28ページ目 怨念
【許さん……!】
「あ、戻った」
怨念が波のように押し寄せ、それをホムラは飛び退いて躱す。今も闇魔法を纏っているが、もっと効率良く取り除く為に避けたのだ。
「セイカが無事ならどうでもいいか」
【ア゛ア゛ア゛!?】
セイカとの距離を確認し、上から広範囲の闇を落とす。それによって大多数の怨念を消滅させた。
しかしそこから再び怨念が広がる。
(考えてみたら、何度破壊しても再生するな。やっぱり切っ掛けを消し去るのが解決策か。怨念の根源を絶つ……となると……)
死体の山を一瞥する。
怨念は全てこの死体の無念からなるもの。つまりこの死体を処理するのが最善策だが、その方法が思い付かなかった。
(死体を焼き払う……その場凌ぎにしかならないか。セイカの周りの怨念のみを切り離すのが今一番現実的なやり方……けどどうせ再生する。やるだけやってみるか)
【ア゛ァ゛……!?】
闇の形を変え、風のように放出してセイカの肉体以外に纏わる怨念を全て消滅させた。
怨念が消え去り、セイカはフラつく。
【ア゛……ホムラ……様……」
(……。戻った……けど)
「うっ…ぁ…ア゛ア゛ア゛ア゛……!】
「やっぱりすぐに戻るな……」
肩を落として呟き、更なる闇魔法を展開。取り憑いた怨念を今一度振り払った。
「その瞬間に……闇をセイカへ」
「……! はっ……!」
闇がセイカの身体を包み、再び入り込もうとした怨念を阻む。
怨念は行き場を無くし、先程捨てた貴族の中に入り込んだ。
「成る程な。死んだ直後なら入り込めるのか」
【貴族ゥ……許さぬ……】
「アンタが入り込んだのも貴族なんだけどな」
「ホムラ様……一体何が……」
「たった今セイカに入っていた怨念を追い出したんだ。魔物とは違うけど、取り敢えずあまり良いものじゃない」
「……っ」
簡易的に状況を説明し、セイカは息を飲む。
ホムラは言葉を続けた。
「まあ、上手くセイカからは引き剥がせたし、後はテキトーに処理して」
闇魔法は、怨念が未練を抱いていようと関係無く消滅させる事が出来る。
今回はセイカが取り憑かれていたので手加減し、変わらぬ無限の再生力を持っていたが、闇魔法はその無限すらをも飲み込む力。
その気になれば此処に募る怨念など、汚れを拭き取るように容易く消し去る事も可能だろう。
しかし、セイカはホムラの腕を引いて懇願した。
「いえ……ホムラ様……どうか彼らをお助け下さい……彼らは苦しんでいました……理不尽な死による悲しみ、怒り……闇魔法を扱えるホムラ様ならば……それを拭える筈です……」
「無茶を言う。闇魔法は俺の負の感情の集合体。なぜ使えるのかは未だに分からないけど、負の感情に負の感情をぶつけても大丈夫なのか?」
「それは……分かりません。しかし、全人類の敵となる力なら……」
「その人類が生み出した怨念の天敵にもなる……か。はあ、やるだけやってみるか。要するに未練を晴らせば良いんだな」
セイカに頼まれ、頭を掻いてため息を吐く。
しかしながら、セイカには色々と恩があるので断らずに新たな闇を展開。同時に怨念へ放った。
「先ずは邪魔な念波の消滅」
セイカへの闇魔法は消さず、怨念へ闇を撃ち出した。それによって再び消え去り、即座に周囲の状況を確認。
(死体の山。殺されて動く追っ手だった貴族。死体の山が一番の原因なのはそうなんだろうな)
周りにあるモノ。セイカと怨念と取り憑かれた貴族の死体。そして怨念の根となる死体の山。未練を晴らすのは中々に難しい事柄。そもそも今も一応貴族であるホムラが解決しようと名乗り出ても逆効果だろう。
何を隠そう、ホムラやセイカと同じ身分の者の手によってこうなっているのだから。
【許さん……!】
「……っと。セイカの時は使わなかった、宿主の魔法か……」
風魔法を使い、遠距離から攻める。
セイカの身体を乗っ取っていた時は炎魔法なども使わなかったが、ある程度は学習もするらしい。
(怨念に貴族の怨念が今さっき混ざったから魔法を使えるようになったのか。けど、そうなると此処に魔法使いの死体は無かった事になる……おかしくはないな。貴族や王族ならその家族から金銭をふんだくれるし、死体を返す方がメリットは多い)
死体の山は、おそらく全員が平民。
兵士も居るが、魔法の使えない平民からの兵士だろう。
魔法も使えるようになると面倒だが、一先ずホムラがやる事は一つ。
「そんな貴族や王族の俺達に、自分の死体は見て欲しくないよな」
【……!】
「ホムラ様!?」
周囲の死体を火葬するように全て焼き払い、死体から出るメタンガスに引火して爆発を起こした。
闇魔法に包まれているセイカは無事であるが、ホムラは自身に闇魔法を纏っていない。故に声を上げる。
「ハッ……! そうでした……私の闇魔法が消えていないのなら、ホムラ様はご無事な筈……」
だが、爆発によって闇魔法が消えないのを確認し、ホムラの無事は理解する。
使用者の意識を失ったりなどでも解かれる闇魔法。それがないなら先ずホムラは生きている筈だ。
【アァ……】
「……。少し小さくなったな。やっぱり死体が野晒しになっていたのも一つの要因という訳か」
それによって怨念が少し小さくなり、多少汚れたホムラは何食わぬ顔で立つ。
これで少しは和らげた。後は完全に未練を無くすまで。しかしその方法は──
「……。あー……そうすりゃいいのか。自分だけがって考えているんだろうしな」
思いの外早く見つかった。
そう考えた瞬間にホムラは怨念に向けて闇魔法をぶつける。
しかし今度は消滅させない。その方法を遂行するからだ。
「ただ理不尽で不本意な死に方をしただけで……面倒な存在に成り下がってんじゃねえぞ……!」
【……!】
闇魔法に自身の記憶、それを付与し、怨念の憎しみや悲しみ、怒りを上書きした。
「不幸自慢なら負ける気がしないんでな。怒りがあるなら同じ場所に留まらず、こんな目に合わせた奴等を皆殺しにでもしていろ」
【ァアア……】
知人、友人、両親、教師、使用人。
友人はフウ達以外表面上の付き合いだったが、火の系統は漏れ無く殺された。
失ったモノは多く、世界の敵になってでも復讐を実行しようと試みる気概。それが闇魔法によって更に増幅し、怨念は徐々に縮小、小さくなる。
「怨みツラみは気持ちの問題。感情論で片付ければ済む話だったのか。アンタらも多くの仲間を失って、自分も腑に落ちない死に方をしたんだろうな。……ハッ……だったらその怨み……俺が世界を敵に回してでも果たして……晴らしてやるよ」
【ァ……】
最後に告げ、怨念は完全に消滅した。
それと同時に闇魔法がホムラに取り込まれ、怨念の余波も吸い込まれた。
「え!? ホ、ホムラ様……!? その……先程の怨念がホムラ様の中に……」
「……ああ、何かよく分からないけど、俺の力になったみたいだ」
「え? それって……感覚で分かるんです?」
「何となくな。負の意思の闇魔法と適合したのか、完全に俺の物になった。さっきまでの意識とかも感じないし、力だけが手に入った」
ホムラ曰く、怨念は完全に自分の力になったとの事。
実際のところはよく分からないが、他の力を我が物とする。それもまた闇魔法の在り方なのかもしれない。
「約束……感覚的に契約的なものではないな。取り憑かれた訳でもない。まあ、結果オーライだ」
「そんな簡単な……」
「……けど、一番の問題は此処だな。死体の山と悪臭が無くなったのが分かれば、多分すぐに此処は死体置き場に戻る。戦争だと一日で何万人も死ぬからな。死体置き場の数がいくつあっても足りない」
一先ず自分達へ襲い掛かって来た怨念は片付いたが、すぐに二の舞を演じる事になるのは明白。
怨念の意思を感じ取ったので何とかしたいところだが、何ともならない。
「……。追われる身の俺達がどうこう出来る問題じゃないな。戦争を起こす奴等を皆殺しにするのは、多分今の俺なら簡単だけど、それはその場凌ぎにしかならない。勧善懲悪は掲げているけど世界平和は興味無いし、放っておくしか出来ないな」
「……そう……ですか……」
「救世主になる光魔法使いが現れればまた情勢が変わるんだろうけど、闇魔法の俺じゃ悪い方向をより悪い方向に持って行くしか出来ない。一層の事全人類の敵になって、俺を倒す事を人類の目的にでもすれば一時の平和は築けるかもな」
「…………」
ホムラは既に、達観し切っている。様々な問題が募り、達観するしか出来ていないのだ。
正義の味方になるつもりはなく、だからと言って全人類の敵になるのも面倒。あくまで目先の目的、虚無の境地及び自分をこの様な目に合わせた者達の始末しか考えていない。
セイカも口を噤むしかなく、ホムラはスッと遠い目をした。
「取り敢えず、俺は独断と偏見で俺から見た悪を滅ぼすだけだ。もしセイカが平和を望むなら、手荒なやり方で良いなら協力はする。俺は戦力でしかない。王族のセイカが一声掛ければマシになる世界もあるだろうさ」
「はい。ホムラ様……」
なるべく平和の方が良いが、その行為に精進するつもりの無いホムラ。
対するセイカは逆であり、平和の為なら努力を惜しまない。
故にホムラはそんなセイカの意思を尊重し、あくまでセイカの手駒として動くつもりではいた。
ホムラとセイカ。二人は死体置き場だった空き地を後に先へ進むのだった。




