36ページ目 新たな仲間
新たに旅仲間となったトキに向け、ホムラは言葉を発した。
「それじゃ、自分の分の宿代はちゃんと払ってくれよ。それと、なるべく盗みは働かないように。働くなら普通に労働して金銭を稼げ。それとこの部屋は二人部屋だ。別の部屋に行くか俺が……」
「ちょ、ちょっと待ってよ! え? 何それ!? そんなの不自由過ぎるじゃん! 何も出来ないよ!」
「今までが自由過ぎだ。普通は盗みなんて働かないからな? まあ、あくまで貴族の価値観ではだけど。取り敢えず顔は隠して良いから払え」
トキはこの宿へ無断で入ってきている。なので先ずはこの宿代を請求した。
立場的に悪いので顔は見せずとも良いと告げ、取り敢えず払わせるだけ払わせるつもりだ。
「私もう貴族じゃないし、別に良くない? 絶対にバレない自信もあるよ!」
「バレるバレないはどうでもいいんだよ。ただ単に此処では食い逃げとか無銭宿泊とか、そう言う事をするなって事だ」
「ええーっ!? そんなに大事かな? それ」
「一つ言っておくよ。俺は自分本意で行動する。自分勝手なのは百も承知だけど、俺から見てこの街の人達が善人だから迷惑を掛けたくないってだけだ。昔は考えたりしたけど、今はもう世界平和とか平等とかも考えていない。取り敢えず俺から見た良い人には誠意を払えって事」
「何か良く分からないなぁ……」
「要約すると宿代払え」
「はーい。まあ、持ち合わせはあるから良いけど」
ホムラの思えからして、ぶっちゃければ相手の態度が悪かったり性格がクズなら無銭でも良いと考えている。
だが、そうでない人にはちゃんと接したいのである。
それが他人から見てあまり良くない事も理解しており、踏まえた上での言葉だった。
何はともあれ、これで三人は同じ宿に泊まる事となる。
「……それで、何故貴女もこの部屋なのですか? トキさん」
「彼らのツレって言ったからね。話したらベッドを用意してくれたよ」
「……腑に落ちません」
そして、トキはホムラ、セイカと同じ部屋になった。
曰く、宿の主に頼んでベッドをこの部屋に持ってきたとの事。顔を隠す為にローブを借り、見た目的にも来客としても違和感無くやり過ごせたらしい。
「別に俺が別の部屋でも良かったんだけどな。性別的に同性の方が落ち着くだろうし」
「私はホムラ様と一緒に居たいのです。トキさんが別室になるべきかと」
「そんな寂しい事言わないでよぉ。セイカさん♪」
「……っ。憎しみを持って胸を触りながら言わないでくれますか……」
「……っ。ふ、ふふ……やるじゃない……!」
ホムラは自分が別室に行くつもりだったらしいが、セイカが必死に止める。
トキは憎しみを抱きながらセイカに触れ、温厚なセイカも流石にイラッと来たのか抵抗する。
そんな女性二人の戯れを見、ホムラはまたため息を吐いた。
「なんか、調子狂うな……」
言い争いをしている二人には聞こえない声音で言い、窓の外を眺める。
ホムラに具体的な目的はないが、強いて挙げるなら復讐。それが目的なのにこの様な緩い空間に居ても良いのだろうかと言う、考えなくても良い懸念が浮かぶ。
二人の様子を眺め、夜も更けていった。
*****
「こんなもんか……」
──翌日、いつものように悪夢に魘されながら目が覚めたホムラは今日の準備を整えていた。
時刻はまだ早朝も早朝で、日がようやく昇り始めた時間帯。セイカとトキはなんやかんや一緒に眠っており、まだ起きそうにはない。
「……」
準備と言っても荷物は少ない。魔物の肉と杖とローブ。
それらの入れ物は、昨日の報酬金の入った袋と森のツルや枝で作った簡易的な物なのでそろそろ新しい入れ物が欲しい頃合いだ。
(にしても……まだ店なんかやっていないよな……)
早く起き過ぎたあまり、やる事が何もなかった。
一応昨日、あの後夕飯を作ったりしたので食料も残っているが、朝食を作るにも早過ぎる時間帯。手の込んだ料理ならともかくあまり料理をする訳ではないホムラやセイカが作れるのは切る、焼く、ちょっとした味付け程度。数十分もあれば簡単に出来る事なのでやる必要が無かった。
「……。もう起きたんだ。朝早いね。バカ貴族」
「……そう言うアンタもな。なんやかんやセイカと仲良く寝てるじゃないか。バカ泥棒」
何をするか考えていた時、布を下半身にだけ掛け、寝癖でボサボサのトキが目覚めた。
前述したようにまだ朝も早い時間帯。ホムラはともかく、トキも中々の早起きのようだ。
「別に。争ったまま寝ちゃったから一緒のベッドになっただけ。何なら君に夜這いを掛けて事を済ませちゃおうかななんて思ったけど……そんな気にはなれなかったな」
「そうか。そんなに俺は魘されていたか」
「まあね。寝汗が酷くて、拭き取るのも大変だったよ。あ、さっきも言ったように寝てる君に何もしなかったし、その汗の染み込んだ布をどうこうするとかは無いから安心して」
「随分と手慣れているんだな。通りで寝覚めが悪い割に身体が寒くなかった訳だ」
ホムラは、あまり眠れていない。それは今日のみならず、一家や使用人が皆殺しに合った日からずっとそう。
なので毎朝早くに目覚め、衣服は基本的に汗でベタベタ。一張羅なので近くの川などで軽く洗って炎魔法で乾かす日々だった。
しかしながら、今回は洗う程にベタベタではなかった。どうやらそれはトキのお陰らしい。
「弟や妹達が居たからね。私、元貴族なんだ。勘当された側のね。調弄していたけど君は気付いていたね。……貴族は貴族でもあまり裕福じゃなくて、使用人さん達も2~3人くらいしか居なかったの。だから基本的に弟や妹の世話は私の仕事。ちょっとした風邪や病気でも大変でね。身体が冷えないように拭いたりもしていたよ」
「……。そうか。優しいんだな。トキは」
「優しくなんかないよ……私がもっとちゃんとしていれば……私が勘当なんかされなければ……今も弟や妹達と笑い合えて居たかもしれないのに……」
陰鬱そうに俯き、ホムラから視線を逸らして窓の方を見る。
朝露か何かか、窓に反射したトキの目元には滴が付いていた。
「昨日はあまり話さなかったけど、今日は素直だな。どういう風の吹き回しだ?」
「君は乙女心をよく分かっていないなぁ。そんなんじゃ、そのうち可愛い婚約者さんに愛想尽かされちゃうよ?」
「その方がセイカの為だと思ってるよ。……似た境遇のよしみだ。教えておく。俺も君と同じ、世界的犯罪者だ。俺がやった訳じゃないんだけどな。その事自体は冤罪だけど、俺は貴族や王族に追われる身。ローブを常に纏って行動しているのも貴族とバレない為だけじゃなく、顔を隠す為だ」
「君が世界的犯罪者……? 百人以上人を殺したって言っていたし、一体何があったの?」
ホムラの話を聞き、純粋な疑問を浮かべて訊ねる。
あまり乗り気ではないが、する事もないのでホムラはトキに説明した。
「俺の家族。何なら親戚や家庭教師に使用人。俺の故郷に“人類の敵”の一つが攻めてきて、俺と親しかった人達が数人を除いて全滅させられたんだ。ちなみに、同じ系統のセイカも俺と同じ目に遭っている。何なら、数人が残っている俺よりセイカの方が酷い境遇にある」
「……っ。……それは……確かに話したくないね……。嫌なら止めても良いよ。私の好奇心で君やセイカが傷を付ける必要なんてない」
「盗人なのに善人的な思考しているな。まあ、詳細を話す訳じゃない。要するにその犯人を俺に仕立て上げられたって訳だ。どうやったのかは分からないけど、貴族や王族は重要な事を隠蔽して他人に罪を擦り付ける術には長けているだろうさ」
「そんな……。そんなの酷いじゃないか……! 君も私と同じように家族を失っているのに……それの犯人にさせられた!? 元々腐り切っていた貴族に王族だけど……私の時から何も変わっていないんだ……」
ホムラの境遇を聞き、トキは憤慨する。
基本的に飄々としているトキらしからぬ反応。それとは別に、ホムラもホムラで気になる部分が出てきた。
「“私と同じように”……か。言い淀んだり濁したりしていたけど、薄々気付いていた。アンタも家族を失っているんだな。……多分貴族の所為で」
「……。そうだね。その通りだよ。両親が不慮の事故で亡くなって、私達姉弟妹は他の貴族に引き取られる事になったの」
ホムラに向け、トキは自身の境遇を話す。
先程話したホムラの立場から自分と同じような人種である事を理解し、仲間意識が目覚めたのかもしれない。
「で、その時の血液検査や系統検査で、私が混血と判明。一瞬にして“忌み子”になって勘当。その後弟妹が全員亡くなったって報告が風の噂で入ったの」
「風の噂? それならまだ生きている可能性があるんじゃないか?」
「ええ。噂なんて所詮眉唾物。本当の方が少ない……勿論私もそう考えて、混血だからこそ使える、どの系統にも属さない魔法で様子を探ってみたよ。……それで、どんな光景を見たと思う?」
「…………」
トキはスッと、虚ろな目で話した。
*****
【ハッハッハ! これで“タイム家”の全財産を貰い受けたぞ!】
【わざわざ高い金を払って両親を事故に見せかけて殺し、子供達を引き取って根絶やしに成功したわ!】
【引き取ったガキ共も、死因はあくまで不慮の事故。まあ、混血が居たのは想定外だったが、それでも不幸が続き、俺達は周りから同情される側!】
【世間体が高くなって、“タイム家”の遺産。そしてガキが死んだ事でウエからお金が入る!】
【良い事尽くめだ! やっぱり神様って居るんだな! こんなにしても優秀な俺達は何一つ罪に問われない! ま、使えない下級貴族の殺害。要するにゴミ処理をしたみたいなものだから良い事をしたようなものだな!】
【オホホホホホ!】
【ハッハッハッハッハ!】
【──そんな……】
*****
「……。酷いな」
「そうだね。けど、それでもあの子達が亡くなるその直前まで、何も知らないまま、裕福な暮らしをしていてくれたらまだ良かったよ……」
何も知らぬまま、短い命だったとしても、幸福を少しでも感じてくれていたのならどんなに良かったか。
しかし、当然そんな扱いは受けていなかったようだ。
「その後弟や妹の部屋を見てみたら酷い有り様。物置のような小さな部屋に全員が押し込められていたみたい……出されていた食事は小さなパンと水だけ。割れた皿とコップが洗われていない状態で置かれていたよ……壁に血痕があったから日常的に虐待も受けていたのかな……変な臭いもした……性的な虐待もあったんだろうね……。ベッドも無くて薄く汚れた布切れみたいなシーツがそのまま敷かれていた……多分、お風呂やトイレもロクに行かせて貰えなかった……っ。私が! 私が大切な弟や妹を守れなかった! だから貴族は最低だよ……死に際にすら、葬儀にすら参列出来なかった……私が居れば……弟や妹達を私の魔法で逃がせたのに……!」
話すにつれて朝露が多く流れ、その状態でホムラの方を見やる。
ハッとして朝露を拭い、トキは肩を竦ませて横目でチラリと一瞥した。
「貴方みたいな貴族が居てくれたら……私はともかく弟と妹は幸せだったのに……貴方やセイカみたいな優しい貴族と王族は家族や親戚を皆殺されている……。もうこの世に神様なんて居ないんだね……」
「……ああ、そうだな。神も何もありゃしない。それがこの世界だ。もし仮に神が居るなら、俺は躊躇無く殺しに掛かる。そんな気概だ」
「フフ……そうだね。無能な駄神が働かないから、私が全部やったよ。あいつらを殺す勇気すら私には無かったけど……私の魔法で全財産を盗んでやったんだ! 勿論私の姿を明かしてね! あの時の悔しそうな顔ったら! ……その後あの貴族は破産したって。どうなったかは分からないけど、何処かで野垂れ死んでる事を心の底から祈るよ」
それが、トキが盗人に手を染めた経緯。
一瞬にして全ての財産を盗む様から“瞬盗女王”と呼ばれるようになり、世界的な犯罪者となった。
ツラい過去があれば何をしても良い訳ではないが、それについてホムラも強くは出られない。既にホムラ自身、多くの罪を犯している罪人だからである。
「対象は全員が魔法使いの貴族。そんな奴らから全てを一瞬で盗める……凄い魔法を使えるんだな。やっぱり、禁忌とされている“混血”は人類じゃ対応出来ない魔法が使えるのか」
「そうだね。……うーん、せっかくだから、君には教えても良いかな。セイカ。君も聞きたい?」
「……! す、スー……スー……」
ビクッ! と肩を震わせ、わざとらしく寝息を立てるセイカ。
そちらを見、トキは悪戯っぽく笑った。
「寝てるみたいだね。じゃ、君にだけ教えてあげる……私の秘密♡ 将来の婚約者だもんね。このままイケない事もしちゃおっか……二人きりで……ね♪」
「いつの間に……」
「ダメです!」
ガバッ! と勢いよく起き上がり、妖艶な声でホムラに迫っていたトキを制する。
既にトキはホムラの胸元に自分の胸を押し付けており、足と足の間に自分の足を入れていた。
息が掛かる程の距離に居り、すぐにでも男女の何かが行われそうな態勢だった。
そんなセイカを一瞥し、トキは笑って言葉を発する。
「私はね。“時間”を操れるんだ。自分以外の時を止めたり進ませたり、空間や重力の操作。時空間関係なら色々とね。だから私は空気も光も、何もかも止まった世界を自由に動けるの。だけど時間を止めている間は相手に干渉する事が出来ない。無機物には触れられるから魔力の壁がそうさせているのか、私に問題があるのか。その辺は不明かな。……基本的に時間を止めて盗んだり、対象の時間を早めて縄や手錠を解いたりにしか使っていないからもっと沢山の事が出来るようになるかもね」
「……っ」
時間の操作。
時間は重力や空間にも関係しており、時間を操れるトキはある程度の重力や空間の操作も行えるらしい。
しかしながら泥棒か脱出くらいにしか使っておらず、自分でも知らない時空間の操り方が色々とあるかもしれない──と、今度はセイカの胸に自分の胸を当て、足に足を入れて息の掛かる距離で話した。
「本当……勘当されてなきゃ私も今頃これくらい……ううん。これ以上に育っていたのに……本当に許せない。あの貴族達……!」
「ゃ……あんっ……」
「声も可愛いのがムカつく……」
「そ、そんなぁ……」
全てを貴族の所為にし、セイカの年齢の割に発育の良い身体へ八つ当たりをする。
弟や妹の件があってもこの明るさを保っている。セイカの精神力は確かに強いのかもしれない。
何はともあれ、時空間魔法使いであるトキが、おそらく正式にホムラとセイカの仲間となった。




