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40ページ目 拠点になる屋敷

『……?』

「お。起きたな」


 そして、魔物が起きるのは割とすぐだった。

 ホムラ達が入って来ると同時に目覚め、立ち上がる。

 身体を震わせ、伸びをしてその顔をじっと見つめた。


『ガウ?』

「……。意外と敵意は無いな。噂程危険な感じじゃないか」


 高さは2~3m。長さは4~6mと魔物にしてはそれなり。

 耳と鼻。鋭い牙に四肢には鋭い爪。これまたよく居るような魔物だが、意外にも敵意が無かった。

 魔物は基本的に人を敵と見定め、見た瞬間に襲い掛かるのが普通。此処がこの魔物の棲み家となっているなら尚更だ。

 しかしながら、この魔物は小さく鳴いて小首を傾げる始末。試しにホムラはその頭を撫でたが特に反撃などもして来なかった。


「これってもしかして……。今まで人を襲っていたのは向こうが先に仕掛けて来たからか?」


『バウッ!』


 顎下を撫で、魔物の在り方を思案する。

 寝起きだから機嫌が良いのか、ホムラ達に敵意が無いから何もしないのか。

 そのどちらだとしても魔物を追い払う。もしくは殺めて巣を奪うのは思うところもある。

 だがしかし、このまま放置するのも問題。この物件が永遠に売れないのはともかく、いつかはこの魔物が殺されて奪われる可能性もある。ホムラ自身殺生はいとわないが、無抵抗な者に対しては思うところもあるので困りどころだ。


「うーん……何とかして俺達がこの屋敷に住めれば良いんだけどな……」


「ホムラ様……いつになく真剣ですね」


「いつもは即断即決だからな。ぶっちゃけ、今の心境で言えば不特定多数の人間が死ぬより敵意の無い魔物や動物が殺される方が胸が痛む。俺自身、食事を摂る為に殺めたりしているけどな」


 昔ならともかく、色々とやられた最近のホムラにしては珍しく真剣にこの魔物をどうするか考えていた。

 いやむしろ、人の醜い部分をこの数日で見過ぎていたからこそこの様な思考に至ったのかもしれない。

 元々貴族や王族がクズなのは知っていたが、野盗などのような平民からのクズなども多く目の当たりにし、人自体を信用出来なくなってきているのかもしれない。

 だがホムラ自身はその変化に気付かず、今は目の前の魔物に集中する。


「魔物は知能が高いのも居るよな……。なあ、俺の言葉、分かるか?」


『……?』


 知能が高く、話せる魔物は多い。

 しかしながら今目の前に居る魔物は言葉などの類いは分からない様子。

 なのでホムラはまた思案する。


「魔物と話せる魔法……あるかもしれないけど俺は使えないな。セイカかトキは?」


「私も使えませんね……主に炎魔法の派生なので」


「私も無理かなぁ。だって時空間と動物との会話って関連性無くなーい?」


 動物と話す魔法。使える人も居るかもしれないが、少なくともホムラ達はそれを使えない。

 魔物に敵意は無い様子だが、話せないと何も出来ないのが困りどころである。


「この場所、俺達の家? にしたいんだけど……いいか?」


 しかし、無言で撫で続けるのも問題。なので言葉の意味が分からなくとも何となく言ってみる。

 だが何を言えば良いのかは分からない。自分達の家にするから出て行ってくれとも言い難く、しどろもどろな言い回しとなってしまった。


『クゥン……? バウッ!』

「え?」

「わっ!」

「あわわ……!」


 その言葉に対し、魔物はホムラ達三人を咥えるように持ち上げ、自分の背に乗せた。

 思わぬ行動に三人は驚きを隠せず、しかし乗り心地が良く次第に動揺が消えて行く。


「大分人に慣れてるな……。一応この魔物も何度か人間と戦っている筈だけど……」


「全く警戒しておりませんものね。トキさんにさえ……」


「ちょっと~。それってどう言うこと?」


 かなり人には慣れた様子の魔物。此処に来た人間と戦っている事を考えれば警戒されてもおかしくないが、そんな事も無かった。

 その事から考えられる線は、


「……。もしかして、元々城の番犬とかだったのか? 見た感じ犬科の性質が強めだし、馬と番犬の役割を果たしていたのかもしれない。普通の犬科動物ならともかく、魔物だから体幹も強いし力もある」


「成る程……それなら人に対しての行動も納得出来ますね」


「番犬なら人もよく相手にしていただろうからねぇ。犬科動物は人への感情を強く感じるって言うし、私達に敵意が無い事も分かったのかも」


 この魔物は人に仕えていた可能性があるという事。

 番犬にしても馬のような役割にしても人に慣れているので敵意があるなら攻撃に移り、敵意が無いなら背に乗せてくれるのだろう。


「うーん……ペットにでもするか? こちら側から仕掛けなければ実害は無さそうだし」


「あ、良いですねそれ! 私、ペットとかの類いに憧れていたんです! お城じゃ飼うのを許してくれませんでしたからね」


「ペットかぁ。悪くないけど、ちゃんとお世話出来るの? アナタ達って良いところの出だし、トイレとか食事とか散歩とか、色々必要だよ?」


 敵意はなく、ホムラ達にも早くも懐き始めている。なのでいっその事ペットにでもしようかと言う方向になった。

 が、トキはそれを懸念する。

 一応貴族は貴族のトキだがペット関連の事には詳しいらしく、世話をするのが大変と二人に言い聞かせる。まるで母親のようだが、二人は少し考えた。


「じゃあトキ。詳しそうだから色々と教えてくれ。番犬代わりとしてもかなり強いのはそうみたいだからな。戦力にもなる」


「トキさん。お願いします」


「えぇ……別にいいけど……結構大変だからね?」


 分からないなら分かっている者に聞く。二人は学校での成績も良く、物覚えも良い。なのである程度をサクッと教えればすぐに身に付くので問題無いだろう。

 そんなこんなで、ホムラ達は魔物を飼う事にした。



*****



「──って訳で、実は危険があまりないタイプの魔物だったんです。言葉は分からないみたいですけどニュアンスや感覚で分かってくれますし、何もしなければ街の方に害は出ないと思いますよ。……それに、あの屋敷は元々街の離れにある建物。今までのように人が近付かなければ問題ありません」


『ガウッ!』


「そ、そうですか……わざわざ連れてきて下さったんですね……」


『ワウ?』

「あ、ありがとうございます……」


 オーナーに概要を説明し、魔物が街中でも人を襲わないのを確認した。

 怯えるオーナーに頬擦りをして宥め、オーナーは何となく礼を言ってしまった。

 周りには単純な興味で魔物と触れ合っている人もチラホラ。


「わぁ……頬っぺた伸びるー」

「爪鋭ーい!」

「毛抜けなーい!」

「毛を抜こうとするなよ……」

「モフモフのフカフカ~」

「柔らか~」


 ──と、この様に完全にいじられているが、悪意の無い弄りなので頬や毛を引っ張られても欠伸あくびをするだけでボーッとしていた。

 元々数多くの者を返り討ちにした強犬。おそらく複数人の成人男性が思いっきり身体を引っ張ったとしても特に感じない程に強靭な肉体だろう。


「確かに大丈夫そうですね。形的には“隷属”となるのでしょうか……とにかく、アナタ様方へあの屋敷をお譲り致します。本名は隠しているようですので、アナタ様方と分かるようなサインを適当に書いてください」


「はい。けど、俺達の名前を隠しているのに良いんですね。もしかしたらとんでもない極悪人とか、世界的指名手配犯とか、貴族や王族かもしれませんのに」


「何者にせよ、“お客様”である事には変わりませんからね。それに、アナタ様方のお陰で街もより平穏になっております。アナタ様方への厚意が足りないくらいですよ」


「そんなもの要りませんよ。身の上を知らぬ俺達を受け入れて下さっているんですから。……っと、サイン書きました」


「いえいえ。私達の勝手な判断です。……では、簡単な手続きと契約に移りましょうか」


 平民には“仮名”が無い。なのでホムラ達は“真名”は当然の事、“仮名”としても名を明かす訳にはいかなかった。

 そもそも広まっているであろう名は“シラヌイ・ホムラ”と“ハヤカワ・トキ”。

 一週間前に世界的大犯罪者に仕立て挙げられたホムラと元々世界的な大泥棒だったトキ。この二人の名は絶対に明かせない。なのに此処のオーナーやクエスト関係者はそれでもホムラ達を受け入れてくれた。感謝してもし切れないだろう。

 だからこその懸念もある。


「俺達の所為で街が滅茶苦茶になる可能性もある。しばらく滞在するにしても、いずれは街を離れなくちゃな。前も似たような事を話したっけ」


「そうですね。あの方達にご迷惑は掛けられません」


「他人の迷惑を考える貴族に王族って、本当に不思議だよねぇ」


 サインや手続きを終え、屋敷に戻るホムラ達は魔物の背に乗りながら今後の事を話していた。

 それはそう遠くない未来。必ず実行しなくてはならない事。そうしなくては優しい街の人々が傷付く事になるからだ。

 そんな事を話ながら三人は購入したばかりの屋敷に着いた。


「まあ、汚れ切っているし、庭掃除と屋敷内清掃。一部の修繕。やる事は色々あるな……闇魔法でも全部を一気にやるのは大変だ。2~3日……いや、それ以上に時間が掛かりそうだな」


「この様な仕事は基本的に使用人さんがやって下さいましたからね。初めての経験です」


「私は部屋の掃除くらいはしてたけど、大変だねぇ」


 魔物から降り、改めて屋敷を見渡す。

 ホムラとセイカにとってはそこそこの大きさでしかない屋敷だが、三人で回すには少しばかり大変そうな様子。闇魔法と言えど面倒なものは面倒だろう。

 これならばまだ腹の立つ人間を殺す方が楽である。


「そうだ。トキが時間を止めて掃除すれば時間が掛からないんじゃないか?」


「それって私への負担がとてつもなく大きくなるだけじゃん!? 時間が止まっている状態で思うのも変だけど、私の体感時間的には私だけ何週間も掃除する事になっちゃうよ!」


 ホムラとセイカは時を止められない。なので時を止められるトキが時間を止めて全てこなせば体感0秒で掃除が終わった事になる。

 それを提案するホムラだが、トキ自身への負荷が冗談抜きで凄まじいので必死に断った。


「そうか。なら仕方無いな」


「当たり前だよ!」


「それじゃ、時間魔法と空間魔法って時を止めるのと進める以外に何が出来る? 空とか飛べるなら高い箇所は任せたいんだ」


「うーん……空間魔法は主に止まった時間の中を動く為に使っているからねぇ。けど、空間その物に干渉するから空を階段みたいに上がったりとかは出来るよ。君は空を飛べたりしないの?」


「飛べるは飛べるけど、杖が必須なんだ。てか、杖無しに時空間を操れるトキが凄いんだよ」


「えへへ……面と向かって言われると照れるね……」


「事実だからな。取り敢えず、簡単に役割分担して掃除するか」


 時空間魔法をもちいた清掃法。

 屋根などの高いところはトキが何とか出来そうではある。

 闇魔法を展開し続けるのも体力を消費するのでなるべく自分の力を中心的に行おうとも考えていた。

 それもそれで疲労が募るが、闇魔法の場合は本当に意識を失ってしまう。自分の体力のみに任せれば、一日中掃除をしたとしても筋肉痛や座り込んだりはあるかもしれないが闇魔法のようにブラックアウトして倒れる事は無いだろう。


「それでは、私は屋敷内の掃除に取り掛かりますね」


「んじゃ、俺は先ずはサッと闇魔法で掃除して後は自分の力でやるか。闇魔法も俺の力だけど」


「それじゃ、屋根の上まで行ってるねぇ!」

『バウッ!』


「ふふ、アナタも掃除してくれるんだ。アナタの名前も決めなくちゃね♪」


 ホムラが闇魔法を展開させ、トキが屋根に登る。セイカは屋敷へ入り、布を咥えてヤル気満々の魔物を見て小さく笑った。

 今更だが、勘の鋭い動物でもホムラの闇魔法に反応などは無い様子。殺意の込めた闇魔法と利便性を追求した闇魔法。用途的に違うのは魔力の形にも関係するのかもしれない。

 何はともあれ、ホムラ達は屋敷の掃除に取り掛かった。

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