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37ページ目 乙女心

「さて、取り敢えず情報収集に向かうか。俺の目的は“人類の敵”だしな」


「はぁ……はぁ……そ……そうです……ね……」


「大分疲れてるな」


「はい……トキさん、スキンシップ激しくないですか?」


「それはそうだな。まあ、弟や妹が居たって言っていたし、そんな感覚なんだろう」


「ホムラ様は随分とさっぱりしておられますね……」


「まあ、使用人達で慣れてるから」


 トキによる触れ合いにより、疲弊するセイカと軽く流しているので然程さほど疲れていないホムラが話す。

 現在は三人が目覚めてから二、三時間程経過しており、既に朝食も済ませている。

 なので取り敢えずはこの宿を拠点とし、ホムラ達は虚無の境地、及び絶望の象徴などの人類の敵を捜索する事にした。


「じゃ、私は顔がバレてるから私の分のローブ的な物とか買ってきてねぇ。私はテキトーにブラついているよ~」


「自由だな」

「元々が元々ですからね」


 それだけ言い、トキは時を止めてこの場から消え去った。

 その止まった時間の中で全ての泥棒を成功させるトキ。本人はそこまで動きが速いとかではない事を踏まえ、おそらく止められる時間が長いのだろう。

 魔力依存と考えれば、魔力が残っている間だけは永遠に止められるのかもしれない。そして解除も自由自在。とてつもない魔法という事は明らかである。


「捕まらない泥棒な訳だ。数千億ってのも、トキから見たクズな貴族や王族から全財産を盗んだんだろうし、不可能な数字じゃないな」


「私達の街では被害が出ていませんでしたね……」


「障壁になる森があの広さだし、手引きでもされなきゃ部外者が入りにくい構造だからな。魔力は無尽蔵じゃないだろうし、森で迷って魔力が尽きるデメリットを考えれば侵入はしない方が得策だろう。常にトキの空間を展開し続ける必要もないけど、外部に向かう貴族とかも居るし見つかる可能性も高い」


 世界的に有名な大泥棒であるトキがホムラ達の街に来なかった理由、それは街の前に広がる森が一番の要因だろう。

 単純に森は広く、道ならば多くの貴族や王族が外交の為に行き来する。ある程度は素通り出来たとしても街自体の警備も凄まじく、そこまで魔力が持たなそうである。

 諸々の理由から盗みに入らなかったのだろうと理解出来た。


「取り敢えず情報収集と買い物……持ち合わせも少ないしテキトーな依頼を終わらせて今日の分を稼ぐか」


「労働ってこう言うものなんですね。私はこれから王族としての仕事をするって状況でしたから、新鮮な感じです」


「俺もだ。貴族の仕事は執務や外交、土地の管理。移動自体は頻繁に行うけど、確かに肉体労働的な経験はないな。結局貴族が何をするのかはよく分からないまま此処に来ちゃったけど」


 宿を出た二人は労働について思案する。

 貴族や王族として、魔物の討伐や野盗の処理はあまり行わない事柄。

 労働と言ってもまだ野盗の群れを一つ全滅させただけだが、今のとこらはそんなに難しくない。兵士としても重宝される魔法使いの貴族。それも当然だろう。


「今日も何かしらのクエストはある? マスター」


「何かありますでしょうか。おじ様」


「オイオイ、マスターにおじ様って嬉しい事言ってくれるじゃねえか。兄ちゃん嬢ちゃん。丁寧な物言い、まるで上流階級だな!」


「まあ、冒険者なので色々と縁はありますよ」


「そうかい? ハッハッハ! ほら、今日のクエストだ! 頼りにしてるぜ!」


 店主に対しての言葉遣い。それを聞いた店主は気分がよくなり、快く今日のクエストを見せた。

 “今日の”と言っても基本的にラインナップはあまり変わらない。報酬金が少なかったり危険だったりと人気の無いクエストが残るので一週間や一ヶ月残り続けるのもざらである。

 特に、街を救って欲しいなどの依頼も少なからず存在し、誰も受けないまま街が滅びるという事も多々ある。


「日給が出るやつが良いな……うん。高額でも時間が掛かるのはある程度貯まってからにするか」


「今はせめて三日分くらいはストックしておきたいですね」


 少なくとも今はまだ街を救う程の大きな依頼は無い。一先ずは近辺の魔物退治や野盗殲滅。治安維持などの簡単な依頼をこなして衣食住は確保出来るようにするのが先決だろう。

 いつまでも宿に滞在する訳にもいかないので賃貸くらいは借りて置きたいところである。


「それじゃ、この森に湧き過ぎた危険な魔物退治を受けるよ。行商人が襲われてこの街に物資が入りにくくなるのは俺達も困るしな」


「オーケイ。そいじゃ、気を付けておくれよ」


 受けた依頼は魔物退治。

 退治と言っても絶滅寸前まで追い詰めるとかではない。行商人がよく通る道に魔物が巣を作り、既に何度も襲われているのでそれを収めるという事。

 人間側のエゴだが、魔物と同じように人間も生きる必要がある。生の邪魔になるなら排除するだけ。生存競争としても何もおかしな事ではない。

 もっとも、ホムラは同じ人間が相手でも邪魔になるならその数を減らすつもりだが。

 一先ず簡単な依頼を受け、目的地となる森へ向かった。



*****



『グルルルル……』


「立派な巣を作ったな。それを人間のエゴで破壊するのは気が引ける。けど、この辺り一帯は人間の領土()。悪いな」


『グガァ!』


 森に着き、少し探索した所で四足歩行に鋭い牙と爪を持つ魔物が飛び掛かって来た。

 ホムラは軽く話、サッとかわして杖を構える。


「“ファイアボール”!」

『ギャンッ!?』


 そして、簡易詠唱の初級魔法を撃ち込んだ。

 それによって魔物は怯み、セイカが周囲に力を込める。


「すみません。──火の精霊よ、火炎を竜巻とし、魔物の巣を焼き払え……“トルネードファイア”!」


 詠唱ありの中級魔法を放ち、魔物の巣を焼き払う。

 巣は瞬く間に燃え盛り、ホムラは魔物達へトドメを刺した。


「“ファイアランス”」

『『『ギャウ……!』』』


 心臓を一突き。

 魔物の相手はホムラ。巣の処理はセイカ。

 役割を分け、この魔物自体は加工されたり食肉となったり利用されるので持ち帰る。これでクエストは達成だ。


「はい。依頼の品です」


「早いなお二人さん。まだ発ってから一時間も経ってねえぞ。ま、お疲れさん! あれ? 何か焼かれた形跡が……」


「木の槍の先端に火を付けて、そのまま巣ごと打ち抜いたんです。品質に異常が見られますか?」


「いや、火は殺菌にもなるからむしろ好都合だが……まあいいか。本当にお疲れさん!」


「いえ。では」


 頭を下げ、報酬金を貰ってその場を立ち去る。

 ホムラとセイカ。多少は知られているにしても、何度も述べるように魔法使い、貴族と王族という事は隠している。なので炎魔法はそれっぽい理論で誤魔化した。

 まだまだ時間もあり、簡単な依頼くらいはこなせるだろうが一旦トキの分のローブと自分達用の入れ物を探す為に店に向かう。

 本来の目的である人類の敵の捜索も、今日はクエストにそれっぽい物もなかったので保留だ。


「ローブと入れ物……どっちも布製だし同じ店で買えるかな」


「そうですね。一張羅しか無いのもあれですし、衣服も買っておきますか?」


「衣服か。別に洗ってすぐ乾かせるし荷物にもなるからな。この街を主拠点にするかどうかもまだ決めてない。ってよりは決められないし、今はまだ必要無さそうだな」


「あ、そうですか……」


 この街はあくまで仮拠点。というのも、賃貸も借りておらず、宿に泊まっている状態なので拠点と言える程ではないのだ。

 しかしながら、まだこの街に来て二日目だが、貴族への接し方などを見る限りかなりマシな部類。拠点にするなら此処の街になるだろう。

 一方で、衣服の購入に対して落ち込むセイカを見たホムラは言葉を続けた。


「……ま、あっても損は無いかもな。一緒に買いに行くか?」

「……! は、はい! 行きましょう! ホムラ様!」


 落ち込み振りから一変、パーッと明るく笑う。

 トキにも言われた、乙女心。それはまだよく分からないが、ニュアンスから推測するにその女性のやりたい事。して欲しい事だろう。

 なのでホムラは、一先ずセイカがしたそうな事はやるだけやってみる事にした。

 落ち込み様から見ても買い物がしたかったのは明白。なのでそれを遂行するまでだ。


「取り敢えずローブはこれで良いか。俺のローブが黒。セイカが赤。それでト……彼女は白。入れ物もあまり大きな物は持てないな。重さじゃなくて面積的な意味で」


 テキトーにローブを選び、入れ物を探す。

 この街どころか世界中に広がっているトキの名は一応伏せ、一人言を言いながらその売り場を見た。


「……。別にどれでも良いな。なるべく地味な方が目立たないか……けど地味過ぎると無くした時とか探すのが大変そうだな……」


「ホムラ様! どちらの服が似合うと思いますか!」


「……ん?」


 ホムラが考えていると、衣服を二つ持ったセイカがクルクルと回り、嬉々としてホムラに訊ねた。

 その服に視線を向ける。


「ドレス……結構頻繁に動くけど、そんな動き辛い服で良いのか?」


「え? 確かにそうですけど……」


「……。あー、けど、城とか屋敷に入る事もあるかもしれないからあっても良いかもな」


「そ、そうですか?」


 またセイカが少し落ち込んだのを確認し、ホムラは普段着以外の用途を告げる。

 そんなホムラの言葉を聞いたセイカはクスッと小さく笑った。


「ふふ、ホムラ様。何だか少し変わりましたね。そんなに気を遣いましたか?」


「それは遠回しに貶しているとも取れるけど……まあ、色々あってな。セイカ。朝、何処から起きてた?」


「えーと……トキさんが生い立ちを話始めた辺りからですね」


「序盤も序盤だな……正直に言うと、乙女心云々って指摘されてな。セイカの事は嫌いじゃない。婚約者としてもセイカで良かったと心の底から思ってる……だから、セイカから自由を奪っている今の状況はあまり好ましくなくてな……せめてセイカの為に何か出来ればって考えていたんだ」


「ホムラ様……そんなに私の事を……」


 セイカが指摘した、ホムラの変化。それについて話、セイカは胸に手を当てて頬を赤く染めた。

 乙女心。それは依然として分からないままだが、セイカはそれを理解して欲しい様子。だからこそホムラはなるべく応えたかったようだ。


「ちょっとちょっと。お二人さん、私に内緒でイチャイチャしちゃって……私も真名を教えているんだから婚約者候補なんだからね!」


「「……!」」


 すると、何処からともなく、(どうやって来たのかは知っている)トキが姿を現した。

 そう、トキは自分の不注意だが、ホムラに真名を伝えた。それは親しい関係や婚約者にのみしか明かさない事で、完全に勝手な事だが確かにトキもホムラの婚約者候補にはなっているのだ。

 迫害される混血のトキと、同じく迫害対象となる、闇魔法を使えるようになってしまったホムラ。お似合いではある。


「丁度良かった。女性は衣服に拘るらしいからな。ト……君のローブはこれで良い?」


「ん? お、いいじゃん! 結構好きな色! へえ、私の髪に合わせてくれたんだ。ありがとねホムラ♪ 将来の旦那様からの初プレゼントだ!」


「……!」

「オイオイ。別にそういう訳じゃ……」


 突然ではあるが、タイミング良く現れたトキ。なのでホムラは選んだローブを見せ、トキは歓喜する。

 割とテキトーに選んだのだが、とても嬉しそうなので少し罪悪感も生まれた。

 そしてそんなトキの言葉を聞き捨てならないと、セイカも参戦する。


「ホムラ様! 私の衣服もホムラ様が選んで下さい! そしてそれを私に……! それが今の望みです!」


「え? セイカ?」


「ふふん。残念だね。セイカ様。ホムラさんの初めては私の方が先みたい♪」


「いえ、まだ購入していませんので。私に選んだ物を購入した方が勝ちです!」


「じゃ、私が先に買っちゃったら私が初めての相手って事になるかな?」


「させません!」


 ヒートアップする二人。どちらがホムラの選んだプレゼントを先に購入するか。

 もっとも、プレゼントというのは相手が買ってくれた物を示すのだが、この二人にそれを説明する必要は無いだろう。

 そんな二人のやり取りを見たホムラは一言。


「あー……女性へのプレゼントならフウとスイに渡した事があるな」


「「……え゛?」」


 それは、セイカ、トキと知り合う前からの、古い付き合いである幼馴染へのプレゼント。

 その言葉と同時に二人の、ホムラが初めて選んだ女性へのプレゼントと言う希望は一瞬にしてついえた。


「ちょ、ちょっと。誰よその女! 貴方と付き合っていたのは私、ギリギリでセイカだけじゃないの!?」


「ギリ……わ、私が先ですよ。異性としてのお付き合いは! 親が決めた正式な婚約者です!」


 フウとスイの名を聞き、それが誰なのか知らないトキが慌て、正式な婚約者である事を主張するセイカ。

 店内の視線がホムラ達の方に向き、ホムラは黒髪を掻いた。


「……はぁ、騒がしくなるな。取り敢えずさっさとローブを着とけ」


「ひゃん!?」


 注目されるようになり、一先ずはトキにローブを被せる。まだ購入していないのでそのまま二人の手を取って店主の元へやって来た。


「これとこれ。それとこのドレスを下さい」

「え? は、はい! すぐに!」


 迅速な行動に女性店主が困惑しつつも職務を全うする。

 手際よくフレイを受け取り、お釣を渡して購入証明書にサインを書いた。

 そのまま店の外に出、人通りの少ない場所に来る。


「俺達はあまり目立たない方が良いんだから、あまり騒がないでくれ」


「す、すみません……ついカッとなってしまって」


「だってだって~。まさか他の女にも手を出してたなんて思わないじゃん!?」


「アホか。友人だよ。友人。そもそも系統が違うから婚約者にはなれない」


「あてっ」

「あうっ……私もですか……」


 ペシッ。と二人の頭に優しく手刀を叩き込み、まるで親のように諭す。

 実際、系統が同じならすぐにでも婚約に運べそうな仲だったが、そうではない。なので勘違いされるのも色々と問題なのである。

 ホムラはその事をさておき、セイカの方を見た。


「それで、その服の方が似合いそうだったから勝手に購入しちゃったけど、良いか? セイカ」


「え? あ、はい。とても良いです! 私もどちらかと言えばこちらの方が良くて……あ、けど別にもう片方の方でもホムラ様が選んでくださったなら良いですよ!」


「その服の方を気にしていたからな。セイカを見てたら分かったよ」


「……っ。私を見てくれたんですね……ホムラ様……!」


「まあ、セイカの事は好きだしな」


 自分の事をちゃんと見ており、自分の好みに合った服を買ってくれた。

 セイカはその行動が胸に響き、思わずホムラへと抱き付く。


「やっぱり……私もホムラ様を心より愛しております……! 大好きです。ホムラ様! ずっとお側に居て下さい!」


「大袈裟だな……婚約者なんだから他の人よりは多く居る事になると思うけど……」


 涙ぐみ、ホムラをギュッと抱き締める。ホムラは頭を撫でながら話、冷静に進めていた。

 その光景を前に、トキは何処か寂しそうな表情でホムラに買って貰ったローブをギュッと握り締める。


「……。トキ。君はどうする?」

「……ぇ……」


 そんなトキへ掛けた言葉に、トキは戸惑いの色を見せてホムラに視線を向けた。

 ホムラは優しく言葉を続ける。


「その表情を見ていれば分かるよ。疎外感を覚えているみたいだ。その気持ちは分かる。孤独の辛さは最近嫌と言う程に知ったからな。婚約者の件は君自身も不本意……それも分かっている。無理をする事はないさ」


「……っ」


 トクン。と、トキは胸の鼓動が一瞬早くなったのを感じた。

 実際、真名を告げてしまったが為に婚約者という事を名乗り出た。アピールしていたのはあくまでセイカへの対抗心から。

 そして今の感覚はトキの人生で体験した事の無いものであり、混乱にも近い状態に陥った。


「トキ?」


「な、なんでもないよ! 今のところセイカが一枚上手みたいだけど、私も負けないからね!」


「……。私も負けませんよ……。そもそも私はもう決定事項ですし!」


「……俺は口出し無用かな」


 ホムラに名を呼ばれ、ハッとしたトキはいつもの態度に戻して話す。

 ホムラとセイカもその様子から何かを感じ取ったが、トキの感覚からして今はまだ深く詮索する事ではないと理解し、同じ態度で話す。

 何はともあれ、街での買い物を終わらせた三人。これでトキも街での活動はある程度出来るようになる事だろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ・全体的に読みやすい文体 ・主人公が言うところの『勧善懲悪』 [気になる点] 随所にある『免罪』、その殆どが『冤罪』と表記する方が適切ではないかと思います 何らかの意図を持って前者を用いて…
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