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33ページ目 逃亡者・資金集め

 敵か味方かの質問に対して引くトキの言葉に対し、ホムラは頷いて返した。


「ああ、そうだ。立場上、敵が多いんでな。だからアンタの返答次第で対処法を決める……!」


「杖もないのに? 何か当てはあるの?」


「まあな。杖が無くともアンタを殺すくらいは簡単だ」


「こわ~い。本当に本気の殺意剥き出し100%の全快……貴族ってそんなに余裕が無いの?」


「さあな。少なくとも俺には余裕なんてない。敵か味方を応えないなら、せめて杖を返して貰おうか」


 そう言い、ホムラは杖無しで闇魔法の欠片を展開させた。

 そこから何か嫌な感覚を覚えたトキは二人に杖を明け渡す。


「ご、ごめんなさい。つい調子に乗ってしまって……。貴族様に対してなんて失礼な事をしてしまったのでしょうか……」


「え? ああ、杖を返してくれるなら別に良いよ」


 急にしおらしくなり、その変わり様にホムラは困惑する。しかし杖を返してくれるというのでその杖に手を──


「掛かった! 隙ありバカ貴族!」

「……!」


 取った瞬間、再び消え去り、ホムラの背後に回り込んだ。

 そのまま回し蹴りを──


「あ……」

「きゃっ!? な、何コレェ!?」


 打ち込もうとした瞬間、その敵意に反応した闇魔法がトキの身体を縛り上げた。

 肌に闇が食い込み、藻掻く度に更に深く入り込み、血流が変化して顔が紅潮する。

 まだ殺意の込めていない闇魔法なので触れただけで即死の効果は免れたが、それでも単純に縛られるだけでも効果的だろう。


「くっ……いつの間にこんなものを仕込んだの!? 離せー!」


 ジタバタと手足を振るい、何とかして抜け出そうと試みる。しかし試せば試す程に闇はより強く食い込み、トキにも限界が来た。


「あ……もうダメ……」

「やれやれ……」

「ん? わっ!?」


 ため息を吐いて闇魔法を解き、ペタンと地面に落ちる。

 トキは肩で息をする程に疲弊しており、疲弊しながらも言葉を続けた。


「はぁ……はぁ……い……一体何だったの……私でも抜け出せなかったなんて……貴方……本当にその辺に居る無能な貴族?」


「無能かどうかはともかく、俺は貴族で間違いないさ。けど、君こそあの動き……」


「へへん……教えてあげないよ……!」


 息を切らしながらも態度は変えずに強く言い、ホムラはまた肩を落とす。

 そのやり取りの一方で、セイカが話し掛けた。


「えーと……御二人様……大変な状況になりましたよ?」


「え?」

「あー、そう言えば彼女は罪人か」


「貴族とおっしゃられましたね。貴族様のお手を煩わせて申し訳御座いませんでした。その捕らえた盗人、こちらに渡して頂きませんか?」


 ホムラとセイカは除き、トキは兵士達に囲まれていた。

 ホムラは貴族という立場なので兵士達は貴族に接する態度で話す。

 一応ホムラも今は罪人だが、この場では名乗っていない。セイカが名を呼ぶ事はあっても、兵士や公開処刑に集中していた住民には聞こえていない。なので気付かれていないのだろう。

 トキは立ち上がり、捨て台詞を吐いた。


「一時撤退! 黒髪火傷と赤髪おっとり! アナタ達の顔覚えたからね!」


「黒髪火傷……」

「赤髪おっとり……」


 ホムラとセイカの特徴を示し、また消え去るように逃げる。

 既にトキの姿は無く、兵士達は慌てて辺りを探した。


「探せ! まだ近くに居る筈だ!」

「では、貴族様。これで!」


「あ、ああ。得体が知れないから気を付けろよ」


「な、なんと……貴族様が我らの心配を……!? 貴方様、本当に貴族ですか!? 死刑承知で言えば貴族に良いイメージはありませんが……」


「あー……俺もそう思ってるから大丈夫だ。俺達の方が上流階級じゃ異端なんだよ」


「成る程……で、では。おくつろぎください!」


 それだけ言い、兵士はトキの捜索に当たった。

 身を案じるだけでこれ程の反応をされる。改めて貴族に良いイメージは無いんだなと実感した。


「オイ……今の……」

「ああ……まさか貴族が……」

「「「他人の心配をするなんて……!」」」


「……。やり辛いな。この街」


「多分世界中そうですよ……しかし、護衛も居ない私達を襲わない時点でこの街の方々はかなりの善人かと……」


「反応からして、この街も貴族によって酷い目に遭っているだろうにな」


 大袈裟過ぎる反応だが、実はこの世界基準で考えれば全くそんな事はなかった。

 貴族の前を通り過ぎただけで死刑は茶飯事。偉そうに振る舞いながら何もしないというのも当たり前。盗人の捜査へおもむく兵士の心配をするなど、絶対にあり得ない事なのである。


「取り敢えずテキトーにブラつくか。トキの公開処刑に住民の大半は居たし、今も半数は残っているから俺達の立場を明かしてもそこまで酷い事にはならなそうだ」


「それが良さそうですね。まあけど、念の為にローブは被りましょうか」


「そうだな。俺自身が罪人。顔は隠した方が良い」


 この街の住民は、おそらく他の街のように貴族に大きな恨みを抱き、夜襲するなどの事も無さそうな雰囲気だった。

 セイカが言うように護衛の無い二人を見て何もしないのでそこまで根は深くないのだろう。

 しかし目立つは目立つのでローブを纏い、杖を隠して二人は処刑場を後にした。



*****



「……。全部が全部特筆している訳じゃないけど、平穏な街ではあるみたいだな」


「この世界にしてはかなり珍しい街ですね。裕福層貧困層問わず、街には常に喧騒や陰湿な気配などがありますのに」


 処刑場を後にしたホムラとセイカは、街を見渡しながらテキトーに歩いていた。

 客を呼び込む店員。各々(おのおの)の仕事をする人々。走り回る子供。散歩する人。

 おこなっている事は様々だが、“平穏”である事は変わらなかった。

 最近、虚無の境地の襲撃に始まりロクな事が無かった。落ち着こうとすれば嫌な記憶のフラッシュバックが起こる始末。記憶にも何にも邪魔される事の無い平穏な雰囲気。それは忘れかけていた感覚だ。


「この街を活動拠点にしても良いかもな。少なくとも追っ手が来るまでは」


「良さそうですね。もしも私達の問題に巻き込みそうになったら即座に離れますけど……それまでの拠点にするのは賛成です」


 貴族にも比較的悪辣ではなく、戦争などの被害も無い。理想的な条件が揃っているこの街はホムラ達の拠点として丁度良さそうであった。

 当然の事ながら巻き込みそうな事があれば即座に立ち去るが、それまで拠点として活動するのは悪くない。


「そうなると……金銭的な問題があるな。最低でも宿泊代くらいは欲しい」


「生まれてこの方金銭に困る事は無いと思っておりましたけど、逃避行からは初めての経験ばかりです」


「そうだな。セイカ。何ならセイカは……」


「もうそれ以上言わないでください。それだけは命令であっても受け入れないと決めています。ホムラ様と一緒じゃなくなりますからね」


「そうか」


 ホムラと違い、セイカはまだ帰ろうと思えば帰れる。しかしそれを言い終える事無く拒否した。

 セイカの条件は、ホムラと共に居る事。なのでホムラを置いて帰るのは規約違反。当然だろう。


「じゃあ、一日でそれなりの金銭を稼ぐか。えーと……この街にクエストの掲示板はあるか?」


「さあ……けど、あるとは思いますよ。この世界に置いて掲示板が無いという事は無いと思いますので。無ければ酒場などの受付所で依頼を受けていますけど」


 “クエスト掲示板”に“酒場”その様な“受付所”。

 それはそのままの意味で、この世界には魔物や野盗関連の被害が多い。なので腕の立つ者に金銭や食べ物を依頼料として渡し、討伐して貰う事が多々あるのだ。

 それはそれなりの規模の街はともかく、小規模の村でさえ存在する。

 要するに悩みを解決して1日の賃金を稼ぐという事。ホムラとセイカは人通りの多いところに来て掲示板か受付所を探し、依頼を受ける事にした。


「すみません。この辺でクエストを受けられる場所はありますか?」


「ん? あー、すぐそこの酒場だよ。お宅ら、冒険者か? ローブを被ってるって事は遠くから来たみたいだな。冒険者は儲けが悪いってよく聞くけど、よくやるな」


「ハハハ……実は街を出たばかりで。外の事は何も分からず、取り敢えず腕っぷしがそこそこあればそれなりにこなせる冒険者を……」


「成る程なぁ。確かに危険なクエストじゃなけりゃ最低限の金銭は入る。取り敢えずそこだ。気を付けなよ」


「はい。ありがとうございました」


 親切な男性に教えて貰い、ホムラとセイカはクエストが受けられる酒場へと入って行く。

 酒場は昼間にも関わらず盛り上がっており、酒と食べ物の匂いが広がっていた。


「すみません。クエストを受けたいのですけど……」


「ん? ああ、いいぜ。けど見ねェ顔だな。顔殆ど見えてねェけど。未登録の冒険者かい?」


「未登録……ですね。ギルドなどに申請はしていません」


「成る程な。ま、問題を解決してくれるなら何でも良い。ぶっちゃけ名のある冒険者以外はギルド側も放置してるからな。人気のある者達以外は大切にしない。大きな組織じゃよくある事よ。今さら無名が増えた所で関係無いしな」


「おっしゃる通りです」


 テキトーな依頼を見せて貰い、ホムラはそこから探す。

 先ず大きな街からの依頼はスルー。多額の報酬金は出るが、その街に書類報告した後で手続きを経てようやく貰えるので今日の分は稼げない。

 なのでなるべく近場の街か、この街からの依頼を行うのがホムラとセイカの目的には適している。


「“魔物の討伐”。“治安維持”。“畑の草むしり”。“狩猟”。どれにする?」


「早く済みそうでそれなりの資金が入る物が理想ですけど……当然ながらそう言った依頼は既に終わっていますね」


「うーん……あ、“火の系統殺戮主犯の報告or討伐”……凄いな。こんな依頼もあるのか」


 そしてホムラの視界に入った、既視感しかないクエスト。

 それを見て苦い顔をしていると店主が断りを入れるように話した。


「あー、それはやめといた方が良いぞ。何でも、とある火の系統の貴族が起こした事件らしくてな。なんとその街の同じ火の系統の貴族を、依頼に書かれている通り、皆殺しにしちまったらしい。同じ系統なのにそんな事するなんて、余程不満があったのか成り上がりたかったのか、真偽は不明だそうだ。大きな貴族の街からの依頼なんで報酬金はそりゃとんでもねえが、そんな奴を相手にするとなると命がいくつあっても足りねえわ」


「本当に……理解出来ませんよね。何故そこまでして成り上がりたいのか、何故そんな事をするのか……この事件を企てた主犯は最低最悪のクソ野郎ですよ……!」


「……? あんちゃん? どうしたんだ?」


「……! いえ、何でもありませんよ」


「そうかい?」


 このクエストが指し示しているのは、もうホムラが殺した主犯ではなくホムラ自身の事だろう。

 しかし、その主犯を殺すだけでは物足りない程にホムラのはらわたは煮えたぎっていた。

 だが、怪しまれる訳にはいかない。ホムラは改めて依頼を見た。


「……ん? “野盗の殲滅”。この街の近くで野盗が居るから殺して欲しいのか」


「ストレートに言うな兄ちゃん。そのクエストもさっきの程じゃないが厳しいんじゃねえか? 報酬金目当てに行った人達も何人も死んでるし、見たところ連れは女だろ。酷い目に遭うぞ?」


 ローブで顔は隠しているが、身体のラインはそれなりに浮き出る。

 なのでホムラの連れを女性と理解し、女性を連れてそんなクエストに行くのは危険であると親切に教えてくれた。

 気の良い店主である。このクエストはこの街からの依頼。なのでこの街がちょくちょく被害に遭っているのだろう。

 それを踏まえた上で、ホムラは店主の方を見た。


「いえ、これを受けますよ。多分今日中に終わらせられます」


「……。そうか。なら止めるのは無粋ってもんだ。この街からも女子供が何人か誘拐されてる。何人も殺されている。しかしこの世界じゃよくある事なんで上の連中は話を聞いてくれない。兄ちゃん、生きて帰ってくんだぞ。これは俺からの奢りだ!」


「はい。お任せ下さい。ありがとうございます」


 断る理由は無かった。

 元々勧善懲悪を謳うホムラ。野盗による被害はやはり存在しており、クエストに行くホムラの身を案じ、飲み物を奢ってくれた親切な店主の為にもやるべきだろう。

 今日の宿代を稼ぐ為のクエスト。ホムラは野盗の殲滅に決めた。

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