトラウマになってないかな? うーん……普通に食べてたし、大丈夫かな」
街で買い物をするセイカはちゃんとお金を払って購入し、複数の紙袋を軽くして楽に持ち運びしていた。
既にある程度の物は購入済み。ガルム達用の物も抜かり無く、である。
元々弟や妹の世話をしていたのもあり、こう言った事柄も慣れているのだろう。
「お、おい……あれ……」
「嘘だろ……?」
「まさか……何故この街に……!?」
(……ん? 私? ……じゃないみたい)
買い物を終了しようとしたところで、街が少し騒がしくなっていた。
トキはローブから顔が見えたかなと慌てて整えるが、どうやら違う様子。自意識過剰などではなく職業? 柄、自然な行動である。
何にしてもこの騒ぎは少し異様。例えるなら街中に自分が現れた時に匹敵する騒ぎ。つまりそれはかなりの大事だろう。
良くも悪くも、世界的な存在の襲来と同じなのだから。
(これは……確認した方が良いかな? けど彼らに報告するのが先……? 最適解は……チラッとだけ見て即座に報告! かな!)
自己完結し、一瞥だけしてホムラ達に一応の報告をするという方針で見てみる事にした。
深入りはしない。それを踏まえて人混みの中へと入って行く。
そこの中心に居た者は、者達は──
「此処が……一週間前に黒い存在の確認がされた街……」
「何処にでもあるような普通の街だな」
「だからこそ隠れるには最適かもしれないわね」
「一週間前のみならず、近場の森では時折黒い何かが目撃されているらしい。詳細は不明。見間違いという意見が多数だが……可能性があるなら調べてみる必要もあるさ」
全員ローブを被っているが、あまり隠そうとしていないのか大凡の特徴は掴めた。
緑色の髪を持つ女性、茶髪の男性、青髪に眼鏡の女性、そして大胆過ぎる露出度を誇る茶髪の女性。そんな四人組。
その程度なら何も問題ではない。単なる冒険者や観光客だろう。トキが判断する上での一番の問題は、
(……! 杖……! という事は貴族か王族の魔法使い……!)
──その者達が皆、杖を所持していた事。
それが意味する事はかなり重大。即ち魔法使いであり、ホムラ達の追っ手の可能性が高かった。
「……ん? あのローブの奴……」
(……! 気付かれた!?)
「あ、待っ──あれ?」
「逃げ……られたのかしら?」
「フム……」
茶髪の男性がローブのトキを見つけ、動くトキへ緑髪の女性が呼び掛ける。しかし今回は時間を止めてその場から逃げ去り、青髪眼鏡の女性は冷静に判断していた。
茶髪の大胆な露出を見せる女性は訝しげな表情でそんな姿を見ていた。
(大変! 大変大変大変大変大変! 大っ変! 追っ手が来ちゃった!)
荷物は当然持っている。時間を止め、更に加速魔法を重複。荷物類の軽量化もしており、街から少し離れた場所で時間を止めた空間が消え去ってしまった。
「あ、色々重複し過ぎて魔力が……せめて荷物の軽量化だけは解かないようにしないと……!」
魔力切れが迫り、自動的に解除される。
買い物の為に一度“クイック”を解いてから一番最初に掛けた軽量化の魔法のみは健在だが、その他は消え去っている。元々、今日は掃除などで魔力を消費している。だからこそ魔力切れが早いようだ。
だが、既に見えない所まで来ているので問題は無いだろう。荷物の軽量化以外は素の身体能力で駆け抜け、自分達の屋敷へと戻った。
「大変! 二人とも! アナタ達の追っ手かもしれない魔法使いが……! ゴホッ! ゲホッ……はぁ……はぁ……! オェ……ゴハッ! うぇぇ……」
「ト、トキさん!? 落ち着いて! み、水です!」
「ミミズ!? そんなもの私に……!?」
「真水です! 綺麗な!」
「え? 私が綺麗? ありがとう!」
「違くて……って、案外余裕じゃありませんか!?」
慌てて戻って来たトキに対し、セイカが慌てて水を差し出す。
そんなトキが放つボケの応酬をセイカはいなし、騒ぎを聞き付けて風呂に水を溜めていたホムラもやって来た。
「一体何があった?」
「あ、ホムラ! 大変なの! 今街の方に魔法使いと思しき人達がやって来て……とにかく、追っ手かもしれないから君達に報告をね!」
「そうか。確かに俺達の街からこの街はそんなに離れていない……俺を探しながらでも一週間もあれば着くな」
概要を聞いたホムラはそれもあり得る事と納得する。
実際、近辺の街はしらみ潰しに捜索されている筈。ホムラ達の街の近くにいくつあるかは分からないが、一週間も経ったので此処に来るのも頷けた。
「それで、どうする!? 私の魔法なら君達の速度を上げる事も出来るけど……!」
「どうしますか!?」
「……。いや、」
トキとセイカが焦り、ホムラに訊ねる。
それを聞いていたホムラは二人の肩を叩き、客人に向き直った。
「もう来たみたいだ」
「……え!?」
「……あれ? あ、仲間か!」
「「…………」」
屋敷の出入口にて、立っているのはローブを纏った二人の男性。男性というのはローブの体格から分かった。
トキは自分が見た人達と違うと一瞬疑問を浮かべたが、仲間くらいは居るだろうとまた自己完結する。
屋敷にて夕食の支度をするホムラ達三人の前に、追っ手らしき者達が現れた。




