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38ページ目 お互いの関係

 ──“宿”。


「さて、ホムラ様。今日こそは……」

「どちらかの相手をして貰おうかな?」


「断る。明日も色々とクエストを受ける予定だ。支障が出る」


 その日の夜、ホムラ達三人は宿に戻り、夕食を摂った後でセイカとトキが再び迫った。

 どちらかを選ぶ。それをした場合、選ばれなかった方は深く傷付くだろう。

 そう考え、体力的な面で余裕の出てきた今でも断っているのだ。

 それによって更に二人を傷付ける結果になるかもしれないが、乙女心についてはまだまだ勉強中なのでその考えには至らなかった。


「と言うか、そう言うのって普通男女の二人だけでやるもんなんじゃないのか? 野盗とかみたいな恥も外聞もない蛮族や、奴隷やメイドさんを道具みたいに扱う上流階級者はともかく、基本的に生涯で愛する女性は一人だけだろ」


「私は泥棒だからね。そう言うのは気にしないかなー」


「じゃあ真名を知られても婚約者にならなくて良いんじゃないか?」


「それとこれとは別。私は奪う側だからね。先に元婚約者を選んでも奪って見せるよ……♪」


「私は元ではなく現在進行形で婚約者です!」


 貴族や王族は基本的に上品。しかしながら今はどちらかと言えば低俗な会話が行われていた。

 ホムラは軽く流すように話しているが、正直言って何が正解なのかは分からない。

 セイカからは確かな好意を感じている。トキは成り行きの婚約だが、好意はあるのか分からなかった。


「なあ、二人とも」

「「……?」」


 なので聞いてみる事にした。


「セイカは俺の事を心の底から好いてくれているみたいだけど、トキは別にそうじゃないんだろ? そこまで気を使わなくて良いよ。トキの真名を悪用するつもりはないしな。何ならそれについての契約をしても良い。仲間としての行動もまあオッケーだし、トキが婚約者的な立ち位置に加わる理由って無くないか?」


「……私の目的、簡単に言えばセイカへの対抗心だからね。だから君の意見は根本的に間違っているよ……って思ってたんだけどなぁ。なんか、君とセイカが仲良くしているのを見るのは心の奥と言うか胸の部分って言うか、変にモヤモヤするんだ。このモヤモヤ、何か分かるかな? 今は対抗心より、そのモヤモヤを払いたい気分なの。それでね。君と話しているとモヤモヤした感覚が少し和らぐんだ。だから何かのヒントにならないかなって」


 トキには、自分でも形容出来ないモヤのようなものがあるらしい。

 それが何かは当然分からない。なのでそれを解く為に、少しでもモヤが消える感覚になるホムラとの会話を楽しんでいるとの事。

 それを聞いたホムラは思案し、言葉を続ける。


「……。モヤモヤか。確かに精神的なモヤはある。何処かで呪いとか掛けられたんじゃないか?」


「うーん……確かに仮名だとしても、名のある呪い魔法使いなら呪いを掛けられるかも……。役職柄、私は人の怨みは滅茶苦茶買ってるし、呪われちゃったのかな?」


「そんなに不思議な感覚に陥っているみたいだし、可能性はあるな。……となると、やっぱり呪いを解く的な意味でもちゃんと選択しなきゃ駄目か……」


 得体の知れない、心にあるモヤのようなもの。

 単純に考えれば怨まれる立場故に呪いを掛けられたという事。

 今のところ一番しっくり来る感覚がそうであり、人体に影響が出ない程度の呪いが掛かっているのだろう。

 その呪いは、基本的に政略結婚である貴族や王族には分からぬ呪いであり、呪いに掛かった事の無いトキにはどうしても分からない事だった。


「その呪いでの体調不良とかあるか?」


「特には……けど、君と話していると心臓の鼓動が早くなって体温が上がるのが分かるよ。風邪にも近い状態になる」


「あ、それなら私もそうです。ホムラ様と初めてお会いした時から今のトキさんのような感覚がしばしば訪れて……ホムラ様と形式的にもちゃんと夫婦になれれば解けるかもしれないという感覚はあります」


「俺が原因か……。無意識のうちに闇魔法が漏れたのか……? セイカと初めて会った時はまだ使えなかったけど、片鱗があったなら可能性は高い……」


「成る程……」


 よく分からない感覚。しかし呪いというのなら、この世の全ての負を集めた闇魔法が近い。だとしたら闇魔法が無意識のうちにセイカとトキをむしばんでいたという事になる。

 それとは別に、トキはホムラの言葉へ驚愕して返した。


「え!? 闇魔法!? 君、闇魔法使いなの!?」


「ん? あれ、言ってなかったか? 俺も迫害対象の闇魔法使いだ。トキと違って後天性。今朝話した事……すごく嫌な事があって目覚めた」


「初耳だよ……。君もそうなのか……。迫害対象って意味で……」


 トキの驚きポイントは、ホムラが闇魔法使いであるという事。

 元・貴族というだけあって、ある程度は闇魔法の知識もあるらしい。知識があるからこそ、大きな反応をする。

 噂程度だとしても残忍で最悪の魔法という事が広まっている。トキから見た感じ、温厚そうなホムラに闇魔法が宿っているのは驚きだったという事だろう。


「そうだな。この魔法が使える事自体はまだそんなに知られてないけど、人類の敵になる事が確定している……らしい」


「まさかあの黒い魔法が……私、縛られたのに何で生きてるの?」


「生死も自由自在。やろうと思えば剣のような刃にも出来るし槍や銃弾。様々な武器の形に変換出来る。それで殺意とか敵意に自動反応……だからアンタを拘束したし、締め付けたんだ。その上で生きている」


「成る程……というか、それを私に言っても良いの?」


「別に。知られたところで対処法は無いだろうし、アンタが裏切るならその時は普通に殺すだけだから何とも思わない」


「……っ。そう。普通に……ね。本当に覚悟を決めているんだ。凄いや」


 詳細を話したところで、ホムラよりも理解している雰囲気を持ちつつ、人類の敵を謳われる程の実力者である虚無の境地ですら評価する闇魔法。対処法は無いにも等しい。

 既に精神的に粉々のホムラは何かしらの理由によってトキ。もしくはほぼあり得ないが、セイカが裏切ったとしても殺める覚悟はある。なるべく殺したくはないと考えているが、仮に殺したとしてその時点ではもはや何も思わないだろう。


「私も、敵によって操られたり、ホムラ様の敵になるような事があれば、ホムラ様に殺されたいです。もう何も残っていない私にとってそれが唯一の幸福ですから」


「その場合は俺を殺す人が居なくなるから俺は生き長らえてしまう。……まあ、その時は本当に本当の人類の敵として君臨する事になるだろうな」


「……君達……互いに殺され、殺す立場だったの……? 一家や系統、知り合いが全員殺されたから……? だけどそんな関係って……」


 ホムラとセイカの関係性を聞き、トキは信じられないと言った表情をする。

 二人の関係は異常と言えるもの。普通の人ならばこの関係を聞いた上で関わろうという事は無い。しかしトキは、何故かトキには別の感情が浮かんでいた。


「いいなぁ……そう言う関係……」

「「……え?」」


 その言葉に二人は反応を示す。

 自分達でもそれが異常という事は理解している。だからこそ信頼の置ける約束。

 なのでトキがこのまま立ち去る方面で考えていたが、思わぬ反応に逆に二人の方が言葉を失った。


「意外だな。自分で言っておいてあれだけど、泥棒のアンタから見ても俺とセイカの関係は変だろうに。それに好意的な印象を受けるか」


「互いに命を預け合っている。そんな関係に憧れるんだ。基本的に一人で行動をしていたからね。“殺し”を約束出来る程の信頼関係……逆に羨ましいかな」


 トキは、独りだった期間がホムラやセイカよりも遥かに長い。

 だからこそ殺し殺される、傍から見たら異常極まりない依存関係にも“憧れ”のようなものを覚えるのだろう。


「羨ましがる事じゃないさ。セイカに殺されるのは俺のケジメ。俺の命令を何でも聞いてくれるんだ。それくらいはしなきゃケジメを付けられない。なるべくしてなる事だ」


「命令を何でも……? つまり、やっぱりもうあんな事やこんな事、そんな事まで既に色々やってるんじゃないの?」


「それが……私は本当にホムラ様の言う事を何でも聞くつもりで、いつでも身も心も差し出す準備はしているんですけど……ホムラ様ってそう言った事は命令しないのです……。命令するのは基本的にそれが一番最適だったり、私の為を想っての事で……まだ私は……」


「成る程ね。貴族にしてはかなり紳士みたい。確かに口は悪いけど私にも手を出そうとしない……私、純潔は守っているけど結構他の人に狙われるんだよね……。ほら、私も結構美人じゃん? その時はいつも時間止めて逃げてるけど。セイカも……悔しいけどかなり美人。私とセイカが居て発情しないなんて不思議だよ」


「……。変な話はやめてくれ。別に俺は物事を効率的に考えて、そう言う事をすると疲れが溜まるからやらないだけだ」


 セイカはホムラの言う事を、どんな事でも聞く。一つ、ホムラの元を去る事を除いて。

 なのだが、当のホムラはセイカに手を出していない。セイカが求めてきても何もしない。セイカとトキが思っているような命令が何もないのだ。

 ホムラが奥手なのはそうかもしれないが、それ以前にそう言った事をする気が無いのだろう。

 子を残し、次世代へ繋げるのは謂わばプラスとなる未来への行為。しかし、様々な事がこの短期間で起こり、マイナスな感情しか残らぬホムラにはプラスの行いをする気にはなれなかった。

 そしてそれは、ホムラ本人すら理解していない事。本当にただ非効率だからとしか考えていない。


「取り敢えず、就寝の準備だ。この数日の宿代と食事代は貯まっている。明日からは入浴とか、汚れた身体を綺麗にする事でも取り掛かるか。その後で宿じゃない賃貸でも借りる」


「……。そうですね。しかし、私は諦めませんよ……! 婚約者として、本来ならもう結婚する年齢ですし、ホムラ様を誘惑致します……!」


「私も何となくセイカには負けたくないかな」


 一定期間の衣食住は揃った。しかし、あくまで宿は旅行者達に向けた物であり、長い月日泊まるのも変な話。

 なので後はそれらを完璧にするのが今のところの、あくまで小さな方の目標だ。

 大きな目的は変わっていないので、少しでも生きる気力を上げる為にどうでも良さそうな目標を組み込んでいく。それがホムラ達のやり方。

 ホムラ、セイカ、トキ。三人の逃亡生活は、もうしばらくこの街で続く事になるだろう。

 逃亡生活が始まり、数日。まだ進展はしていないが、いずれ遂行する。ホムラ達はこの街を仮拠点とするのだった。

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