23ページ目 一つの決着
「余は世界に必要なのだ! さっさと助けろ無能共が……!」
「だってさ。セイカ様」
「……っ」
傲慢な発言をしつつもボロボロと惨めに涙を流し、助けを乞う男。
そんな面白い光景を前にホムラは冷徹な目で男とセイカを交互に見やり、軽く話す。
「ぶっちゃけ、早く俺が殺したい気分だ。けど、ここが貴女の行く末を左右する分岐点となる。俺はもう汚れ切ってしまったからな。綺麗なままの貴女がどう言った判断を下すのか……それを確かめたい」
「ホムラ様……」
殺せ。とは言っていない。あくまでセイカがどうしたいのか。
その判断によってホムラはセイカと共に行動するかを決める。
「オイ……何度も言うぞ……さっさと助けんか馬鹿者! ゴミが! クズが! 余は生きるべき人材! 貴様らのようなカスが命を擲ってでも助けるべきだろう! 何も出来んゴミ共! 貴様らの存在価値は余を生かす事でようやく発揮されるのだ! 低脳かつ無能な貴様らに合わせた言葉を選んでやっているんだぞ!? これ程までに頼んでも助けんのか!!!」
「……。…………だってさ。セイカ様」
改め、セイカに訊ねる。
小太りな男の言葉自体はもはや耳に入っていない。どの道殺す事は変わらないので、言い方はともかく助けを乞う言葉に耳を傾ける必要性は皆無だからだ。
「…………はい」
そして、そんなセイカの返事は──
「……。この方を……──助けて差し上げます」
「……!」
「……。…………そうか」
「ハ……ハハハ……そうだ無能共……! 余を助け──」
次の瞬間、救われた表情となった男性の肉体を闇魔法でズダズダに引き裂いた。
そう、何度も述べるように殺す事は変わらない。ただ単にセイカの考えを聞く為だけの質問だからだ。
四肢と上半身、下半身がそれぞれバラバラになった男性はまだ生かされ、何かしらの反応していた。
「ウガァ!? ァ゛ア゛……ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」
「五月蝿い」
「ボグッ……!? ヴェ……」
激痛のあまり声にならない声を上げ、それが少し五月蝿いので血液混じりの土を口の中に積めて塞いだ。
それを身体が拒否したのか、男は吐き気を催す。しかしながら、ただの泥ではなく血液による粘着性が高まった土なので中々吐き出せないでいた。
そんな滑稽な姿を晒す男の事は意に介さず、ホムラはセイカの質問への返答へ返す。
「分かった。それが貴女の答えなら」
「…………」
男を放置し、セイカの元に歩み寄る。その肩を掴み、真っ直ぐな視線でその目を見て言葉を発した。
「……良いよ。共に行くとしようか」
「……ホムラ様!」
それは、同行する事への了承。
セイカは安堵にも近い表情を見せるが、ホムラは「ただし」と言葉を紡ぐ。
「当然、条件がある。セイカは人を殺したくない。それは理解した。だから俺が殺したい奴は俺だけが殺す。けど、それは全世界に多くの敵を作る事になるだろう。だから全てが終わった時。その時は──セイカが俺を殺せ」
「……!」
それは、ホムラ最後の殺生権をセイカに渡すという事。
そんな事を聞いたセイカは困惑の色を浮かべた。
「ホムラ様……何故……」
「別に。セイカの覚悟は本物みたいだと分かった。だからこそ、その覚悟に答えるにはそれくらいしか方法が見つからなかっただけだ。結果的にはセイカを置いていく事になるけど、その後はセイカの自由にすると良い。それまでセイカを縛る事になるんだ。例えそれがセイカの選んだ道だとしても、俺は俺の身を以てしてせめてものケジメは付ける。付けなくちゃならない」
「……っ」
セイカと結ぶ契約は、奴隷のようなもの。
本人がそう言っているのだが、ホムラの言う事は何でも、全て聞くというのがセイカの意思。
だからこその殺生権。奴隷は主人に逆らえない。しかしセイカは奴隷のような約束を結ぶだけであり、奴隷にはしない。
それ故に最後のケジメとし、セイカをこれから“使う”代償としてその時はセイカに自分を殺させるつもりなのだ。
そんな会話を聞いていた虚無の境地は、高らかな笑い声を上げた。
「ハッハッハ! いいな! テメェら! 最高だよ! 奴隷みてェな感じに扱うから自分を殺させて対等な立場になるって事か!」
「ヴヴヴ……!」
高台から飛び降り、小太りの男だったバラバラの、生体を踏みつける。
血液混じりの土を口に含んだままの男は悲鳴のような声を上げ、無様な涙を流す。
そのままバラバラの身体を一歩一歩強く踏み締めながら二人の前に立った。
「どうせならトコトン使えば良いのによ。律儀な貴族様だな。シラヌイ・ホムラ。自分から進んで貴族の下に成り下がる王族のお姫様もお姫様だ」
「なんだよ? 言っとくが、アンタも殺す予定だ。父さんとゴウのアニキはアンタによって殺されたも同然だからな。主犯を連れてきてくれた礼として苦しませずに殺してやる」
「クク……いいな、それ。テメェの殺意が犇々と伝わって来やがるぜ。今からその時が楽しみだ」
「“今”が“その時”なんだよ!」
瞬間、眼前の虚無の境地へ槍状の闇魔法が降り注いだ。
虚無の境地はその全てを見切って躱し、ホムラの背後へと回り込む。
「……っと、オートガード付属か。便利な魔法だ」
回り込んだ瞬間に闇魔法が反応を示し、虚無の境地を追撃。触れるだけでもマズイのでそれらを避け、大地を蹴って巨大な土塊をホムラへと叩き付けた。
「こんなもの……!」
「ハッハ! 重さ数トンの岩盤も物ともしねェか!」
降り注ぐ土塊は全て自動的に破壊し、ホムラ自身は動かず槍状の闇魔法を打ち出す。
またもや全て躱した虚無の境地はホムラの肩を叩いた。
「……!」
「成る程な。“殺意”や“敵意”。自分に害する概念に反応するオートガードって訳だ。……落ち着けよ。俺は戦うつもりがない。まあ、今さっきまでは殺る気満々だったが、出来ればテメェとは万全の状態で戦いたいからな。俺は腕の痛み。テメェは精神的な疲労……このままやっても、勝敗問わず虚しいだけだ」
「ふざけるな!」
敵の意識に反応する闇魔法だが、自分で操る事は当然可能。
敵意の無い虚無の境地へ闇の雨を降らせるが、虚無の境地は一歩飛び退いて数百メートル先まで移動した。
「血で湿ってっから砂埃が舞わないのは良いな。足元以外汚れねェや」
「チッ……まだ出血してるのによくもまあ、ここまで動く……!」
「ハッ、舐めんな。泣く程痛ェわ! 見ろ。ちょっと目が潤んでる。……だが、それよりも高揚感が勝ってるだけだ!」
飛び退いた先へ闇魔法の槍が突き刺さり、虚無の境地はその上に乗って辺りを見渡した。
「質量はあるみてェだ。刺さる瞬間だけとかでもねェな。これに乗りゃ空も飛べるぜ!」
「あの世に飛ばしてやるよ!」
「言ー事は俺は天国行きか? ハッハ! 嬉しいじゃねェか」
「そうか。なら落とすまでだ」
「俺様に男色趣味はねェんだけどな。ホモセクシャルでもバイセクシャルでも、当然レズビアンでもねェ。ヘテロセクシャル。つまり普通の異性好きだ。男はダチや仲間みてェな意味なら好きになるぜ?」
「そうじゃねェよ!」
ワケの分からない事を話す虚無の境地へ闇の弾丸を撃ち出す。
槍では容易く躱される。なので速度があり、広範囲を飲み込む闇の弾で仕掛けたのだ。
「これは……まあ、一個なら問題ねェな」
闇の球体を横に避け、ホムラの方を向く。そこにもう一つの球体が撃ち出されていた。
「避ける位置を予想しての追撃。これはオートじゃねェ。ハッ、元々力があるようだな」
「まだだ……!」
一つの影に紛れ、複数個の球体が虚無の境地へ撃ち出される。
それを見、虚無の境地はまた大きく笑った。
「ハッハッハ! 数も自由自在か!」
無数の球体に対し、虚無は迎え撃つ態勢となる。が、闇の球体が起こす周囲の現象を目の当たりにし、また避ける方向にシフトチェンジした。
そんな闇魔法を一瞥して不敵に笑う。
「空間自体が歪んで砕かれてやがる。……成る程な。闇魔法の性質がどんどん分かって来たぜ。斬撃、打撃、熱。この世に存在する様々な“破壊エネルギー”の総称か。斬る突く撃つ壊す。それらを引っくるめた破壊の集合体って訳だ」
闇魔法の性質。それはこの世に存在する全ての破壊エネルギー。
形状変化からの斬撃などに転ずる力。それがあるからこそ空間すらをも破壊する魔法となる。
闇魔法が神話やお伽の世界から語り継がれる程の“禁忌”とされた理由がよく分かった。
「……“俺の力”にも近いが……性質は異なってんな。どちらにせよ、長引くのは愚策だ」
「……!」
次の瞬間、虚無の境地はホムラの前から消え去る。
ホムラは周囲を見渡して警戒を高め、巻き込まれぬ位置に居たセイカも辺りを見渡す。それと同時にホムラの眼前へ姿を現した。
「今なら勝てなくもねェが、それはつまらねェ」
「……!」
現れた瞬間に闇を打ち出し、虚無の境地はそれを避ける。更に言葉を続けた。
「互いに高め合おうぜ。また会おうか。闇炎の魔法使い」
「……!」
同時に敵意を出さず頭をつつき、脳幹を刺激してホムラの意識を奪う。同時に全ての闇魔法が消え去り、まだ生きていた小太りの男や生かした野盗らも絶命してホムラはその場に倒れた。
虚無の境地はセイカの方を見、優しい笑顔を向ける。
「本当に好きなら大事にしろよ。コイツは無茶ばかりしやがる。俺に殺されるまで誰にも殺されねェように、ちゃんと見とけ」
「……! あ、貴方にもホムラ様はやらせません! ホムラ様は……私が殺めると約束したので!」
「……。ハッ、良い言葉だ。覚悟が決まってやがる。クク……テメェもかなり面白くなりそうだな。成長を楽しみにしてるぜ」
それだけ告げ、フッと風のように消え去る。
暫し周囲を確認し、セイカはホムラの元へと駆け出した。
「ホムラ様……今、御治し致します。私も多少なりとも回復魔法を扱えますので……」
熱エネルギーを癒しの力へ変換させ、傷口を温めるように癒す。
回復魔法は様々。傷を吹き飛ばす風や、水で洗う。そして土での止血。炎魔法は熱を扱い、活性をよくして治療を早める方法だ。
男女問わず扱う回復魔法だが、将来的な立場として女性の方がより洗練された回復魔法を扱える人数は多い。
なのでセイカも扱え、ホムラの傷を癒しているのだ。
「ホムラ様は……私が守らなければ……ホムラ様を殺める時が来るまで……私がずっとお側に……誰にもホムラ様は渡しません……!」
精神的にも肉体的にもボロボロなホムラを見、心の底から心配するセイカが呟くように話す。
ホムラを殺める。それがホムラとの約束。それを果たすまで、セイカはずっと共に居る。
その日、貴族と王族の街、“エレメンタリー・アトリビュート”から火の系統が全滅し、うち二人が行方不明になったという報告が入った。




