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26ページ目 逃避行の初夜

 ホムラ達の去った“エレメンタリー・アトリビュート”離れの森の中にて、陰鬱そうな表情でアキツチ・メグミがフウ達三人に話した。


「決議会の結果……フラム家当主、シラヌイ・ホムラが主犯となり、四宝者も総出で捕らえる事になった」


「……っ。そんな……ホムラ……」


 それは、一家が全滅して当主となったホムラへの処遇の報告。

 フウ達のみならずこの街の全貴族に伝えられるものであり、街は少し騒がしくなっていた。だからこそフウ達は森に居る。


「既に何人かの兵士も向かっている。この街のみならず、世界的な指名手配になっているようだ。ウエはこういう時だけの対処は早いからな。過去に免罪で処刑された者達は多い」


「……っ」


 メグミ達もホムラの事は知っている。なので腑に落ちない様子だが、上流階級の者達は自分達の安心のみを優先し、その後の事は何も考えていない。故に強制執行のようだ。


「世界的な指名手配……それはつまり、虚無の境地などのような人類の敵と同じ扱いという事ですか?」


「だろうな。実行犯は虚無の境地だが、ホムラは手引きした者と言う扱いになっている。この街出身の上流階級者も多いからな。そんなこの街の一つの系統を全滅させた……S級犯罪者となっているだろう。世界中のギルドや警務組織が動き出す筈だ」


「……そんな事にお金を掛けるなら虚無の境地を探したり戦争をやめれば良いのに……」


「上層部は臆病者の集まりだからな。あくまで“主犯”であり、“虚無の境地”程に強さも広まっていない一人の少年を捕らえる事で自分達に自信を付けたいんだろう」


 そう、世界的な犯罪者は“虚無の境地”を初めとして大勢居る。そもそも戦争を行うたびに敗戦国の戦犯が指名手配される事もある。

 しかしながら、そう言った者達は確かな力を誇っており、上層部は保身の為に手を出したくない。故に目先の小さな犯罪者をコツコツ捕らえ、力を誇示して表向きの信頼を集めようという魂胆なのだろう。

 要するに世界は腐り、汚れ切っているという事だ。


「とにかく、彼が主犯になってしまったのは仕方無いと割り切る他無い。私達四宝者……今は三宝者になってしまったが、なるべく私達が先に彼を見つけるとしよう」


「私達も探します! 世界中に手配されたのなら、私達が探す権利もある筈。なので私達もホムラを見つけ出して保護します!」


「フウ。成る程。スイとリクも同じ意見という訳か」


「当然です」

「当たり前だ」


 指名手配されたホムラを処刑されない為には、メグミ達かフウ達がホムラを他の兵士や貴族よりも先に見つけ出す必要がある。

 ホムラを助けたい意思は全員が同じであり、メグミはフッと一息吐いた。


「分かった。君達を四宝者の権限で同行させる。君達は成人したばかりだからな。各個で探すのも良いが、私達とチームを組んだ方が良い筈だ」


「確かにそうですね。誰か一人でも四宝者が居れば心強いです」


「ああ。カイとソラにも相談する。それが終わり次第、即座に行動を開始するぞ」


「「はい!」」

「オッス!」


 この場にカイとソラは居ない。四宝者なので街の復興や兵士の招集、そしてホムラの調査など様々な理由から自分達の仕事をしているのだ。

 友人だからこそフウ達にも伝える必要があると、忙しいメグミがわざわざ来てくれたのである。

 そしてそんな三人とメグミを含む四宝者達は、全員でホムラの捜索に乗り出す事となった。



*****



 街の方で色々と事が進む中、そのホムラとセイカは森の中を駆け、街の方から離れていた。

 既にそれなりの距離を進んだ。久し振りの食事の後なので脇腹が痛くなりそうだが、それでも距離を取る為、捕まらぬ為に進んでいるのだ。


「ゼェ……ホムラ様……はぁ……少し……お待ちを……」


「……。体力が無いな。セイカ。いや、飲まず食わずで二日。俺と違って睡眠も取っていない状態……無理をさせる訳にはいかないか」


 この二日間だけでセイカは体力をかなり消耗しており、大きな疲労が目に見えていた。

 飲まず食わずで徹夜。加えてホムラへ治癒魔法を流し続けていた。それも頷ける事なのでホムラは速度を緩め、歩む。


「少しでも進む必要があるから止まりはしない」

「はい……当然です……」

「しかし、このままじゃセイカ。君は足手纏いだ」

「……っ。はい……」


 ホムラに言われ、セイカは肩を落とす。

 体力の無さは実感している。ホムラの場合は命が掛かっているので急ぐ必要がある事も分かっている。だからこそ痛感していた。……が、ホムラの取った行動は予想外のものだった。


「だから、俺が背負って行くよ。看病してくれた借りがある。まだ貸し借り無しには程遠いが、今はセイカと行く」


「ホムラ様……」


 セイカを背負い、歩みを進める。

 ホムラとしても、助けてくれた事への感謝が無い訳ではない。それ以前に将来的に自分を殺してくれる存在なので、借りは一生を終えてようやく返せる程に積もっている。

 だからこそ少しでも助けたい心境なのだろう。顔には出さなくなったが、ホムラの根本的な性格は変わっていなかった。


「ありがとうございます。ホムラ様。貴方様の妻になれて何よりです」


「式を挙げる前に家族もみんな死んでしまったけどな。しばらくは挙げられそうにない」


「いいえ。何度も申しますように、わたくしはホムラ様の側に居られるだけで幸せ……式など形式に過ぎません。私は貴方様の意のままに」


「…………」


 セイカはおんぶされたままで抱き付き、小さく笑う。

 ホムラは無言で返し、そのままおぶって森の中を進む。

 此処はまだ木々が多いので兵士や貴族に見つかる心配は無く、捜索隊は探す為に足を止めるので距離も取れる。

 後の問題は森を抜けてから。街の外に行った事の無いホムラには森の先に何があるから分からないが、草原地帯や砂漠地帯などの場合は不利になる。なるべく隠れる場所が多い事を祈るしか出来なかった。


「……そろそろ日が暮れるな。今日中に森を抜けるのは無理そうか」


「その様ですね。元より私達の街を囲むようにある森は部外者の侵入を妨げる為に初代四宝者様の魔法によって入り組んでおりますし、隠れながらの移動。時間も掛かりますね」


 少し進み、多少の疲れが取れたセイカも歩いており、日が沈むのを確認した。

 セイカの言った理由からこの森は広く、複雑怪奇。なので一日で森の外へ出る事は叶わなそうだった。


「この辺りで野宿だな。洞窟とかも無いし、探す方が手間。此処で休むか」


「はい」


 荷物。と言っても杖くらいだが、荷物を置いて二人は座り込む。

 強がってはいるが、ホムラもかなり疲弊している。この二日間で食したものは今日の朝食と昼食を兼ねた魚を数匹とそこで汲んだ水。体力も栄養も全然足りない状態である。


「ホムラ様の集めて下さった水ももうありませんね。また汲み直す必要がありそうです」


「ああ。近くに川があると良い。さっきの川は森全体に広がっているし、そんなに遠くは無いか」


「では、そこへ行くのですね?」


「そうなるな。完全に日が暮れたら魔物の活動も活発になるかもしれないし、松明とかを使ったら見つかる危険性もある。今しかない」


 数分だけ休み、すぐに立ち上がって川を探しに行く。

 逃亡する上で、野宿であったとしても川の近くに陣を取る必要はある。それ程までに食料と飲み水は重要だからだ。

 街の川と違って生活排水の汚れもなく、体調を崩したりなども無いのである。

 そして予想通り近くには川があり、街の兵士や貴族が居ないのも確認した上でホムラとセイカは一息吐く。


「後の問題は焚き火。魚を焼く必要はあるけど、煙と明かりで見つかる可能性はあるか」


「それならば夕食は水だけで済ませますか?」


「それが一番安全……けど腹は減る。明日も移動するから……そうだな。高火力で一気に焼けば良いかもしれない」


「……!」


 闇魔法で魚を捕り、いくつか保存していた綺麗な木の枝を取り出す。

 問題は焚き火の明かりなど。それならば焚き火をしなければ良いだけの事。魔法の調整次第では目立つ煙や明かりを出さずに魚を焼く事も可能だ。


「──火の精霊よ、その力を我に与え、対象を焼き払う。魚を焼け! “ファイア”!」


「ふふ……」


「……。なんだよ。その笑みは」


「いえ……真面目な顔と声音でやる事がお魚の調理ですもの。なんだかおかしくて」


「一応重要だぞ。何なら戦争よりも魚を焼く方が人類にとっては大事だ」


 詠唱によって威力を高めた炎を使い、一瞬で魚を内部まで焼いた。

 そしてセイカには、真剣な表情で行う魚の調理が面白く見えたらしい。

 何はともあれ魚の調理は完了したが、


「木の枝も燃えて無くなったな」


 魚を一瞬で焼き上げる火力。当然刺していた木の枝は燃えて無くなった。

 なのでホムラは改め、熱いので闇魔法で支えつつ使っていない木の枝を取り出して突き刺す。


「仕方無い。予備の木の枝を使うか」

「ホムラ様って、意外とドジですね♪」

「何で嬉しそうなんだよ」

「愛する人の別の一面を見れたんですもの。嬉しいですよ♪」

「そうかよ」


 ホムラの失敗を見て微笑ましく笑い、ホムラは肩を落として軽く指摘する。

 ここまで常に張り詰めた様子のホムラ。なのでセイカは久し振りにこの様な光景を見れたのが嬉しいのだろう。

 ホムラは複雑そうな表情で魚を食し、セイカも食事の挨拶を終えて食べ始めた。


「……味は別に変じゃない。木の枝の炭とかが混ざった訳じゃないな」


「そうでふねぇ。美味ひい」


「せめて飲み込んでから話せよ……王族なのにマナーがなってないぞ」


「今は良いんですよ♪ ホムラ様とこうして食事を行えるのも幸せなんですから!」


「ふぅん」


 楽しそうに、美味しそうに食事をするセイカ。

 別にそれなら良いのだが、何となくホムラは一つの事が気になった。


「なんだか、セイカは“幸せ”や“幸福”って言葉にこだわっているな」


 それは、セイカがよく言う言葉について。

 ホムラの言葉を聞いたセイカは小さく笑う。


「あ、気付いちゃいました? ……ふふ、本当はお父様達が亡くなり、ちょっとツラいです。けど、前向きに生きる事で少しでも気持ちを軽くしたいんです。今、唯一幸せを感じられる事がホムラ様と共に居る事ですからね♪」


「……。そうか」


 セイカも家族と使用人を失っている。

 しかし、だからこそ今一番の幸せである想い人との行動が支えとなり、“幸せ”という言葉が出てくるようだ。

 同じ境遇にあるセイカがこの様な事を言う。ホムラも絶望にだけ打ちひしがれている訳にはいかないと思うが、身体はそれを否定する。


「セイカは強いな。俺はてんで駄目だ。正直、俺の生きる理由はセイカじゃない。虚無の境地の討伐。要するに敵討ちだ。それが終わったら何をすれば良いのか、全く分からないよ」


「ホムラ様……」


 ホムラは既に、虚無の境地を討伐した暁には自分も死のうと考えている。その時の殺生権をセイカに与えた。

 しかしながら、そのセイカはホムラを唯一としている。だからこそホムラにも思うところはあった。少なくとも全てが終わったらすぐに自害しようとはならない。なってはいけないかもしれない。

 そんなホムラに、セイカはそっと抱き付いた。


「全てが終わったら……改めて私と婚姻を結びましょう。そして子供を育て、家庭を築くのです。きっと、私達なら幸せになれます。ホムラ様」


「……。そうか。出来るといいな」


「きっと出来ます。私達にはまだ未来の選定を行えるのですから。私達が生きている限り……きっと……!」


「叶うと良いな」

「……っ」


 ホムラの返答は、全てが空返事。空返事をしつつ水を飲む。

 やはり未来には何の希望も見出だしていない様子。セイカとは普通に接しているが、何処までも“普通”である。

 妻や婚約者、彼女としてではなく、友人未満の知人に接するような態度。ホムラにもセイカへの懸念はあるが、それにホムラ自身は入っておらず、セイカ一人に対するものだった。

 セイカは水を一口含み、飲み込む。同時にホムラへ迫った。


「ホムラ様……!」

「……ん。いきなり何をするんだ。セイカ」


 そして口付けを交わした。

 戸惑いも何も無く、セイカはホムラを押し倒して自分の衣服を脱ぎ捨てる。

 ホムラに股がる形となり、セイカは生まれたままの姿となった。

 その様な格好で自分を見下ろすセイカに向け、ホムラは羞恥も何も感じず小首を傾げる。


「何を……?」


「貴族と王族は……婚約者が居るのなら成人したその日に初夜を共にするのが習わし……しかし、今回はホムラ様達の療養もあり、それを遂行出来ていません……なので……約束をより強くする為……今、此処でホムラ様と交わります……」


「……震えているぞ。怖がっているんじゃないか?」


「……。まだ春……少しばかり肌寒いだけです……」


 セイカの呼吸が荒くなり、涙を流す。

 何故泣いているのか。それはホムラには分からない。しかし、この場に居るのは自分とセイカだけなのを踏まえ、その涙する目を見つめて呟くように話す。


「……あー、多分俺が原因か。けど、慰める言葉が思い付かない。セイカは何をして欲しいんだ?」


「……っ。私は……変わりません。ホムラ様と一緒に居たいだけです……」


「居るじゃないか。なんで泣くんだ?」

「私は……ホムラ様と一緒に居たいのです!」

「……。成る程。確かにセイカの知る俺は居ないかもな。髪も目も黒くなってるし」

「髪と目は関係ありません!」


 強い口調で言い、ホムラもようやく意図を理解する。

 セイカはホムラと共に居たい。それは見た目が同じだけの存在ではなく、あの時婚約を交わしたシラヌイ・ホムラ。

 だが、その時の自分がどうだったか。今のホムラには分からなかった。


「取り敢えず、セイカが今見ている俺は理想の俺じゃない。これが今の俺だ。セイカの考える行為は体力を結構消耗するらしいし、服を着て一旦落ち着け。肌寒い夜に、栄養も何も足りない今の身体。明日に支障が出る」


「……ホムラ様……」


 求めるセイカを、ホムラはなだめて振り払う。

 セイカは悲しみに暮れながら衣服を再び着用し、冷えた身体を暖める為にローブも纏う。その目には涙を浮かべており、流れるそれを拭っていた。

 体力も栄養も無いのは事実。今は無駄でしか無いその行為をするのは愚作。それはセイカ自身も理解している。だが、想い人のその様な態度。疲弊するよりもツラく、重い心境にあった。


「…………」

「グスッ……」

「……。はぁ……」


 落ち込むセイカを見、ホムラはため息を吐く。それは面倒だとか、その様な事ではない。自分で自分の態度が気に食わず、セイカに対する罪悪感からなるもの。

 故にセイカの頭を撫で、セイカのひたいに自分の額を当てた。


「悪かった。俺の態度が悪い。言い過ぎた。八つ当たりみたいな感じだった。婚約者としていずれは世継ぎも作る。今はただ……気分が乗らないんだ。セイカの事は嫌いじゃない。俺にはまだ仲の良い友人も残っている筈……だけど俺にとってもセイカは唯一だよ」


「……!」


 不器用ながら、バツが悪そうに謝罪する。

 その言葉には誠意が込められており、今までのように流すようなものではない。純粋なものだった。


「俺もセイカは愛しているさ」

「ホムラ様……」


 最後に口付けを交わし、二人は見つめ合う。

 逃避行一日目。二人は追っ手に見つかる事無く、夜が更けて行った。

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