29ページ目 被害者の苦悩
「はぁ……ようやく森を抜けましたね……」
「そうだな」
死体置き場から数時間後、もう既に日の落ちる時間帯になっているがホムラ達は森を抜けた草原に出ていた。
どうやらまだ街などは見えないが、この草原はある程度の整備が施されている。街か村が近くにあるかもしれない。
「この辺りからは魔力の結界も無い。森と違って魔物もどんどん出てくるだろうな。気を引き締めた方が良さそうだ」
「た、確かに……。そうですね。ホムラ様……」
ホムラ達の街に近い森では、魔物などに出会わなかった。
それは森にその様な結界が張られており、魔物などが近付けないようになっていたからだ。
なので此処からは未知の領域。危険は尽きないだろう。
「……。遠方に煙が上がっているな……」
「その様ですね。如何致しますか?」
「まあ、行くしかない……か」
ふと遠くを見ると、煙のようなものが立ち上っていた。
普通に考えれば人が居る場所の証明だが、その煙は黒いもの。少なくとも狼煙や焚き火ではないだろう。
二人は警戒しつつ、当ても無いのでそこへ向かった。
「これは……」
「……襲撃に遭ったみたいだな。野盗か戦火か」
近いように見えて、距離はそれなりにある。ホムラ達が着いたのは日が完全に落ち、既に月明かりが照らす頃合い。
焼けていたのは大凡の予想通り、家などの建物。見た感じ何らかの襲撃に遭ったらしく、まだ新しい死体がゴロゴロ転がっていた。
「酷い……子供まで容赦無く……」
「よくある光景だ。俺達の街もそうなり掛けた。虚無の境地の性格が戦闘意欲だけの存在じゃなけりゃ、完膚無きまでに蹂躙されていただろうな」
あった死体は、ホムラの記憶にも新しい状態のモノが殆ど。
女は穢され、男は殺され、まだ幼い子供も例外ではない。
衣服は高く売れるので死体の全ては衣服を着ておらず、建物の数に対して死体は少ない。おそらく攫われ、売られるのだろう。
ホムラの知る野盗では虚無の境地が居るが、部下はともかく虚無の境地自身は凌辱などが趣味じゃない。
皆殺しにはあったが、尊厳という尊厳を破壊され尽くしたこの村の者達を襲った誰かよりは温情だろう。
「ホムラ様……せめて埋葬くらいは……」
「……。調査とか埋葬とか、本来なら国がやる事だけど……まあ、国なんて何の役にも立たないからな。俺にセイカの親切を断る理由はない」
「ありがとうございます」
「俺に礼を言っても意味無いさ。全部が全部、命令通りに動けって訳じゃないからな。セイカが望むなら協力はするって言っただろう」
「ホムラ様……!」
多くの死体を見、いたたまれぬセイカは埋葬する。
炎魔法で地面を掘り、そのまま埋める。この世界で火葬の文化はあまりなく、基本的には土葬だ。
一人一人を丁寧に運び、ホムラも闇魔法で穴を掘ったり遺体を運んだりなどの手伝いを経て二時間程で全てを埋葬した。
「ありがとうございました。ホムラ様。お陰ですぐに終わりました……」
「気にするな。あまり気にしていないように見えるかもしれないけど、俺は結構怒っている。ただでさえ戦争で必要無い死者が出るのに、野盗が彼方此方に蔓延っている現実が許せないからな。怨念達の気持ちも少しは分かったから、アイツらは俺の力になったんだろうな」
「はい。許せません。この様な事をする者達が……! しかし、法などとっくに機能していないこの世界……一体どうすれば……」
セイカは涙を流し、身体を震わせる。
自分の街。先程の死体置き場。そしてこの村。この数日間でセイカは、多くの犠牲者達を目の当たりにした。
それでも慈愛の精神は持ち合わせているが、沸々と怒りも沸き上がっていた。
そのやり場の無い怒りを抱えるセイカにホムラは手を置く。
「さっきも言ったように、手荒なやり方で良いならセイカに協力する。任せておけ」
「ホムラ様……」
正義は正直どうでもいいが、ホムラから見た“悪”の被害に遭った村。
故にホムラはそれを遂行する事に決める。
「ちょっとしたゴミの殺処分だ」
闇魔法を展開し、村を探る。
ほんの少しの小さな痕跡。それがあるだけで此処を襲った野盗が分かる。
この村の者達とは何の接点もない。もしかしたら悪い事をしていた可能性もある。しかし、勧善懲悪を座右の銘としたホムラはこれ程までの状態とする野盗を野放しには出来ないだろう。
「足跡があったな。そして血の痕跡。このまま真っ直ぐ、東の方に向かったみたいだ」
野盗の拠点は、おそらく東側。
当然大人数で行動していると考えればその先にはいくつもの痕跡がある事だろう。
場所を突き止めるのは簡単な筈だ。
「それで、どうしますか? 今から行くのか、今日中に済ませるのか……」
「今日中に終わらせるよ。襲撃があったのは昼頃だろうし、まだ遠くには行っていない。その人達が望むかどうかはともかく、攫われた人が売られる前に行動する」
「分かりました。では私も、」
「いや、セイカは来なくて良い。すぐに終わる。終わらせる。今晩はこの村を拠点にするから待っていてくれ」
「……。はい。かしこまりました」
ホムラの言う事は聞く。なので何か言いた気だったセイカも引き下がり、ホムラは先程展開した闇魔法の上に乗った。
「夜は良い。闇が見えにくくなるからな」
「ホムラ様。お気をつけて」
闇が大蛇のように進み、野盗の進んだであろう道を行く。
闇魔法は乗り物のようにも扱えるので便利なものである。
*****
「「「ギャハハハハハハ!!」」」
「うぅ……グスッ……」
「お父さん……お母さん……」
「バーカ! お前達の両親はもう死んだよ! 目の前で殺してやっただろ!」
「子供だけわぁ。子供だけわぁってな! バカ見てえに這いずってやがった!」
村から少し進んだ場所にて、野盗達は攫った女子供を前に笑っていた。
何れも衣服を着ておらず、既に暴行された形跡もある。大きな声で泣く事も出来ない程に弱っており、踞って震えていた。
「だからテメェらだけは殺さなかったんだぜ? 俺達って優しい!」
「ま、コイツらは金になるからな! 売りに行くまで楽しめるし、良いこと尽くめだ!」
「グスッ……」
「ひっく……」
「パパ……ママ……」
「だから、パパもママももう居ねェんだよ!」
「ゴホッ!」
大きな声では泣かないが、声を煩わしく思った野盗が子供の腹部を蹴り上げた。
子供は大きく咳き込み、縛られた女性が反論する。
「やめてください……! 子供なんですよ!」
「あ?」
その女性の近くに行き、野盗は顎を掴む。
「さっきまでアンアンアンアン喘いでいた奴がよく言うな? またテメェに“大人”を教えてやろうか?」
「……っ」
「ケヒヒヒ……別に何度やっても良いんだぜ? 何なら……まだヤってねガキ共を汚してやるか? テメェがバカ見てェな自己犠牲で一身に受けたからよ。その分の楽しみがまだ残ってんだ」
「やめて……! 子供達には……!」
「やめてと言われるとヤりたくなんだよなぁ?」
「いやぁ!」
「お姉ちゃん!」
「助けて!」
「やめて!」
野盗が襲い掛かった瞬間、横から黒い物質が通り過ぎた。
その場に居た全員が反応を示し、野盗はそちらを見やる。
「誰だ……テメェ……」
「……」
「……。…………あ?」
「オ、オイ!」
そして、ベチャッという音と共に野盗の身体がバラバラになった。が、まだ生きている。生かされている。
黒い物質を放った少年は何処までも冷徹な目付きで野盗を見やり、野盗達はナイフを構えて臨戦態勢に入った。
「テメェの仕業かァ!」
「よくもやりやがったな……!」
「ぶっ殺す……!」
「何なんだよ……テメェ……!」
「……………………」
野盗を見、選定。判決、死刑。
「ヒ……」
「ギャア!?」
「あああ!?」
闇魔法が槍のように野盗のみを貫き、辺り一帯に潜血を散らす。
闇が侵食し、焚き火も消えた。闇の中で
闇を見るのは難しく、物の数秒で野盗は全滅した。
「な、何なんだよ……何なんだよテメェ!」
「何でもないさ。ただ単にアンタらが気に食わないから殺すだけだ」
「ふざ……!」
何かを言おうとした瞬間、声帯を切り取った。五月蝿くウザイだけの野盗の言葉に耳を貸す必要なんてないからである。ゴミの言葉に耳を傾けると耳が腐ってしまう。不快な音は残るものだからだ。
穢れた血に塗れた周囲を他所に、少年、ホムラは子供達と10代後半の女性に視線を向けた。
「あ、貴方は一体……」
「何でもないさ。ただ単にアイツらが気に食わなかったから殺しただけだ。ほら、帰りたいなら帰るぞ。アンタらの村はもう滅びたけど、建物はそこそこ残っている。作物もまだ育ちそうだ。その後はアンタらの自由。生きるも死ぬも好きにしな」
「……。私は……もうあの野盗達に汚されてしまいました。自害し、まだ純潔のこの子達とは──」
「そんな事は知らない。生きるか死ぬかはアンタが決めれば良いさ」
「……!」
闇魔法にて女性と数十人の子供を掬い、またもや大蛇のように這って移動する。
その日、人の売買を行う一つの軍団が壊滅し、巨大な蛇の魔物が現れるというニュースが近辺の街に伝わった。
*****
「ホムラ様……! お帰りなさいませ。えーと……その方達は……」
「被害者だ。色々されたみたいだが、生きていたは生きていた」
滅びた村に戻り、外で待機していたセイカは巨大な闇を見るや否やそこへ向かった。
女性はセイカの方を見る。
「貴女は……。……! 杖……ホ、ホムラ様とやら。貴方様方は貴族様……」
「ああ。因みに彼女は王族だ。俺の婚約者」
「セイカと申します」
「あ、王族の……! し、失礼を! 私はこの村の娘です……貴女様に名乗る名など……!」
「あ、えーと、謙遜しなくとも結構ですから! そう畏まらないで下さい!」
ホムラとセイカを貴族、王族と知り、女性は全裸のまま頭を着いて土下座した。
セイカは慌てて宥め、女性に衣服を与えて止める。
「ホムラ様……この方達が誰も衣服を着ていないのは……」
「ああ。野盗に全部剥がされたんだろうな。野盗が居た場所にも無かったし、衣服だけは先に売られたか、売るんじゃなくて穢すに当たって邪魔だったから捨てたんだろう。……と言うか、セイカが持ってる服は?」
「ホムラ様の言う通り、近くの川に捨てられていました。乾かしましたので問題無いと思います」
「そうか」
衣服は色々とする為に邪魔だったので無理矢理脱がされたらしい。
しかしながら、バラバラにされる訳でもなく普通に捨てられていただけ。なのでセイカは川にあった衣服を軽く洗い、炎魔法で乾かしていたらしい。
その衣服を受け取る前に女性は全裸のままホムラの方を見た。
「ホムラ様……先程の野盗。明らかに死んでいる状態にも関わらず生きていたのは……」
「ん? ああ、魔法。言ってしまえば闇魔法。話くらいは貴族や王族じゃなくても知ってるかな。つまり貴女達の敵になりうる存在」
「闇魔法……いえ、存じ上げません」
「あー、成る程。確かに俺も授業でやるまで知らなかった……。要するに、殺さないように殺す事が出来るんだ。悪人は普通に殺すだけじゃ駄目だ。死ぬ程の苦痛を常に与えて、自身の罪の重さを肝に命じた上で死ななきゃならない。自分が悪事を働いていると実感させなきゃならないからな。んで、それが何?」
通常なら死んだ筈の状態でも生きていた野盗。当然徹底的に苦しめた後はちゃんと更に苦しめながら殺したが、女性はそれを気にしていた。
殺さないように殺す事の出来る魔法。女性は覚悟を決めたかのような表情となり、受け取った衣服を下に置き、依然として裸のままで言葉を続けた。
「ホムラ様……どうかその魔法にて、私の子宮を取り除いて下さい……」
「……。一体何故?」
行った願いは、子宮の除去。
この世界の規定として、女性は子供を産む必要がある。子供を産めるのが女性だけなのでその器官は必要不可欠だろう。
しかしながら、それを切り捨てるという事は一生子供を産めなくなるという事。幸せの定義は人それぞれだが、一つの幸せが無くなる可能性を考慮した場合デメリットの方が多い筈。
それについてホムラは訊ね、女性は言葉を続けた。
「私の身体は穢されてしまいました。もう野盗の子種も私の中にあります。産まれてくる子に罪は無くとも、そんな子供、産みたくありません……! なので堕ろした方が良い。……しかし、此処に居る子達の面倒を見るのは現状、私しか居ません……だからこそ、死なずして罪子を産まぬように除去して貰いたいのです!」
涙を流して懇願する。
無理矢理犯された女性。何人の男を相手にさせられたのかは数えたくない。その分の子種を踏まえればほぼ確実に孕んでしまう。
なのでその様な子を産むくらいならば、死ぬ程の苦痛に耐えて取り除いた方が良いと考えているらしい。
ホムラは少し考え、闇魔法を展開した。
「分かった。貴女は比較的善人のようだ。世界が何もしない分、せめて俺は善人にはなるべく恩恵を与えたい。後悔は?」
「ありません……!」
「了解した」
──瞬間、女性の下腹部を闇魔法が貫いた。
「……ッ! ァ゛ア゛ア゛……!」
そこから真っ赤な血が噴き出し、女性は大粒の涙を流して絶叫する。
そんな光景を幼い子供達には見せられず、無害な闇魔法にて子供達の目は塞いでいた。
縦横無尽に闇魔法が女性の身体を巡り、その作業を行う。女性の体全体から真っ赤な鮮血が飛び散る。同時に貫通し、闇魔法はホムラの体内へと戻った。
「セイカ。治療を」
「は、はい……!」
終え、治癒魔法の扱えるセイカに指示を出す。セイカは即座に炎の治癒魔法を使って痛みを和らげた。
「傷を焼き固めます。熱で治癒力を増幅させます。この痛み……どうか耐えて下さい……!」
「……アァ……ア゛ア゛ア゛!?」
「何してるの!」
「お姉ちゃん!」
「待て。君達は行くな」
「……うえーん! お姉ちゃーん!」
「お姉ちゃんをイジメないでぇ!」
傷を固め、回復力を高める。
直後よりは痛みも引いているだろうが、それでもかなりの苦痛だろう。
今の状態では闇魔法を解除した瞬間に痛みによるショック死をしてしまう。なので数時間、痛みが比較的マシになるまで喉が張り裂ける程の絶叫が響く治療が続いた。
「はぁ……はぁ……終わり……ました……」
「はぁ……ケホッ……」
「ふぅ……終わった……か……」
治療魔法を放出し続けたセイカ。苦痛に耐え続けた女性。そして闇魔法を展開し続けたホムラ。
ホムラとセイカは魔力切れによって終わるや否や倒れ、自分の血にまみれた女性は涙を流しながら空を見上げていた。
「あ……ありがとう……ござい……ま……」
「無茶するな……話さなくて良い……お疲れ……セイカ……」
「ホムラ様……も……」
そして、同時に三人は意識を失う。
そんな三人に子供達が駆け寄り、不安そうな表情で見ていた。
森を抜けた先の、滅ぼされた村にて野盗を仕留め、女性の頼みを聞いたホムラ達は意識を失い、そのまま眠りに就いた。




