30ページ目 幸せの定義
「……んっ……」
「ホムラ様ぁ……激しいです……♡ どうぞ私に……ん……? ……あれ……」
──翌日、意識を失うように眠ったホムラ達は目が覚めた。
ホムラ、セイカ、昨日助けた女性の順に並べられており、敷物の周りには子供達が眠っていた。
「これは……子供達が運んでくれたのか」
「その様ですね……あ、花が置かれてます。それに額に乗った少し湿った布……ふふ、どうやら看病してくれたみたいですね」
「そうか……」
先に目覚めたのはホムラとセイカ。
周りの状況から子供達が此処まで運び、看病してくれたのが窺えられた。
二人は子供の頭を撫でてフッと笑い、ホムラはハッとしてそっぽを向く。
「ど、どうやら迷惑を掛けちゃったみたいだな」
「ふふ、そうですね♪ ホムラ様。久し振りにその様な顔を見れました♪」
「初対面の時も見せなかったと思うけど……」
子供達の存在は、正直言って癒される。
ホムラは少し、幼い頃の自分達の面倒を見てくれていたゴウや、つい最近まで面倒を見てくれていた使用人達の気持ちを理解した。
「ぁ……お、お早う御座います。ホムラ様。セイカ様……! 今日はお日柄も良く」
「あー……おはよう。そんなに畏まらなくても良い」
「い、いえ……平民の私はアナタ様へ……!」
ホムラとセイカに続き、子供達の中で唯一成人している女性も目が覚めた。
ホムラは別に良いと断るが女性は食い下がる。立場としてそう教え込まれているのだろう。
そして女性は自分の下腹部を撫でた。
「……あれ……無くなった筈ですのに……まだ感触が……」
昨日、確かに取り除いた筈。しかしある違和感。ホムラは軽く告げる。
「ああ、それ。体内の穢れた部分だけを取り除いた。微調整とか難しかったけど、何とかなったんだ。だからまあ、将来的に子供を産みたいなら産めるよ。傷やホルモンバランスはセイカが治療してくれたから問題無──」
「……! ホムラ様……!」
それを聞き、女性は涙を流して歓喜する。
また土下座のような形となり、頭を地に着けて言葉を発した。
「ありがとうございました……! 私……実は子供が欲しく思っており……しかし仕方無いと……本当に……ありがとうございました!」
「やめろよ。大袈裟だな」
「あー、お兄ちゃんお姉ちゃんを泣かせたー!」
「やっぱり悪い人?」
泣く女性を見、慕っている子供達がホムラへ訊ねる。
ホムラはため息を吐き、一声。
「……ああ、俺は極悪人だ。お前達も食べてやる」
「わー!」
「きゃー!」
そして、追いかけっこが始まった。
ホムラとしても、子供は嫌いじゃない。最近は色々とストレスの溜まる事柄が多く気が気では無かったが、久し振りに純粋なモノと触れ合い、気分的に少し楽になったようだ。
そんなホムラを見、セイカはホッと安堵する。
「ようやく……私の知るホムラ様になりました……」
「セイカ様……貴女は幸福ですね。あれ程までに素敵な殿方が婚約者であるなんて」
「ええ。最近は嫌なことが多くありましたけど……ホムラ様が居て下さるだけで私は幸福なんです」
「ふふ、羨ましい。一つ提案ですけど……ホムラ様を私にも分けてくれませんか?」
「駄目ですよ♪ 肝が据わっておりますわね。王族である私から婚約者を奪おうだなんて」
「はい。身分の差など乗り越えてしまいそうな程に惚れてしまいました」
「同感です」
ホムラとセイカ。二人が寄った襲われた村。
二人はその村にて純粋に仲良くなれそうな者達を見つけた。
「おっと、朝食の準備するか。子供達は沢山食べなきゃならないからな。近くに川があった筈だ」
「ホムラ様。私も同行致します。ちょっとしたライバルが現れましたので」
「ライバル?」
「ええ。かなり手強そうです」
そして目が覚めてから数十分。若干の空腹も覚え、ホムラとセイカは村近くの川へ行く。
それを聞き、女性は子供達を呼び戻した。
「ほら、ホムラ様達が食事を用意してくれるそうよ。大人しく待ってましょう」
「「「はーい!」」」
ヤンチャ盛りの子供達も素直に聞き入れ、ホムラ達の帰りを待つ。
ホムラとセイカの逃避行。また新しい朝を迎えた。
*****
「ホムラ……様……」
「……。セイカ」
そして数十分後、魚や木の実を集めたホムラとセイカが村に戻り、その光景を目の当たりにした。
「やっぱりこの世界に……救いなんて無いみたいだな……」
「ええ……その様で御座います。優しい方々に恩恵が無く、無残に死してしまう世界ですから……」
──その女性と子供達が皆殺しに遭い、山のように積まれた光景を。
二人はもはや感情が表に出ておらず、空虚な目付きでそれを眺める。
二人の目からは自然に涙が溢れるが、何故泣いているのかは分からない。それ程までの精神状態。
「……ホ……ホムラ……様……」
「……!」
「……!」
そして、まだ意識があるのか言葉を発した女性の元に二人が駆け寄り、セイカは迅速に治癒魔法を用いた。
「一体何があった……?」
「さ、昨日の野盗が何故か空から現れ……理由も無く私達を……」
「昨日の? アイツらは皆殺しに……いや、そうか。親玉が居たんだな?」
「いえ……また別の……有無を言わず……現れると同時に……私達が……」
「オイ……オイ!」
「しっかりしてください……!」
女性の意識が遠退き、セイカは膨大な魔力を注ぎ込む。
ホムラは下手に動かさずに呼び掛け、女性は最期に言葉を発した。
「名を……──“絶望の象徴”と……」
「な……」
──その襲撃者の名は、“絶望の象徴”。
世界に広まる四つの、人類の敵の一つ。
まず確実に、“虚無の境地”と並ぶ実力は備えている事だろう。
そんなモノが何故現れたのか。何故この、既に滅びた村を襲ったのか。その理由は分からない。
名だけを教え、女性は涙を流す。
「ありが……とう……ござい……ました……ホムラ……様。セイカ……様……私は……アナタ様……方のお陰で……」
そして、息を引き取った。
「しっかりしてください! お願い!」
「セイカ。もう駄目だ。魔力を無駄に消費する結果になる……やめておけ」
「ホムラ様……。はい……分かりました……」
魔力が尽きるのは、魔法使いとしても致命的。なのでホムラはセイカの身を案じて既に終わってしまった事をやめさせた。
治癒魔法をやめ、今度は小さく、ポロポロと涙を溢す。
「何故この世界は……この世は……こんなにも辛く、苦しいのでしょうか……! 善人が報われず、悪人に裁きは無い……裁きを行うのは、悪に恨みを持つ私達のような存在だけ……そして悪を裁けば悪に関わりのある者達から別の恨みを買い、それが永遠に流転する……こんな世界……どうかしています!」
「それが現実だ。ほんの少しの良い事の後には最悪の事態が降り掛かる。分かり切っていた事だ。これがこの世界なんだからな……」
世界に希望など何もない。だからこそ争いが常に起き、それによって私利私欲を満たす者が多い。
今回の女性と子供の死も、また世界による一つの戯れに過ぎなかったという事。
ホムラの闇は更に濃く、深くなる。
*****
「あーあ。暇だなぁ。幸せそうな人達、皆殺しにしたーい!」
何処かの国、少なくともホムラ達のいる場所とは反対側。夜の国にいる幼い少女が退屈そうに月を見上げて物騒な事を呟いた。
「たった今、襲撃された村の生き残りを殺めたではありませんか」
「分かってないなぁ。ボクが殺しちゃった時点で、その人達は幸せじゃなくなったんだよ。だからボクの望みは叶ってない訳。そりゃ、何故か村が滅ぼされたのに楽しそうだったのは癪に触ったんだけどねぇ。死んだからボクは幸せになったけど、ボクが幸せになるのも駄目だからまた新しい幸せな人を探して殺さなくちゃ!」
タキシードを着、モノクルを付けた執事風の男性が少女に訊ね、少女は「駄目駄目~♪」と楽しそうによく分からない理論を話す。
そんな少女へ、また別の部下と思しき男性が話した。
「それでは絶望の象徴様。次は何処へ?」
「うーん……そうだなぁ……」
その幼い少女、“絶望の象徴”。
部下に訊ねられ、答えようとしたがハッとした。
「ちょっとちょっと~。絶望の象徴って、フルで呼ぶのは語感悪いよ。さっきも勝手にボクの自己紹介しちゃって。はい、罰ゲーム!」
「……! ヒッ……お、お許しを……!」
「ダーメ♪ 言うこと聞かない悪い子は~……死刑!」
「お助──」
ジャン♪ という効果音が聞こえてきそうな態度の瞬間、部下の首が見えぬ斬撃に刎ねられて鮮血を散らした。
その光景を見て周囲の執事以外が戦慄し、一人が名乗り出る。
「すみませんでした。絶望様……私の部下が不手際を……わ、私めだけはお助けを……」
「別に気にしてないよ~♪ 殺したからその分の不祥事はオッケー!」
「ホッ……」
「けど、ボクを“絶望”って言うのもダーメッ!」
「……ッ!」
次の瞬間、謝罪した部下がまた殺された。今度は身体を捻るように。
絞り出されたように鮮血と糞尿が流れ、絶望の象徴は不快そうな顔をする。
「うへぇ……そうだった。この罰ゲームは汚いんだった……バイバーイ!」
そして捻れ死体が虚空の彼方へと消え去る。
周りはまた戦慄し、モノクルにタキシードを着た執事が丁寧な態度で話す。
「躾のなっていない部下ばかりですみません。──絶ちゃん」
「「「…………!?」」」
神妙な面持ちである、執事からなるその言葉を聞き、周りの者達は別の意味で戦慄する。
絶望の象徴はニッコリと笑って執事に返した。
「いいよ! 許してあげる! やっぱりボクは君が一番好き! 大人になったら結婚して!」
「検討しておきます。絶ちゃん」
「「「えぇ……」」」
その呼び方に対し、絶望の象徴、改め絶ちゃんは満面の笑みを浮かべた。
その笑顔は年相応であり、顔付きも整っているのでとても可愛いものである。
「それでは、この部下達は如何致しますか?」
「そうだねぇ……そろそろ別の人達にしよっか!」
「「「…………!」」」
次の瞬間、部下であった者達──村を襲った野盗の残党は洗脳が解かれたようにハッとし、周囲を見渡す。
そして絶ちゃんを前にした。
「……! このガキ……一体……!」
「絶ちゃん。始末は付けなくてはなりません。いつもいつも後片付けをしないのですから」
「ごめーん! だって面倒臭いんだもーん!」
「何を言ってやが──」
その刹那、操られていた野盗達は執事が通り過ぎると同時に消し炭となる。
蝶ネクタイを整え、赤くなった白い手袋を外しながら執事は絶ちゃんに話した。
「お次はどちらへ向かわれますか。絶ちゃん」
「うーんとねぇ……何処でも良いかな! あーあ、もっと幸せな人達を殺したいなぁ! 早くボクも死ななきゃならないのに! ボクって生きちゃ駄目なんだもん! と言うか、世界に人多過ぎぃ。幸せな人は少ないって聞くのに、結構多いんだもん! みんなみんな殺したーい! 幸せな人達みんな殺してボクも幸せになってこの世に要らないボクも死ぬー!」
「それはお困りですね。では、楽しいスポットに行きますか。そこでは常日頃から戦争が行われており、幸せな人が少ないそうですよ」
「少ないなら意味無くなーい?」
「物は考え様です。例えば戦争の強い国に行き、潤い幸福な上層部を皆殺しにする。さすれば戦争が終わり、幸せになる人が増える。結果、幸せな人々を全滅させる事が可能という訳です。また絶ちゃんの夢に一歩近付けますよ」
「本当だ! またボクが幸せに近くなれるね! そうすれば早く死ねる! わーい! じゃあ戦争止めてみんなを幸せにしなくちゃ!」
戦争を止めて人々を幸せにする。その部分だけを聞けば善人の思考だが、話の流れから決して善ではなかった。
絶ちゃんと執事。人類の敵である一つの存在は、今日も世界中を幸せにする為に進み行くのだった。




