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25ページ目 キャンプ

「……!」

「目が覚めたか。セイカ」


 あまり時間は掛からずにセイカの意識が戻り、ホムラはその隣に座って一瞥した。

 目の覚めたセイカは慌ててホムラの方を見、髪などを整えながら起き上がる。


「す、すみません。ホムラ様。急な眠気が……」


「ああ。入れ替わりみたいに倒れたよ。俺が起きたから緊張の糸が切れたんだろうさ。俺は回復魔法を使えない。何もしてやれなかったよ」


 遠くを見るような目でセイカを見つめ、視線を逸らして洞窟の入り口を見る。

 外は森。何があるのかは分からないが、少なくとも景色などを見ていない事は分かった。

 そんなホムラにセイカは言葉を掛ける。


「ホムラ様……いえ、わたくしはホムラ様の近くに居られるだけで幸福です。貴方様が側に居るだけで私は……」


「そうか。ありがとう」

「ホムラ……様……」


 感情の無い感謝。それを聞いたセイカは動揺を見せ、声を掛けようとするが言い淀む。

 おそらくホムラは、同じく両親や親しい使用人を失ったセイカよりも大きな傷を負っている。

 人の生死に優劣や差などないが、妹とゴウ。親しい存在が多いのも要因だろう。

 そして、セイカを逃がす為に殺されたセイカの両親や使用人と、全員が目の前で惨殺された違いもあるかもしれない。


「食事にしようか。空腹では何も手が付かない」


「え?」


 唐突に立ち上がり、黒いローブを纏って洞窟の外へ行くホムラ。セイカは追い掛けようとするが足がもつれてしまい、転んでしまった。

 そんなセイカすら今のホムラの目には入らない。見向きもせずに洞窟の外へと向かい、セイカは慌ててローブを着込み、杖を持って後を追い掛けた。


「ホムラ様……その食事とは一体……」


「此処は森だ。魚も動物も、植物も豊富。あの洞窟が魔物の棲み家だったという事は近くに水源もある筈。一旦そこへ向かって力を付けるんだ」


「左様……ですか」

「……」


 またフラッと揺らぎ、今度はちゃんとホムラが支える。

 意識が戻ったとしても、飲まず食わずなのは変わらない。二日間寝ていたホムラよりも肉体的な疲労が募っているのだろう。


「セイカ。君は戻った方が良い。俺よりも動けないみたいだからな」


「いえ……私は……ホムラ様の……お側に……」


 倒れる寸前にも関わらず、セイカはホムラの事を心配する。

 暮らしの違いとして、貴族ながら活発に行動していたホムラと王室で行動していたセイカでは体力的にも差が出る。既に限界が近いようだ。


「……。じゃあ、側に居ろ」

「ホムラ様……」


 セイカを抱き寄せ、お姫様抱っこの要領でかかえて歩く。

 ホムラも万全では無いのだろうが、セイカを担ぐくらいは問題無いのだろうか。

 当のホムラは気にせずにも歩む。


(やはり貴方様は優しいお方……私の選択は間違っておりませんでした)


「……。何で俺を見て笑っているんだ? 倒れたフリか?」


「ふふ。いえ、ホムラ様。やはり私は貴方様が大好きです。心の底から愛しております。ただその、当然の事を改めて実感しました」


「……。そうか」


 ホムラが何を思っているか。それはセイカには分からない。

 しかし、少なくともセイカの事を否定はしていない。今はそれだけで十分だった。


(ずっとお側に……ホムラ様)


 その様なやり取りを行いながら、二人は川辺へ着いた。



*****



 川辺に着き、セイカを寝かせるや否やホムラは川岸の方に向かう。


「セイカは此処で寝てろ。俺は綺麗な葉や枝を見つけてくる」


わたくしも……!」


「いや、いい。休め。これは命令だ」

「……っ」


 無理をするセイカを休める為、“命令”と銘打って制止させる。

 ホムラの言う事は全て聞く。その約束の元で付いて来る事になったセイカ。ホムラの命令には逆らえない。

 セイカは待機させ、ホムラは木の枝や葉を集める。なるべく大きく綺麗な葉。落ちている物は使わず、何枚かは毟ったりもした。


「……」


 そして、闇を展開。モリ状にし、川魚を突いて狩る。闇魔法の速度なら魚に気付かれるよりも前に取れるだろう。そして網状にし、他の魚も複数匹捕った。

 これが禁忌とされ、全人類の敵になる事が定められた闇魔法の有効活用である。

 あっという間に大量の魚が捕れたが、飲まず食わずでこの量は少々キツイ。薫製くんせいなどにして保存出来る数も限られているのでちゃんと身体が残っている状態で生きている何匹かはリリースした。


「少し待ってろ」

「あ、はい」


 集めた魚はセイカの前に置き、綺麗な枝に刺して薪をべ、炎魔法から作った焚き火で焼く。当然内臓の処理も闇魔法でこなしている。火の方も、消し炭にする必要が無いので無詠唱だ。そして闇魔法と炎魔法の両立が出来る事も分かっている。

 次いで近場でしなやかかつ加工のしやすい木を見つけ、一部を闇魔法で切断。いくつかの木を取る。

 これも禁忌とされ、全人類の敵になる事が定められた闇魔法の有効活用だ。

 スコップ状にした闇魔法で土を掘り、粘土を見つける。これもまた禁忌とされ、全人類の(以下略)。


 そして木を闇魔法で加工し、接続面に粘土を付ける。即座に炎魔法で乾かし、簡易的な水筒のような物を作り出した。

 そのまま川の水を汲み、水漏れが無いのを確認。脆いので軽くだけ洗って土などを落とし、二人分の水を用意してセイカの近くに座る。

 そんな一連の流れを見ていたセイカは呆気に取られていた。


「す、凄い手際の良さですね……瞬く間にお食事の準備が出来てしまいました……」


「慣れてるから。と言ってもその時は闇魔法の役割をフウやリクがやってくれて、スイが水魔法の水を出してくれたからこんなに手間は掛からなかったけどな」


「フウ様、リク様にスイ様……ホムラ様の御友人ですか?」


「そうだな。親友と呼べる間柄だった。街を去る前に会ってないから生きているかどうかは不明だ」


「きっとご無事ですよ。ホムラ様の御友人であるならば」


 フウ、スイ、リク。ホムラの親友である三人。

 ホムラにとっては別れてから会っていないので生死不明だが、セイカは大丈夫と告げた。

 パチパチと焚き火の火の粉が飛び、香ばしい匂いが鼻腔を擽る。良い感じの焦げ目が付き、ホムラとセイカはその魚を手に取った。


「いただきます」

「…………」


 セイカは自分達の為に命を落とし、血肉となる魚へ感謝の言葉を述べ、一口頬張る。

 ホムラは何も言わずに頬張り、体内へ魚を取り込んだ。


「何の味付けも御座いませんけど、美味ですね。ホムラ様!」


「そうか? まあ、魚本来の味はある。俺の味覚は無事みたいだな」


 魚を食べ、ニッコリと笑うセイカ。

 ホムラは闇魔法を使う事になり、自分の身体に何かしらの変化が及んだかどうかを確認しており、髪と目の色以外は何も変わっていない事を理解した。

 精神的なダメージは未だ癒えていないが、まだマシな状態。ゴウ以外の、家族や使用人の死に様は形がほぼ残らず実感の湧かないものだったからこそ現実に思考が追い付かず、今の状態にあるのだろう。

 しかしながら、一つだけ懸念があった。


「……。墓くらいは建ててやりたかったな……」


「ホムラ様? ……。……ええ、そうですね。お父様やお母様。私をお世話して下さった方々。皆様の死は安らかなものではありませんでしたけど……せめて遺体は丁重に葬って差し上げたいものです……」


 前後の言葉と関連性の無いホムラの言葉だったが、何を思ってその様な結論に至ったのかを理解したセイカは同意して頷く。

 セイカも逃げる途中での殺戮を受けた。故に死体を長時間見る事は無く、精神的なダメージがホムラよりも少ないようだ。

 その様な事や他愛ない話(主にセイカが一方的に話したり)が終わり、二人は食事を終えた。


「御馳走様でした」

「……」


 食後の挨拶を終え、ホムラとセイカは魚の骨を炎魔法で焼き消して消滅させた。

 これでゴミが出る心配も無く、環境にも良いだろう。


「別に燃やさなくても良かったかな。動物の餌になったかもしれないし」


「けど、骨は少し危ないかもしれませんのでこれで良かったんじゃないですか?」


「そうだな」


 燃え消えた魚の骨を見やり、動物の分も残しておくべきか考える。しかし、動物も魚の骨が刺さる事もあるので消し去って良かったかもしれない。

 実際、なるべく動物達に人間は干渉するべきではないだろう。


「けど、このまま森の中を彷徨さまよい続ける訳にもいかないか。杖は隠して拠点になりそうな街を探そう」


「そうですね。ホムラ様の目的は虚無の境地。あの性格的に至るところにおもむいているでしょうし、此方から探さねばなりません」


「ああ。情報を得るなら街が最適解だ」


 頷いて返す。

 街に行く事。それは虚無の境地を見つけ出す為にも必要不可欠。それ以前に森の中で暮らすのはあまり好ましくない。

 こんな世界なので街を追放されて暮らしている者も居るのだろうが、貴族ながら比較的慣れているホムラはともかくお嬢様であるセイカの事を考えても拠点は街が最適である。


「まあ、この場所もあれば便利だ。上手く立ち回るとしよう」


「はい。ホムラ様」


 しかし人目の無いこの場もホムラにとっては都合が良い。街と森の洞窟を行き来するやり方が最適かもしれない。

 ホムラとセイカが知らぬ、自分達が追われる身になっている事も踏まえて。

 何はともあれ、ホムラとセイカは虚無の境地の情報を集める為、街へ向かう事にした。



*****



「……。此処は……俺達の街から割と近場みたいだな。他の街を探さず街に帰るのもありかもしれない」


「そうですね。まだ野盗の影もあったので森の中へと避難しましたが……街があるならそこに行くのも良さそうです」


 闇魔法を足場に高い木の上に乗り、周囲を見渡す。

 どうやら闇魔法は梯子ハシゴのように使う事も出来るようだ。他の者達が触れたらそこから消滅するような力だが、主であるホムラには関係無いらしい。


 それはともかく、此処はまだ“エレメンタリー・アトリビュート”の近く。疲弊した女性の力で男性一人を運ぶ必要があったのだから近場なのも当然だろう。

 なので一先ずの事を考え、既に野盗騒動は収まったと想定して街へ戻ってみるのも良いかもしれないと考えていた。


「……! セイカ」

「……え? わ、きゃあ!?」


 そして、何かを見つけたホムラは闇魔法を使い、セイカを自分の立つ木まで持って来る。

 破壊はホムラの自由。この様に人を傷付けずに持ち上げる事も可能だ。


「ホムラ様……一体……」

「しっ。誰か来る」

「ホ、ホムラ様……」


 セイカの手を引き、葉の中に隠れてセイカを抱き寄せ、外の様子を確認する。

 セイカはホムラの感触と温もりを堪能しつつ、紅潮して少しだけ恥ずかしそうにしていた。


「見つかったか?」

「いや、居ない」

「まだそう遠くへは行っていない筈だ」


「あ、あれは街の兵士ですよ」

「……そうみたいだな。何かを探している……?」

「声を掛けますか?」

「待て。少し様子が変だ」


 人の気配を感じ、そこから現れたのは街の兵士達。

 何かを探している様子であり、それなりに焦りを見せている感覚もあった。

 普通に考えれば探しているのは逃亡した虚無の境地だろうが、ホムラは少し嫌な予感がし、声を掛けようとしたセイカを更に抱き寄せて様子を窺う。


「シラヌイ・ホムラ……今回の事件の主犯……」

「姫君をさらって何をする気だ……」

「大体は検討も付く。好き放題弄んだ後で捨て、自由の身になった今を満喫するんだろう」

「傍迷惑な話だ」


「……! ホムラ様が主犯……!?」


「……現場的な情報を考えれば、そう言い結論に至っても不思議じゃないな。火の系統が本当に全滅したなら姿の見えない俺達が疑われるのも無理はない」


 ホムラが主犯として追われている。

 その情報を聞いたセイカは動揺を見せ、ホムラは冷静に何故こうなったのかを推測していた。

 本当の主犯がそうであったように、権力を得る為なら大抵の者は自分達以外の殺戮はいとわない。そこから行き着く先が今の状況であっても何も不思議はなかった。


「そんな……その疑いを晴らさなければ……! 何故か私は被害者側として扱われていますし、話を付けてきます」


「待てって。此処で動くのは得策じゃない。催眠魔法で操られていると思われるのが関の山だ。何とか逃げ延びたって言えばセイカだけは助かるから、そっちの道を選んだ方が賢明……」


「それは嫌です。私はホムラ様へ一生尽くすと決めましたので……!」


「……そうか」


 ホムラは手配されても、セイカだけなら助かる道もある。しかし、それはセイカ自身の気持ちが許せなかった。

 既にホムラとの一蓮托生を自身で決定しているセイカ。自分だけが助かり、ホムラが罪人となる未来は望んでいないようだ。


「それなら此処でやり過ごすしかない。それと、他の兵士や貴族に見つからないように行動しつつ離れた街へ向かう事になりそうだ」


「ホムラ様とご一緒ならば、私は何処までも……!」


 行動は決まった。

 一先ず街の近辺に居る事は出来ない。なので見つからないように他の街へ移動する。それが現状の目的。

 単純な事だが、“エレメンタリー・アトリビュート”の兵士や貴族から逃れるのは至難の技。今この場に兵士が来たという事からホムラを捕らえるのが決定したのは昨日か今日という事も分かり、これから数々の捜索隊が来る事を考えれば迅速に行動しなくてはならないだろう。


「闇魔法での移動は目立つな……もちろん下を行くのも危ない。この森は木々の葉が重なるように連なっているし、葉から葉へ跳んだ方が良さそうだな」


「やれるでしょうか……」


「俺達二人くらいの体重は支えられるから大丈夫だ。……それに、これはあくまで見つからない為のやり方。見付かっても良い方法なら飛行魔法で空を飛んだり闇魔法での移動もある。けど、今後も追っ手が来る事を考えたらまだ行方不明のままの方が面倒事は少ないからな」


「はい、分かりました……!」


 移動するだけなら、様々なやり方がある。

 しかしながらそれには色々とリスクが伴い、面倒事を避ける為にも隠れながら移動する事にした。


「オイ、焚き火の形跡があったぞー!!」


「近くに仮拠点があるのか?」


「いや、何本かの木の枝は残っているが魚や肉の欠片は見当たらない。行方不明になった二日前に此処でキャンプをし、立ち去ったと考えるのが妥当だろう」


「成る程。確かにこの森は動物が多い。痕跡がほぼ無くなっているなら時間は経っているな」


「──……人生的な運が最悪なのは現状維持だけど、今日は比較的運が良いかもな。さっき骨を消し去ってて正解だったみたいだ」


「そうですね」


 焚き火を見つけた兵士達を見、木から木へなるべく音を立てずに跳び移るホムラとセイカが話す。

 先程行った食事の跡。環境的な事を考えて魚の骨を消し去ったが、それが良い方向に進んだみたいだ。

 これでこの辺りの警戒は少し緩くなる筈。ホムラ達にとっては追い風である。


「今のうちだ……」

「はい……!」


 そしてまた葉から葉へと跳び移る。

 跳び移ると言っても実際に高くジャンプしたりなどではない。繋がっている部分で強度のある場所を踏みながら進んでいるだけだ。

 ホムラとセイカ。完全なる冤罪だが、貴族や王族を相手に弁明する事も叶わないので二人は構わず逃避行に出るのだった。

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