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24ページ目 戦いの後

 ──数日後、虚無の境地の襲来と共に火の系統が全滅し、貴族の街が半壊したニュースによってその“エレメンタリー・アトリビュート”の街と近辺の街は混乱に溢れ返っていた。

 上層部でもその様な話し合いが行われている。


「火の系統は戦争に使える。今から他の街や没落街からでも引き抜かねば!」


「街の復興が先だろう!」


「そんなものどうでもいい! 戦争に勝つ事の方が大事だ!」


「馬鹿者! 街には多額の資金を払っているんだぞ! 我らの土地もある! 利益を生まなければ戦争には勝てない!」


「兵士を集めねば戦争に敗れ、全てを奪われた挙げ句の果てに資金源となる街が崩壊するのが先だ! その為に必要なのは戦力となる火の系統、及び有能な兵士達よ!」


「街を復興させればまた資金源となる! そうすればいくらでも精鋭を集められるというもの! その方が重要であろう!」


「復興の資金はどうするつもりだ!」

「そんなもの平民共から搾取すれば良いだろう!」

「それならばその金で精鋭を雇い、戦争に勝利する方がよかろう!」

「貧乏で貧困な平民共の金銭には限りがある! その為にも安定した資金源が必要だ!」


 金金金金金金金金。言い争いは全て金によるもの。

 それに加え、全てが全て、自分が楽をする為の言い争い。醜い存在で、上流階級者がクズしか居ないという判断も頷ける様子であった。


「やめぬか。見苦しい。戦争と資金はまた別の機会に話せ。そんなもの大した魔法も使えぬ弱い平民から奪えば良いだけだ。平民がいくら死のうと何も問題は無い。……しかし、何故“虚無の境地”がこの街に入って来れたのだ?」


「誰かが手引きでもしたのだろう。お前かもしれぬな」


「何を……? ふざけるな! ふん、貴様の方こそ怪しいぞ!」


「なんだと?」

「なんぞ?」


「やめろと言っている! 貴様ら貴族はワシら王族の下部に過ぎん。決定権はワシにある事を忘れるなよ?」


「「……っ」」


 会議の主催者となる、王族のジジイが言葉を紡ぎ、下に付いている貴族達は黙り込む。

 資金云々は平民から搾取するとして、今一番重要なのは侵入した“虚無の境地”についてだった。


「他の者達や四宝者までも狙われたが、火の系統が一番重点的にやられておる」


「“虚無の境地”は傭兵という噂もあるぞ?」


「それならば火の系統に怨みを持つ者が雇ったという事か?」


「そんなもの、同じ火の系統以外の全系統がそうだろう。そう言った輩は探すだけ無駄だ」


「フン、怪しいな。探す事を否定するとは。やはり貴様が雇ったんじゃないか?」


「馬鹿か。その無い脳ミソで考えろ。わざわざ手駒として火力のある火の系統を全滅させる理由が無い。盾役の土。攻撃の火。回復の水と風。捨てる意味が無い」


「フン、攻撃は何も火以外も行える。寧ろ攻撃と簡易的な回復しか出来ん火など邪魔だろう」


「やけに火の系統を目の敵にしているな。やはり主の仕業であったか」


「何を……?」

「何だ?」


 また下らぬ言い争いが行われ、王族のジジイは呆れたように言葉を続けた。


「やれやれ。また同じ事を繰り返す。火の系統ならば行方不明者が二人。それを見つけ出せば良かろうて」


「確か“フラム家”のシラヌイ・ホムラ。“フレア家”のヒノカワ・セイカ。貴族と王族。関係は婚約者。両方とも名家だからな。両親は我らの意見に賛同せぬゴミ共だったが、今から教育し直す事も可能やもしれぬ」


「子を無理矢理作らせれば将来的な復興も可能か。後は他の街からテキトーに火の系統を誘拐すれば良い。わざわざ金を払う必要も無い」


 話は、ホムラとセイカを見つけ出し、生きているのなら引き戻すという方向にまとまりつつあった。

 しかし、と要らぬ懸念がそこに出てくる。


「だが、何故その二人だけ“行方不明”という状況なのだ? 両家は既に焼け落ち、親も使用人も全て死んでおる。何故その二人だけ生死不明なのだ? 何故なのだ?」


「確かに不可解であるな。姫君は目撃情報も何もないが、ガキは空を飛び、屋敷へ戻る姿が確認されている」


「……まさか……」


 そしてその懸念による結論は、ホムラとセイカにとってとても面倒な事だった。


「全てを手引きしたのはフラム家のせがれ。婚約者であるのを良い事に、姫君をさらったのか」


「「「……!」」」


 ホムラの手引きによって虚無の境地が侵入し、この惨状を作り出した。

 事実は違えど、状況を判断すればその結論に到達するのも頷ける事態だった。


「あり得るな。シラヌイ・ホムラは四人組みで行動し、悪い噂も絶えない」


「森林を火球で焼き消したという噂もあるぞ」


「相応の魔法は扱える……か。もはや決定だろうな」


 貴族と王族の間には、“良い人”程悪い噂が絶え間無く話されている。それは全て“劣等感”などのような妬み嫉みによるもの。しかし噂話を鵜呑みにする馬鹿共はそれを事実であると判断した。


「街と火の復興は平民共から金を集める。そしてシラヌイ・ホムラを罪人として追跡する!」


「面倒な事態を引き起こしよって……親が親なら子も子であるな……!」


さらわれた姫君はテキトーな火の系統と子供を作らせるとするか。クズの血筋だとしても、王族の血統があるならどうとでも出来る」


「血筋だけは優秀なシラヌイ・ホムラの処刑前に姫君との子を作らせ、そこから繋げるのも良い。子の教育などどうにでもなる」


 そして始まった、シラヌイ・ホムラの捜索。見つけた際の行動は“生け捕り”だが、処刑は前提。処刑前に婚約者と数人の子を作らせる事が出来れば火の系統も復興出来るという判断に至った。

 今回の、火の系統である小太りの男がおこなった、火の系統を全滅させるという陰謀。それは話し合いにより、被害者であるホムラに全ての罪を擦り付けられてしまった。



*****



「ホムラ……」

「何処に行ってしまったのかしら……」

「行方不明……無事だとは思うが……」


 そんな、ホムラが罪人になってしまった事を知らぬホムラの友人達、フウ、スイ、リクの三人はその身を案じていた。

 風の区画と水の区画、土の区画は火の区画よりは被害も少ない。死者行方不明者は三桁に及ぶが、数万人が皆殺しに遭った火の系統に比べたら比較的マシだろう。


「……っ。私達が居ながらゴウが死んでしまった……! 何故ゴウ一人だけが……!」


 怒り混じりに崩壊した建物を蹴り、そのまま完全に砕くメグミ。

 物を破壊するだけでは気が晴れず、その目には大粒の涙を浮かべていた。


「落ち着け……メグミ。気持ちは僕達も同じだ。ゴウは犠牲になった。なってしまったが……僕達が生きていれば仇は討てる……!」


「ああ。カイの言う通りだ。斯く言う私も同意見だ。冷静に振る舞っているけど、腸は煮えくり返っている……。風の系統なのに不思議な感覚だ……!」


 被害状況は、ゴウ以外の四宝者は瀕死だが生きている。虚無の境地は途中で戦闘を切り上げたので助かったのだ。

 そんな二人、カイとソラの言葉にメグミは返した。


「カイ……ソラ……。……ああ。少し、落ち着いた。ゴウの仇は絶対に討つ……だが……すまない。少し……ほんの少しで良い……フウ達と共に離れてくれ……」


「……。ああ、分かったよ。メグミ」


 メグミに言われ、フウ達と共に離れる。メグミは一人残り、木に頭を打ち付けて怒りと悲しみの降り混ざった悔し涙を流した。


「ゴウ……! 何故君が……君が犠牲に……グスッ……うわああああん!」


 メグミは泣き叫んだ。四宝者として他者に弱味は見せないが、今回の被害はそれ程までの事だった。


「ゴウお兄ちゃん……」

「ゴウ兄様……」

「ゴウのアニキ……」


 それを遠目に見、フウ、スイ、リクの三人も涙を浮かべる。

 フウは立ち竦んで涙を流し、スイは涙を拭い、リクは他の二人に見せず身体を震わせる。

 メグミの声は聞こえない位置。カイとソラは表情には出さず、優しく三人の頭に手を置いた。


「大丈夫だ。ゴウ。お前の意思はこの子達と僕達が受け継いだ」


「じゃあね」


 太陽が空から照らし、風が吹き抜け水面が揺れる。土を踏み締め、メグミはフウ達の前に立った。


「少々手間を取らせてしまったな。悪かった。もう大丈夫だ。問題無い!」


 いつもの口調といつもの様子でニッコリと笑い、メグミは胸を張る。

 しかしその態度にはどこかぎこちなさを感じ、無理している事が否めなかった。


「……。そうか。それは何よりだね。僕達も四宝者としてやるべき事は多々ある。行方不明者の捜索に虚無の境地の追跡。切り替えて行こう」


「ああ……!」


「そうだね。君達も一旦帰ると良い。ホムラの捜索も任せてくれ。責任を持って突き止める」


「はい……」


 だが、カイとソラは指摘しない。気持ちを理解し、この様に接する事が優しさとも理解しているからだ。

 もう成人しているフウ達には余計なお世話かもしれないが、一度帰宅を促す。

 年の差はそれなり。なのでゴウのみならず、カイ達も三人を弟や妹のように思っているのだろう。


「さて……行動に移るか」


 フウ、スイ、リクの三人とメグミ、カイ、ソラの三人は一度別れる。

 被害は甚大なので四宝者のみならず、上級魔法使いであるフウ達にも役割は色々とある。今はホムラの無事を信じ、行動するしか出来なかった。



*****



【きゃあ!】

【ぐわぁ!】

【お兄ちゃーん!】

【父さん……母さん……カエデ……】


【ホムラ様はお逃げ下さい!】

【ホムラ! 危ない!】

【メイド長……ゴウのアニキ……!】


【ケヒヒヒヒ……皆殺しだ……】

【やめろ……やめろ……】


「──……やめろォ!」

「……! ホ、ホムラ様! お気付きになりましたか!?」

「……! セイカ……か」


 悪夢にうなされ、ホムラは目が覚めた。

 夢の光景は見覚えの無いものも混ざっていた。悪い事をより悪い方向に向かわせてしまう。それ程までにホムラの精神は弱っていたようだ。


「うなされておりましたが……大丈夫ですか……?」


「……。ああ、問題無い……此処は?」


「人里離れた洞窟の中です……。私達が貴族と王族という事は他の者達が見ても分かる筈……なので人目の付かぬ所に……」


「成る程……いい判断だ」


 現在、日が頂点に差し掛かろうと言う時間帯。ホムラとセイカは人里から離れた洞窟の中に居た。というのも、セイカが気を失ったホムラを連れて此処まで来たらしい。

 衣服はローブで隠しているので問題無いだろうが、防衛の為にも杖は必須。故に杖から上流階級という事がバレ、襲われる可能性がある。だからこそ人目の無い場所に来たらしい。

 貴族や王族はともかく、そう言った者達に怨みを抱く者も多い。没落した貴族は高確率で殺されるか売られる。悲惨な末路は避けられない。今回のセイカの判断は正しかった。


「けど……よく見つけられたな。こんな洞窟……」


「はい。偶然入った森にありました。……そしてこの中ですが、奥の方に魔物か何か、動物の巣がありました……しかし居なくなってから何十年も経っている様子。なのでホムラ様の御看病をわたくしが……二日間も眠っておりましたよ」


「二日……精神的と肉体的な疲労でそれだけなら早い目覚めだな」


 どうやらホムラはしばらく眠っていたらしい。二日で目覚めたのは本人が言うように割と早い目覚め。

 だが、そんな事よりホムラには気になる事があった。


「こんな場所じゃ食事もままならない筈……セイカ。この二日間俺に魔力を費やして自分はちゃんと食べていたのか?」


「……! ……ふふ、はい。問題ありません」


 そう言い、くぅっと腹を鳴らした。セイカは紅潮する。


「も、問題ありませんから!」


「やっぱり何も食べていないんだな……まあ、あんな光景を見て食事を摂れるかはともかく……食料は必要だ」


 ホムラの看病だけを行い、セイカ自身は食事も摂っていない様子。目にはクマも見え、睡眠すらロクにおこなっていないようだ。


「……苦労掛けたよ」


「いえ……私は貴方様に尽くせるのが喜び……これくらいの事……」


 話ながらフラつき、横になるように倒れる。やはり飲まず食わずかつ魔力の消費。睡眠不足が祟って肉体的に限界が近付いていたのだろう。

 ホムラの膝に横になるセイカの頭を撫で、ホムラは寝顔を見つめる。


「……。悪かった」


 そして一言。

 その謝罪は聞こえたかどうか定かではないが、今の言葉がホムラの言える精一杯だった。

 様々事柄が終わり、二日が経過した。しかし、ホムラは自分が手配された事を知らない。まだまだ問題は山積みである。

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