34ページ目 クエスト・背負うモノ
「気ィ付けてなァ!」
「冒険者様! お気を付けてー!」
「必ず帰って来て下さい!」
「……。なんか大袈裟だな」
「それ程までに危険な任務みたいですからね。それにしても大袈裟ですけど……」
野盗の殲滅に向かうホムラ達を、街の面々は総出で見送った。
近辺の地図は勿論の事、食料や水まで分けて貰い、かなり手厚くしてくれる。
クエストの難易度を考えれば親切な街の人々なので当然の事かもしれないが、今日街に来たばかりでここまでされると逆にやりにくかった。
「取り敢えず、あの人達が見えなくなったら迅速に移動するか」
「そうですね」
もう既にホムラが貴族である事を知っている者も居るが、全員ではない。問題は無いにせよ念の為に魔法での移動は離れてからにする。
そして数十分間進んだ森の中。街の人々が見えなくなったのを確認したホムラは闇魔法を展開し、セイカを乗せて加速する。
「さっさと終わらせるか」
「……っ。はい……!」
高速移動による風圧を感じつつもセイカは返事をし、地図の通り野盗の居る場所へ向かう。
貴族と王族という立場上、受ける事は無いだろうと思っていた、二人の初クエストが始まった。
*****
「「「ギャハハハハ!」」」
そしてとある洞窟内では、下品な笑い声が木霊する。
焚き火が燃えており、衣服を着せられない女性達が杭に繋がられている。
なんとか生きる程度の食事は与えられているようだが痩せ細っており、叫ぶ元気も残っていないのかただ虚ろな目で虚空を見続けていた。
「あー、食った食った。さて、食後の一発と行こうか? お嬢ちゃあん」
「……っ」
気持ち悪い声で臭い息を吐きつつ、女性の身体をまさぐる。
女性はそっぽを向くが顎を指で掴まれ、無理矢理臭い方に向かされた。
「さて、やるか」
「ゃ……嫌……!」
そしてまた被害に遭う。
もう元気は無いが、野盗は女性の身体があれば良いのでそんな事はお構いなしである。
「さて、そろそろ新しい女を捕まえにいつもの街に行くか」
「ケヘヘ……良いな。あの街の連中は平和ボケしてやがる。たまに冒険者送ってくるが、雑魚ばかり。男ばかりで殺してもつまらねェんだよな」
「何で女の冒険者って少ねェんだろうな。女の冒険者が増えてくれりゃ、俺達がわざわざ行かなくても補給出来るってのに」
「ギャハハ! 女の冒険者なんて、大概ゴリラだろうよ。そんなのとヤって楽しいか?」
「女の身体があるだけで十分なんだよ。クソドブスでもな! やっぱクソドブスは無理だわ! 殴るのに便利だけどな!」
品の無い会話をし、自分達の悦楽を満喫する。
この世界ではこの様なクズが蔓延っており、国も政府も何もせず、平民は犠牲になるしかないのが世界の現状である。
「本当に低俗な会話しかしないな……俺が見た事ある野盗ってこんなんばかりだ。一周回って虚無の境地がまともに見えてくる」
「一応虚無の境地も極悪人なんですけどね。認めた人は尊重したりで、貶すしか出来ない他の野盗よりは確かにまともかもしれませんけど」
「「「……あ?」」」
そんな洞窟に、ローブを被り、杖を持った二人がやって来た。
野盗達は持っていた肉を捨てるように置いて立ち上がり、そんな二人に視線を向ける。
「誰だテメェら?」
「杖? ハッ、偉そうなだけのクソ貴族様かよ!」
「オイ、ちょっと待て。もう片方女だぜ!? 胸の部分が膨らんでやがる! しかも巨乳だ!」
「こりゃあ良い! 貴族は基本的に美形揃い。隣の男ともうヤってるかもしれねェが、上玉だ!」
そんな二人に疑問をぶつけた野盗だが、片方が女性と分かって興奮する。
もう侵入者という事などどうでも良くなったみたいだ。
「貴族ってバレたな」
「杖を持っていますからね」
「コイツらには別にバレても良いけど……囚われている女性達にバレたのは少し気になるかな」
「まあ、終わらせてから考えましょうか」
「そうだな」
その二人、ホムラとセイカ。
顔はまだ見せずに杖だけを構え、野盗達は二人目掛けて駆け出した。
「ヒャハハ! 男は死ねェ!」
「女は抱かせろォ!」
「抱っこじゃなくて衣服ひんむいて俺達にサービスさせるって意味だァ!」
「……。セイカ。今からやる事、まだじっくりは見ていない筈だ」
「……。はい……」
「俺がやるのはそう言う事。単純な人殺し……それでも付いてくるんだな?」
「前にも同じような質問をしましたね。私にホムラ様の行いを否定する理由はありません」
駆ける野盗達を余所にホムラは最終確認を告げ、セイカは頷いて返す。
そう、ホムラがこれから実行する“その光景”を、セイカはまだあまり見ていない。
だからこそ注意をし、覚悟を決めさせたのだ。
「「「死ね────」」」
──次の瞬間、刃のような闇魔法が野盗達の肉体を引き裂き、一瞬にしてバラバラにした。
鉄である刃すら切断し、腕や頭、足などが宙を舞う。
「な……!」
「グガァ!?」
「痛ェ……痛ェよォ……!」
理解の追い付かない者。悲鳴を上げる者。泣き叫ぶ者。闇魔法によって切断された者達は体内の物が外に出てもまだ生きており、死ねない現状に混乱していた。
「まだだ……他人を苦しめ、自分の快楽の為だけに生きるクズが……自分の罪を苦痛で償え……!」
「ギィヤァァァ!?」
「た、助け──」
バラバラになった野盗の目玉を抉り、歯を一本一本抜き、爪を剥がし、仲間の血液や臓物に顔を叩き付ける。
今の状態で出来る全ての苦痛を叩き込み、たっぷり十分間生かした後で闇魔法を解いた。
「「「────」」」
バラバラになった肉片が地に落ち、ベシャリと生々しい音が響く。
囚われていた女性達には闇魔法からなる傘で穢れた物が降り掛からぬように気を付けており、二人は炎魔法で鎖を焼き切った。
「……。大丈夫か?」
「ヒッ……ば、化け物……」
「……。化け物、か。確かにそうだな。……取り敢えず君達が生きていて良かったよ。野盗に穢されただろうな。死にたいなら俺は止めない。生きて街に戻りたいなら連れて行くよ。どうする? 少なくとも俺は自害はオススメしない。君達にはアイツらと違って生きる資格があるんだからな」
「……っ」
ホムラを見、女性達は怯えた表情となる。
しかしホムラは構わずに質問をし、女性達数人の返答を待った。
「わ、私は……」
──そしてその日、野盗の巣が一つ壊滅した。
捕まっていた女性は13人。うち、9人が自分達の街に帰り、4人がその場で自害した。
******
「お、帰って来たぞ!」
「娘は……娘は無事なの!?」
そして、途中まで闇魔法で移動し、9人の女性を連れたホムラとセイカは街へと戻る。
時間で言えば一時間程度だが街の者達は待機しており、ホムラ達を確認して駆け寄った。
「ああ、無事だったのね……」
「うん……お母様……」
「良かった……良かった……」
「グスッ……お兄様……」
一方では母親と、一方では兄と、助かった女性は家族と抱き合い、自身の生を実感する。
しかし、4人だけは。
「助けた時点では生きていましたが、自害しました。それはその4人の意思。見たところ精神的にかなり弱っており、もう生きる気力が無かったようです」
「そんな……」
「うぅ……」
「ああ……なんて事……」
「許せない……!」
当然、ホムラは包み隠さず全てを話す。
その両親や家族は嘆き悲しみ、その場に踞る。
ホムラは自害をオススメはしなかった。それを実行したのは本人達。ホムラ自身、家族や親しい者達が皆殺しに合い、今現在は死ぬ為の旅をしている。だからこそ自害を止めようとは思わなかった。
死ぬのは悪い事ではない。特にこの救いようの無い世界では。死んだ方が楽になる事も多いだろう。
それは当然、自害した女性達の家族も理解していた。
「娘は……最期になんと……」
「……。先立つ不孝をお許し下さい。ここまで育ててくれたご恩は忘れません。今までありがとうございました……との事です」
「……そう……ですか……」
遺書を書く気力も残っていなかった。それ程までに追い詰められていたのだ。
しかし、野盗に捕まり恥辱の限りを尽くされた精神。自分で死ぬ選択が出来、最期の言葉を家族に残せた。それだけでこの世界での死者の中ではかなりマシな部類である。
報告を終え、ホムラとセイカは酒場へと戻った。
「野盗の死骸は放置。自害した人達の遺体は家族に受け渡し、埋葬されるそうです」
「そうかい。兄ちゃん、苦労掛けたな。野盗の殲滅。単純な野盗の始末だけじゃなく、それによる犠牲者の事もあるからな。ありがとよ。報酬金だ」
「いえ。俺としても貢献出来たのなら何よりです。これで少しでも治安が良くなるといいですね」
「なると良いな。平和が一番だ」
報酬金を受け取り、ホムラはそれを仕舞う。
それなりの金額が手に入った。やはりこの街直々の依頼なので相応の物なのだろう。
ホムラとセイカは酒場を後にし、今日泊まる分の宿を探す──その時、
「……ん?」
「へへん! アナタ達の報酬金! 貰い受けたよ!」
盗人、トキが何処からか現れてホムラとセイカの報酬金が入った袋を盗んだ。
盗んだ瞬間は何も分からなかった。トキは勝ち誇り、言葉を続ける。
「さっきはよくもやってくれたね! 攻撃するのはなんか怖いから、今日は迷惑料として私に金銭を渡すだけで許して上げるよ!」
「……。それは街から貰った大切なお金だ。返してくれ」
「返すもんですか! 本当ならこれくらいじゃ気が済まないんだから! 返して欲しければ先程の事について謝罪しな!」
勝った……! と言わんばかりの表情でホムラとセイカを見やる。
その言葉を聞き、ホムラはトキに向けて口を開いた。
「……。分かった。……先程は貴女に危害を加え、すみませんでした。どうかそのお金をお返し下さい。それは大切な物なのです」
「……ぇ……?」
その謝罪を聞き、トキは困惑する。何がどうなっているのか分からないと言った面持ち。
後退り、ホムラの方を今一度見やる。
「な、何で謝罪するの……そんなにこれが大事なの……? 貴族って、どこまでも自分勝手な最低最悪のお金持ちなんじゃないの!? 何で怒らないの!?」
信じられない物を見るような表情になり、必死に話す。
貴族の、世間的なイメージ。それは今トキが告げた通り。なので盗人のトキから見てもホムラの“謝罪”という行動は違和感しかなかった。
それに対してホムラは何でもないように返す。
「争いが起こらない解決法があるならそれが一番だ。今は気分が悪くてな。返す言葉も無い」
「なんで……貴方って……本当に貴族……? おかしくない!? 貴族なら“ならば死して償え”! くらいは言いそうなのに!?」
「多分俺は、貴族の中でも異端なんだよ。世界が自分の思い通りになるならそれに越した事はないけど、ならないならならないで特に何も思わない。思い通りにしようとする労力の方が無駄だ」
「おかしいよ……何で……何で貴方みたいな貴族が……あの時……私達の前には現れてくれなかったの……」
「……え?」
目から涙が零れ、トキは訴える。
その言葉に返そうとしたホムラだが、街の兵士達が現れた。
「居たぞ! 罪人を捕らえろ!」
「「「オオオォォォォ!」」」
「……! ……っ。約束だからね……これは返すよバカ貴族!」
「おっと……」
「フン……。……またね」
投げ付けるように返された報酬金の入った袋を受け取り、次の瞬間にトキはまた姿を眩ませた。
兵士達はその後を追い、ホムラとセイカに一礼して先を行く。
「……。盗人も、まあ訳ありみたいだな。人は殺していないみたいだし、この世界で人殺しをしていないのは好感が持てる」
「それでも盗みは悪いと思いますけど……裕福だった私達が悪人だっただけですね」
その態度から、トキにもトキなりの事情があったのだろうと理解した。
もっとも、この世界では事情の無い者などほぼ居ない。今までに殺めた野盗にも何かしらの事情はあったのだろう。
だが、ホムラは過去よりも現在を重要視する。なので現在で犯した罪を物理的に償わせているのだ。
しかしながら、貴族が誰からも嫌われている理由を改めて実感した。平民から見れば贅沢三昧の貴族。貴族も貴族として権力争い的な苦労はあるが、衣食住があるだけでかなり恵まれていたようだ。
「……。取り敢えず、宿を探すか」
「はい。探しましょうか」
人にはそれぞれ抱えているモノがある。それを考え出したらキリがない。なのでその事を考えるのはやめ、ホムラとセイカは宿を探す事にした。
クエストを達成した二人は、自分達の行動に出るのだった。




