39ページ目 物件探し
──“一週間後”。
この街をホムラ達の仮拠点としてから一週間後。
日給の出るクエストを受け続けてある程度の金銭も集まり、まだ人類の敵についても情報が無い現在、ホムラ、セイカ、トキの三人は一つの店に来ていた。
「いらっしゃいませ。……おや、アナタ様方は“ローブの冒険者”方。私めの店へ如何様ですか?」
“ローブの冒険者”。
それは顔を明かさぬホムラ達にこの一週間で付けられたあだ名であり、取り敢えず名的なモノが合った方が効率的なので使っているものだ。
この一週間で受けたクエストは数十種類。その全てを短時間で解決するホムラ達は、一週間という短い期間にも関わらずこの街での知名度はあった。
そしてそんなホムラ達は今、族に言う不動産のような店に来ていた。
此処では土地や建物の売買をしており、平民ながら貴族にも近い商売である。
オーナーはこの一週間で街での知名度が上がったホムラの事を知っており、丁寧な態度で接客する。
ホムラは言葉を返した。
「ええ。ずっとこの街に居る訳じゃないですけど、そろそろ宿に迷惑って事を考えて仮の住まいくらいは見つけようかなって思いまして」
「成る程。それは良き判断で御座います。アナタ様方の評判は耳にします。この街と近隣の治安がたった一週間で大きく改善されたとか。永住は無理にせよ、拠点としてくれるのならば我らからしてもありがたい事です」
ホムラ達の評判は上々。クエストの達成率は100%にして治安の維持にもかなり貢献している。
なのでこの街の専属になって欲しいという声もチラホラ。
この世界の法律は表向きだけで誰も護ってくれない現状、自分達の味方は全世界の人々が欲しているのだ。
「それで、オススメの場所はありますか?」
「そうですね……アナタ方の実績からいくらかのサービスをさせて頂きたいところですが……現状、そこまで良い物件はありませんね。アナタ方が快適に過ごせる空間を提供したいのですが……何れも少々値が張り、ある程度の土地を掌握して置きたい貴族や王族の方々しか購入出来ない値段です……」
バツが悪そうに話すオーナー。
何もしてくれず、頼りにならない貴族や王族よりかはホムラ達の方にサービスをしたいようだが、経営的な意味でも中々難しいのだろう。
そしてやはりオーナーもこの街の出身者。目の前の金より街の平穏を望んでいる様子であり、心底申し訳無さそうにしていた。
「それくらいなら私がちゃちゃって盗んで……ムガッ!?」
「ぬす……え?」
「盗人も行方を眩ましたままですからね。色々と大変かもしれません」
「あー、そうですね。アナタ方に優良物件を授けたとして、一週間前から行方不明な“瞬盗女王”が気掛かりです。この街を去ってくれたのなら良いんですけどね」
そんなオーナーに口を滑らせたトキの口を、ホムラはパンッ! と叩くように塞ぐ。何とか誤魔化せたらしく、取り敢えず物件探しは大変そうだった。
「別にそこまで気を使わなくても良いですよ。風雨を凌げる建物があれば、街の飲食店や温泉。その他の場所で自分達なりに身を休めますから」
「冒険者をやっているだけあって精神力高いですね。他の人達はより良い場所に住む事を望んでいますのに」
「他の人達は俺達と違って何十年も住む事になりますからね。一時的な俺達はそれで良いんですよ」
「成る程。そうなるとこの辺りが安く、比較的快適でしょうか」
「…………」
オーナーの広げた絵を見る。
細部まで描かれており、腕の立つ画家が描いたのだろうという事が分かった。
木造建築。レンガ。石造り。種類は色々。しっかりと模写したのか崩れた部分も再現されており、確かに安いんだろうなという事が窺えられるものだった。
「ん? この屋敷に至ってはほとんどタダも同然ですね……この中では……というより、貴族王族御用達の屋敷よりもかなり高級そうなのに……」
そしてそんなイラストの中、一軒だけ場違いとも思える屋敷があった。
豪華絢爛な装飾。他のイラストよりも大きく描かれており、周りの風景画と比較しても大きめ。それは王族や貴族の別荘としても問題無さそうな物件である。だからこそホムラは疑問に思う。
「ああそれは……少し訳ありでして……」
「訳あり?」
「もしかして……御幽霊様が出たり……」
「ええ。ああいえ、まあ事故物件は事故物件ですけど……言ってしまえばかなり危険な魔物が棲み着いており、この魔物に防衛組織や国の兵士。その他の団体でも勝てず、戦争でもないのに人員を消費するのは無駄と断られてしまい……命の保証も無いのでこの魔物を討伐、もしくは何らかの方法で無力化出来る方にのみお売りしているのです」
「成る程。だからこそタダ同然……」
高級邸宅がタダ同然の値段で売っている理由。それは危険な魔物が棲み着き、多くの者が死しているから。
ある意味では幽霊などの噂のある事故物件の方が良いだろう。何れ死ぬにしても、魔物のように一瞬で殺して来る訳ではないのだから。
だが、寧ろそう言った物件はホムラにとって好都合だった。
「それなら、此処にしますよ。持ち合わせも少なく、間取りを見る限り浴室やトイレに寝室、書斎やキッチンなど必要な物は全て揃っておりますし」
「そ、そんな……アナタ様方にその様な事を……!」
「大丈夫ですよ。アナタも知っての通り、俺達はそれなりの強さを誇っていますから。多分大丈夫です」
「しかし……」
此処にすると決めたホムラ。
オーナーはホムラ達の身を案じて制止するが、ホムラは問題無いと返した。
まだ思うところがあるようだが、オーナーは言葉を続ける。
「いえ、分かりました。アナタ様方の実績は紛れもない真実。邸宅を売るのが私達の仕事。それを果たします。けど、くれぐれもお気を付けて。これを。門と屋敷の鍵。地図、その他の必要そうな品々です。こちらはサービスと致します。アナタ様方は命を懸けておりますので……」
「はい、ありがとうございます」
家や土地を売るのが不動産屋の仕事。
なのでそう告げ、ホムラ達に鍵と地図。その他に手持ちの燭台などを渡す。
それらはサービスしてくれるらしい。太っ腹なオーナーだが、オーナーからしたらホムラ達は危険地帯に向かう若者。これでも足りないと判断しているようだ。
ホムラ達は地図の元、この街から少し離れた場所にある屋敷へと向かった。
*****
「此処が例の屋敷か。絵で見たけど、改めて実物を見るとかなりの大きさだな」
「そうですね。魔物によって整備出来ていないのか一部は崩れていますが、それでも十分過ぎる程の大きさと豪華さです」
「まあ、掃除とかは闇魔法を張り巡らせればどうとでもなるしな」
到達した屋敷。外観だけでもかなりの物という事が窺えられるが、汚れも思ったよりは少なく、何とかなりそうな雰囲気はあった。
そんなホムラの言葉にトキは信じられないような表情で意外そうに質問した。
「……え? 君、闇魔法をそんな風に使ってるの……?」
「ああ。範囲はまだ分からないけど、少なくとも俺達の街全域を覆えたし、範囲は足りるだろうさ」
「いや、そう言う問題じゃなくてさ……って、街全域!? ああ、それでもなくて……それって闇魔法の正しい使い方?」
「そうなんじゃないのか。だってせっかく変幻自在に形を変えられるんだ。人を殺すだけが使い方じゃないだろうに」
「えぇ……」
ホムラの言い分に困惑するトキ。
闇魔法の範囲もさることながら、掃除などの日常的なものにも使えると言う。
これ以上話すと更に混乱しそうなのでトキは疑問符を浮かべながらホムラ達と共に屋敷の中へと入って行った。
「中も広いですね。まだ昼間なので窓から明かりが入っていますけど、影になっている箇所も多いです」
「まあ、人が居ないからな。明かりが点けば全体的に見渡せるようになる」
屋敷内は人が居ないのもあり、全体的に暗い雰囲気だった。
使われていないシャンデリアが天井に吊り下がっており、燭台なども蝋燭が無い状態で置かれている。
絵の入っていない額縁や飾り気の無い装飾品など、此処に来た者が好きに飾り付け出来るような物は多いが、それらが何もなく、“無人”に相応しい装いだった。
「それで、例の魔物って何処に居るんだろう」
「何処でしょう……やっぱり根城にするなら中心部でしょうか?」
火を付ける道具も貰ったが、それは使わず炎魔法で手持ち燭台に火を付けて屋敷内を照らす。
今のところ魔物の気配は無い。大抵の動物は自身の身を案じて巣は洞窟などの奥に作るので、それを踏まえた上で屋敷内にしても奥の方にあるのだろうと考えていた。
「……。セイカの考えは正しいよ。闇魔法を屋敷全体に張り巡らせたら中心部にだけ異質な気配があった。そこに居るみたいだ」
「「……!」」
そして、既に闇魔法で感知していたホムラがセイカの言葉に返す。
闇魔法は、視力を共有出来る訳ではない。しかし、その他の感覚を共有する事は出来る。
今回は触覚を共有し、その気配から魔物の居場所を掴んだみたいだ。
「流石ですね。ホムラ様!」
「闇魔法が優れているだけだ。まあ、修行すれば炎魔法でも感知は出来るようになる」
「熱感知……それを覚えておくのも良さそうですね」
そんなホムラにセイカが賛し、ホムラは淡々と返す。
実際、感知なら炎魔法でも可能。学校の教師、アカネがスイを医術室に運んだ時に熱感知魔法でその身を護っていてくれた事がある。
その魔法はセイカも知っており、覚えておいて損は無いかもしれないと考えていた。
「ま、場所は分かった。屋敷全体を見る為にも少し遠回りして行くか」
「そうですね」
「賛成ー」
既にこの屋敷を得る事は大前提で考えている。
なのでホムラ、セイカ、トキの三人は屋敷を見学するのも兼ねて遠回りしながら向かう。
「──渡り廊下はそこそこであまり広くありませんね」
「一般的な物だな」
(え!? この広さで一般的!?)
長いが、ホムラとセイカからしたらそうでもない渡り廊下を行き、
「これもまた平均的な一室だ」
「少し狭いですね」
(え!? この広さで狭い!?)
広いが、ホムラとセイカにとってはそうでもないリビングを見、
「食堂か。家族と使用人でギリギリの大きさだな」
「もう一回り大きくしたいですね。働いてくれている使用人様方を立ちっぱなしにするのはちょっと……」
(え!? この広さでまだ足りない!?)
広いが、ホムラとセイカにとってはもう少し欲しい食堂を見、
「書斎……まあ、一人部屋ならこれくらいが丁度良いか」
「狭い方が落ち着きますもんね」
(え!? どう見ても5~6人用の部屋なのに!?)
広いが、ホムラとセイカにとっては一人部屋程度の書斎を見、
「寝室。本当に寝るだけの部屋だな」
「テーブルとかソファーとか暖炉とか本棚とか、他にも色々ありませんもんね。お世話してくださる使用人さん達も寛げる空間にしなくては」
(え!? これで十分なんじゃないの!? どんな激しいプレイする気なの!? 私の身体持つかな……)
広いが、ホムラとセイカにとっては他にも色々な家具類の欲しい寝室を見、
「浴室……これまた狭いな。精々入れて4~5人か」
「身体を洗う場所も狭いですわね……まあ、私達三人なら丁度良いでしょうか」
(え!? もう薄々気付いていたけど、やっぱり狭いの!? それと混浴は前提……まあそれはいいかな)
広いが、ホムラとセイカにとっては物足りない浴室を見、
「トイレか」
「トイレですね」
(え!? そこはスルー!?)
そこそこの広さのあるトイレを見、
「魔物か」
「寝てますね」
「そうだね……」
まだ屋敷全体を見た訳ではないが、一通りのスペースを見学したホムラ、セイカ、トキの三人は魔物の居る屋敷の中心部、ホールへと来ていた。
魔物は眠っている様子。このまま不意討ちをしても良いが、何もしていない魔物にそれは少し思うところアリ。
なのでホムラ達は一先ず起きるのを待つ。起きないなら起こすが。
何はともあれ、本拠点になるかもしれない屋敷。三人はそこで魔物と相対した。




