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21ページ目 闇魔法

「クク……! 赤い髪が黒く染まった……覚醒したか! シラヌイ・ホムラ!」


 ホムラの変貌を見、虚無の境地は心底楽しそうな笑みを浮かべた。

 さながら自分の好きな物に囲まれた子供のような反応。同時にホムラは野盗達へ視線を向けた。


「お前らを……殺す」

「「「…………!?」」」


 黒い物質が糸状となって野盗の身体を拘束する。野盗は何が起こったか分からず、困惑と混乱に苛まれた。


「ぎ……ヒャアァァァ!?」

「うわァ!?」

「な、何だよこれェ!?」


「…………」


 ──瞬間、巻き付かれた部分から肉と骨を切断し、周囲に鮮血が飛び散る。

 腕や足、胴体に頭と箇所は様々。しかしその攻撃による、野盗達への共通点があった。


「グギャア!?」

「痛ェ……痛ェよォ……」

「殺してくれ……」


 それは皆、生きているという事。

 腕や足はともかく、胴体や頭をねられた者ですら生きており、その激痛に悶え苦しむ。

 その光景を見、ホムラは得も言えぬ高揚感に包まれていた。


「クク……ハハハ……ハハハハハ! 何だよテメェら! さっきまでの威勢はどこ行った!? 切り離された身体の一部と共に置いてきたのかよ!? 下らねェなァ!」


「……。ハッ、まだまだ脆いな」


 高笑いを浮かべ、野盗達の肉体を次々と切断していく。

 頭に四肢、上半身と下半身。至るところにその肉片と臓物が飛び散り、更に粉々に砕き愉悦に浸る。

 血と肉片によってホムラの髪はまた赤く、赤黒く染まり、快楽に溺れるように人体を破壊していく。


「ハハハ! こりゃあ良い! 魔力が手足みたいに操れる! どんな殺し方もしたい放題だ!」


(魔力が手足……ま、当たらずとも遠からずって感じだな)


 黒い魔力を操り、野盗の肉体を掴んで殺す。生きながら殺す。

 ムチのように切断し、胴体を掴み、子供が人形で遊ぶように振り回す。


「そォら!」

「「……!?」」


 振り回された二人の野盗が空中で正面衝突し、顔が潰れ、そのまま押し潰されて肉体がぜた。肉片の雨が屋敷跡地に降り注ぐ。随分と鉄臭い雨である。

 その様な状態になって生きているのかどうかは分からないが、ホムラには感覚で分かった。


「ハハ、成る程な! 生かすも殺すも自由自在って訳か!」


 他人の生死は、自分の意のまま。例えバラバラにしようと、その痛みを永遠に感じさせたまま生かし続ける事も可能。

 しかしながら、ホムラはスッとゴミを見るかのような目付きで払った。


「うう……」「痛ェ……痛ェよ……」「助け……」

五月蝿うるさいな」

「「「…………!」」」


 そして、絶命させる。理由は呻き声が五月蝿いから。

 五月蝿いのでトドメを刺す。何もおかしな事ではない。五月蝿いのは不快。なので殺してしまえば楽だろう。


「な、何だよコイツ……」

「火の系統じゃなかったのか……?」

「に、逃げ……」


「逃げる事は無いだろ? 俺の気を紛らわせてくれよ」


 逃げようとした生き残りをホムラから放たれた黒い槍が突き刺し、また鮮血を散らす。

 火の区画らしく、辺り全体は真っ赤っかに染まった。


「まだだ……野盗はまだまだ居る……ああ、こんな世界だ。“悪”は至るところに存在してるよなぁ? 決めた。これからの俺の座右の銘は……“勧善懲悪”だ」


「ヒィィ!」


 自分の人生の道標。いましめ、目的をこの場で決めたホムラ。それと同時に他の野盗も殺害した。

 殺し方は様々。今のホムラは如何なる殺し方が出来るかを考えていた。


「刺殺。斬殺。絞殺。撲殺。便利だな。魔力が色々な形に変わる。料理する時道具が要らないのはかなり便利だ。切り刻んだ後に焼き、そのまま食べる事も出来る」


「ヴ……ヴェ……」


 野盗の肉片を焼き、仲間の野盗に焼き肉片を食わせる。仲間の胃はそれを受け付けずに吐き出すが、無理矢理胃の中へ押し込んだ。


「消化の過程を見てみようか」

「……ッ!」

「おっとそうだ。食べた直後、胃に入った瞬間に溶けるとかは無いか」


 胃に肉片が入ったのを確認した瞬間、腹部を切断。胃の中身を胃ごと取り出す。焼けた肉片は少し湿っているがまだ溶けていなかった。


「仕方無い。自分の“悪”としての“罪”をこれで懺悔しておけ」


「ヒャ……ェ……」


 胃液で湿った仲間の肉片を舌の上に乗せ、放置。動けぬよう既に首は切断していた。

 晒し首のように地べたに置き、殺さず生かす。脳や舌が残っているので味覚もあるだろう。首の切断部分の傷も地面と擦れる事でとてつもない激痛を伴っているだろうが、どうでもよかった。


「声帯も要らないか。話すのは喧しい」

「……ッ!」


 首を更に斬り、声帯を切り落とす。同時に焼き消した。


「いつもの火も使える……けどこの黒い魔力は火とは別物。まだまだ実験のし甲斐があるな。幸い……実験体は沢山ある」


「ヒ、ヒィィ……! ギャアァァ……!」


 他の野盗を更に黒い魔力で拘束し、自分の元へ引き寄せる。暴れられたら面倒なので腕と足の骨を折った。切断しても良いが、まだまだ試す事はあるので今回は骨を折るだけで済ませた。かなり温情だろう。

 どちらにせよ、“勧善懲悪”を掲げたホムラの手によって殺処分されるのだろうが。

 そんなホムラに向け、ずっと黙って“黒い魔力”を眺めていた虚無の境地が話す。


「ハッ、黒い魔力……ね。自分で気付いて無かったのかよ。テメェも情報としてくらいは知ってるだろ。それは“闇魔法”だよ」


「……!」


 ──それは、ホムラにとってはあまり喜ばしく無い事だった。


「…………」


「その様子……テメェでも薄々気付いていたみたいだな」


 ──“闇魔法”。

 神話の中でのみ存在している魔法の系統であり、生まれた瞬間にこの世の全ての“敵”となる存在。言わば“絶対悪”。

 たった今“勧善懲悪”を座右の銘としたホムラにとっては、受け入れがたい現実であった。


「……そうだな。まあ、そんな気はしていたよ。黒い魔力なんて生まれてこの方見た事がない。それに、今は諸事情で赤くなったけど、髪の色の変化。それが物語っている。髪……と言うか肉体には魔力が流れている。その魔力が変化する事で肉体的な特徴も変化する事もある……かもしれない。一番目立ったのが髪ってだけだ。瞳も少し黒くなってるかもな」


 そしてその現実は、既に本人が理解していた。

 諸々の理由からしてそう考えるしかない現状、動揺はない。

 虚無の境地は相変わらずの笑みを浮かべながら話す。


「ま、そんなところだろうな。俺としてもテメェのような前列には会った事がない。そもそも闇魔法使いを見た事自体が初めてだ。何にせよ、テメェも俺側の人間っー事だよ。だから改めて誘う。俺の仲間にならないか?」


「……」


 スッと手を差し伸べ、優しい笑顔を向ける。

 ホムラはその手を見やり、ニッと笑って闇魔法による斬撃でその手を斬り飛ばした。


「駄目だ。直接的じゃなくなったが、アニキの仇である事は変わらない。アンタはここに散らかっているゴミよりはマシだが、俺にアンタを生かす理由は無い」


「……ハッ、アニキの仇である俺様の代償はこの腕って事か?」


「さあな。あのまま首をねても良かったけど、多分それは成功しなかった。アンタを殺そうとした結果、腕にしか当たらなかった……と言ったところだな」


「クク……そんな気はしてたぜ」


 切断された腕からドクドクと血を流し、そこに自分の衣服を巻いて締め付ける。簡易的な応急措置だ。

 ともかく、虚無の境地はゴウや父親の仇。

 トドメを刺したのはいずれも野盗ゴミだが、そもそも虚無の境地が攻めて来なければこんな事にはならなかった。

 なのでホムラにこの者を許す道理は存在しないのである。


「ま、俺にも用事が出来た。ちょっくら行ってくるわ」


「逃げるのか?」


「そうとも言えるな。逃げた後でまた会うつもりだ。テメェの“闇”は気に入った。気が変わったらいつでも仲間になれよ」


「逃がすかよ!」


「一つ忠告。動きが単調だ。音が遅れる程に速いが、こんな単純な動きだとすぐに狙いがバレるぜ? コイツらみたいなどんくさい奴等ならともかく、その辺は直しておけ」


「……!」


 放った無数の闇のムチ。ソニックブームを散らすその全てを虚無の境地は最小限の動きでかわし、いつの間にかホムラの横に立ち、残っている手でポンポンと肩を叩いた。

 その肩を優しく押さえ、ホムラの耳元で一言。


「テメェの仇が俺なら、それはそれで受けて立つ。来いよ、“星の裏側”にな」


「……っ」


 気付いた時、虚無の境地はその場から消え去っていた。

 場に残ったのは夥しい血痕と肉片。そしてゴウの亡骸。


「ク……ソォ!」

「「「ヒィギャア!?」」」


 八つ当たりのように闇魔法を周囲へ展開し、居合わせた全ての野盗を殺す。

 切り刻み、絞め落とし、貫き、叩き潰し、激突させ、様々な方法で殺してコロしてころしまくる。汚い血が身体に付着するのも気にせず、何も考えずに闇を振るって殺戮を繰り返す。

 しかしホムラの気は一向に晴れなかった。

 先程までの高揚感も無くなり、萎えるような虚無感に包まれる。しかし湧きに湧く野盗には苛立ちを見せ、少なくともこの場に居る者達だけは始末し終えた。


「はぁ……はぁ……クソ……何だよ……何なんだよ!」


 何に対しての疑問か、それは自分にも分からない。

 留まる事を知らぬ闇は周囲に広がり、この街“エレメンタリー・アトリビュート”全体を飲み込んだ。


「……! 何をやってんだ……俺……他の皆は関係無いじゃないか……自分本意で街を壊すのは良くない……」


 そして、思い止まる。同時に街全体に広がった闇はホムラの体内へ戻っていった。

 そう、ホムラが怨みを抱くのは攻め込んできた野盗。色々と因縁が生まれた虚無の境地。そして、今回の件を引き起こした主犯。

 街の者達は被害者。街の者達は関係無いだろう。


【また来たのか……穢れが……】【穢わらしいわ……】【なんて汚ならしいのかしら】【もはや居場所なんて無いのに】【醜貌しゅぼうが……】【半身不全の欠落者】【授業の邪魔だ。咳をするなら死んでしまえ】【ーか来るなよ。邪魔だ。穢れが】【ハハハハハハハハ!】】アナタ方の担当教師は辞めましたよ♪ 理由は分かりませんけど、おそらく嫌になったのでしょうね♪ 欠陥を抱える約四名の相手が♪】【四つの馬車…… 】【あの四人組みか】【俺達の道を通るな!】


 ──そしてよぎった記憶とそれに伴った疑問、果たして本当に他の貴族達は関係無いのだろうか。

 フウ、スイ、リクやその家族。アカネ先生など、明らかに無関係かつ、優しい者達は居た。だが、そんなフウ達すらをも貶し、追放した他の貴族達など、助ける義理があるのだろうか。生かしておく必要性があるのだろうか。


「……いや無い……あんな奴等……全員死んでしまえば良いんじゃないか? 貴族や王族はゴミだ。自分の権力の為に、他者を除外して自分達の思い通りになるような世界を作ろうとしている……その癖して失敗したら無関係の俺達に飛び火する……自分の事は棚に上げ、罪を全て擦り付けて来る……。そしてそれがまた次の火種になり、世代全体の評価が下がって生きにくくなる……いや、俺達が生きる為に必要なのはただふんぞり返っているだけの上流階級じゃない……平民や農民、他の貴族や王族が下と決めつけている人達じゃないか……この国に、この世界には……必要最低限のモノ以外何も要らないんじゃないか……? いやそもそも……世界があるから不幸が生まれるんだ。人って本当に必要か? いや、全ての生き物って要らなくないか? それならこんな世界なんて……滅びた方が良いんじゃないか……?」


 自分が今の立場に置かれた理由は、誰も悪くない。ただ単に世界と時代が悪かった。

 幸福なのはごく一部。何を隠そうホムラもその比較的幸福なごく一部だったが、だからこそ思うところがある。

 争いが絶えず、心の醜い者しか生き残れない世界。極論、世界が滅びれば誰も幸せにならないが、不幸にもならない。

 それならいっそ、全てを無に帰す方がこの世界の為なのではないだろうか。


 そんな、今まで考えなかったような事が突如として脳裏に蔓延り、先程取り込んだ闇がホムラを優しく包み込むように覆う。

 全ては闇を伝って生み出された思考。ホムラ自身がそれに気付く事はなく、子供でも思い付くような反論や正論。子供でも持ち合わせている理性がホムラの中から消え去り、闇が優しく蝕んだ。


「──ホムラ様!」

「……!」


 その瞬間、光を通さぬ闇の中に、一つのほむらが灯った。

 ホムラを包み込もうとしていた闇は一気に払われ、ホムラは虚ろう双眸そうぼうでそのローブに身を包んだ女性を視界に収める。


「お前……誰?」


「……っ。お忘れですか。貴方の婚約者……──ヒノカワ・セイカで御座います!」


「……セイ……カ……?」


 その女性は、2年前の事件以降連絡が取れなかった、まともな方の王族女性、ヒノカワ・セイカ。

 真名、ヒオラ・ノエル・カリエンテ・ワール・セキア・イグニス・カーネリアン・フレア。

 ホムラの婚約者となる筈だった王族である。


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